SPC法の概要|資産流動化の仕組み
SPC法の概要
1990年代後半、日本経済はバブル崩壊後の不良債権問題に直面していました。金融機関が抱える膨大な不良債権を処理するためには、不動産を含む資産を証券化して流動性を高め、市場を通じて資金を調達する仕組みが不可欠でした。こうした時代背景の下、SPC法(正式名称: 資産の流動化に関する法律)が1998年(平成10年)に制定されました。
SPC法は、特定目的会社(TMK)や特定目的信託を用いた資産流動化の仕組みを定める法律です。不動産鑑定士試験の行政法規37法令に含まれており、不動産の証券化対象不動産の鑑定評価と密接に関連するため、出題頻度は低~中程度ですが実務上の重要性は高い法令です。
SPC法の目的
この法律は、特定目的会社又は特定目的信託を用いて資産の流動化を行う制度を確立し、これらを用いた資産の流動化が適正に行われることを確保するとともに、資産の流動化の一環として発行される各種の証券の購入者等の保護を図ることにより、一般投資者による投資を容易にし、もって国民経済の健全な発展に資することを目的とする。
― 資産の流動化に関する法律 第1条
SPC法の目的は以下の3点に整理できます。
| 目的 | 内容 |
|---|---|
| 資産流動化制度の確立 | TMK・特定目的信託を用いた資産流動化の法的枠組みの整備 |
| 投資者保護 | 各種証券の購入者等の保護 |
| 国民経済への貢献 | 一般投資者による投資を容易にし、国民経済の健全な発展に資する |
資産流動化の基本的な仕組み
資産流動化とは
資産流動化とは、特定の資産(不動産、指名金銭債権等)を裏付けとして有価証券を発行し、投資家から資金を調達する仕組みです。
SPC法における資産流動化の基本的な流れは以下のとおりです。
- 資産の保有者(オリジネーター)が、対象資産をTMK(特定目的会社)に譲渡する
- TMKは資産流動化計画に基づいて、資産対応証券(特定社債・優先出資証券等)を発行する
- 投資家が資産対応証券を取得し、TMKに資金が流入する
- TMKは対象資産(不動産等)から得られる収益(賃料等)を原資として、投資家に配当・利息を支払う
オリジネーターのメリット
| メリット | 内容 |
|---|---|
| オフバランス化 | 対象資産をバランスシートから切り離すことで、財務体質を改善 |
| 資金調達の多様化 | 銀行借入以外の資金調達手段を確保 |
| リスクの移転 | 対象資産のリスクを投資家に移転 |
特定目的会社(TMK)
TMKとは
特定目的会社(TMK: Tokutei Mokuteki Kaisha)は、SPC法に基づいて設立される法人であり、資産流動化のための器(ビークル)として機能します。会社法上の株式会社とは異なる特別な法人形態です。
TMKの設立
TMKの設立にあたっては、内閣総理大臣への届出(届出制)が必要です。許可制ではなく届出制である点がポイントです。
特定目的会社を設立するには、発起人が定款を作成し、内閣総理大臣に届出をしなければならない。
― 資産の流動化に関する法律 第4条第1項
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 設立方法 | 発起人が定款を作成し、内閣総理大臣に届出 |
| 最低資本金 | 10万円(株式会社と比較して非常に低額) |
| 法人格 | 法人格を有する(社団法人) |
TMKの機関設計
TMKの機関設計は、以下のとおりです。
| 機関 | 役割 |
|---|---|
| 社員総会 | TMKの最高意思決定機関。特定社員(特定出資者)で構成 |
| 取締役 | 業務の執行(1名以上) |
| 監査役 | 業務・会計の監査(1名以上。会計監査人設置会社を除き任意) |
| 会計監査人 | 一定規模以上の場合に設置義務 |
| 特定社員(特定出資者) | TMKの出資者。議決権を有する |
TMKの特徴
TMKには以下の重要な特徴があります。
