演習科目の時間配分と電卓テクニック
演習科目の攻略の方向性
不動産鑑定士の論文式試験における演習科目は、鑑定理論の知識を計算で実践する科目です。制限時間内に複数の鑑定評価手法を正確に適用し、数値を導き出す必要があるため、知識だけでなく時間配分と電卓操作の熟練度が合否を大きく左右します。
本記事では、演習科目で確実に得点するための時間配分の考え方、電卓の効率的な使い方、そして本番でありがちな計算ミスの防止策を具体的に解説します。
演習科目の試験概要
出題形式と試験時間
演習科目は、論文式試験2日目に実施される科目です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 試験時間 | 2時間 |
| 出題数 | 大問2〜3問 |
| 出題形式 | 計算問題+記述式(一部) |
| 配点 | 100点満点 |
| 使用可能な道具 | 電卓(関数電卓を除く)、定規 |
出題される計算テーマ
演習科目で出題される計算は、鑑定評価の三方式を中心に多岐にわたります。
| テーマ | 出題頻度 | 計算のポイント |
|---|---|---|
| 収益還元法(直接還元法) | ほぼ毎年 | 純収益の算定、還元利回りの適用 |
| 収益還元法(DCF法) | ほぼ毎年 | 複利現価率、復帰価格の計算 |
| 原価法 | 高い | 再調達原価、減価修正の計算 |
| 取引事例比較法 | 高い | 事情補正、時点修正、地域要因比較 |
| 開発法 | 中程度 | 開発後の価格から開発コストを控除 |
| 賃料の評価 | 中程度 | 積算法、スライド法等 |
時間配分の基本戦略
理想的な時間配分モデル
2時間(120分)の試験時間を効率的に使うため、以下の時間配分を基本としましょう。
| フェーズ | 所要時間 | 内容 |
|---|---|---|
| 問題の通読 | 10分 | 全問を読み、出題内容と難易度を把握 |
| 大問1 | 40〜45分 | 配点の大きい問題から着手 |
| 大問2 | 35〜40分 | 次に配点の大きい問題 |
| 大問3(ある場合) | 20〜25分 | 小問・記述問題 |
| 見直し | 10〜15分 | 計算の検算、解答の転記ミス確認 |
問題を読む10分が最も重要
試験開始直後の10分間は、全問を通読して全体像を把握する時間に充てるべきです。この10分を惜しんですぐに計算を始めると、以下のリスクがあります。
- 難問に時間を取られ、易しい問題に手がつけられない
- 問題の指示を読み落とし、求められていない計算をしてしまう
- 大問間の関連性を見逃す(前の問題の解答が次の問題の前提になる場合がある)
通読の際には、各問題の配点を確認し、配点の高い問題から解くことを鉄則としましょう。
「捨てる」判断も戦略のうち
演習科目では、全問完答を目指すと時間が足りなくなるケースがあります。重要なのは、取れる点を確実に取るという発想です。
- 配点の高い問題の基本計算を確実に得点する
- 計算過程が複雑な小問は、途中まで解いて部分点を狙う
- 未知の出題パターンに遭遇したら、基本に忠実に考えて立式だけでも書く
論文式・演習科目の対策でも解説している通り、部分点が取れる解答の書き方が重要です。
電卓テクニック:速度と正確さを両立する
電卓選びのポイント
演習科目で使える電卓は関数電卓を除く一般的な電卓です。試験で使いやすい電卓の条件は以下の通りです。
| 条件 | 理由 |
|---|---|
| 12桁表示 | 大きな金額の計算で桁数が足りなくなることを防ぐ |
| メモリー機能(M+/M-/MR/MC) | 途中結果の保存に不可欠 |
| GT(グランドトータル)機能 | 複数の計算結果の合計を一発で出せる |
| キーの大きさ・配列が手に馴染む | 打ち間違いの防止 |
| 早打ち対応(キーロールオーバー) | 高速入力時の取りこぼしを防ぐ |
