会計学・財務諸表の読み方と分析手法
会計学の出題傾向と学習の方向性
不動産鑑定士試験の論文式・会計学は、財務諸表の構造理解と財務分析指標の計算が出題の中心です。簿記の仕訳問題よりも、財務諸表を読み解く能力と会計基準の理論的理解が問われます。
不動産鑑定士試験の会計学は、経済学と並ぶ論文式の教養科目であり、合格ラインは100点満点中概ね50〜60点とされています。頻出テーマに絞った効率的な学習が合格への近道です。
出題形式と配点
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 出題数 | 2問 |
| 配点 | 各50点(計100点) |
| 試験時間 | 120分 |
| 出題範囲 | 財務会計(財務諸表論)を中心に、管理会計・原価計算も出題 |
財務諸表の体系
財務諸表の種類
| 財務諸表 | 目的 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 貸借対照表(B/S) | 一定時点の財政状態を表示 | 資産・負債・純資産 |
| 損益計算書(P/L) | 一定期間の経営成績を表示 | 収益・費用・利益 |
| キャッシュ・フロー計算書(C/F) | 一定期間の資金の流れを表示 | 営業・投資・財務活動のCF |
| 株主資本等変動計算書 | 純資産の変動を表示 | 資本金・利益剰余金等の変動 |
貸借対照表の構造
貸借対照表は、資産 = 負債 + 純資産の等式で成り立っています。
資産の部
| 区分 | 内容 | 具体例 |
|---|---|---|
| 流動資産 | 1年以内に現金化される資産 | 現金預金、売掛金、棚卸資産 |
| 固定資産(有形) | 長期間使用する有形の資産 | 建物、土地、機械装置 |
| 固定資産(無形) | 長期間使用する無形の資産 | のれん、ソフトウェア、特許権 |
| 固定資産(投資等) | 長期保有の投資資産 | 投資有価証券、関係会社株式 |
負債の部
| 区分 | 内容 | 具体例 |
|---|---|---|
| 流動負債 | 1年以内に支払う負債 | 買掛金、短期借入金、未払金 |
| 固定負債 | 支払いが1年超の負債 | 長期借入金、社債、退職給付引当金 |
純資産の部
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 株主資本 | 資本金、資本剰余金、利益剰余金、自己株式 |
| 評価・換算差額等 | その他有価証券評価差額金、繰延ヘッジ損益 |
| 新株予約権 | 新株予約権の残高 |
損益計算書の構造
損益計算書は、以下の5つの利益を段階的に計算する構造です。
| 利益 | 計算方法 |
|---|---|
| 売上総利益 | 売上高 − 売上原価 |
| 営業利益 | 売上総利益 − 販売費及び一般管理費 |
| 経常利益 | 営業利益 + 営業外収益 − 営業外費用 |
| 税引前当期純利益 | 経常利益 + 特別利益 − 特別損失 |
| 当期純利益 | 税引前当期純利益 − 法人税等 |
営業利益は本業の収益力を、経常利益は金融収支を含めた経常的な収益力を、当期純利益は一時的な損益を含めた最終的な収益力を示します。
財務分析の指標
収益性分析
| 指標 | 算式 | 意味 |
|---|---|---|
| 売上高総利益率 | 売上総利益 ÷ 売上高 × 100 | 粗利率。商品の収益力 |
| 売上高営業利益率 | 営業利益 ÷ 売上高 × 100 | 本業の利益率 |
| 売上高経常利益率 | 経常利益 ÷ 売上高 × 100 | 経常的な利益率 |
| ROA(総資産利益率) | 当期純利益 ÷ 総資産 × 100 | 資産の効率的な活用度 |
| ROE(自己資本利益率) | 当期純利益 ÷ 自己資本 × 100 | 株主資本の収益性 |
ROEの分解(デュポン分析)
ROEは以下の3要素に分解できます。
ROE = 売上高純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ
= (当期純利益/売上高)×(売上高/総資産)×(総資産/自己資本)
この分解により、ROEを高めるための方策(利益率の改善、資産効率の向上、レバレッジの活用)を分析できます。
安全性分析
| 指標 | 算式 | 目安 |
|---|---|---|
| 流動比率 | 流動資産 ÷ 流動負債 × 100 | 200%以上が望ましい |
| 当座比率 | 当座資産 ÷ 流動負債 × 100 | 100%以上が望ましい |
| 自己資本比率 | 自己資本 ÷ 総資本 × 100 | 高いほど安全 |
| 負債比率 | 負債 ÷ 自己資本 × 100 | 低いほど安全 |
| 固定比率 | 固定資産 ÷ 自己資本 × 100 | 100%以下が望ましい |
| 固定長期適合率 | 固定資産 ÷(自己資本 + 固定負債)× 100 | 100%以下が必須 |
効率性分析
| 指標 | 算式 | 意味 |
|---|---|---|
| 総資産回転率 | 売上高 ÷ 総資産 | 資産全体の活用度 |
| 売上債権回転率 | 売上高 ÷ 売上債権 | 売上債権の回収スピード |
| 棚卸資産回転率 | 売上原価 ÷ 棚卸資産 | 在庫の回転スピード |
| 有形固定資産回転率 | 売上高 ÷ 有形固定資産 | 設備の活用度 |
計算例
以下のデータから主要指標を計算します。
- 売上高:10億円
- 営業利益:1億円
- 当期純利益:6,000万円
- 総資産:20億円