- 目的の限定: 資産流動化計画に記載された業務のみを行うことができる
- 倒産隔離: オリジネーターが倒産してもTMKには影響しない(倒産隔離機能)
- 導管体機能: TMKは資産から生じる収益を投資家に通過させる導管体(コンジット)として機能する
- 税制上の特例: 一定の要件を満たす場合、配当金の損金算入が認められる(二重課税の回避)
資産流動化計画
資産流動化計画とは
資産流動化計画は、TMKが資産流動化を実施するための基本計画であり、SPC法の中核をなす概念です。TMKは、この計画に従って資産の取得・管理・処分、証券の発行等を行います。
特定目的会社は、資産流動化計画を定め、当該資産流動化計画に従い資産の流動化に係る業務を行わなければならない。
― 資産の流動化に関する法律 第2条第2項
資産流動化計画の記載事項
| 記載事項 | 内容 |
|---|---|
| 特定資産の内容 | 流動化の対象となる資産(不動産等)の内容 |
| 資産対応証券の種類・発行総額 | 特定社債・優先出資証券等の種類と発行予定額 |
| 特定資産の管理処分方法 | 資産の管理・処分の方法 |
| 資金計画 | 資金の調達・運用計画 |
| スケジュール | 資産流動化の実施期間 |
資産流動化計画の変更
資産流動化計画の変更には、原則として社員総会の決議が必要です。重要な変更については、証券の取得者の保護の観点から特別決議が求められます。
優先出資と特定出資
出資の二層構造
TMKの出資は、特定出資(劣後出資)と優先出資の二層構造になっています。
| 出資の種類 | 性質 | 出資者 |
|---|---|---|
| 特定出資 | TMKの議決権を有する出資(劣後出資) | 通常はオリジネーター又はアレンジャー |
| 優先出資 | 配当において優先する出資(議決権なし) | 一般投資家 |
特定出資
特定出資はTMKの基本的な出資であり、特定社員(出資者)はTMKの社員総会における議決権を有します。ただし、配当においては優先出資に劣後するため、劣後出資とも呼ばれます。
優先出資
優先出資は、配当において特定出資に優先する出資です。優先出資証券は、一般投資家に販売され、資金調達の中心的手段となります。
| 項目 | 特定出資 | 優先出資 |
|---|---|---|
| 議決権 | あり | なし |
| 配当の順位 | 劣後 | 優先 |
| リスク | 高い | 相対的に低い |
| 投資家 | オリジネーター等 | 一般投資家 |
特定社債
TMKは、特定社債を発行して資金を調達することもできます。特定社債は、TMKの保有する特定資産を裏付けとする社債であり、優先出資よりもさらに優先して弁済を受ける権利を有します。
弁済の優先順位は以下のとおりです。
- 特定社債(最も優先)
- 優先出資
- 特定出資(劣後出資)(最も劣後)
特定目的信託
特定目的信託とは
SPC法は、TMKによる資産流動化だけでなく、特定目的信託による資産流動化も定めています。
特定目的信託とは、委託者(オリジネーター)が受託者(信託銀行等)に特定資産を信託し、受託者が信託契約に基づいて資産の管理・処分を行い、受益者(投資家)に収益を分配する仕組みです。
| 項目 | TMK方式 | 特定目的信託方式 |
|---|---|---|
| ビークル | 特定目的会社(法人) | 信託(契約) |
| 資産の帰属 | TMKが所有 | 受託者(信託銀行等)が所有 |
| 証券 | 特定社債・優先出資証券 | 受益証券 |
| 投資家 | 社債権者・優先出資社員 | 受益者 |
受益証券の発行
特定目的信託においては、受託者が受益証券を発行し、投資家はこれを取得することで信託の収益の分配を受けます。
SPC法と他法令との関連
不動産特定共同事業法との関係
不動産特定共同事業法は、不動産特定共同事業(複数の投資家から資金を集めて不動産取引を行い、収益を分配する事業)を規制する法律です。SPC法に基づくTMKは、不動産特定共同事業法の適用を受けない点が重要です。