| 税率キー不要 | 鑑定評価では税込計算は不要 |
試験本番で使う電卓は、必ず普段の練習から同じものを使いましょう。 電卓は「慣れ」が最大のスキルです。
メモリー機能の活用法
電卓のメモリー機能は、演習科目で必須のテクニックです。以下にメモリーキーの基本操作を整理します。
| キー | 機能 |
|---|---|
| M+ | 表示中の数値をメモリーに加算 |
| M- | 表示中の数値をメモリーから減算 |
| MR(RM) | メモリーの値を呼び出す |
| MC | メモリーをクリアする |
メモリー機能の実践例:純収益の計算
収益還元法で純収益を計算する場面を想定します。
【総収入の計算】
賃料収入 12,000,000円 → M+
共益費収入 1,200,000円 → M+
駐車場収入 600,000円 → M+
その他収入 200,000円 → M+
【総費用の控除】
維持管理費 1,500,000円 → M-
修繕費 800,000円 → M-
公租公課 1,200,000円 → M-
損害保険料 150,000円 → M-
空室損失 1,300,000円 → M-
【結果】
MR → 純収益 = 9,050,000円
このようにメモリー機能を使えば、途中の数値を紙に書き写す手間が省け、転記ミスも防げます。
GT機能の活用法
GT(グランドトータル)機能は、複数回の計算結果を自動的に合計する機能です。
【DCF法の各年度収益現価の合計】
1年目純収益 × 複利現価率 = ○○○円 [=]
2年目純収益 × 複利現価率 = ○○○円 [=]
3年目純収益 × 複利現価率 = ○○○円 [=]
4年目純収益 × 複利現価率 = ○○○円 [=]
5年目純収益 × 複利現価率 = ○○○円 [=]
[GT] → 5年分の収益現価の合計
GT機能はDCF法の計算で特に威力を発揮します。各年度の現在価値を「=」キーで確定するたびに自動で合計に加算されるため、改めて合計を計算する必要がありません。
DCF法の計算手順と時間短縮テクニック
DCF法の基本計算フロー
DCF法は演習科目の最重要テーマです。計算手順を確実に押さえましょう。
収益価格(DCF法)= 各年の純収益の現在価値の合計 + 復帰価格の現在価値
| ステップ | 計算内容 | 所要時間(目安) |
|---|---|---|
| 1. 各年の純収益を算定 | 収入項目−費用項目 | 5〜8分 |
| 2. 割引率を確認 | 問題文から読み取る | 1分 |
| 3. 複利現価率を計算 | 1÷(1+r)^n | 3〜5分 |
| 4. 各年の純収益を割り引く | 純収益 × 複利現価率 | 3〜5分 |
| 5. 復帰価格を計算 | 最終年翌年の純収益 ÷ 最終還元利回り | 2分 |
| 6. 復帰価格を割り引く | 復帰価格 × 最終年の複利現価率 | 1分 |
| 7. 合計 | ステップ4の合計 + ステップ6 | 1分 |
複利現価率の計算テクニック
複利現価率 1÷(1+r)^n の計算は、電卓で以下のように行います。
割引率5%、5年間の場合
手順1: 1.05 [×] [=] → 1.1025(2乗)
手順2: [×] [=] → 1.157625(3乗が表示されるが、ここでは[=]をもう1回)
※ 定数計算機能で [=] を押すたびに1.05を掛ける
手順3: 1年目から5年目まで順次メモしていく
手順4: 各年の値で 1 を割って複利現価率を求める
より効率的な方法:逆数から始める
手順1: 1 ÷ 1.05 [=] → 0.952381...(1年目の複利現価率)
手順2: [×] と [=] の定数計算で0.952381を掛け続ける
→ 2年目: 0.907029...
→ 3年目: 0.863838...
→ 4年目: 0.822702...
→ 5年目: 0.783526...
