対象不動産の確認とは

不動産鑑定士が行う鑑定評価において、対象不動産の確認は処理計画の策定に続く第4のステップです。このステップでは、対象不動産の物的な状態権利関係の両面から、評価対象を正確に把握します。

基準では、対象不動産の確認について次のように定めています。

対象不動産の確認に当たっては、対象不動産の物的確認及び権利の態様の確認を行うものとする。

― 不動産鑑定評価基準 総論第8章第4節

物的確認が不十分であれば評価の前提が崩れ、権利の確認が不十分であれば評価すべき権利を誤ることになります。本記事では、これら2つの確認作業の具体的な手順と留意点を解説します。


物的確認とは

実地調査の意義

物的確認とは、対象不動産の物理的な状態を実地に確認する作業です。鑑定評価の信頼性は現場の実態を正確に把握することにかかっており、書面資料だけでは得られない情報を取得するための不可欠な作業です。

物的確認に当たっては、対象不動産の実地調査(以下「実地調査」という。)を行わなければならない。実地調査を行うに当たっては、対象不動産の確認のための資料(以下「確認資料」という。)をできる限り収集し、対象不動産の状況を確認のうえ調査すべきである。

― 不動産鑑定評価基準 総論第8章第4節

土地の物的確認

土地の物的確認では、以下の事項を現地で確認します。

確認事項 具体的内容 確認方法
所在・地番 登記上の所在と現地の一致 公図と現地の照合
面積・形状 間口、奥行、不整形の有無 実測、測量図との照合
接道状況 前面道路の幅員、接道長さ 現地計測、道路台帳
高低差 道路との高低差、隣地との高低差 目視、水準測量
土壌・地質 土壌汚染の可能性、地盤の状態 目視、ヒアリング
周辺環境 近隣の利用状況、嫌悪施設の有無 現地踏査

接道状況は特に重要です。建築基準法上の道路に接しているかどうかで、土地の利用可能性が大きく変わるためです。例えば、接道義務を満たさない土地は建物の再建築ができず、最有効使用の判定に大きな影響を与えます。

建物の物的確認

建物の物的確認では、以下の事項を確認します。

確認事項 具体的内容 確認方法
構造・規模 RC造、S造等の構造、階数 目視、建築確認書類
床面積 各階の床面積、延床面積 建築確認、実測
築年数 建築年月日、経過年数 登記簿、建築確認
設備の状態 空調、給排水、電気設備の劣化 目視、管理台帳
維持管理 修繕履歴、管理の良否 ヒアリング、目視
遵法性 建築基準法等への適合状況 建築確認、検査済証

特に建物の遵法性は重要な確認事項です。違反建築物である場合や、既存不適格建築物である場合は、評価に大きな影響を与えます。

実地調査の原則

実地調査は原則として鑑定士自らが行うものとされています。調査補助者に行わせる場合でも、鑑定士の責任において指示・監督を行い、結果の確認を行う必要があります。


権利の態様の確認

確認すべき権利

権利の態様の確認とは、対象不動産に関する権利関係を調査し確認する作業です。同じ物理的な不動産であっても、付着している権利が異なれば評価額は大きく異なります。

権利の態様の確認に当たっては、対象不動産にかかる登記事項証明書等により権利の種類及び内容を確認しなければならない。

― 不動産鑑定評価基準 総論第8章第4節

確認すべき権利の種類

権利の種類 確認内容 評価への影響
所有権 所有者、共有の有無 評価の前提
借地権 契約内容、残存期間、地代 借地権価格の算定
借家権 契約内容、賃料、契約期間 収益性の把握
地上権 設定目的、存続期間 制約の程度
地役権 通行地役権等の設定状況 利用の制約
抵当権 設定額、順位 担保評価への影響
差押え 差押え、仮処分の有無 処分の制限

登記簿の調査

権利の確認において最も基本的な資料は登記事項証明書(登記簿謄本) です。登記簿の甲区(所有権に関する事項)乙区(所有権以外の権利に関する事項) を精査することで、対象不動産の権利関係の全体像を把握します。

ただし、登記簿に記載されていない権利も存在することに注意が必要です。例えば、借家権は登記されていないことが一般的であり、ヒアリングや賃貸借契約書の確認が必要です。

権利関係の確認と類型の判定

権利の態様の確認結果は、対象不動産の類型の判定に直結します。

確認結果 判定される類型
所有権のみ(建物なし) 更地
所有権(建物付) 建付地
借地権あり 借地権(借地権者の視点)/底地(地主の視点)
賃貸借あり 貸家及びその敷地

