継続賃料固有の価格形成要因とその意義

継続賃料の鑑定評価では、一般的な価格形成要因に加えて、継続賃料固有の価格形成要因を分析することが不可欠です。不動産鑑定士試験において論文式・短答式の双方で繰り返し出題される最重要論点の一つであり、具体的には直近合意時点における賃料を定めた事情その後の事情変更の内容と程度契約の内容及びその経緯等が挙げられます。これらの要因は新規賃料の評価では考慮されず、継続賃料の評価に特有のものです。

賃料を求める場合において、継続賃料にあっては、期間の経過に伴い発生する価格形成要因の変動に留意しつつ、賃貸借等の契約の経緯、賃料改定の経緯及び契約内容を総合的に勘案する必要がある。

― 不動産鑑定評価基準 各論第2章第1節


継続賃料固有の価格形成要因とは

新規賃料との違い

新規賃料は、新たに賃貸借契約を締結する場面を想定した賃料であり、不特定の当事者間で市場において成立する正常賃料を求めます。一方、継続賃料は、既存の契約関係を前提として、特定の当事者間において成立するであろう経済価値を求めるものです。

このため、継続賃料の評価においては、一般的な価格形成要因(一般的要因・地域要因・個別的要因)に加えて、契約の個別性を反映した固有の要因を分析する必要があります。

評価の種類 考慮する価格形成要因
新規賃料 一般的要因・地域要因・個別的要因
継続賃料 上記に加え、継続賃料固有の価格形成要因

基準における位置づけ

鑑定評価基準では、各論第2章において継続賃料固有の価格形成要因を明示しています。これらは継続賃料を求める全ての手法(差額配分法・利回り法・スライド法・賃貸事例比較法)に共通して考慮すべき事項です。

継続賃料固有の価格形成要因として、直近合意時点及びその内容、その時点以降現在までの期間の経過の中での事情変更の内容とその程度、契約の内容及びその経緯等がある。

― 不動産鑑定評価基準 各論第2章第1節


直近合意時点の賃料を定めた事情

直近合意時点とは

直近合意時点とは、現行賃料が当事者間で合意された時点をいいます。具体的には、最後に賃料改定が行われた時点、または初回契約においてはその締結時点を指します。

直近合意時点は、継続賃料の評価における出発点として位置づけられます。この時点における賃料水準がどのような事情のもとで決定されたかを把握することが、継続賃料の適正な評価の前提となります。

賃料を定めた事情の分析

直近合意時点において賃料を定めた事情としては、以下のようなものが考えられます。

  • 当時の市場賃料水準との関係:市場水準と同水準で合意されたのか、それとも何らかの事情で乖離があったのか
  • 当事者間の関係性:親族間・関連会社間など特殊な関係に基づく賃料設定であったか
  • 一時金の授受との関係:権利金・礼金等の授受があり、その分賃料が低く設定されたか
  • 契約条件の特約:賃料自動改定条項、CPI連動条項等の特約があったか
  • 交渉経緯:どのような交渉を経て合意に至ったか

実務上の重要性

直近合意時点の事情分析は、現行賃料の水準が合理的であったかどうかを検証するために不可欠です。たとえば、当初から市場水準より低い賃料で合意されていた場合、その乖離は「事情変更」によるものではなく、契約時の合意に基づくものであるため、継続賃料の判断においてもこの経緯を踏まえる必要があります。

裁判実務においても、直近合意時点における賃料決定の経緯は重要な争点となります。当時の不動産市場の状況、当事者間の力関係、一時金の授受の有無など、賃料水準に影響を与えた全ての事情を調査・分析することが求められます。


事情変更の内容と程度

事情変更の意義

直近合意時点から価格時点までの間に生じた事情の変更は、継続賃料の改定の根拠となる最も重要な要因です。借地借家法においても、賃料増減額請求の要件として事情の変更が求められています。

土地に対する租税その他の公課の増減により、土地の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍類似の土地の地代等に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって地代等の額の増減を請求することができる。