この方法なら、複利現価率を直接求めながら進められるため、計算が速くなります。
計算ミスの防止策
よくある計算ミスのパターン
演習科目で特に多い計算ミスを以下に整理します。
| ミスのパターン | 原因 | 対策 |
|---|---|---|
| 桁の打ち間違い | 0の個数を間違える | 金額は千円単位で入力し、最後に換算 |
| 符号の間違い | 加算すべきところを減算 | M+とM-を打つ前に必ず確認 |
| 複利現価率の適用ミス | n年目に(n-1)年目の率を使う | 計算表を作って整理 |
| 問題文の読み落とし | 条件を見逃す | 重要な数値に下線を引く |
| 単位の混同 | 円と千円、m2と坪 | 解答用紙に単位を先に書く |
| 転記ミス | 紙への書き写し時 | メモリー機能で転記を減らす |
検算のテクニック
見直し時間(10〜15分)では、以下の検算を行いましょう。
- 概算チェック:計算結果が常識的な範囲か確認する(例:都心のオフィスビルの価格が1,000万円なら明らかにおかしい)
- 逆算チェック:求めた利回りで逆算し、元の収益に戻るか確認する
- 整合性チェック:複数の手法で求めた価格が大きく乖離していないか確認する
- 単位チェック:最終解答の単位が問題の指示と合っているか確認する
科目別の時間配分モデル
パターン1:DCF法+原価法+比準価格の出題
| 問題 | 配点(想定) | 時間配分 |
|---|---|---|
| 大問1:DCF法による収益価格 | 40点 | 45分 |
| 大問2:原価法による積算価格 | 30点 | 35分 |
| 大問3:取引事例比較法による比準価格 | 30点 | 30分 |
| 見直し | ― | 10分 |
パターン2:更地評価+建物及びその敷地+記述の出題
| 問題 | 配点(想定) | 時間配分 |
|---|---|---|
| 大問1:建物及びその敷地の評価 | 45点 | 50分 |
| 大問2:更地の評価 | 35点 | 35分 |
| 大問3:鑑定理論の記述 | 20点 | 25分 |
| 見直し | ― | 10分 |
記述問題がある場合は、計算問題を先に処理し、記述を後回しにするのが鉄則です。記述は部分点が取りやすいため、時間が足りなくても要点だけ書けば得点できます。
試験での出題ポイント
演習科目で差がつくポイント
演習科目で高得点を取る受験生と、平均点にとどまる受験生の差は以下の点に現れます。
- 計算過程を明示しているか:結果だけでなく、計算式と途中経過を書くことで部分点を確保できる
- 条件の読み取りが正確か:問題文に書かれた前提条件を見落とさない
- 複数手法の試算結果を適切に調整しているか:試算価格の調整理由を論理的に記述できる
頻出の計算パターン
過去の出題から、以下の計算パターンは必ず練習しておくべきです。
- DCF法の一連の計算(純収益→割引→復帰価格→合計)
- 直接還元法による収益価格(NOI ÷ 還元利回り)
- 原価法の減価修正(耐用年数に基づく減価額の算定)
- 取引事例比較法の補正・修正計算(事情補正 × 時点修正 × 地域要因 × 個別要因)
- 開発法の計算(開発完了後の価格 − 開発コスト − 投下資本利益)
本番直前の練習法
試験2週間前からの仕上げ
| 時期 | 練習内容 |
|---|---|
| 2週間前 | 過去問を本番と同じ2時間で解く(最低3年分) |
| 1週間前 | 間違えた問題の再計算、苦手な計算パターンの集中練習 |
| 3日前 | 計算の基本手順の確認、電卓操作の最終チェック |
| 前日 | 公式・利回りの確認のみ。新しい問題は解かない |
模試の活用
本番と同じ条件で演習科目の模試を受験することを強くおすすめします。模試で得られる効果は以下の通りです。
- 時間感覚の体得:2時間でどこまで解けるかを体感する
- 電卓操作の実戦練習:緊張状態での操作に慣れる
- 弱点の発見:どの計算パターンで時間がかかるかを把握する
直前期の学習戦略も参考にしてください。
まとめ
演習科目の時間配分と電卓テクニックについて、重要ポイントを整理します。
- 試験開始直後の10分で全問を通読し、配点の高い問題から着手する
- 電卓のメモリー機能(M+/M-/MR)とGT機能を使いこなすことで計算速度と正確さが向上する
- DCF法の計算手順を完全にマスターすることが最優先
- 計算ミスの防止には、桁の確認・符号の確認・概算チェックが有効
- 計算過程を明示することで部分点を確保できる
- 見直し時間を10〜15分確保し、検算を必ず行う
演習科目は「知っている」だけでは得点できません。繰り返し手を動かして計算に慣れることが最大の対策です。論文式・演習科目の対策も合わせて参考にし、計算力を着実に鍛えましょう。