近隣地域と類似地域の違い|用途的地域の理解
近隣地域と類似地域の概要
近隣地域と類似地域は、不動産鑑定士試験の地域分析において最も重要な概念です。近隣地域は対象不動産が直接属する用途的地域であり、類似地域は近隣地域と類似する特性を有する別の地域です。両者の違いは、対象不動産の価格への影響の仕方と、鑑定評価における役割にあります。この2つの概念と同一需給圏の包含関係を正確に理解することが、試験突破の鍵です。
近隣地域とは、対象不動産の属する用途的地域であって、より大きな規模と内容とを持つ地域である都市あるいは農村等の内部にあって、居住、商業活動、工業生産活動等人の生活と活動とに関して、ある特定の用途に供されることを中心として地域的にまとまりを示している地域をいい、対象不動産の価格の形成に関して直接に影響を与えるような特性を持つものである。
― 不動産鑑定評価基準 総論第6章第1節
用途的地域の概念
用途的地域とは
近隣地域と類似地域を理解するためには、まず用途的地域の概念を把握する必要があります。
用途的地域とは、不動産の用途(使われ方) に着目して区分された地域です。鑑定評価基準では、以下のような用途的地域が示されています。
| 大分類 | 用途的地域の例 | 特徴 |
|---|---|---|
| 宅地地域 | 住宅地域、商業地域、工業地域 | 人の居住・経済活動の場 |
| 農地地域 | 水田地域、畑地域 | 農業生産の場 |
| 林地地域 | 用材林地域、薪炭林地域 | 林業生産の場 |
宅地地域はさらに細分化されます。
| 宅地地域の細分類 | 内容 | 地域の例 |
|---|---|---|
| 住宅地域 | 居住の用に供される | 戸建住宅地域、中高層住宅地域 |
| 商業地域 | 商業活動の用に供される | 高度商業地域、近隣商業地域 |
| 工業地域 | 工業生産活動の用に供される | 大工場地域、中小工場地域 |
用途的地域と都市計画法の用途地域の違い
用途的地域は、都市計画法の用途地域(第一種低層住居専用地域等の13種類)とは異なる概念です。
都市計画法の用途地域は行政的な規制の枠組みであるのに対し、鑑定評価における用途的地域は不動産の実際の使われ方に着目した概念です。例えば、都市計画法上は「近隣商業地域」に指定されていても、実態としては住宅が多く建ち並んでいる場合、鑑定評価上は「住宅地域」と認定される場合があります。
地域の種別は、その地域の利用の現況及び変動の方向に基づき判定するものとする。
― 不動産鑑定評価基準 総論第6章第1節
近隣地域の詳細
近隣地域の定義と特徴
近隣地域は、対象不動産が属する用途的地域であり、対象不動産の価格の形成に直接に影響を与える地域です。
近隣地域の定義には、以下の重要な要素が含まれています。
- 「ある特定の用途に供されることを中心として」: 同一の用途的地域であること
- 「地域的にまとまりを示している」: 地理的に一体性があること
- 「直接に影響を与える」: 対象不動産の価格に直接的な影響を持つこと
近隣地域の範囲の画定
近隣地域の範囲は、以下の観点から画定されます。
1. 地域的なまとまり
近隣地域は、地理的に一体性のある範囲で画定されます。幹線道路、河川、鉄道等の地理的障壁が境界となることが多いです。
2. 用途の同質性
近隣地域内では、不動産の利用形態が概ね同質であることが求められます。住宅が中心の地域、商店が中心の地域など、用途的に均質な範囲です。
3. 地域要因の同質性
街路条件、交通接近条件、環境条件等の地域要因が概ね同質な範囲で画定されます。
近隣地域の具体例
例1: 戸建住宅地域
【対象不動産】東京都世田谷区のある戸建住宅
近隣地域の範囲:
- 北: ○○通り(幹線道路)
- 南: △△川
- 東: 商業地域との境界
- 西: □□公園
特徴: 第一種低層住居専用地域、戸建住宅が建ち並ぶ
閑静な住宅地、幅員6mの区画整然とした街路
例2: 駅前商業地域
