投信法の概要|J-REITと投資法人
投信法の概要
日本における不動産投資市場は、2001年のJ-REIT(不動産投資信託)市場の創設により大きく発展しました。J-REITは、多数の投資家から集めた資金で不動産を取得・運用し、その収益を投資家に分配する仕組みであり、個人投資家でも間接的に不動産投資に参加できる手段として定着しています。
投信法(正式名称: 投資信託及び投資法人に関する法律)は、こうした投資信託・投資法人の制度を定めた法律であり、1951年(昭和26年)に投資信託法として制定された後、2000年(平成12年)の改正で投資法人制度が導入されました。
不動産鑑定士試験の行政法規37法令に含まれる投信法は、出題頻度は低~中程度ですが、J-REITが保有する不動産は証券化対象不動産に該当するため、鑑定評価実務との関連性が非常に高い法令です。
投信法の目的
この法律は、投資信託又は投資法人を用いて投資者以外の者が投資者の資金を主として有価証券等に対する投資として集合して運用し、その成果を投資者に分配する制度を確立し、これらを用いた資金の運用が適正に行われることを確保するとともに、この制度に基づいて発行される各種の証券の購入者等の保護を図ることにより、投資者による有価証券等に対する投資を容易にし、もって国民経済の健全な発展に資することを目的とする。
― 投資信託及び投資法人に関する法律 第1条
投信法の目的を整理すると、以下のとおりです。
| 目的 | 内容 |
|---|---|
| 集合投資制度の確立 | 投資信託・投資法人を用いた集合投資スキームの法的枠組みの整備 |
| 資金運用の適正確保 | 運用者(資産運用会社等)による適正な運用の確保 |
| 投資者保護 | 証券の購入者等の保護 |
| 国民経済への貢献 | 投資を容易にし、国民経済の健全な発展に資する |
投資信託と投資法人の区分
投信法に基づく集合投資スキームには、大きく分けて投資信託と投資法人の2つの形態があります。
投資信託(契約型)
投資信託は、信託契約に基づく集合投資スキームです。委託者(運用会社)が受託者(信託銀行)に資産を信託し、受益者(投資家)に受益証券を発行します。
| 当事者 | 役割 |
|---|---|
| 委託者(投資信託委託会社) | 信託財産の運用指図 |
| 受託者(信託銀行) | 信託財産の保管・管理 |
| 受益者(投資家) | 受益証券を保有し、収益分配を受ける |
投資法人(会社型)
投資法人は、法人格を有する集合投資スキームです。投資法人自体が法人として資産を保有し、投資家は投資法人が発行する投資口を取得します。
| 当事者 | 役割 |
|---|---|
| 投資法人 | 資産の保有主体(法人格あり) |
| 資産運用会社 | 投資法人から委託を受けて資産の運用を行う |
| 資産保管会社(信託銀行等) | 資産の保管 |
| 一般事務受託者 | 一般事務(投資主名簿管理等)の受託 |
| 投資主(投資家) | 投資口を保有し、分配金を受ける |
投資信託と投資法人の比較
| 項目 | 投資信託(契約型) | 投資法人(会社型) |
|---|---|---|
| 法的形態 | 信託契約 | 法人 |
| 投資家の地位 | 受益者 | 投資主 |
| 証券の種類 | 受益証券 | 投資証券 |
| 運用の主体 | 投資信託委託会社 | 資産運用会社(委託) |
| J-REITでの採用 | 少数 | 主流 |
J-REITの仕組み
J-REITとは
J-REIT(Japan Real Estate Investment Trust)は、投信法に基づく不動産投資法人の通称であり、2001年9月に東京証券取引所に初めて上場されました。
J-REITは、多数の投資家から集めた資金で不動産を取得・運用し、得られた賃料収入や売却益を投資家に分配します。
J-REITの基本的なスキーム
J-REITの基本的な仕組みは以下のとおりです。
- 投資法人が投資証券を発行し、投資家から資金を調達する
- 調達した資金及び投資法人債(借入れ)により、不動産を取得する
- 取得した不動産から賃料収入を得る
- 賃料収入から諸経費を控除した利益を、投資家に分配金として支払う
J-REITの税制上の特例
