同一需給圏とは

同一需給圏とは、対象不動産と代替関係が成立して、その価格の形成について相互に影響を及ぼすような関係にある他の不動産の存する圏域です。不動産鑑定士試験において、同一需給圏は地域分析の中核的な概念であり、近隣地域を含みつつ類似地域の存する範囲を規定するという包含関係を理解することが重要です。

同一需給圏とは、一般に対象不動産と代替関係が成立して、その価格の形成について相互に影響を及ぼすような関係にある他の不動産の存する圏域をいう。それは、近隣地域を含んでより広域的であり、近隣地域と相互に関連する類似地域等の存する範囲を規定するものである。

― 不動産鑑定評価基準 総論第6章第1節


同一需給圏の基本的な考え方

「代替関係」とは何か

同一需給圏の定義で最も重要なキーワードは「代替関係」です。

代替関係とは、「ある不動産の代わりに、別の不動産を選ぶことができる」という関係を意味します。不動産の需要者(購入者・借主)が、対象不動産の代わりに選び得る不動産が存在する範囲が、同一需給圏です。

例えば、東京都世田谷区の住宅を探している人は、世田谷区内だけでなく、杉並区や目黒区の住宅も代替的に選択し得ます。しかし、北海道の住宅を代わりに選ぶことは通常ありません。この場合、世田谷区・杉並区・目黒区等を含む範囲が同一需給圏となります。

イメージでの理解

同一需給圏を身近な例で理解すると、「お客さんが比較検討する範囲」です。

  • マイホームを探している家族が「この辺りか、あの辺りかで迷っている」という範囲
  • テナントを探している企業が「A地区かB地区のオフィスを検討している」という範囲
  • 不動産投資家が「この物件と比較して、あの物件にしようか」と検討する範囲

この「比較検討の範囲」が同一需給圏であり、需要と供給が競合する範囲ともいえます。


同一需給圏と近隣地域・類似地域の関係

3つの概念の包含関係

同一需給圏、近隣地域、類似地域は、以下のような包含関係にあります。

┌──────────────────────────────────────────┐
│              同一需給圏                      │
│                                            │
│   ┌──────────┐    ┌──────────┐             │
│   │  近隣地域   │    │  類似地域A │             │
│   │(対象不動産)│    │           │             │
│   └──────────┘    └──────────┘             │
│                    ┌──────────┐             │
│                    │  類似地域B │             │
│                    │           │             │
│                    └──────────┘             │
└──────────────────────────────────────────┘
  • 近隣地域: 対象不動産が直接属する用途的地域(最も狭い)
  • 類似地域: 近隣地域と類似した特性を有する地域(近隣地域の外側に複数存在し得る)
  • 同一需給圏: 近隣地域と類似地域を包含する最も広域的な圏域

基準の表現では、同一需給圏は「近隣地域を含んでより広域的であり、近隣地域と相互に関連する類似地域等の存する範囲を規定する」とされています。つまり、同一需給圏を画定することで、類似地域がどこまでの範囲に存在するかが定まります。

各概念の定義の比較

概念 定義のポイント 範囲 役割
近隣地域 対象不動産の属する用途的地域。価格形成に直接影響 最も狭い 標準的使用の判定
類似地域 近隣地域と類似する特性を有する地域 中程度 取引事例の収集先
同一需給圏 対象不動産と代替関係が成立する圏域 最も広い 類似地域の範囲を規定

不動産の種類別の同一需給圏

同一需給圏の範囲は、不動産の種類(用途)によって大きく異なります。基準では、不動産の種類ごとに同一需給圏の範囲の目安を示しています。

住宅地の同一需給圏

住宅地については、その地域の居住者の生活の利便性に影響を及ぼす都市の機能を考慮して、都心への通勤可能な地域の範囲に即して同一需給圏を判定するものとし、一般に都市圏の範囲に一致する傾向がある。

― 不動産鑑定評価基準 総論第6章第1節

住宅地の同一需給圏は、通勤可能な範囲で画定されます。例えば、東京圏の住宅地であれば、東京都心への通勤が可能な一都三県(東京・神奈川・千葉・埼玉)の範囲が同一需給圏の目安となります。

ただし、住宅地の中でも品等(グレード) によって同一需給圏は異なります。高級住宅地の需要者と一般住宅地の需要者は異なるため、高級住宅地の同一需給圏は一般住宅地のそれとは異なる範囲となります。

商業地の同一需給圏

商業地については、その地域の商業活動の状況を考慮して、主として繁華性の程度により同一需給圏を判定する。高度商業地については、同一需給圏は広域的に形成されるのが通例であるが、普通商業地については、一般に近隣の顧客を対象とする地域的な商業を営むものであり、同一需給圏はより狭い範囲に限定される傾向がある。

― 不動産鑑定評価基準 総論第6章第1節

商業地の場合、繁華性の程度によって同一需給圏が異なります。

商業地の種類 同一需給圏の範囲
高度商業地 広域的(全国的・国際的にも) 銀座、丸の内、梅田
普通商業地 比較的狭い範囲 駅前商店街、地域のロードサイド

高度商業地(都心の一等地)は、全国的な大企業やグローバル企業が出店先を比較検討するため、同一需給圏は東京・大阪・名古屋を跨ぐような広域的な範囲となることがあります。一方、近隣住民を顧客とする普通商業地は、より狭い地域的な範囲に限定されます。

