建物残余法の適用場面と計算例
建物残余法とは
建物残余法は、収益還元法の一手法であり、建物及びその敷地が生み出す純収益から土地に帰属する純収益を控除し、残余の純収益を建物の還元利回りで還元して建物の収益価格を求める方法です。不動産鑑定士試験では、土地残余法との対比、計算手順、適用が有効な場面が出題されます。
建物残余法は、建物及びその敷地が一体として生み出す純収益から、土地に帰属する純収益を控除した残余の純収益を建物の還元利回りで還元して、建物の試算価格を求める方法である。
― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節
建物残余法の基本的な考え方
残余法の構造
残余法は、複合不動産の純収益を構成要素(土地と建物)に配分し、一方の価格を求める手法です。
| 手法 | 既知のもの | 求めるもの |
|---|---|---|
| 土地残余法 | 建物の価格 | 土地の価格 |
| 建物残余法 | 土地の価格 | 建物の価格 |
建物残余法では、土地の価格が既知であることが前提となります。更地としての市場価格が把握できる場合に、建物の収益価格を逆算的に求めることができます。
建物残余法の基本算式
算式
建物の収益価格 = (複合不動産の純収益 − 土地に帰属する純収益) ÷ 建物の還元利回り
これを分解すると以下のようになります。
(1) 複合不動産の純収益 = 総収益 − 総費用
(2) 土地に帰属する純収益 = 土地価格 × 土地の還元利回り
(3) 建物に帰属する純収益 = (1) − (2)
(4) 建物の収益価格 = (3) ÷ 建物の還元利回り
建物の還元利回りの構成
建物は償却資産であるため、建物の還元利回りには純還元利回りと償却率が含まれます。
建物の還元利回り = 建物の純還元利回り + 償却率
| 要素 | 内容 | 目安 |
|---|---|---|
| 純還元利回り | 建物への投資に対する収益率 | 3〜6% |
| 償却率 | 経済的残存耐用年数に基づく年間償却率 | 1/残存耐用年数 |
計算例1:事務所ビルの場合
【前提条件】
・対象不動産: RC造5階建事務所ビル(築15年)
敷地面積: 300m²
延床面積: 900m²
土地価格(取引事例比較法): 200,000,000円
経済的残存耐用年数: 35年
【複合不動産の純収益】
有効総収益: 35,000,000円
総費用: 12,000,000円
純収益: 35,000,000 − 12,000,000 = 23,000,000円
【土地に帰属する純収益】
土地の還元利回り: 3.5%
土地帰属純収益 = 200,000,000 × 3.5% = 7,000,000円
【建物に帰属する純収益】
23,000,000 − 7,000,000 = 16,000,000円
【建物の収益価格】
建物の純還元利回り: 4.5%
償却率: 1/35年 ≒ 2.86%
建物の還元利回り: 4.5% + 2.86% = 7.36%
建物の収益価格 = 16,000,000 ÷ 7.36% ≒ 217,400,000円
≒ 217,000,000円
計算例2:賃貸マンションの場合
【前提条件】
・対象不動産: RC造6階建賃貸マンション(築20年)
敷地面積: 400m²
戸数: 24戸
土地価格(取引事例比較法): 120,000,000円
経済的残存耐用年数: 30年
【複合不動産の純収益】
賃料収入: 80,000円/戸・月 × 24戸 × 12 = 23,040,000円
共益費等: 8,000円/戸・月 × 24戸 × 12 = 2,304,000円
駐車場収入: 15,000円/台・月 × 12台 × 12 = 2,160,000円
一時金関連: = 800,000円
──────────────────────────────────────
潜在総収益: 28,304,000円
空室等損失: 28,304,000 × 7% = 1,981,000円
──────────────────────────────────────
有効総収益: 26,323,000円
総費用:
維持管理費: 2,500,000円
修繕費: 2,000,000円