確認資料の種類と収集先

主要な確認資料

物的確認と権利の確認に必要な資料は以下の通りです。

資料の種類 収集先 確認できる内容
登記事項証明書 法務局 所有者、権利関係、面積
公図 法務局 土地の位置関係、形状
地積測量図 法務局 正確な面積、形状
建物図面 法務局 建物の各階平面図
建築確認通知書 市区町村 建物の構造、面積、遵法性
都市計画図 市区町村 用途地域、建ぺい率・容積率
住宅地図 市販 所在の確認
固定資産税評価証明書 市区町村 固定資産税評価額

資料の信頼性の検証

収集した確認資料は、相互に照合して信頼性を検証する必要があります。例えば、登記簿上の面積と実測面積が大きく異なる場合(いわゆる縄延び・縄縮み)には、どちらの面積を採用するかを慎重に判断しなければなりません。


物的確認と権利の確認の関係

物的確認と権利の確認は一体として行うことが効果的です。なぜなら、両者は以下のように密接に関連しているからです。

  • 物的な状態が権利に影響する — 建物の存在は、建付地・貸家及びその敷地等の類型判定に影響
  • 権利関係が物的確認の範囲を規定する — 区分所有建物の場合、確認すべき範囲は専有部分に限定される
  • 両者の整合性が重要 — 登記上の面積と現況が一致しない場合、どちらを前提とするかの判断が必要

例えば、登記上は更地(地上権や借地権の設定なし) であっても、現地調査で第三者が建物を建てて使用していることが判明することがあります。この場合、物的確認と権利の確認の結果が矛盾するため、詳細な調査と慎重な判断が必要です。


対象不動産の確認における留意事項

確認と確定の違い

「対象不動産の確定」「対象不動産の確認」 は異なる概念です。

項目 内容 時点
確定 評価対象を決定する(何を評価するか) 基本的事項の確定(第1ステップ)
確認 確定した対象の実態を調査する 対象不動産の確認(第4ステップ)

確定は「設計図を描く」こと、確認は「設計図どおりの実態かどうかを現場で検証する」ことと理解するとわかりやすいでしょう。

確認の結果と基本的事項の修正

実地調査の結果、基本的事項の確定段階で把握していた内容と実態が異なることが判明する場合があります。例えば、以下のようなケースです。

  • 更地として確定したが、現地に古い建物が残存していた
  • 面積が登記簿上と大幅に異なっていた
  • 想定していなかった権利(借地権等)の存在が判明した

このような場合は、基本的事項の確定に立ち戻って修正する必要があります。鑑定評価の手順は一方通行ではなく、必要に応じて前のステップに戻ることが認められています。

確認が困難な場合の対応

実務上、対象不動産の確認が物理的に困難な場合があります。例えば、建物内部への立入りが拒否された場合や、積雪により土地の状況が確認できない場合です。

このような場合は、確認できなかった事項とその理由を鑑定評価報告書に記載し、評価にどのような影響を及ぼす可能性があるかを付記することが求められます。


試験での出題ポイント

短答式試験

  • 対象不動産の確認は物的確認権利の態様の確認の2つから成ること
  • 実地調査は原則として鑑定士自らが行うこと
  • 確認資料の種類(登記事項証明書、公図、建築確認通知書等)
  • 「対象不動産の確定」と「対象不動産の確認」の区別
  • 確認の結果、基本的事項に修正が必要な場合の対応

論文式試験

  • 物的確認と権利の態様の確認の意義と具体的内容の論述
  • 対象不動産の「確定」と「確認」の関係性についての論述
  • 確認が困難な場合の対応方法
  • 確認結果と不動産の類型の判定との関連

暗記のポイント

  1. 対象不動産の確認は「物的確認」「権利の態様の確認」 の2本柱
  2. 物的確認は実地調査(現地調査) により行う
  3. 権利の確認は登記事項証明書等により行う
  4. 「確定」は第1ステップ(基本的事項)、「確認」は第4ステップ
  5. 確認の結果、基本的事項に修正が必要な場合は前のステップに戻る

まとめ

対象不動産の確認は、物的確認(実地調査)と権利の態様の確認の2本柱で構成される、鑑定評価の信頼性を支える基礎的なステップです。物的確認では土地・建物の物理的状態を現地で確認し、権利の確認では登記簿等により権利関係を調査します。

試験では、物的確認と権利の確認の具体的内容はもちろん、「確定」と「確認」の違いや、確認の結果が基本的事項の修正につながる場合の対応まで理解していることが求められます。

対象不動産の確認が完了したら、次のステップである資料の収集と整理に進みます。鑑定評価の手順の全体像は鑑定評価の手順を参照してください。