共同ビル方式の鑑定評価|権利調整と配分
共同ビル方式とは
共同ビル方式とは、複数の土地所有者が共同で一つのビルを建設し、各土地所有者が従前の権利に応じた区分所有権等を取得する事業手法です。不動産鑑定士試験では、共同ビル方式における権利調整の考え方、各権利者への床面積の配分方法、事業前後の価値の均衡が出題の中心となります。市街地再開発や都市再生の場面で実務的にも重要な論点です。
共同ビル方式の概要
事業の仕組み
共同ビル方式は、隣接する複数の土地所有者が以下のプロセスで事業を進めます。
- 各土地所有者が従前の土地を出資(拠出)する
- 拠出された土地に共同でビルを建設する
- 完成したビルの区分所有権等を各権利者に配分する
- 配分は従前の土地の価値に応じて行う
事業のメリット
| メリット | 内容 |
|---|---|
| 土地の高度利用 | 小規模な敷地を統合して大規模建築が可能に |
| 資金効率 | 土地の売却なく事業参加できる |
| 権利の継続 | 従前の土地の権利が建物の区分所有権に転換される |
| 街区の一体整備 | 都市景観・防災性能の向上 |
鑑定評価における論点
権利調整の必要性
共同ビル方式の鑑定評価において最も重要な論点は、各権利者への配分の公平性です。各土地所有者の従前の土地の価値は異なるため、完成後のビルの床面積や権利持分をどのように配分するかが問題になります。
不動産の価格は、その不動産の効用が最高度に発揮される可能性に最も富む使用(以下「最有効使用」という。)を前提として把握される価格を標準として形成される。
― 不動産鑑定評価基準 総論第5章第2節
共同ビル方式では、事業後の最有効使用が事業前と大きく変わるため、従前の権利価値の適正な評価が不可欠です。
事業前後の価値の均衡
共同ビル方式の権利調整は、事業前の各権利者の不動産の価値に応じて、事業後の権利を配分するという原則に基づきます。
【権利調整の基本原則】
事業前の権利価値の比率 = 事業後の権利価値の比率
Aの従前土地価格 : Bの従前土地価格
= Aの配分床面積の価値 : Bの配分床面積の価値
配分方法の具体例
基本的な配分の計算
【事例:3者による共同ビル建設】
■ 従前の土地
A氏の土地:200㎡(更地価格 12,000万円)
B氏の土地:150㎡(更地価格 10,000万円)
C氏の土地:100㎡(更地価格 6,000万円)
合計面積 :450㎡
合計価格 :28,000万円
■ 事業計画
建築面積 :400㎡
延床面積 :3,200㎡(8階建て)
建設費 :96,000万円(30万円/㎡ × 3,200㎡)
総事業費 :28,000万円(土地)+ 96,000万円(建設費)= 124,000万円
■ 完成後の建物及びその敷地の価格
鑑定評価額 :140,000万円
■ 土地出資者への配分
土地出資分の価値比率:
A氏 = 12,000万円/28,000万円 = 42.9%
B氏 = 10,000万円/28,000万円 = 35.7%
C氏 = 6,000万円/28,000万円 = 21.4%
※建設費を外部資金で調達する場合は
別途その負担分を加味して配分を調整
建設費負担を含む配分
実際の共同ビル方式では、土地の出資だけでなく建設費の負担割合も配分に影響します。
【建設費を各自が負担する場合】
各自の出資額:
A氏:土地12,000万円 + 建設費41,140万円 = 53,140万円(42.9%)
B氏:土地10,000万円 + 建設費34,270万円 = 44,270万円(35.7%)
C氏:土地 6,000万円 + 建設費20,590万円 = 26,590万円(21.4%)
配分床面積(3,200㎡の場合):
A氏:3,200㎡ × 42.9% = 1,373㎡
B氏:3,200㎡ × 35.7% = 1,142㎡
C氏:3,200㎡ × 21.4% = 685㎡
権利価値の評価方法
従前の土地の評価
各権利者の従前の土地は、更地として鑑定評価します。この際、以下の点に留意が必要です。
| 評価のポイント | 内容 |
|---|---|
| 各画地の個別性 | 接面道路、間口・奥行、形状等の個別的要因を反映 |
| 角地・準角地の効用 | 角地は中間画地より高い評価 |
| 最有効使用の判定 | 単独利用を前提とした最有効使用で評価 |
| 併合の増分価値 | 併合による増分価値は事業後の配分で反映 |
事業後の建物及びその敷地の評価
事業後のビル全体の価格は、収益還元法を中心に、原価法や取引事例比較法を適用して求めます。
共同ビル方式と等価交換方式の比較
両方式の違い
等価交換方式と共同ビル方式は、いずれも土地の高度利用を目的とする事業手法ですが、権利の移転形態が異なります。
| 項目 | 共同ビル方式 | 等価交換方式 |
|---|---|---|
| 権利者の数 | 複数の土地所有者 | 土地所有者1人+デベロッパー |
