新規賃料の鑑定評価とは

新規賃料の鑑定評価では、積算法賃貸事例比較法収益分析法の3つの手法を併用し、それぞれの試算賃料を比較考量して鑑定評価額を決定します。新規賃料は継続賃料と対比される概念であり、新たな賃貸借契約を前提とした賃料です。この3手法の理解は、賃料評価全般の基礎となります。

新規賃料を求める場合の試算賃料を求める手法としては、新規賃料固有の手法の適用により的確に新規賃料を求めることができるとともに、当該新規賃料と密接な関連を有する価格を求めることができる場合においては、その手法の適用により求められた価格をも関連づけて決定すべきである。

― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第2節


新規賃料とは

定義

新規賃料とは、新たに賃貸借契約を締結する場合に成立する経済価値に即応した適正な賃料をいいます。既存の契約関係がない状態で、市場において形成されるべき賃料です。

正常賃料との関係

新規賃料のうち、正常価格に対応する概念が正常賃料です。

正常賃料とは、正常価格と同一の市場概念の下において新たな賃貸借等の契約において成立するであろう経済価値を表示する適正な賃料をいう。

― 不動産鑑定評価基準 総論第5章第3節

正常賃料は、合理的な市場において形成されるであろう賃料であり、当事者間の特殊な事情を排除した客観的な賃料水準を示します。

新規賃料と継続賃料の違い

項目 新規賃料 継続賃料
前提 新たな賃貸借契約 既存の賃貸借契約の更新・改定
契約関係 なし(新規) あり(既存)
考慮要素 市場の賃料水準 契約の経緯、現行賃料、経過期間
評価手法 積算法、賃貸事例比較法、収益分析法 差額配分法、利回り法、スライド法、賃貸事例比較法

新規賃料の3つの手法

手法の全体像

手法 考え方 算式 適用場面
積算法 元本価値に対する期待収益 基礎価格 × 期待利回り + 必要諸経費 全般に適用可能
賃貸事例比較法 類似事例との比較 事例賃料に補正・修正 類似事例が豊富な場合
収益分析法 企業収益からの配分 総収益から配分 事業用不動産

積算法

定義と考え方

積算法は、対象不動産の基礎価格に期待利回りを乗じて得た額に必要諸経費を加算して賃料を求める手法です。

積算法は、対象不動産について、価格時点における基礎価格を求め、これに期待利回りを乗じて得た額に必要諸経費等を加算して試算賃料を求める手法である。

― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第2節

算式

$$ \text{積算賃料} = \text{基礎価格} \times \text{期待利回り} + \text{必要諸経費} $$

基礎価格

基礎価格とは、積算賃料を求めるための基礎となる不動産の価格です。

  • 更地の賃貸の場合:更地の正常価格
  • 建物及びその敷地の賃貸の場合:建物及びその敷地の正常価格

期待利回り

期待利回りとは、賃貸借等に供する不動産を取得するために要した資本に対して、市場において期待される利回りをいいます。

  • 預金金利や国債利回り等の安全資産利回りを基礎とする
  • 不動産のリスクプレミアムを加味する
  • 収益還元法の還元利回りとは異なる概念であることに注意

積算法の具体的な計算例

項目 金額
基礎価格(対象不動産の正常価格) 200,000,000円
期待利回り 5.0%
純賃料(200,000,000円 × 5.0%) 10,000,000円/年
(+)減価償却費 3,000,000円/年
(+)維持管理費 2,000,000円/年
(+)公租公課 4,000,000円/年
(+)損害保険料 500,000円/年
(+)貸倒れ準備費 200,000円/年
(+)空室等による損失相当額 800,000円/年
= 必要諸経費等 10,500,000円/年
= 積算賃料(実質賃料) 20,500,000円/年
月額 約1,708,333円

このように、積算法は「資本に対する期待収益」と「賃貸人が負担すべき経費」を合算して賃料を求める手法です。

必要諸経費

必要諸経費とは、賃貸借等に当たり賃貸人が負担する経費のことです。

  • 減価償却費(建物の場合)
  • 維持管理費(修繕費、管理費等)
  • 公租公課(固定資産税、都市計画税)
  • 損害保険料
  • 貸倒れ準備費
  • 空室等による損失相当額

賃貸事例比較法

定義と考え方

賃貸事例比較法は、類似の賃貸借事例における賃料を基礎として、事情補正・時点修正・地域要因の比較・個別的要因の比較を行って試算賃料を求める手法です。

賃貸事例比較法は、まず多数の新規の賃貸借等の事例を収集して適切な事例の選択を行い、これらに係る実際実質賃料に必要に応じて事情補正及び時点修正を行い、かつ、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って求められた賃料を比較考量し、これによって対象不動産の試算賃料を求める手法である。

― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第2節

適用上の留意点

  • 事例の収集範囲:同一需給圏内の類似不動産の賃貸事例を収集する
  • 実際実質賃料:表面賃料(支払賃料)ではなく、一時金の運用益等を加味した実質賃料を用いる
  • 事情補正:当事者間の特殊な関係による賃料の歪みを補正する
  • 取引事例比較法の考え方と基本的に同様

実質賃料と支払賃料

賃料の種類 内容
支払賃料 毎月(期)実際に支払われる賃料
実質賃料 支払賃料 + 一時金の運用益 + 償却額

賃貸事例比較法では実質賃料を比較の基準とします。


収益分析法

定義と考え方

収益分析法は、対象不動産が生み出す総収益のうち、不動産に帰属する純収益を求め、これに必要諸経費を加算して賃料を求める手法です。

収益分析法は、一般の企業経営に基づく総収益を分析して対象不動産が一定期間に生み出すであろうと期待される純収益(減価償却後のものとし、これを収益純賃料という。)を求め、これに必要諸経費等を加算して試算賃料を求める手法である。

― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第2節

適用場面

収益分析法は、主に事業用不動産の賃料評価に適用されます。

  • ホテル、旅館等の宿泊施設
  • 商業施設(売上歩合賃料の検証等)
  • 工場、倉庫等の産業用不動産

算式

$$ \text{収益分析法による賃料} = \text{収益純賃料} + \text{必要諸経費} $$

収益純賃料は、企業の総収益から不動産に帰属する部分を分析的に求めます。

収益分析法の特徴と限界

  • 企業の収益データが必要であるため、適用できる場面が限定的
  • 企業の収益力と不動産の寄与度の判定に主観が入りやすい
  • 他の2手法で求めた賃料の検証手段として活用されることが多い

収益分析法の具体例(ホテルの場合)

項目 金額
ホテルの年間売上高 500,000,000円
営業費用(人件費、原材料費、光熱費、管理費等) △350,000,000円
営業利益 150,000,000円
不動産以外の資本に帰属する部分(設備・什器備品等) △30,000,000円
不動産に帰属する純収益(収益純賃料) 120,000,000円
(+)必要諸経費 20,000,000円
= 収益分析法による賃料 140,000,000円/年

ホテルや商業施設では、売上に連動した売上歩合賃料が設定されることがあり、収益分析法はこのような売上連動型賃料の適正水準を検証する場面で有効です。


3手法の比較と使い分け

手法の特性比較

比較項目 積算法 賃貸事例比較法 収益分析法
アプローチ コスト(費用性) マーケット(市場性) インカム(収益性)
データ要件 基礎価格、利回り 類似賃貸事例 企業収益データ
適用範囲 広い 事例が豊富な場合 事業用不動産
客観性 利回り設定に判断要 高い(事例がある場合) 配分に判断要
留意点 市場賃料と乖離の可能性 事例の質と量に依存 適用場面が限定的

実務での使い分け

  • オフィス・住宅:積算法と賃貸事例比較法の2手法が中心
  • 商業施設:3手法全てを適用し、収益分析法を重視
  • 事例が少ない地域:積算法を中心に、可能な範囲で賃貸事例比較法を適用

試験での出題ポイント

新規賃料の鑑定評価は、賃料評価の基礎として必ず理解しておくべき論点です。

論文式試験での頻出論点

  • 3手法の定義と算式:各手法の基準条文を正確に引用し、算式を示せるようにする
  • 積算法の期待利回りと必要諸経費:具体的な構成項目を列挙できるようにする
  • 新規賃料と継続賃料の対比:両者の違いを論述する問題は頻出

短答式試験での注意点

  • 積算法の算式(基礎価格 × 期待利回り + 必要諸経費)
  • 実質賃料と支払賃料の区別
  • 収益分析法の適用場面(事業用不動産)
  • 正常賃料の定義との関連

まとめ

新規賃料の鑑定評価は、積算法・賃貸事例比較法・収益分析法の3手法を併用して行います。積算法は基礎価格に期待利回りを乗じて必要諸経費を加算する手法、賃貸事例比較法は類似の賃貸事例との比較による手法、収益分析法は企業収益から不動産に帰属する部分を分析的に求める手法です。3手法にはそれぞれ特性と限界があるため、対象不動産の特性に応じて使い分け、各試算賃料を比較考量して鑑定評価額を決定します。継続賃料の学習に進む前に、まずこの新規賃料の3手法をしっかり理解しておきましょう。