【対象不動産】○○駅前の商業ビル用地
近隣地域の範囲:
- 駅前ロータリーを中心とした半径200m程度の範囲
- 中高層の商業ビル・飲食店が集積する地域
特徴: 商業地域、容積率600%、繁華性が高い
近隣地域の役割
近隣地域は、鑑定評価において以下の重要な役割を果たします。
| 役割 | 内容 |
|---|---|
| 標準的使用の判定 | 近隣地域における不動産の標準的な使用方法を判定する |
| 地域要因の把握 | 近隣地域の特性(地域要因)を把握・分析する |
| 比較の基準 | 取引事例比較法における地域要因比較の基準となる |
| 最有効使用判定の基礎 | 対象不動産の最有効使用判定の前提となる |
類似地域の詳細
類似地域の定義と特徴
類似地域とは、近隣地域の地域の特性と類似する特性を有する地域です。
類似地域とは、近隣地域の地域の特性と類似する特性を有する地域をいう。
― 不動産鑑定評価基準 総論第6章第1節
類似地域の定義はシンプルですが、「類似する特性」の判断が実務上の重要なポイントです。
「類似する特性」の判断基準
類似地域と認定するためには、以下の観点で近隣地域との類似性が認められる必要があります。
- 用途的地域の種類が同じ: 住宅地域同士、商業地域同士であること
- 地域要因が類似: 街路条件、交通条件、環境条件等が概ね類似していること
- 品等(グレード)が類似: 高級住宅地域と一般住宅地域は、たとえ住宅地域同士でも類似しない
- 不動産の利用形態が類似: 建物の規模・用途等が概ね類似していること
類似地域の具体例
対象不動産が「世田谷区A地区の戸建住宅地域」(近隣地域)に属する場合の類似地域の例を示します。
| 地域 | 類似地域としての適否 | 理由 |
|---|---|---|
| 世田谷区B地区の戸建住宅地域 | 適 | 同区内で地域特性が類似 |
| 杉並区C地区の戸建住宅地域 | 適 | 隣接区で品等・利用形態が類似 |
| 目黒区D地区の戸建住宅地域 | 適の可能性 | 品等が類似すれば適 |
| 渋谷区の高度商業地域 | 不適 | 用途的地域が異なる |
| 田園調布の高級住宅地域 | 不適の可能性 | 品等が大きく異なる |
| 埼玉県の一般住宅地域 | 不適の可能性 | 品等・需要者層が異なる |
類似地域の役割
類似地域は、鑑定評価において以下の役割を果たします。
| 役割 | 内容 |
|---|---|
| 取引事例の収集先 | 近隣地域に十分な事例がない場合の事例収集先 |
| 地域要因比較の対象 | 取引事例比較法における地域要因の比較対象 |
| 市場動向の把握 | 類似地域の動向から対象不動産の市場を推察 |
近隣地域と類似地域の違いの整理
定義の違い
| 項目 | 近隣地域 | 類似地域 |
|---|---|---|
| 定義 | 対象不動産の属する用途的地域 | 近隣地域と類似する特性を有する地域 |
| 対象不動産との関係 | 対象不動産が直接に属する | 対象不動産は属さない |
| 価格への影響 | 直接に影響を与える | 間接的に参照される |
| 数 | 1つのみ | 複数存在し得る |
| 範囲 | 通常、比較的狭い | 同一需給圏内に複数点在 |
鑑定評価における役割の違い
| 役割 | 近隣地域 | 類似地域 |
|---|---|---|
| 標準的使用の判定 | 判定の対象 | 参考にとどまる |
| 取引事例の収集 | 最優先で収集する範囲 | 近隣地域に事例不足の場合に収集 |
| 地域要因の比較 | 比較の基準となる | 比較の対象となる |
| 最有効使用の判定 | 直接の前提 | 間接的な参考 |
取引事例比較法における活用
事例収集の優先順位
取引事例比較法における取引事例の収集は、以下の優先順位で行われます。
- 近隣地域内の取引事例(最優先)
- 類似地域内の取引事例(近隣地域に不足の場合)
- 同一需給圏内のその他の地域の事例(さらに不足の場合)
地域要因の比較