J-REITには、利益の90%超を分配する等の一定の要件を満たす場合、分配金を損金算入できるという税制上の特例があります。これにより、法人段階での課税を実質的に回避し、二重課税を排除できます。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 配当要件 | 利益の90%超を分配 |
| 資産要件 | 総資産の75%以上を不動産関連資産で保有 |
| 所有要件 | 発行済投資口の50%超を上位10者以下で保有していないこと |
| 上場要件 | 投資証券が証券取引所に上場されていること等 |
投資法人の機関設計
投資法人の機関
投資法人は、以下の機関を設置する必要があります。
| 機関 | 役割 | 設置義務 |
|---|---|---|
| 投資主総会 | 最高意思決定機関。投資主で構成 | 必置 |
| 執行役員 | 業務の執行(1名以上) | 必置 |
| 監督役員 | 執行役員の職務の監督(執行役員数+1名以上) | 必置 |
| 会計監査人 | 計算書類の監査 | 必置 |
| 役員会 | 執行役員及び監督役員で構成。重要事項の決定 | 必置 |
投資主総会
投資主総会は、投資法人の最高意思決定機関であり、投資主(投資家)で構成されます。
| 決議事項 | 決議の種類 |
|---|---|
| 規約の変更 | 特別決議 |
| 執行役員・監督役員の選任・解任 | 普通決議 |
| 合併の承認 | 特別決議 |
| 解散の決議 | 特別決議 |
執行役員と監督役員
投資法人の業務執行は執行役員が行いますが、投資法人は資産の運用を外部の資産運用会社に委託しなければならないため、執行役員の業務範囲は限定的です。
監督役員は、執行役員の職務を監督する役割を担います。監督役員の員数は、執行役員の員数に1を加えた数以上でなければなりません。
監督役員の員数は、執行役員の員数に一を加えた数以上でなければならない。
― 投資信託及び投資法人に関する法律 第100条
資産運用会社
外部運用の義務
投資法人の最も重要な特徴の一つは、資産の運用を自ら行うことができない点です。投資法人は、資産運用会社に資産の運用に係る業務を委託しなければなりません。
投資法人は、資産の運用に係る業務を資産運用会社に委託しなければならない。
― 投資信託及び投資法人に関する法律 第198条第1項
資産運用会社の登録
資産運用会社は、金融商品取引法に基づく投資運用業の登録を受けた金融商品取引業者でなければなりません。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 登録 | 金融商品取引法に基づく投資運用業の登録 |
| 業務内容 | 投資法人の資産の運用に関する業務(不動産の取得・売却・賃貸借の判断等) |
| 善管注意義務 | 投資法人に対して善良な管理者の注意義務を負う |
| 忠実義務 | 投資法人のために忠実にその職務を遂行する義務 |
| 利益相反取引の制限 | 利益相反となる取引の制限 |
資産運用会社の役割の重要性
J-REITにおいて、資産運用会社は実質的な運用の判断を行う中核的な存在です。不動産の取得・売却の判断、テナント管理、修繕計画の策定等、J-REITの運用成績を左右する重要な業務を担っています。
投資法人の資金調達
投資証券の発行
投資法人は、投資証券(投資口を表章する証券)を発行して、投資家から資金を調達します。J-REITの投資証券は東京証券取引所に上場されており、株式と同様に売買が可能です。
投資法人債の発行
投資法人は、投資法人債を発行して、借入れによる資金調達も行うことができます。
借入れ
投資法人は、金融機関等から借入れを行うこともできます。多くのJ-REITは、投資証券の発行による資金調達に加えて、銀行借入れも活用しています。
| 資金調達手段 | 内容 |
|---|---|
| 投資証券の発行 | 投資家からの出資(エクイティ) |
| 投資法人債の発行 | 債券の発行による調達(デット) |
| 借入れ | 金融機関からの借入れ(デット) |
SPC法との比較
投信法に基づく投資法人(J-REIT)と、SPC法に基づく特定目的会社(TMK)は、いずれも不動産証券化のビークルですが、以下の違いがあります。