- 自己資本:8億円
- 流動資産:6億円
- 流動負債:4億円
売上高営業利益率 = 1億円 ÷ 10億円 × 100 = 10%
ROA = 6,000万円 ÷ 20億円 × 100 = 3%
ROE = 6,000万円 ÷ 8億円 × 100 = 7.5%
自己資本比率 = 8億円 ÷ 20億円 × 100 = 40%
流動比率 = 6億円 ÷ 4億円 × 100 = 150%
頻出の会計基準
減損会計
減損会計は、固定資産(特に不動産)に関する重要テーマであり、鑑定評価との関連で出題されやすい論点です。
減損の兆候
以下のいずれかに該当する場合、減損の兆候があると判定されます。
- 営業活動から生じる損益又はキャッシュ・フローが継続してマイナス
- 使用範囲又は方法について回収可能価額を著しく低下させる変化
- 経営環境の著しい悪化
- 市場価格の著しい下落
減損損失の認識と測定
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| 1. 兆候の判定 | 上記の兆候に該当するか |
| 2. 認識の判定 | 割引前将来キャッシュ・フローの総額 < 帳簿価額 → 減損を認識 |
| 3. 測定 | 帳簿価額を回収可能価額まで減額。差額を減損損失として計上 |
回収可能価額は、以下のいずれか高い方です。
- 使用価値:将来キャッシュ・フローの割引現在価値
- 正味売却価額:時価 − 処分費用(鑑定評価額が用いられることが多い)
有価証券の評価
| 分類 | 評価方法 | 評価差額の処理 |
|---|---|---|
| 売買目的有価証券 | 時価 | 損益に計上 |
| 満期保有目的の債券 | 償却原価 | ― |
| 子会社・関連会社株式 | 取得原価 | ― |
| その他有価証券 | 時価 | 純資産の部に直接計上(全部純資産直入法が原則) |
棚卸資産の評価
| 評価方法 | 内容 |
|---|---|
| 個別法 | 個々の取得原価で評価 |
| 先入先出法 | 先に取得したものから払い出したと仮定 |
| 移動平均法 | 取得の都度、平均単価を計算 |
| 総平均法 | 期間全体の平均単価で計算 |
低価法:期末の正味売却価額が取得原価を下回る場合、正味売却価額で評価します。棚卸資産については、低価法の適用が強制されています。
税効果会計
税効果会計は、会計上の利益と税務上の所得の差異を調整するための会計処理です。
| 用語 | 内容 |
|---|---|
| 一時差異 | 会計上と税務上の資産・負債の差額(将来解消される) |
| 将来減算一時差異 | 将来の課税所得を減少させる差異(繰延税金資産を計上) |
| 将来加算一時差異 | 将来の課税所得を増加させる差異(繰延税金負債を計上) |
| 永久差異 | 会計上と税務上で永久に差異が解消されない項目(税効果の対象外) |
繰延税金資産の具体例
- 貸倒引当金の繰入限度超過額
- 減損損失の損金不算入額
- 退職給付引当金の繰入限度超過額
- 未払事業税
リース会計
| 分類 | 会計処理 |
|---|---|
| ファイナンス・リース | 原則として売買処理(リース資産・リース債務を計上) |
| オペレーティング・リース | 賃貸借処理(リース料を費用計上) |
ファイナンス・リースの判定基準は以下のとおりです。
- 解約不能であること
- フルペイアウトであること(リース物件の経済的利益を実質的に享受し、使用コストを負担)
不動産鑑定評価との関連
減損会計と鑑定評価
減損会計における正味売却価額の算定に、不動産鑑定評価が利用されます。これは鑑定士の実務において重要な業務領域です。
収益性分析と収益還元法
財務諸表の収益性分析は、収益還元法における純収益の把握と分析に通じるものがあります。特に、DCF法における将来キャッシュ・フローの予測には、会計的な知識が不可欠です。
減価償却と鑑定評価
会計上の減価償却は、鑑定評価における原価法の減価修正とは異なる概念ですが、建物の経済的価値の減少という点で共通の基盤を持っています。
試験での出題ポイント
論文式試験の出題パターン
- 財務諸表分析:与えられたデータから各種指標を計算し、企業の経営状態を分析する
- 会計基準の論述:減損会計、税効果会計、リース会計等の会計処理の理論的説明
- 仕訳問題:特定の取引の会計処理を仕訳で示す
- 総合問題:複数のテーマを組み合わせた実践的な問題
暗記のポイント
- 5つの利益の計算構造(売上総利益→営業利益→経常利益→税引前→当期純利益)
- ROE = 純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ(デュポン分析)
- 流動比率200%、当座比率100%が目安
- 減損会計の3ステップ:兆候の判定→認識の判定(割引前CF)→測定(回収可能価額)
- 回収可能価額=使用価値と正味売却価額の高い方
- 有価証券の評価:売買目的は時価(P/L)、その他は時価(B/S純資産の部)
- 税効果会計:将来減算一時差異→繰延税金資産、将来加算一時差異→繰延税金負債
- 棚卸資産は低価法が強制
まとめ
会計学の論文式対策は、財務諸表の構造理解、財務分析指標の計算能力、主要な会計基準の理論的理解の3つが柱です。特に減損会計は不動産鑑定評価と直結するテーマであり、出題頻度も高いため重点的に学習しましょう。
財務分析では、収益性(ROA・ROE)、安全性(流動比率・自己資本比率)、効率性(回転率)の各指標の算式と意味を正確に暗記し、実際の数値を使った計算練習を繰り返すことが重要です。