継続賃料と新規賃料の乖離メカニズム
継続賃料と新規賃料の乖離とは
継続賃料と新規賃料は、その成立基盤の違いから構造的に乖離する性質を持ちます。新規賃料は市場の需給を直接反映した賃料であるのに対し、継続賃料は既存の契約関係を前提とした賃料です。この違いが賃料の遅行性を生み、両者の乖離を拡大させます。
不動産鑑定士試験では、継続賃料と新規賃料の乖離メカニズムの理解が、賃料評価の全体像を把握する上で不可欠です。本記事では、乖離の構造を体系的に解説します。
新規賃料と継続賃料の基本
新規賃料とは
新規賃料とは、新たな賃貸借等の契約において成立するであろう適正な賃料をいいます。
新規賃料とは、新たに賃貸借等の契約に基づき不動産を貸借する場合における賃料をいう。
― 不動産鑑定評価基準 各論第2章第1節
新規賃料の評価も参考にしてください。
継続賃料とは
継続賃料とは、既に賃貸借等の契約が成立している場合において、その契約の更新・改定時に成立するであろう適正な賃料をいいます。
継続賃料とは、不動産の賃貸借等の継続に係る特定の当事者間において成立するであろう経済価値を適正に表示する賃料をいう。
― 不動産鑑定評価基準 各論第2章第1節
継続賃料の評価も参考にしてください。
両者の本質的な違い
| 項目 | 新規賃料 | 継続賃料 |
|---|---|---|
| 成立場面 | 新たな賃貸借契約 | 既存契約の更新・改定 |
| 当事者 | 不特定の賃貸人・賃借人 | 特定の賃貸人・賃借人 |
| 市場との関係 | 市場の需給を直接反映 | 契約の経緯・関係性を反映 |
| 価格の種類 | 正常賃料(正常価格に対応) | 継続賃料(固有の概念) |
| 変動の機敏性 | 市場に即応 | 市場の変動に遅行 |
乖離が生じるメカニズム
賃料の遅行性
継続賃料と新規賃料の乖離を生じさせる最大の要因は、賃料の遅行性です。
| 概念 | 内容 |
|---|---|
| 賃料の遅行性 | 継続賃料は不動産市場の変動に対して遅れて変動する傾向 |
| 発生原因 | 賃料改定には交渉・合意が必要であり、即時に反映されない |
| 結果 | 市場が上昇局面では新規賃料 > 継続賃料、下落局面では新規賃料 < 継続賃料 |
上昇局面での乖離
時間 →
市場賃料(新規): ↗↗↗↗↗↗↗↗↗
継続賃料: ――→↗――→↗――→↗
↑改定 ↑改定 ↑改定
市場賃料が継続的に上昇しても、継続賃料は改定時点でしか変動しないため、常に新規賃料を下回る状態が続きます。
下落局面での乖離
時間 →
市場賃料(新規): ↘↘↘↘↘↘↘↘↘
継続賃料: ――→↘――→↘――→↘
↑改定 ↑改定 ↑改定
市場賃料が下落する局面では、継続賃料は市場の下落に遅れるため、新規賃料を上回る状態が続きます。
賃料の固着性
賃料の固着性とは、一度成立した賃料が容易に変動しない性質をいいます。
| 固着性の要因 | 内容 |
|---|---|
| 契約の拘束力 | 賃貸借契約による法的拘束 |
| 交渉コスト | 賃料改定には交渉の時間と費用が発生 |
| 人間関係 | 貸主と借主の良好な関係維持の意図 |
| 借地借家法の保護 | 正当事由制度による借主の保護 |
| 情報の非対称性 | 市場賃料に関する情報が限定的 |
| 改定条項 | 契約書の改定条項の内容(改定間隔、改定率等) |
契約の個別性
既存の賃貸借契約は、新規契約とは異なる個別の事情を抱えています。
| 個別事情 | 内容 | 乖離への影響 |
|---|---|---|
| 権利金の授受 | 契約時に権利金が支払われた場合、その分賃料が低い | 乖離を拡大 |
| 敷金・保証金 | 高額の敷金が預託されている場合の運用益 | 実質賃料を補正 |
| 建物の投資 | 借主が内装投資を行っている場合 | 移転コストが高く改定に応じない |
| 特約の存在 | 賃料減額不可特約等 | 契約上の制約 |
| 契約期間 | 長期契約の場合、改定機会が少ない | 乖離が拡大しやすい |
乖離の実態
乖離率の実例
一般的な市場環境における乖離率の目安は以下の通りです。
| 市場環境 | 乖離の方向 | 乖離率の目安 |
|---|---|---|
| 急激な上昇期 | 新規 > 継続 | 20〜40% |
| 緩やかな上昇期 | 新規 > 継続 | 5〜15% |
| 安定期 | ほぼ一致 | 0〜5% |
| 緩やかな下落期 | 新規 < 継続 | 5〜15% |
| 急激な下落期 | 新規 < 継続 | 20〜40% |
用途別の乖離傾向
| 用途 | 乖離の特徴 | 理由 |
|---|---|---|
| オフィス | 乖離が大きくなりやすい | 市場の変動が大きい、契約期間が比較的短い |
| 住宅 | 乖離が中程度 | 市場の変動は緩やか、借地借家法の保護が厚い |