| 項目 | 投資法人(J-REIT) | TMK(SPC法) |
|---|---|---|
| 目的 | 継続的な資産運用 | 特定資産の流動化 |
| 存続期間 | 原則として無期限 | 資産流動化計画に基づく有期 |
| 資産の入替え | 可能(ポートフォリオの組替え) | 原則として不可(計画に基づく) |
| 設立 | 内閣総理大臣への登録 | 内閣総理大臣への届出 |
| 上場 | 東京証券取引所に上場可能 | 通常は非上場 |
| 運用方針の変更 | 投資主総会の決議で変更可能 | 社員総会の決議が必要(制約あり) |
鑑定評価への影響
J-REITが保有する不動産の鑑定評価
J-REITが保有する不動産は、証券化対象不動産に該当します。そのため、鑑定評価にあたっては通常の評価に加えて以下の要件が求められます。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| DCF法の適用 | 収益価格を求めるにあたり、DCF法を適用しなければならない |
| 直接還元法との併用 | DCF法に加え、直接還元法も適用して相互検証 |
| 収支項目の詳細開示 | 総収入・運営費用・NCF等の各項目を詳細に開示 |
| ERの活用 | エンジニアリングレポートを活用した建物状況の把握 |
鑑定評価の利用場面
J-REITにおいて、不動産鑑定評価は以下の場面で必要とされます。
| 場面 | 目的 |
|---|---|
| 不動産の取得時 | 取得価格の妥当性の検証 |
| 不動産の売却時 | 売却価格の妥当性の検証 |
| 期末の資産評価 | 決算時の保有不動産の時価評価 |
| 合併・分割時 | 保有不動産の価格算定 |
投資法人の資産運用と鑑定評価
鑑定評価は、J-REITの情報開示制度の重要な一部を構成しています。投資家は鑑定評価額を参考にして投資判断を行うため、鑑定評価の正確性と透明性が特に重視されます。
試験での出題ポイント
短答式試験
- 投信法の正式名称: 「投資信託及び投資法人に関する法律」
- 投資信託と投資法人の違い: 投資信託は契約型(信託契約)、投資法人は会社型(法人格あり)
- 投資法人の機関: 投資主総会・執行役員・監督役員・会計監査人・役員会(すべて必置)
- 監督役員の員数: 執行役員の員数 + 1名以上
- 資産運用の委託義務: 投資法人は資産の運用を資産運用会社に委託しなければならない
- 配当要件: 利益の90%超を分配 → 分配金の損金算入が認められる
- 「投資法人は自ら資産の運用を行うことができる」→ 誤り。資産運用会社への委託が義務
論文式試験
- J-REITの仕組みと不動産鑑定評価の役割
- 投資法人とTMKの違い、それぞれの証券化スキームの特徴
暗記のポイント
- 投資信託: 契約型(信託契約)。委託者・受託者・受益者の三者構造
- 投資法人: 会社型(法人格あり)。投資主総会が最高意思決定機関
- 投資法人の必置機関: 投資主総会・執行役員・監督役員・会計監査人・役員会
- 監督役員の員数: 執行役員数 + 1名以上
- 資産運用の外部委託義務: 資産運用会社に委託しなければならない
- 分配金の損金算入: 利益の90%超を分配する等の要件を満たす場合
まとめ
投信法は、投資信託と投資法人を用いた集合投資スキームの法的枠組みを定めた法律です。J-REITは投資法人の形態で運営され、資産の運用は資産運用会社に委託しなければなりません。不動産鑑定士にとっては、J-REITが保有する不動産が証券化対象不動産に該当し、DCF法の適用等の特別な評価要件が課される点が重要です。SPC法に基づくTMKとの違いも含め、不動産証券化に関わる法制度を体系的に理解しておきましょう。
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短答式の肢別演習・過去問から、論文式のドリル・論証カードまで、体系的に学習を進められます。
- 肢別演習 ― 鑑定理論・行政法規を一問一答で反復
- 過去問演習 ― 年度別・分野別に出題傾向を把握
- ドリル ― 重要用語を穴埋めで定着
- 論証カード ― 論文式で使える論証パターンを暗記