不動産鑑定士の1日の概要

不動産鑑定士の仕事は、現地調査、資料の収集・分析、鑑定評価書の作成という3つの業務が中心です。デスクワークとフィールドワークのバランスが取れた知的専門職であり、不動産鑑定士試験で学ぶ鑑定理論の知識を日々の業務で実践する仕事です。

本記事では、鑑定事務所に勤務する鑑定士の典型的な1日のスケジュールを時間帯別に紹介し、これから不動産鑑定士を目指す方に仕事のリアルなイメージをお伝えします。


勤務鑑定士の1日のスケジュール

典型的な1日の流れ

鑑定事務所に勤務する鑑定士の平均的な1日を紹介します。日によって現地調査の有無で業務内容は変わりますが、以下は現地調査がある日のスケジュールです。

時間帯 業務内容
8:30〜9:00 出社・メール確認・1日のスケジュール確認
9:00〜10:00 資料収集(法務局・役所への電話照会、オンライン閲覧)
10:00〜12:00 現地調査(対象不動産の調査・周辺環境の確認)
12:00〜13:00 昼食
13:00〜14:00 現地調査の記録整理・写真の整理
14:00〜17:00 鑑定評価書の作成(分析・計算・執筆)
17:00〜17:30 クライアントへの連絡・進捗報告
17:30〜18:00 翌日の準備・事務処理
18:00 退社

現地調査がない日のスケジュール

現地調査がない日は、鑑定評価書の作成に集中する日になります。

時間帯 業務内容
8:30〜9:00 出社・メール確認
9:00〜12:00 鑑定評価書の作成(前日の調査結果を反映)
12:00〜13:00 昼食
13:00〜15:00 市場データの収集・分析(取引事例、賃貸事例等)
15:00〜17:00 鑑定評価書の作成(計算・試算価格の調整)
17:00〜18:00 上席鑑定士への報告・評価書のレビュー
18:00 退社

業務内容の詳細

朝:資料収集と準備

8:30〜9:00 出社・メール確認

朝はまずメールの確認から始まります。クライアントからの依頼内容の確認、社内連絡、関係官庁からの回答等をチェックします。

9:00〜10:00 資料収集

鑑定評価の精度を左右するのが資料の充実度です。以下のような資料を収集します。

資料の種類 入手先 内容
登記事項証明書 法務局(オンライン) 対象不動産の権利関係
公図・地積測量図 法務局 土地の形状・面積
都市計画情報 市区町村役場 用途地域、建ぺい率、容積率
路線価・公示価格 国税庁・国土交通省 周辺の地価情報
取引事例 レインズ、取引価格情報 比較に使う取引データ
賃貸事例 不動産情報サイト等 賃料の比較データ

午前:現地調査

10:00〜12:00 現地調査

現地調査は鑑定評価の最も重要な工程の一つです。実際に対象不動産を訪れ、以下の項目を確認します。

土地の調査項目

  • 接面道路の状況:幅員、舗装状態、歩道の有無
  • 画地の形状:間口、奥行、不整形の程度
  • 周辺環境:住宅地域であれば居住環境、商業地域であれば繁華性
  • 嫌悪施設の有無:騒音、振動、臭気等の確認
  • 最寄駅・交通施設:距離と接近性の実測

建物の調査項目

  • 外観の確認:構造、階数、外壁の状態
  • 内装の確認(可能な場合):設備の状況、維持管理の状態
  • 劣化の程度:物理的な劣化が減価修正に影響する

調査時の留意点

  • 写真を必ず撮影する(対象不動産の外観、周辺状況、接面道路等)
  • 天候や時間帯の影響を考慮する(日照条件は午前中の確認が望ましい)
  • 近隣住民や関係者への配慮を忘れない

午後:鑑定評価書の作成

14:00〜17:00 鑑定評価書の作成

鑑定評価書の作成は、鑑定士の業務の中で最も時間がかかる工程です。1件の評価書作成には通常3〜5日程度を要します。

評価書作成の主な工程

工程 内容 所要時間(目安)
資料の整理・分析 収集した資料の読み込みと整理 2〜3時間
価格形成要因の分析 地域要因・個別的要因の分析 2〜3時間
鑑定評価手法の適用 三方式による試算価格の算定 4〜8時間
試算価格の調整 複数手法の結果を検証・調整 1〜2時間
評価書の執筆 分析結果の文章化 3〜5時間
レビュー 上席鑑定士による確認 1〜2時間

鑑定評価手法の適用で行う計算

鑑定評価書の核心部分は、鑑定評価の三方式を適用して試算価格を求める計算です。

  • 原価法:再調達原価の算定と減価修正の計算
  • 取引事例比較法:事例の選択、事情補正、時点修正、地域要因・個別要因の比較
  • 収益還元法:純収益の算定と還元利回りによる収益価格の算定

夕方:クライアント対応と事務処理

17:00〜18:00 クライアント対応・事務処理

夕方はクライアントへの進捗報告や評価結果の説明を行います。また、翌日の現地調査の準備や事務処理も行います。


案件の種類と業務の違い

代表的な案件の種類

不動産鑑定士が手がける案件は多岐にわたります。

案件の種類 依頼者 特徴
公共事業用地の評価 国・自治体 用地取得のための評価。公正さが最重要
担保評価 金融機関 融資の担保不動産の評価。迅速さが求められる
相続・税務評価 個人・税理士 相続税・贈与税のための評価
訴訟関連評価 弁護士・裁判所 地代・家賃の紛争、共有物分割等
企業会計評価 上場企業 減損会計・時価評価のための鑑定
証券化評価 投資法人・AM 証券化対象不動産の評価