取引事例が類似地域から収集された場合、近隣地域と類似地域の間の地域要因の比較が必要になります。
比準価格 = 事例価格 × 事情補正 × 時点修正 × 地域要因比較 × 個別的要因比較
↑ ここが重要
近隣地域内の事例であれば地域要因比較は「100/100」(同等)となりますが、類似地域の事例であれば、両地域の地域要因の違いを数値化して比較する必要があります。
具体例:
【近隣地域(対象不動産の属する地域)】
- 最寄駅からの距離: 徒歩8分
- 街路幅員: 6m
- 住環境: 良好
【類似地域(取引事例の所在地域)】
- 最寄駅からの距離: 徒歩12分(近隣地域より劣る)
- 街路幅員: 6m(同等)
- 住環境: 良好(同等)
地域要因比較: 近隣地域の方が交通利便性で優れるため
→ 100/97(近隣地域が3%優位)
境界判定の難しさと実務上の留意点
用途的地域の境界
実務上、近隣地域と周辺地域の境界の判定は最も難しい判断の一つです。特に以下のような場所では、慎重な判断が求められます。
1. 商業地域と住宅地域の境界部分
駅前商業地域から徐々に住宅地域に移行していく地帯では、どこまでを商業地域とし、どこから住宅地域とするかの判断が難しい場合があります。
例えば、駅前商業地域の背後にある住宅地域に面する対象不動産が、商業ビルが建ち始めている地点にある場合、近隣地域を商業地域と認定するか住宅地域と認定するかで、標準的使用と最有効使用の判定が大きく変わります。
2. 用途混在地域
住宅と商店、小規模事務所等が混在する地域では、用途的地域の性格づけ自体が困難な場合があります。このような場合は、現況の利用状態と変動の方向性を総合的に判断して、用途的地域を認定します。
3. 大規模開発の進行中の地域
再開発事業等が進行中の地域では、現況と将来の姿が大きく異なることがあります。このような場合は、地域の変動の方向性を十分に分析する必要があります。
近隣地域の範囲の変動
近隣地域の範囲は固定的なものではなく、社会経済状況の変化に伴い変動し得ます。
例えば、住宅地域に大規模な商業施設が建設されたことにより、周辺の住宅地域が徐々に商業化していく場合、近隣地域の範囲や性格が変化することがあります。地域分析においては、このような地域の変動の方向性を見極めることが重要です。
試験での出題ポイント
短答式試験
- 近隣地域の定義(「対象不動産の属する用途的地域」「価格の形成に関して直接に影響を与える」)
- 類似地域の定義(「近隣地域の地域の特性と類似する特性を有する地域」)
- 近隣地域と類似地域の違い(直接属する vs 類似する、1つ vs 複数)
- 同一需給圏・近隣地域・類似地域の包含関係
- 取引事例の収集における優先順位
- 用途的地域の判定基準(利用の現況と変動の方向)
論文式試験
- 近隣地域・類似地域の意義と定義の正確な記述
- 両地域の役割の違い(標準的使用判定、事例収集、地域要因比較)
- 同一需給圏との関係の体系的説明
- 用途的地域の概念と近隣地域の画定方法
暗記のポイント
- 近隣地域: 「対象不動産の属する用途的地域」で「直接に影響を与える」
- 類似地域: 「近隣地域の地域の特性と類似する特性を有する」
- 近隣地域は1つ、類似地域は複数存在し得る
- 事例収集: 近隣地域 → 類似地域 → 同一需給圏の順で優先
- 用途的地域は「利用の現況及び変動の方向に基づき判定」する
まとめ
近隣地域は対象不動産が直接属する用途的地域であり、類似地域は近隣地域と類似する特性を有する別の地域です。近隣地域は標準的使用の判定や最有効使用判定の基礎となり、類似地域は取引事例の収集先や地域要因比較の対象として活用されます。
両概念の違いを正確に理解するためには、用途的地域の概念と同一需給圏との包含関係を合わせて学習することが効果的です。特に、近隣地域の範囲の画定は実務においても試験においても重要なテーマであり、価格形成要因の知識と組み合わせて理解を深めましょう。