工業地の同一需給圏

工業地については、その地域の生産活動の状況及び輸送施設等の状態を考慮して同一需給圏を判定する。大工場地については、[中略] 全国的な規模で成立する場合がある。

― 不動産鑑定評価基準 総論第6章第1節

工業地の場合、工場の規模によって同一需給圏が異なります。

  • 大工場地: 全国的な範囲で同一需給圏が成立する場合がある
  • 中小工場地: 特定の工業団地や工業地域を中心とした比較的狭い範囲

農地・林地の同一需給圏

農地や林地の同一需給圏は、農業・林業の経営条件や地域の特性に応じて判定されます。一般に、地域的な範囲に限定される傾向があります。


同一需給圏の実務上の意義

取引事例の収集範囲

同一需給圏は、取引事例比較法において取引事例を収集する最大の範囲を画定する役割を持ちます。

取引事例の収集は、以下の優先順位で行われます。

  1. 近隣地域内の取引事例(最も望ましい)
  2. 類似地域内の取引事例
  3. 同一需給圏内のその他の地域の取引事例

近隣地域内に適切な取引事例が十分に得られない場合、類似地域から事例を収集しますが、その類似地域は同一需給圏内に存在していなければなりません。同一需給圏の外にある不動産は、対象不動産との代替関係が認められないため、比較の対象として不適切です。

具体例: 駅前商業地域の同一需給圏

東京都渋谷区の駅前商業地域を例に、同一需給圏の考え方を説明します。

対象不動産: 渋谷駅前の商業ビル用地

概念 範囲 具体的な地域
近隣地域 渋谷駅周辺の高度商業地域 渋谷センター街周辺
類似地域 同程度の繁華性を有する商業地域 新宿駅周辺、池袋駅周辺、表参道
同一需給圏 代替関係が成立する圏域 東京23区の主要商業地域(広域的)

渋谷の商業ビル用地を評価する際、新宿や池袋の取引事例は「類似地域の事例」として活用できます。しかし、地方都市の商業地の事例は、代替関係が成立しないため、比較の対象として不適切です。

近隣地域との境界判定

実務上、近隣地域の範囲をどこまでとするかは重要な判断事項です。特に、商業地域と住宅地域の境界部分や、用途が混在する地域では、近隣地域の画定が難しい場合があります。

例えば、駅前商業地域と背後住宅地域の境界部分に存する不動産の場合、その不動産が商業地域に属するのか住宅地域に属するのかによって、近隣地域の範囲と標準的使用の判定が大きく異なります。このような境界部分の判定には、用途的地域の概念と実態の慎重な分析が必要です。


同一需給圏の画定手順

手順の整理

地域分析における同一需給圏の画定は、以下の手順で行います。

ステップ1: 対象不動産の用途的地域の確認

対象不動産がどのような用途的地域(住宅地域・商業地域・工業地域等)に属するかを確認します。

ステップ2: 需要者層の把握

対象不動産の典型的な需要者(どのような人が買うか・借りるか)を把握します。

ステップ3: 代替可能な不動産の範囲の把握

需要者が代替的に選択し得る不動産が存在する地理的範囲を把握します。

ステップ4: 同一需給圏の画定

上記の分析に基づき、対象不動産と代替関係が成立する不動産の存する圏域を画定します。

画定の留意点

同一需給圏の画定にあたっては、以下の点に留意する必要があります。

  • 同一需給圏は固定的なものではない: 交通網の整備や社会経済状況の変化により、範囲が拡大・縮小し得る
  • 用途の転換が見込まれる地域では、転換後の用途を前提とした同一需給圏も考慮する
  • 同一需給圏は必ずしも連続した地理的範囲とは限らない: 離れた地域であっても代替関係が成立する場合がある(例: 高度商業地)

試験での出題ポイント

短答式試験

  • 同一需給圏の定義(「代替関係が成立して」「価格の形成について相互に影響を及ぼす」)
  • 近隣地域・類似地域・同一需給圏の包含関係(同一需給圏が最も広域的)
  • 不動産の種類別の同一需給圏の範囲(住宅地→通勤圏、高度商業地→広域的)
  • 同一需給圏が「近隣地域と相互に関連する類似地域等の存する範囲を規定する」こと
  • 取引事例の収集範囲との関係

論文式試験

  • 同一需給圏の意義と地域分析における役割
  • 近隣地域・類似地域との関係の体系的記述
  • 不動産の種類ごとの同一需給圏の範囲と判定方法
  • 同一需給圏と鑑定評価手法(特に取引事例比較法)との関連

暗記のポイント

  1. 定義のキーワード: 「代替関係が成立して」「相互に影響を及ぼす」
  2. 包含関係: 同一需給圏 ⊃ 類似地域 ⊃ 近隣地域(同一需給圏が最も広い)
  3. 同一需給圏は「類似地域等の存する範囲を規定する
  4. 住宅地の同一需給圏は「通勤可能な地域の範囲」に即して判定
  5. 高度商業地の同一需給圏は「広域的に形成」される

まとめ

同一需給圏は、対象不動産と代替関係が成立する不動産が存在する圏域であり、近隣地域を含んでより広域的な概念です。同一需給圏を画定することで、類似地域の存する範囲が規定され、取引事例の収集範囲が明確になります。

不動産の種類によって同一需給圏の範囲は大きく異なり、住宅地は通勤圏、高度商業地は広域的、普通商業地は狭い範囲となる傾向があります。近隣地域と類似地域の概念と合わせて、3つの地域概念の包含関係を正確に理解しておきましょう。