案件による業務の違い

案件の種類によって、業務の内容と負荷が異なります。

案件 1件あたりの所要日数 評価書の分量 特徴
公共事業用地 5〜10日 30〜50ページ 基準に忠実、詳細な分析が必要
担保評価 1〜3日 10〜20ページ 効率重視、定型的な案件が多い
相続税評価 3〜5日 20〜30ページ 権利関係が複雑なケースがある
証券化評価 10〜20日 50〜100ページ DCF法必須、詳細な収益分析

繁忙期と閑散期

年間の業務サイクル

不動産鑑定士の仕事には、季節による繁閑の波があります。

繁忙度 主な業務
1月 地価公示の評価作業(1月1日時点)
2〜3月 非常に高 地価公示の取りまとめ、年度末の案件集中
4〜6月 やや高 地価調査の準備、新年度の案件開始
7月 地価調査の評価作業(7月1日時点)
8〜9月 やや高 地価調査の取りまとめ
10〜12月 標準 通常の鑑定業務、翌年度の準備

地価公示と地価調査の時期が最も忙しく、この時期は残業が増えることもあります。

ワークライフバランス

鑑定事務所の勤務形態は事務所によって異なりますが、一般的な傾向は以下の通りです。

項目 一般的な水準
勤務時間 8:30〜18:00(実働8時間程度)
残業 繁忙期は月20〜40時間、閑散期は月10時間以下
休日 土日祝日(現地調査で休日出勤の可能性あり)
リモートワーク 評価書作成は在宅可能な事務所もある

試験で学ぶ知識と実務のつながり

試験の知識が直結する業務

不動産鑑定士試験で学ぶ知識は、実務で日常的に使用します。

試験科目 実務での活用場面
鑑定理論(基準) 鑑定評価書の作成で基準に沿った評価を行う
鑑定理論(演習) 収益価格・積算価格等の計算を日常的に行う
行政法規 現地調査での公法規制の確認に活用
民法 権利関係の把握(借地権・区分所有等)
会計学 企業会計評価での減損判定等に活用
経済学 市場分析・不動産市況の把握に活用

試験と実務のギャップ

一方で、試験では学ばないが実務で重要なスキルもあります。

  • クライアント対応力:依頼内容の把握、報告書の説明
  • 資料の収集力:適切なデータソースの選択と活用
  • ITスキル:Excel・GIS・CADの操作
  • 文章力:読みやすい評価書の作成
  • 交渉力:公共事業での地権者との折衝

これらのスキルは実務修習や入所後のOJTで身につけていきます。


独立鑑定士の1日との違い

勤務鑑定士と独立鑑定士の比較

独立開業した鑑定士の場合、営業活動と経営管理が加わるため、勤務鑑定士とは1日のスケジュールが異なります。

項目 勤務鑑定士 独立鑑定士
営業活動 基本的に不要 自分で案件を獲得する必要がある
案件の選択 事務所の方針に従う 自分で選択できる
収入 固定給+賞与 案件報酬(成果次第)
経営管理 不要 経理・税務・事務の管理が必要
自由度 低〜中 高い

独立鑑定士は午前中に営業活動(金融機関や不動産会社への挨拶回り等)を行い、午後に評価書の作成を行うパターンが多いです。


不動産鑑定士のやりがい

実務家が語るやりがい

不動産鑑定士の仕事には、以下のようなやりがいがあります。

  • 専門知識で社会に貢献できる:公共事業、裁判、企業経営などの重要な判断に鑑定評価が活用される
  • 知的好奇心が満たされる:毎回異なる不動産を調査・分析するため、ルーティンワークになりにくい
  • 現場に出られる:デスクワークだけでなく、フィールドワークがある
  • 独立開業が可能:資格を活かして自分の事務所を持てる
  • 希少資格の安定性:全国約8,000人の希少資格であり、需要は安定している

大変な点

一方で、以下のような大変さもあります。

  • 繁忙期の負荷:地価公示・地価調査の時期は多忙
  • 責任の重さ:評価額が大きな取引や紛争の基礎となるため、正確さが求められる
  • 継続学習が必要:法改正や不動産市場の変化に常にアップデートが必要

まとめ

不動産鑑定士の1日について、重要ポイントを整理します。

  • 勤務鑑定士の1日は現地調査、資料収集・分析、鑑定評価書の作成が中心
  • 1件の評価書作成には3〜5日程度を要し、計算・分析・執筆の繰り返し
  • 案件の種類は公共事業、担保評価、相続、証券化など多岐にわたる
  • 繁忙期は1〜3月(地価公示)と7〜9月(地価調査)
  • 試験で学ぶ知識は実務に直結するため、試験勉強がそのまま実務の基礎になる
  • デスクワークとフィールドワークのバランスが取れた知的専門職

不動産鑑定士の仕事に興味を持った方は、不動産鑑定士とは実務修習の流れも参考にしてください。