基本的事項の確定とは

不動産鑑定士試験において、鑑定評価の基本的事項の確定は鑑定評価の手順の出発点であり、評価の方向性を決定づける最も重要なステップです。ここで確定する事項が曖昧であれば、その後の手法適用や評価額の決定に至るまで全てが揺らいでしまいます。

基準では、基本的事項の確定について次のように定めています。

不動産の鑑定評価に当たっては、まず、鑑定評価の基本的事項として、対象不動産、価格時点、鑑定評価によって求める価格又は賃料の種類を確定しなければならない。

― 不動産鑑定評価基準 総論第5章

基本的事項は4つの柱で構成され、これらが相互に関連しながら鑑定評価の枠組みを決定します。本記事ではそれぞれの意義と確定方法、試験での出題パターンを詳しく解説します。


基本的事項の確定が必要な理由

鑑定評価は、ある特定の不動産について、ある特定の時点における、ある特定の種類の価格を求める作業です。「何を」「いつの時点で」「どのような条件のもとで」「何の価格を」求めるのかが明確でなければ、適切な評価を行うことはできません。

基本的事項の確定が不十分なまま手法の適用に進むと、以下の問題が生じます。

  • 評価対象が曖昧 — 更地として評価するのか、建物及びその敷地として評価するのかで結論が大きく異なる
  • 時点の特定漏れ — 不動産の価格は常に変動するため、いつの時点の価格かが不明では意味がない
  • 価格の種類の混同 — 正常価格を求めるべき場面で限定価格を求めてしまうと、結論の妥当性が失われる

つまり、基本的事項の確定は鑑定評価の「設計図の設計図」 ともいうべき作業です。


第1の柱:対象不動産の確定

対象不動産とは

対象不動産の確定とは、鑑定評価の対象となる不動産を物的に確定するとともに、その不動産に関する権利の態様を確定する作業です。

対象不動産の確定に当たっては、鑑定評価の対象となる土地又は建物等を物的に確定するとともに、鑑定評価の対象となる所有権及びその所有権以外の権利を確定しなければならない。

― 不動産鑑定評価基準 総論第5章第1節

物的確定

物的確定とは、対象不動産の所在・地番・面積・構造・規模等を明確にする作業です。具体的には以下の要素を確定します。

種別 確定すべき事項 根拠資料
土地 所在、地番、地目、面積、形状 登記簿、公図、測量図
建物 所在、構造、階数、床面積 登記簿、建築確認
複合不動産 土地・建物の一体性 現地調査

例えば、一筆の土地の一部だけを評価する場合や、複数の筆にまたがる一画地を評価する場合は、物的確定が特に重要となります。

権利の態様の確定

権利の態様の確定では、対象不動産に関する所有権や所有権以外の権利(借地権、借家権、地上権等)を確定します。同じ土地であっても、更地として評価するのか、貸地として評価するのかによって、評価額は大きく異なります。

類型 権利の態様 評価の着眼点
更地 所有権(使用収益を制約する権利なし) 最有効使用を前提
建付地 所有権(建物等の存在による制約あり) 建物との関連
借地権 借地借家法に基づく権利 契約内容、残存期間
底地 借地権の付着した宅地の所有権 地代、承諾料

第2の柱:価格時点の確定

価格時点とは

価格時点とは、鑑定評価によって求める価格又は賃料の判定の基準日をいいます。不動産の価格は時の経過により変動するため、いつの時点の価格であるかを特定することが不可欠です。

不動産の価格又は賃料は、その判定の基準となった日においてのみ妥当するものであるから、鑑定評価に当たっては、鑑定評価額についての判定の基準日を確定しなければならず、この日を価格時点という。

― 不動産鑑定評価基準 総論第5章第2節

価格時点の3類型

類型 内容 具体例
現在時点 鑑定評価を行う時点 現時点での売却のための評価
過去時点 過去の特定の日 相続開始日時点の評価
将来時点 将来の特定の日 開発完了時点の評価

過去時点の評価では、価格時点当時の資料に基づいて評価する必要があり、価格時点以降に判明した事情は原則として考慮しません。将来時点の評価は特に慎重な判断が求められ、不確実性が高いため、条件設定の妥当性が厳しく問われます。

価格時点と対象確定条件の関係

価格時点は対象確定条件と密接に関連しています。例えば、建物の取壊しを前提とする更地としての評価では、取壊し前の時点で更地として評価するという条件設定が必要です。このような条件設定は、価格時点と現実の状態の乖離をどう処理するかという問題に直結します。