| 土地の権利移転 | 共有持分化(権利者間で持分交換) | 土地所有者→デベロッパーに一部移転 |
| 建設費の負担 | 各権利者が負担または外部調達 | デベロッパーが負担 |
| 完成後の権利 | 区分所有権(各権利者の持分) | 土地所有者=区分所有権、デベロッパー=残りの区分所有権 |
| 事業主体 | 権利者の組合等 | デベロッパー |
鑑定評価上の共通点
両方式とも、鑑定評価上は以下の点が共通しています。
- 従前の権利価値の適正な評価が不可欠
- 事業前後の価値の均衡を図ることが原則
- 配分の公平性を客観的に担保する必要がある
市街地再開発事業との関連
法定再開発と任意再開発
共同ビル方式は、都市再開発法に基づく法定再開発と、民間の任意事業の両方で用いられます。
| 区分 | 内容 | 鑑定評価の役割 |
|---|---|---|
| 第一種市街地再開発事業 | 権利変換方式。従前の権利が新しいビルの権利に変換 | 従前資産評価、権利変換計画の策定 |
| 第二種市街地再開発事業 | 管理処分方式。施行者がいったん取得して再配分 | 用地買収価格の算定 |
| 任意の共同ビル事業 | 法定手続きによらない民間事業 | 各権利者間の配分の基礎 |
権利変換における鑑定評価
法定再開発における権利変換では、従前の土地・建物の価格と事業後の建物の区分所有権等の価格をそれぞれ鑑定評価し、価値の均衡を図ります。
【権利変換の考え方】
従前の権利:
A氏の土地・建物の価格 = 15,000万円
事業後の権利:
A氏に配分される区分所有権等の価格 = 15,000万円相当
→ 事業前後で権利の価値が等しくなるよう配分
評価上の留意事項
開発利益の帰属
共同ビルの建設によって生じる開発利益(事業後の価値 − 従前の価値の合計 − 建設費)を、各権利者にどのように帰属させるかは重要な論点です。
【開発利益の計算例】
事業後のビル全体の価格 : 140,000万円
従前の土地の合計価格 : 28,000万円
建設費 : 96,000万円
開発利益 = 140,000 − 28,000 − 96,000 = 16,000万円
この開発利益16,000万円を、土地の出資比率に応じて配分するのか、均等に配分するのか、建設費の負担割合に応じて配分するのかは、事業スキームによって異なります。
共有持分の評価
共同ビル完成後に各権利者が取得する区分所有権や土地の共有持分の評価にあたっては、区分所有建物の評価方法が適用されます。
共同ビル方式と鑑定評価の具体的な流れ
鑑定評価が求められるタイミング
共同ビル方式の事業において、鑑定評価は以下の各段階で必要になります。
| 段階 | 評価の内容 | 目的 |
|---|---|---|
| 事業計画段階 | 各従前土地の更地価格 | 権利割合の算定基礎 |
| 事業計画段階 | 完成後のビル全体の想定価格 | 事業採算性の検証 |
| 権利調整段階 | 各権利者の持分・配分床面積 | 公平な配分の根拠 |
| 事業完了段階 | 各区分所有権の価格 | 登録免許税等の基礎 |
従前土地の評価における注意点
各権利者の従前の土地を評価する際、併合を前提とした価格ではなく、単独の更地としての正常価格を求めることが原則です。併合による増分価値は、配分の段階で別途考慮されるためです。
ただし、事業スキームによっては、併合後の最有効使用を前提とした開発法を適用する場合もあり、評価の前提条件を明確にすることが重要です。
試験での出題ポイント
短答式試験
- 共同ビル方式の定義と仕組み: 複数の土地所有者が共同でビルを建設し権利を配分
- 権利調整の原則: 事業前後の権利価値の均衡
- 等価交換方式との違い: 権利者の数・建設費負担・事業主体の違い
- 配分の基準: 従前の権利価値に応じた配分
論文式試験
- 配分方法の論述: 土地価格比・面積比・貢献度等による配分の比較
- 事業前後の価値の均衡の検証: 具体的な数値を用いた計算問題
- 開発利益の帰属に関する論述: 各配分方法のメリット・デメリット
暗記のポイント
- 共同ビル方式の定義: 複数の土地所有者が共同でビルを建設、権利を配分
- 配分の原則: 従前の権利価値の比率に応じて配分
- 等価交換方式との違い: 権利者数・建設費負担・事業主体
- 開発利益: 事業後の価値 − 従前の価値合計 − 建設費
まとめ
共同ビル方式の鑑定評価は、各権利者の従前の土地の価値を適正に評価し、事業後の権利の配分が公平に行われているかを検証することが核心です。従前の土地は更地として個別に評価し、事業後のビル全体は収益還元法等で評価します。事業前後の価値の均衡を図ることが権利調整の基本原則であり、開発利益の帰属も重要な論点です。
関連する論点として、等価交換方式の鑑定評価や併合・分割の鑑定評価もあわせて学習してください。区分所有権の評価については区分所有建物の評価が参考になります。