スライド法の変動率の査定方法
スライド法における変動率の位置づけ
スライド法における変動率は、直近合意時点における純賃料を価格時点の水準にスライドさせるための指標です。不動産鑑定士試験では、変動率の査定に用いる指標の種類や選択の考え方が問われます。変動率の査定においては、地価変動率・消費者物価指数・賃料指数等の複数の経済指標を総合的に勘案し、対象不動産の用途や契約の性質に適した指標を選択・統合します。
スライド法は、直近合意時点における純賃料に変動率を乗じて得た額に価格時点における必要諸経費等を加算して試算賃料を求める手法である。
― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第2節
スライド法と変動率の位置づけ
スライド法の算式
スライド法は、継続賃料を求める4手法の一つであり、以下の算式で表されます。
スライド法による賃料 = 直近合意時点における純賃料 × 変動率 + 価格時点における必要諸経費等
ここで変動率とは、直近合意時点から価格時点までの間における経済的な変動を反映する指標であり、スライド法の核心的な要素です。
変動率の性格
変動率は、賃料の基礎をなす純賃料部分が、直近合意時点から価格時点までの間にどの程度変動したかを示すものです。変動率の査定は、以下の点において重要な意味を持ちます。
- 経済事情の変動を客観的に反映する手段となる
- 純賃料部分のみをスライドし、必要諸経費は別途再計算する点で合理的な構造を持つ
- 変動率の選択によって結果が大きく異なるため、鑑定士の専門的判断が要求される
変動率の査定に用いる主要指標
地価変動率
地価変動率は、対象不動産の敷地の価格の変動を示す指標であり、変動率の査定において最も基本的な指標の一つです。
| 地価データ | 特徴 | 公表頻度 |
|---|---|---|
| 地価公示 | 都市計画区域内の標準地の正常な価格 | 年1回(1月1日時点) |
| 地価調査 | 都道府県が調査する基準地の価格 | 年1回(7月1日時点) |
| 相続税路線価 | 相続税評価のための路線に面する土地の価額 | 年1回(1月1日時点) |
| 固定資産税評価額 | 固定資産税課税のための土地評価額 | 3年に1回改定 |
地価変動率は、土地に帰属する純賃料の変動を最も直接的に反映する指標です。特に地代(借地の賃料)の評価においては、地価変動率の重要性が高くなります。
ただし、建物を含む家賃の評価においては、地価変動率だけでは建物の賃料変動を十分に反映できない場合があるため、他の指標と組み合わせて用いることが一般的です。
消費者物価指数(CPI)
消費者物価指数は、一般的な物価水準の変動を示す指標であり、経済事情の変動を広く反映します。
- 総務省統計局が毎月公表しており、データの入手が容易
- 全国平均、都道府県別、品目別など、多様な切り口で利用可能
- 賃料の変動とは直接的な関連性がやや弱い場合がある
- 総合指数のほか、「家賃」を含む品目別指数も参考にできる
消費者物価指数は、地価変動率ほど不動産固有の変動を反映しませんが、経済環境全体の変化を測る指標として有用です。特に、テナントの支払能力に影響する物価水準の変動を考慮する際に意味を持ちます。
賃料指数
賃料指数は、不動産の賃料水準の変動を直接的に示す指標であり、変動率の査定において最も直接的な関連性を持つ指標です。
- 民間の不動産情報サービス会社等が公表するオフィス賃料指数、マンション賃料指数等
- 対象不動産の用途と同種の指標を選択することが重要
- 地域的な対応関係が取れる指標を選択することが望ましい
- データの信頼性と対象エリアのカバー範囲に留意が必要
賃料指数は賃料変動を最も直接的に反映する利点がありますが、全ての地域・用途でデータが利用可能とは限らないことが課題です。
固定資産税等の変動率
固定資産税・都市計画税の変動率は、公租公課の負担の変動を示す指標です。
- 借地借家法における賃料増減額の要件の一つである「公課の増減」を直接反映する
- 特に地代の評価においては重要な指標
- 評価額の改定は3年に1回であるため、短期間の変動を捉えにくい
その他の指標
| 指標 | 内容 | 主な用途 |
|---|---|---|
| GDP成長率 | 国内総生産の変動率 | マクロ経済環境の変動把握 |
| 企業収益の変動 | 対象不動産を使用する業種の業績変動 | 事業用不動産の賃料変動の参考 |
| 建築費指数 | 建設コストの変動率 | 建物に帰属する賃料部分の変動参考 |
| 金利水準の変動 | 長期金利・短期金利の変動 | 利回りを通じた賃料への間接的影響 |
変動率の査定方法
基本的なアプローチ
変動率の査定は、以下のプロセスで行います。
- 関連する経済指標の収集 – 直近合意時点から価格時点までの期間における各指標の数値を収集
- 各指標の変動率の算定 – 直近合意時点の数値と価格時点の数値から変動率を算出
- 指標の選択と重み付け – 対象不動産の用途・性質に応じて適切な指標を選択し、重要性に応じた重み付けを行う
- 総合的な変動率の決定 – 複数の指標を総合的に勘案して最終的な変動率を決定
指標の選択基準
変動率に用いる指標の選択においては、以下の基準を考慮します。
- 対象不動産との関連性:土地の賃料(地代)か、建物を含む賃料(家賃)かによって重視する指標が異なる
- 地域的な対応関係:対象不動産の所在する地域の指標が利用可能か
- データの信頼性と客観性:公的統計が望ましいが、民間データも有用
- 期間的な対応関係:直近合意時点から価格時点までの期間をカバーできるか
用途別の指標選択の目安
| 対象不動産の用途 | 重視すべき指標 | 補助的に参照する指標 |
|---|---|---|
| 借地(地代) | 地価変動率、固定資産税変動率 | 消費者物価指数 |
| オフィス | オフィス賃料指数、地価変動率 | 消費者物価指数、企業収益 |
| 住宅 | 住宅賃料指数、消費者物価指数 | 地価変動率 |
| 商業施設 | 商業賃料指数、地価変動率 | 売上高変動、消費者物価指数 |
| 工場・倉庫 | 地価変動率、建築費指数 | 消費者物価指数 |
変動率の統合方法
単一指標による方法
最もシンプルな方法は、単一の指標の変動率をそのまま採用する方法です。例えば、借地の地代の評価で地価変動率のみを採用するケースがこれに該当します。
この方法は単純明快ですが、一つの指標に過度に依存するリスクがあります。特定の指標に異常値が含まれる場合や、その指標が対象不動産の賃料変動を十分に反映していない場合には、結果が歪む可能性があります。
加重平均による方法
複数の指標の変動率を加重平均して変動率を求める方法です。各指標に重み(ウェイト)を付け、以下の算式で求めます。
変動率 = 指標Aの変動率 × ウェイトA + 指標Bの変動率 × ウェイトB + ......