第3の柱:鑑定評価の条件の設定

鑑定評価の条件とは

鑑定評価の条件とは、鑑定評価の妥当する範囲と制約を明確にするものです。具体的には、対象確定条件と、地域要因又は個別的要因についての想定上の条件があります。

鑑定評価の条件は、鑑定評価の妥当する範囲を示すとともに鑑定評価についての制約を明確にするものであり、対象不動産の所在、規模、構成等や依頼目的に応じて適切に設定されなければならない。

― 不動産鑑定評価基準 総論第5章

対象確定条件の種類

対象確定条件は、対象不動産の現実の状態と異なる状態を前提として評価する場合に設定される条件です。

条件 内容 具体例
現状所与 現実の状態のまま評価 現況の建物付土地を評価
独立鑑定評価 不動産の一部を独立のものとして評価 複合不動産のうち土地のみを更地として評価
部分鑑定評価 不動産の一部を全体の中の構成部分として評価 区分所有建物の専有部分

想定上の条件

地域要因又は個別的要因について、現実の状態と異なる想定を設定する条件です。例えば、造成が完了していない土地について造成完了を想定して評価する場合がこれに当たります。

想定上の条件を設定する場合は、以下の要件を全て満たす必要があります。

  1. 依頼目的に照らして合理的であること
  2. 実現性のある条件であること
  3. 依頼者に対して条件の内容を明確に示すこと

第4の柱:価格又は賃料の種類の確定

価格の種類

鑑定評価によって求める価格には、正常価格・限定価格・特定価格・特殊価格の4種類があります。どの種類の価格を求めるかは、依頼目的や対象不動産の態様に応じて確定します。

価格の種類 定義の要点 代表的な適用場面
正常価格 市場性を有する不動産の適正な市場価値 一般の売買、担保評価
限定価格 市場が限定される場合の経済価値 隣接地の併合、借地権と底地の同時売買
特定価格 法令等による社会的要請を背景とする価格 資産流動化法等に基づく評価
特殊価格 市場性を有しない不動産の経済価値 文化財等の評価

価格の種類の詳細については、価格の4類型を徹底比較を参照してください。

賃料の種類

賃料についても、正常賃料・限定賃料・継続賃料の3種類があります。新規の賃貸借を想定するか、既存の契約関係を前提とするかによって、求める賃料の種類が異なります。


基本的事項の確定における実務上の留意点

依頼者との十分な確認

基本的事項は、依頼者の依頼目的と密接に関連します。鑑定士が独断で確定するのではなく、依頼者との十分な打合せを通じて確定することが重要です。例えば、担保評価の場合は正常価格を求めることが通常ですが、依頼者の意図を正確に把握する必要があります。

基本的事項間の整合性

4つの柱は相互に関連しており、それぞれが整合していなければなりません。例えば、借地権として評価することを確定した場合には、価格の種類として正常価格を求めるのか限定価格を求めるのかは、依頼目的に照らして判断する必要があります。

確定事項の明確な記載

確定した基本的事項は、鑑定評価報告書に明確に記載しなければなりません。この記載が不十分であると、鑑定評価の信頼性が大きく損なわれます。


試験での出題ポイント

短答式試験

  • 基本的事項として確定すべき4つの要素(対象不動産・価格時点・条件・価格の種類)の正誤判定
  • 価格時点の3類型(現在・過去・将来)の特徴と留意点
  • 対象確定条件の種類(現状所与・独立鑑定評価・部分鑑定評価)の区別
  • 想定上の条件の設定要件

論文式試験

  • 基本的事項の確定の意義と、各確定事項の内容を体系的に論述させる問題
  • 「なぜ基本的事項を鑑定評価の手順の最初に確定するのか」という意義の論述
  • 対象確定条件と想定上の条件の設定に際しての留意事項
  • 基本的事項の確定と処理計画の策定の関係

暗記のポイント

  1. 基本的事項は「対象不動産」「価格時点」「条件」「価格の種類」 の4要素
  2. 対象不動産の確定は物的確定権利の態様の確定の2側面
  3. 価格時点は「現在」「過去」「将来」 の3類型
  4. 対象確定条件は「現状所与」「独立鑑定評価」「部分鑑定評価」の3種類
  5. 想定上の条件は合理性・実現性・明示性の3要件が必要

まとめ

鑑定評価の基本的事項の確定は、対象不動産・価格時点・鑑定評価の条件・価格又は賃料の種類の4要素から構成される、鑑定評価の最も根幹をなすステップです。これらの確定が適切に行われなければ、その後の手法適用から評価額の決定に至るまでの全てのプロセスが意味を失います。

試験では、基本的事項の4要素を正確に挙げられることはもちろん、それぞれの意義と確定方法、さらには相互の関連性まで理解していることが求められます。特に対象確定条件と想定上の条件の区別は頻出論点です。

基本的事項の確定を終えたら、次のステップである処理計画の策定に進みます。また、鑑定評価の手順の全体像については鑑定評価の手順を参照してください。