試算賃料の調整とは

賃料の鑑定評価における試算賃料の調整は、複数の手法から求められた試算賃料を比較検討し、最終的な鑑定評価額としての賃料を決定するプロセスです。不動産鑑定士試験においては、新規賃料継続賃料で調整の視点が異なる点が頻出の論点です。新規賃料では各手法の適用過程の適切性が重視され、継続賃料では契約の個別性を反映した固有の価格形成要因が調整の重要な判断材料となります。

鑑定評価の手順の各段階について客観的、批判的に再吟味し、各手法の適用において行った各種の判断の適否についての検討を踏まえた上で、各試算価格又は試算賃料が有する説得力に係る判断を行い、それぞれの特性を活かした合理的な調整を行うべきである。

― 不動産鑑定評価基準 総論第8章第4節


試算賃料の調整の基本

調整とは

試算賃料の調整とは、複数の鑑定評価の手法により求められた試算賃料を比較検討し、各試算賃料が有する説得力に基づいて合理的な判断を行い、鑑定評価額としての賃料を決定するプロセスです。

価格の場合の試算価格の調整と基本的な考え方は共通していますが、賃料評価特有の論点も存在します。

調整の基本原則

試算賃料の調整においても、価格の調整と同様に以下の基本原則が適用されます。

  • 各手法の再吟味:適用過程の各段階を客観的・批判的に再吟味する
  • 説得力の判断:各試算賃料が有する説得力を比較検討する
  • 合理的な調整:特性を活かした合理的な調整を行う
  • 鑑定評価額の決定:最終的に一つの鑑定評価額を決定する

各手法に共通する価格形成要因に係る判断の整合性についても検証すべきである。

― 不動産鑑定評価基準 総論第8章第4節


新規賃料の試算賃料の調整

新規賃料の手法と試算賃料

新規賃料を求める手法は、積算法・賃貸事例比較法・収益分析法の3手法です。各手法から求められた試算賃料を調整して、正常賃料等としての鑑定評価額を決定します。

手法 着目点 試算賃料の名称
積算法 元本(基礎価格)に対する利回り 積算賃料
賃貸事例比較法 類似の賃貸事例との比較 比準賃料
収益分析法 企業収益からの配分 収益賃料

各手法の特性と限界

調整にあたっては、各手法の特性と限界を正確に理解しておく必要があります。

積算法の特性と限界

  • 特性:基礎価格(不動産の経済価値)に着目し、資本収益性の観点から賃料を求める
  • 限界:期待利回りの査定が難しい。市場の賃料実態と乖離する場合がある。特に収益物件の利回りと期待利回りの関係が複雑

賃貸事例比較法の特性と限界

  • 特性:市場で実際に成立した賃貸借の事例に基づくため、市場実態を反映しやすい
  • 限界:適切な事例の収集が困難な場合がある。事例の個別事情(フリーレント、段階賃料等)の補正が必要。事情補正・時点修正等の精度に依存

収益分析法の特性と限界

  • 特性:事業用不動産において、テナントの収益力(支払能力)に着目した賃料を求められる
  • 限界:適用できる不動産の種類が限定的(主に商業施設・ホテル等)。テナントの収益に関するデータの入手が困難な場合が多い

新規賃料の調整における視点

新規賃料の調整では、以下の視点が重要です。

  • 市場性の観点:賃貸事例比較法の結果を重視し、市場で実際に成立する水準との整合性を確認
  • 元本との均衡:積算法の結果を参考に、不動産の経済価値に見合った賃料水準であるかを検証
  • テナントの支払能力:収益分析法が適用できる場合、テナントの収益力との均衡を確認
  • 手法間の開差の原因分析:各試算賃料の間に大きな開差がある場合、その原因を特定し、いずれの試算賃料が市場実態をより的確に反映しているかを判断

継続賃料の試算賃料の調整

継続賃料の手法と試算賃料

継続賃料を求める手法は、差額配分法・利回り法・スライド法・賃貸事例比較法の4手法です。

手法 着目点
差額配分法 正常賃料と現行賃料の差額の配分
利回り法 基礎価格に対する継続賃料利回り
スライド法 経済指標に基づく変動率
賃貸事例比較法 類似の継続賃料改定事例との比較

継続賃料の調整における特有の視点

継続賃料の調整では、新規賃料とは異なる特有の視点が求められます。基準では、継続賃料の調整にあたって特に総合的に勘案すべき事項を明示しています。

継続賃料を求めるに当たっては、これらの試算賃料を調整して、特に次に掲げる事項を総合的に勘案のうえ、継続賃料を求めなければならない。

― 不動産鑑定評価基準 各論第2章第1節

総合的に勘案すべき事項

継続賃料の調整において総合的に勘案すべき事項は、以下の3点です。

  1. 直近合意時点及び同時点における賃料を定めた事情 – 現行賃料がいつ、どのような事情のもとで合意されたか – 市場水準との関係はどうであったか – 特殊な事情(親族間取引、関連会社間取引等)の有無