公租公課: 3,500,000円
損害保険料: 300,000円
その他: 200,000円
──────────────────────────────────────
総費用: 8,500,000円
純収益: 26,323,000 − 8,500,000 = 17,823,000円
【土地に帰属する純収益】
土地の還元利回り: 3.0%
120,000,000 × 3.0% = 3,600,000円
【建物に帰属する純収益】
17,823,000 − 3,600,000 = 14,223,000円
【建物の収益価格】
建物の純還元利回り: 5.0%
償却率: 1/30年 ≒ 3.33%
建物の還元利回り: 5.0% + 3.33% = 8.33%
建物の収益価格 = 14,223,000 ÷ 8.33% ≒ 170,700,000円
≒ 171,000,000円
建物残余法の適用が有効な場面
建物残余法が特に有効とされる場面は以下の通りです。
- 土地価格が把握しやすい場合: 更地としての取引事例が豊富な地域
- 建物の取引事例が乏しい場合: 特殊な用途の建物で取引事例比較法の適用が困難な場合
- 積算価格の検証手段: 原価法で求めた建物の積算価格を収益面から検証する場合
建物残余法の限界
一方、以下の限界にも留意が必要です。
- 土地価格の査定精度に依存: 土地価格が不適切だと建物価格も歪む
- 還元利回りの設定: 土地と建物それぞれの還元利回りを適切に設定する必要がある
- 経済的残存耐用年数の判定: 償却率の基礎となる耐用年数の判定に恣意性が入りうる
建物残余法と土地残余法の比較
適用場面の違い
| 項目 | 建物残余法 | 土地残余法 |
|---|---|---|
| 既知の要素 | 土地の価格 | 建物の価格 |
| 求める要素 | 建物の収益価格 | 土地の収益価格 |
| 主な適用場面 | 建物の収益価格を求める場合 | 更地の鑑定評価 |
| 前提条件 | 更地価格が把握可能 | 建物の再調達原価が把握可能 |
相互検証
土地残余法と建物残余法の結果が整合していれば、複合不動産の評価全体の信頼性が高まります。
【検証の考え方】
土地残余法で求めた土地価格 + 建物残余法で求めた建物価格
= 複合不動産全体の価格
この合計が他の手法(原価法、取引事例比較法)で求めた
複合不動産の価格と整合しているか確認する
残余法全般の留意事項
配分の合理性
残余法全般に共通する留意事項として、純収益の配分方法が合理的であるかの検証が重要です。
残余法の適用に当たっては、その前提とする一方の構成要素の価格が適正であること及び還元利回りが適正であることの両方が必要である。
― 不動産鑑定評価基準に関する実務指針(留意事項) 総論第7章
還元利回りの整合性
土地の還元利回りと建物の還元利回りは、複合不動産全体の還元利回り(総合還元利回り)と以下の関係を満たす必要があります。
総合還元利回り = 土地の還元利回り × L/(L+B) + 建物の還元利回り × B/(L+B)
L: 土地の価格
B: 建物の価格
試験での出題ポイント
短答式試験
- 建物残余法の定義と算式の正誤判定
- 土地残余法との既知の要素の違い
- 建物の還元利回りに償却率を含むことの理解
- 残余法の前提条件(一方の構成要素の価格の適正性)
論文式試験
- 建物残余法の意義・手順を基準の文言に即して記述
- 土地残余法と建物残余法の比較論述
- 残余法の適用上の留意点(前提条件の適正性)
暗記のポイント
- 基本算式: 建物の収益価格 = (複合不動産の純収益 − 土地帰属純収益) ÷ 建物の還元利回り
- 土地帰属純収益: 土地価格 × 土地の還元利回り
- 建物の還元利回り: 純還元利回り + 償却率
- 前提条件: 土地の価格が適正に把握されていること
- 土地との違い: 土地は非償却資産(還元利回りに償却率を含まない)
まとめ
建物残余法は、複合不動産の純収益から土地に帰属する純収益を控除し、残余を建物の還元利回りで還元して建物の収益価格を求める手法です。土地価格が把握しやすい場面で有効であり、原価法で求めた積算価格の検証手段としても活用できます。土地残余法と対比しながら、残余法全体の考え方を体系的に理解しておきましょう。