― 借地借家法 第11条第1項

事情変更の3類型

借地借家法が規定する事情変更は、大きく以下の3類型に整理されます。

類型 内容 具体例
公租公課の変動 土地・建物に対する租税その他の負担の増減 固定資産税・都市計画税の増額改定
経済事情の変動 土地・建物の価格の変動、その他の経済事情の変動 地価の上昇・下落、物価水準の変動、金利の変動
近隣賃料との比較 近傍同種の賃料に比較して不相当 周辺の新規賃料・継続賃料との乖離

事情変更の程度の分析

継続賃料の評価においては、事情変更の有無だけでなく、その程度も重要です。事情変更の程度が軽微であれば、現行賃料を大きく変更する根拠に乏しく、逆に著しい変動があれば、より大幅な改定が正当化されます。

事情変更の程度を分析する際の指標としては、以下のようなものがあります。

  • 地価変動率:直近合意時点から価格時点までの地価公示・地価調査に基づく変動率
  • 消費者物価指数の変動率:物価水準の変動を示す客観的指標
  • 固定資産税等の変動率:公租公課の負担の増減
  • 周辺の賃料水準の変動:近隣における新規賃料・継続賃料の動向
  • 賃料指数の変動率:不動産情報サービス等が公表する賃料指数

これらの指標を総合的に勘案して、事情変更の程度を判定します。一つの指標だけで判断するのではなく、複数の指標を相互に検証することが重要です。

事情変更が認められない場合

直近合意時点から価格時点までの期間が短い場合や、経済事情の変動が軽微な場合には、事情変更が認められないことがあります。この場合、賃料改定の必要性自体が否定され、現行賃料がそのまま継続賃料となります。

また、当事者間で賃料自動改定条項(例:毎年CPI上昇分を加算する等)が定められている場合には、当該条項に基づく改定が行われていれば、さらなる事情変更による改定は認められにくくなります。


契約の内容及びその経緯

契約内容の分析

継続賃料の評価においては、現行の賃貸借契約の内容を詳細に分析する必要があります。契約内容は、継続賃料の水準に直接的に影響する重要な要因です。

分析すべき主な契約内容は以下のとおりです。

  • 賃料の種類:実質賃料か支払賃料か、月額か年額か
  • 一時金の有無と内容:敷金・保証金・権利金・更新料等の有無、金額、返還条件
  • 契約期間:契約の始期・終期、残存期間
  • 更新条件:更新の可否、更新料の有無
  • 用途制限:使用目的の制限、転貸の可否
  • 賃料改定条項:自動改定条項の有無、改定の基準
  • 原状回復義務:借主の義務範囲

契約の経緯

契約の経緯は、契約締結から現在に至るまでの当事者間のやり取りを指します。具体的には以下の事項を分析します。

  • 契約締結時の事情:なぜこの賃料水準で合意に至ったか
  • 過去の賃料改定の経緯:改定の頻度、改定率、改定に至った理由
  • 賃料据え置きの経緯:長期間改定されていない場合、その理由
  • 紛争の有無:過去に賃料を巡る紛争があったか、その結果

契約上の経過期間と残存期間

契約の経過期間(契約開始からの経過年数)と残存期間は、継続賃料の水準に影響を与えます。

要素 継続賃料への影響
経過期間が長い 市場水準との乖離が拡大している可能性。改定の必要性が高まる
経過期間が短い 直近で合意された賃料であり、事情変更が限定的
残存期間が長い 契約の安定性を重視し、急激な変動を避ける傾向
残存期間が短い 契約終了後の新規賃料水準も意識される

当事者間の信頼関係

信頼関係の考慮

継続賃料の評価においては、当事者間の信頼関係も考慮すべき要因とされています。継続賃料は特定の当事者間で成立する賃料であるため、当事者間の関係性が賃料水準に影響を与えることは合理的です。