(ウェイトA + ウェイトB + ...... = 1.0)
- 複数の指標を組み合わせることで、特定指標への過度な依存を回避
- ウェイトの設定に鑑定士の判断が反映される
- 実務上、最も一般的に用いられる方法
総合的判断による方法
複数の指標の変動率を参考にしつつ、鑑定士が総合的に判断して変動率を決定する方法です。
- 指標間の乖離が大きい場合に、その原因を分析した上で判断
- 対象不動産の個別事情を反映できる柔軟性がある
- 判断の根拠を明示することが求められる
変動率査定の留意点
期間の取り方
変動率は、直近合意時点から価格時点までの変動を捉えるものです。期間の取り方を誤ると、変動率の意味が失われます。
- 直近合意時点が古いほど、長期間の変動を捉えることになる
- バブル期を含む長期間の場合、地価変動率の累積が極端な値になることがある
- このような場合、地価変動率のみに依拠することは適切ではなく、他の指標との総合判断が重要
指標間の乖離
複数の指標が異なる方向性や大きさの変動を示す場合があります。
例えば、地価は上昇しているが消費者物価指数は横ばい、あるいは地価は下落しているが賃料指数は安定している、というケースです。このような場合には、各指標の性質と対象不動産との関連性を分析し、より適切な指標に重きを置いた判断が求められます。
名目値と実質値
経済指標を用いる際には、名目値と実質値の区別に注意が必要です。
- 地価変動率は通常名目値で示される
- 消費者物価指数の変動率も通常名目値
- スライド法の変動率は、基本的に名目値ベースで適用する
- インフレ率が高い時期には、名目変動率と実質変動率の乖離が大きくなる
純賃料部分のスライド
スライド法における変動率は、純賃料部分のみに適用されます。必要諸経費(固定資産税・都市計画税、修繕費、保険料、管理費等)は別途、価格時点における金額を査定します。このため、変動率が小さくても、必要諸経費の変動によって試算賃料全体の変動幅は大きくなることがあります。
変動率と他の手法との関係
差額配分法との関係
差額配分法は正常賃料を直接求めるため、市場賃料の変動を直接反映します。一方、スライド法は経済指標を介して間接的に変動を捉えます。両手法の結果が大きく乖離する場合には、変動率の査定の妥当性を再検証する必要があります。
利回り法との関係
利回り法は基礎価格(不動産の価格)に継続賃料利回りを乗じる手法です。基礎価格の変動は地価変動率と関連するため、スライド法の変動率に地価変動率を用いた場合、利回り法との整合性を確認することが重要です。
試験での出題ポイント
短答式試験
- スライド法の算式において純賃料部分のみを変動率でスライドすることの正確な理解
- 変動率に用いる指標の種類(地価変動率、消費者物価指数、賃料指数等)を正確に列挙できるか
- 必要諸経費は変動率ではなく、価格時点で別途再計算することの理解
論文式試験
- 変動率の査定方法と考慮すべき指標を体系的に論述する問題
- 対象不動産の用途に応じた指標選択の考え方を論じる問題
- スライド法の特性と限界を論じる際に、変動率の査定に内在する判断の幅に言及する問題
- 継続賃料の4手法の比較において、スライド法の位置づけを論じる問題
暗記のポイント
- 変動率は純賃料部分にのみ適用し、必要諸経費は別途価格時点で再計算
- 主要指標:地価変動率、消費者物価指数、賃料指数、固定資産税等変動率
- 用途による指標選択:地代は地価変動率重視、オフィスは賃料指数重視等
- 複数指標を総合的に勘案して変動率を決定(単一指標への過度な依存を避ける)
- 直近合意時点から価格時点までの変動を捉えるものである
まとめ
スライド法の変動率は、直近合意時点の純賃料を価格時点の水準にスライドさせるための指標であり、地価変動率・消費者物価指数・賃料指数・固定資産税等変動率など、複数の経済指標を総合的に勘案して査定します。対象不動産の用途や契約の性質に応じて重視する指標を選択し、単一指標への過度な依存を避けることが重要です。スライド法は比較的簡便な手法ですが、変動率の査定には鑑定士の専門的判断が不可欠です。差額配分法や利回り法とあわせて、継続賃料の評価手法を体系的に理解しておきましょう。