| 店舗 | 乖離が大きくなりやすい | 立地による収益変動が大きい |
| 地代 | 乖離が最も大きい | 改定頻度が低い、契約期間が長い |
地代における乖離の深刻さ
地代は住宅賃料やオフィス賃料と比べて、乖離が特に大きくなりやすいのが特徴です。
| 要因 | 地代の特殊性 |
|---|---|
| 契約期間 | 借地権は30年以上(普通借地権)と極めて長期 |
| 改定頻度 | 改定交渉が行われること自体が少ない |
| 権利金の存在 | 権利金の授受により当初地代が低水準に設定 |
| 借地借家法の保護 | 地代の増額には相当な根拠が必要 |
| 地主・借地人関係 | 長年の人間関係から改定交渉が困難 |
乖離が評価手法に与える影響
継続賃料の評価手法との関係
継続賃料を求める4つの手法は、それぞれ異なる方法で乖離を捉えています。
| 手法 | 乖離の捉え方 |
|---|---|
| 差額配分法 | 新規賃料との差額を算定し、その配分を考慮 |
| 利回り法 | 基礎価格の変動を通じて市場変動を反映 |
| スライド法 | 変動率を適用して現行賃料を修正 |
| 賃貸事例比較法 | 類似の継続賃料改定事例と比較 |
差額配分法における乖離の扱い
差額配分法は、乖離を最も直接的に反映する手法です。
差額配分法による賃料
= 現行賃料 + (新規賃料 − 現行賃料)× 配分率
- 配分率は通常、差額の1/3〜1/2程度
- 配分率は乖離の原因や契約の経緯を考慮して判断
- 全額を一方に帰属させることは適切でない
乖離幅と継続賃料の関係
| 乖離幅 | 継続賃料への影響 |
|---|---|
| 小さい(5%以内) | 現行賃料に近い水準で決定される傾向 |
| 中程度(5〜20%) | 差額の一部を配分した水準 |
| 大きい(20%以上) | 大幅な改定が必要だが、契約の安定性も考慮 |
| 極端に大きい | 賃料増減額請求訴訟に発展する可能性 |
乖離と賃料改定の法的枠組み
借地借家法の規定
借地借家法では、賃料が「不相当」となった場合に、賃料の増減額請求ができるとされています。
| 規定 | 内容 |
|---|---|
| 借地借家法第11条 | 地代の増減額請求(借地の場合) |
| 借地借家法第32条 | 家賃の増減額請求(借家の場合) |
「不相当」の判断基準
賃料が「不相当」であるかどうかは、以下の要素を総合的に判断します。
- 公租公課の変動
- 土地建物の価格の変動
- 近隣の賃料水準との比較
- 経済事情の変動
この「不相当性」の判断において、新規賃料との乖離の程度が重要な指標となります。
乖離の解消メカニズム
自然な解消
テナントの入れ替わり(退去と新規入居)により、空室部分の賃料は新規賃料に置き換わるため、ビル全体としての平均賃料は徐々に市場水準に接近します。
| メカニズム | 内容 |
|---|---|
| テナント入替 | 退去後に新規賃料で再貸し |
| 契約更新時の改定 | 更新のタイミングで段階的に修正 |
| 増減額請求 | 法的手段による改定 |
| 調停・訴訟 | 紛争解決を通じた改定 |
解消の速度に影響する要因
| 要因 | 解消が速い場合 | 解消が遅い場合 |
|---|---|---|
| テナント入替率 | 高い | 低い |
| 契約期間 | 短い | 長い |
| 改定条項 | 明確な改定ルールあり | 改定条項なし |
| 市場環境 | 安定期に向かう | 変動が継続 |
試験での出題ポイント
短答式試験
- 賃料の遅行性の定義と具体例
- 新規賃料と継続賃料の定義の違い
- 乖離の方向性(上昇期は新規 > 継続)に関する正誤判定
- 差額配分法における乖離の扱い方
論文式試験
- 継続賃料と新規賃料の乖離が生じるメカニズムの論述
- 賃料の遅行性と固着性の概念を説明し、具体例を示す問題
- 乖離が大きい場合の継続賃料の評価手法の適用方法
- 地代における乖離が特に大きくなる理由の論述
暗記のポイント
- 乖離の本質:賃料の遅行性と固着性による構造的な乖離
- 上昇期:新規賃料 > 継続賃料(継続賃料が市場に追いつかない)
- 下落期:新規賃料 < 継続賃料(継続賃料が高止まり)
- 固着性の要因:契約拘束力、交渉コスト、借地借家法、情報の非対称性
- 地代の特殊性:契約期間が長く改定頻度が低いため、乖離が最も大きい
まとめ
継続賃料と新規賃料の乖離は、賃料の遅行性と固着性という構造的要因によって生じる現象です。市場が変動する限り乖離は不可避であり、この乖離をどのように継続賃料の評価に反映させるかが、賃料評価の核心的な課題です。
試験対策としては、乖離の発生メカニズムを論理的に説明できること、そして各評価手法が乖離をどのように捉えているかを理解することが重要です。