| 法律 | 対象 |
|---|---|
| SPC法 | TMK・特定目的信託を用いた資産流動化 |
| 不動産特定共同事業法 | 不動産特定共同事業契約に基づく共同事業 |
| 投信法 | 投資法人(J-REIT)・投資信託 |
金融商品取引法との関係
SPC法に基づいてTMKが発行する特定社債・優先出資証券は、金融商品取引法上の有価証券に該当します。したがって、これらの証券の募集・売出しには金融商品取引法の規制が適用されます。
鑑定評価への影響
証券化対象不動産の鑑定評価
SPC法に基づくTMKが保有する不動産は、証券化対象不動産に該当します。証券化対象不動産の鑑定評価では、通常の鑑定評価とは異なる以下の要件が加わります。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| DCF法の適用 | 収益価格を求めるにあたり、DCF法を適用しなければならない |
| 収支項目の詳細開示 | 収入・費用の各項目を詳細に開示 |
| エンジニアリングレポートの活用 | 建物の状況に関するERを活用 |
資産流動化計画と鑑定評価
TMKが保有する不動産を鑑定評価する際には、資産流動化計画に記載された用途や管理処分方法を把握する必要があります。資産流動化計画に基づく処分制限が存在する場合、最有効使用の判定に影響を与える可能性があります。
SPC法特有の評価上の留意点
| 留意点 | 内容 |
|---|---|
| 倒産隔離の確認 | オリジネーターからTMKへの資産譲渡が真正売買として有効か |
| テナント構成の分析 | 不動産の収益性を左右するテナント構成を詳細に分析 |
| CAPEX(資本的支出)の見積り | 将来の修繕・改修費用を適切に見積もる |
試験での出題ポイント
短答式試験
- SPC法の正式名称: 「資産の流動化に関する法律」
- TMKの設立: 内閣総理大臣への届出制(許可制ではない)
- TMKの最低資本金: 10万円
- 特定出資と優先出資の違い: 特定出資は議決権あり・配当劣後、優先出資は議決権なし・配当優先
- 資産流動化計画: TMKの業務遂行の基本計画。変更には社員総会の決議が必要
- 「TMKの設立には国土交通大臣の許可が必要」→ 誤り。内閣総理大臣への届出制
論文式試験
- SPC法に基づく資産流動化の仕組みと不動産鑑定評価の役割
- 証券化対象不動産の鑑定評価における留意点
暗記のポイント
- SPC法の正式名称: 資産の流動化に関する法律(1998年制定)
- TMKの設立: 内閣総理大臣への届出制、最低資本金10万円
- 出資の二層構造: 特定出資(議決権あり・配当劣後)+ 優先出資(議決権なし・配当優先)
- 弁済の優先順位: 特定社債 > 優先出資 > 特定出資
- 資産流動化計画: TMKの業務遂行の根拠。計画に記載された業務のみ実施可能
- TMKの保有不動産は証券化対象不動産 → DCF法の適用が必要
まとめ
SPC法は、特定目的会社(TMK)や特定目的信託を用いた資産流動化の法的枠組みを定めた法律です。TMKは届出制で設立され、資産流動化計画に基づいて特定社債や優先出資証券を発行して資金調達を行います。不動産鑑定士にとっては、TMKが保有する不動産が証券化対象不動産に該当するため、DCF法の適用等の特別な評価要件を理解しておくことが不可欠です。不動産特定共同事業法との違いも含め、不動産証券化に関わる法令を体系的に押さえておきましょう。
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- 肢別演習 ― 鑑定理論・行政法規を一問一答で反復
- 過去問演習 ― 年度別・分野別に出題傾向を把握
- ドリル ― 重要用語を穴埋めで定着
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