  2. 同時点から価格時点までの事情の変動の内容とその程度 – 公租公課の変動 – 地価・物価等の経済事情の変動 – 近隣の賃料水準の変動

  3. 契約の内容及びその経緯 – 契約条件の詳細(期間、更新条件、特約等) – 過去の賃料改定の経緯 – 当事者間の関係性

これらは継続賃料固有の価格形成要因として位置づけられるものであり、各手法の適用段階だけでなく、調整段階においても重ねて考慮されます。

各手法の試算賃料の特性

継続賃料の調整においては、4手法それぞれの試算賃料が持つ特性を理解しておくことが重要です。

手法 試算賃料の特性 調整における位置づけ
差額配分法 市場賃料との乖離を直接反映。配分率の設定に判断が入る 市場性を重視する場面で高い説得力
利回り法 不動産の経済価値(基礎価格)との均衡を反映 元本と賃料の関係を検証する視点
スライド法 経済指標による客観的なスライド。変動率の選択に判断が入る 経済的変動の反映度を検証する視点
賃貸事例比較法 市場での改定実態を反映。事例の収集が困難な場合がある 事例が十分な場合に高い説得力

新規賃料と継続賃料の調整の比較

調整の視点の違い

比較項目 新規賃料 継続賃料
調整の基本 各手法の適用過程の再吟味と説得力の判断 左記に加え、固有の価格形成要因の勘案
重視する要素 市場性・元本との均衡・テナントの支払能力 契約の個別性・事情変更・当事者間の公平
契約経緯の考慮 考慮しない 最も重要な調整要素の一つ
基準の規定 総論第8章第4節 総論第8章第4節 + 各論第2章第1節
手法の数 3手法 4手法

共通する調整原則

新規賃料と継続賃料に共通する調整原則もあります。

  • 各手法の適用過程を客観的・批判的に再吟味する
  • 各試算賃料が有する説得力を比較検討する
  • 試算賃料の開差がある場合、その原因を分析する
  • 機械的な平均ではなく、各手法の特性を踏まえた合理的な調整を行う

試算賃料の開差への対応

開差の原因分析

試算賃料間に大きな開差がある場合、以下の原因が考えられます。

  • 適用した資料の差異:各手法で用いたデータの質や量に差がある場合
  • 手法の構造的な特性:各手法がそれぞれ異なる側面に着目しているため、構造的に異なる結果が得られる場合
  • 判断の差異:利回り、配分率、変動率等の査定において、判断の幅がある場合
  • 市場の不均衡:市場が転換期にあり、各指標が異なる方向を示している場合

開差が大きい場合の対応

  • まず、各手法の適用過程を再検証し、誤りや不適切な判断がないかを確認
  • 各手法の説得力を比較し、より信頼性の高い手法の試算賃料を重視
  • 単に中間値を取るのではなく、開差の原因を踏まえた論理的な判断を行う
  • 必要に応じて、資料の追加収集や手法の再適用を検討

具体的な調整の方法

実務上の調整の方法としては、以下のアプローチがあります。

  • 特定の手法を重視:対象不動産の特性や資料の充実度に応じて、特定の手法の試算賃料に重きを置く
  • 手法間の整合性の確認:共通する判断(基礎価格、市場動向等)の整合性を検証し、不整合があれば修正
  • 最終的な鑑定評価額の合理性の検証:決定した賃料が、賃料改定として合理的な水準であるかを多角的に検証

調整結果の表現

鑑定評価額の決定

調整の結果、最終的に一つの鑑定評価額を決定します。試算賃料の幅をそのまま示すのではなく、具体的な金額として示すことが求められます。

調整過程の説明

鑑定評価書においては、調整の過程を明確に説明する必要があります。

  • 各試算賃料の概要と特徴
  • 各手法の適用上の留意点
  • 試算賃料間の開差の原因分析
  • 調整の判断根拠
  • 最終的な鑑定評価額の決定理由

特に継続賃料の場合には、継続賃料固有の価格形成要因に対する分析と、それが調整判断にどのように影響したかを具体的に記述することが重要です。


試験での出題ポイント

短答式試験

  • 新規賃料と継続賃料の手法の種類の違い(3手法 vs 4手法)
  • 継続賃料の調整において「総合的に勘案すべき事項」の正確な理解
  • 試算賃料の調整は機械的な平均ではないことの理解
  • 各手法の特性と限界に関する正誤問題

論文式試験

  • 新規賃料と継続賃料の調整の視点の対比を求める問題が頻出
  • 各手法の試算賃料の特性を踏まえた調整の考え方を論述する問題
  • 継続賃料の調整において「特に勘案すべき事項」を列挙・論述する問題
  • 具体的な試算賃料の数値を与えられ、調整の方針を論じる応用問題

暗記のポイント

  1. 新規賃料の3手法:積算法・賃貸事例比較法・収益分析法
  2. 継続賃料の4手法:差額配分法・利回り法・スライド法・賃貸事例比較法
  3. 継続賃料の調整で勘案すべき3事項:直近合意時点と賃料決定事情、事情変更の内容と程度、契約の内容と経緯
  4. 調整の基本原則:客観的・批判的な再吟味、説得力の判断、合理的な調整
  5. 各論第2章第1節が継続賃料の調整の根拠条文

まとめ

賃料の試算賃料の調整は、複数の手法から求められた試算賃料を比較検討し、鑑定評価額を決定する重要なプロセスです。新規賃料では各手法の適用過程の適切性と市場との整合性が重視されるのに対し、継続賃料では契約の個別性を反映した固有の要因が調整の核心となります。いずれの場合も、機械的な平均ではなく、各手法の特性と限界を踏まえた合理的な判断が求められます。関連する論点として、価格の試算価格の調整継続賃料固有の価格形成要因もあわせて確認しておきましょう。