具体的に考慮される事項としては、以下のようなものがあります。

  • 賃料の支払状況:遅滞なく支払われているか
  • 契約条件の遵守状況:用途制限、転貸禁止等の条件が守られているか
  • 物件の管理状況:借主による適切な管理が行われているか
  • 修繕等の負担関係:修繕義務の分担が適切に履行されているか

特殊な関係性がある場合

親族間関連会社間の賃貸借では、市場水準と大きく異なる賃料で契約されていることがあります。このような場合、継続賃料の評価においては、特殊な関係性を考慮して合意された部分経済的に合理的な部分を区別して分析する必要があります。


各手法への影響

差額配分法への影響

差額配分法では、配分率の決定において継続賃料固有の価格形成要因が直接的に考慮されます。契約の経緯、当事者の事情、差額の大きさ等を勘案して、差額をどの程度貸主に帰属させるかを判断します。

利回り法への影響

利回り法では、継続賃料利回りの査定において考慮されます。契約の安定性、当事者間の関係性、契約の残存期間等が、利回りの水準に影響を与えます。

スライド法への影響

スライド法では、変動率の選択と査定において考慮されます。どの経済指標を重視するかは、対象不動産の用途や契約の性質によって異なります。

賃貸事例比較法への影響

賃貸事例比較法では、事例の選択と補正において考慮されます。類似の契約条件を持つ事例を選択し、契約内容の差異を補正する際に、固有要因の分析が活用されます。


試算賃料の調整における考慮

継続賃料の4手法による試算賃料の調整(reconciliation)においても、継続賃料固有の価格形成要因は重要な判断材料となります。

継続賃料を求めるに当たっては、これらの試算賃料を調整して、特に次に掲げる事項を総合的に勘案のうえ、継続賃料を求めなければならない。

― 不動産鑑定評価基準 各論第2章第1節

試算賃料の調整において総合的に勘案すべき事項は、以下のとおりです。

  1. 直近合意時点及び同時点における賃料を定めた事情
  2. 同時点から価格時点までの事情の変動の内容とその程度
  3. 契約の内容及びその経緯

これらは、まさに継続賃料固有の価格形成要因そのものであり、各手法の適用段階だけでなく、最終的な調整段階においても二重に考慮される極めて重要な要因です。


試験での出題ポイント

短答式試験

  • 継続賃料固有の価格形成要因として挙げられる項目を正確に列挙できるか
  • 新規賃料の価格形成要因との違いを問う問題が頻出
  • 借地借家法の賃料増減額請求の要件との関連を問う出題
  • 直近合意時点の定義と意義に関する正誤問題

論文式試験

  • 継続賃料固有の価格形成要因を列挙し、それぞれの意義を論述する問題が最頻出
  • 具体的な事例を示して、固有要因がどのように影響するかを論述させる問題
  • 新規賃料と継続賃料の価格形成要因の対比を求める問題
  • 試算賃料の調整における考慮事項として論述する問題

暗記のポイント

  1. 直近合意時点及びその内容 – 現行賃料が合意された時点と、その時の事情
  2. 事情変更の内容と程度 – 公租公課・経済事情・近隣賃料の3類型
  3. 契約の内容及びその経緯 – 契約条件、改定履歴、特約事項
  4. 契約上の経過期間及び残存期間 – 時間的要素が賃料に与える影響
  5. 借地借家法第11条・第32条 – 賃料増減額請求の法的要件

まとめ

継続賃料固有の価格形成要因は、直近合意時点における賃料を定めた事情、その後の事情変更の内容と程度、契約の内容及びその経緯等から構成されます。これらは新規賃料の評価では考慮されない、継続賃料に特有の要因であり、差額配分法の配分率や利回り法の利回り査定など、全ての手法に影響を与えます。さらに、試算賃料の最終的な調整段階においても総合的に勘案すべき事項とされており、継続賃料の評価における最も核心的な論点です。関連する論点として、差額配分法の配分率の決定方法や、スライド法の変動率の査定方法もあわせて学習しましょう。