更新料・名義書換料の評価
更新料・名義書換料の評価
更新料と名義書換料は、賃貸借契約の更新や名義変更に際して授受される一時金です。不動産鑑定士試験では、これらの一時金の法的性格と鑑定評価上の取扱いが問われます。
更新料は契約更新の対価として借主から貸主に支払われ、名義書換料は借地権や借家権の譲渡に際して支払われます。いずれも賃貸借に係る経済的利益の調整としての性格を持ち、鑑定評価ではその経済的実態を踏まえた適正な評価が求められます。
賃料の鑑定評価に当たっては、賃料を求める手法を適用するのみならず、不動産の種別及び賃貸借等の態様に応じた適切な手法を総合的に勘案して、賃料を求めるものとする。
― 不動産鑑定評価基準 各論第2章
更新料とは
定義と概要
更新料とは、建物の賃貸借契約や借地契約の期間満了に際し、契約を更新する対価として借主(賃借人)から貸主(賃貸人)に支払われる一時金をいいます。
更新料の授受は、法律上の義務ではなく契約上の合意に基づくものです。支払いの有無や金額は地域の慣行や個別の契約条件によって異なりますが、東京を中心とする首都圏では広く慣行として定着しています。
更新料の性格
更新料の法的性格については複数の見方があり、鑑定評価においてはこれらの性格を総合的に考慮します。
| 性格 | 内容 |
|---|---|
| 賃料の補充 | 契約期間中に据え置かれた賃料の不足分を補うもの |
| 賃貸借継続の対価 | 契約更新によって引き続き使用収益する権利を得るための対価 |
| 借地権・借家権の維持の対価 | 借地権・借家権が消滅せずに存続することへの対価 |
更新料の水準
更新料の水準は、地域や用途によって異なります。
| 種類 | 一般的な水準 |
|---|---|
| 借地契約の更新料 | 更地価格の3〜5%程度 |
| 住宅賃貸借の更新料 | 月額賃料の1〜2ヶ月分 |
| 事業用賃貸借の更新料 | 月額賃料の1〜3ヶ月分 |
名義書換料とは
定義と概要
名義書換料とは、借地権や借家権を第三者に譲渡する際に、借主(譲渡人)から貸主に支払われる一時金をいいます。「承諾料」「譲渡承諾料」とも呼ばれます。
借地権の譲渡には地主の承諾が必要であり(民法第612条)、この承諾を得るための対価として名義書換料が支払われます。
名義書換料の性格
| 性格 | 内容 |
|---|---|
| 譲渡承諾の対価 | 借地権・借家権の譲渡を承諾することへの対価 |
| テナント変更リスクの対価 | 新たなテナントによる信用リスクの変化に対する補償 |
| 借地権価格の一部返還 | 借地権に含まれる経済的利益の一部を地主に返還する意味 |
名義書換料の水準
| 種類 | 一般的な水準 |
|---|---|
| 借地権の名義書換料 | 借地権価格の10%程度 |
| 事業用賃貸借の名義書換料 | 月額賃料の数ヶ月分 |
一時金の種類と体系
更新料・名義書換料は、不動産の賃貸借に伴って授受される一時金の一種です。一時金の体系を整理すると以下のとおりです。
| 一時金の種類 | 支払時期 | 主な性格 |
|---|---|---|
| 権利金 | 契約開始時 | 借地権・借家権の設定対価 |
| 敷金・保証金 | 契約開始時 | 賃料債務の担保 |
| 更新料 | 契約更新時 | 賃料の補充・更新の対価 |
| 名義書換料 | 権利譲渡時 | 譲渡承諾の対価 |
| 増改築承諾料 | 増改築時 | 増改築を承諾することへの対価 |
これらの一時金は、いずれも賃料評価に関連する重要な概念であり、各一時金の経済的性格の違いを正確に理解しておくことが試験対策上不可欠です。
鑑定評価における更新料の評価方法
評価の基本的考え方
更新料の評価にあたっては、更新料の経済的性格を踏まえ、以下の手法を適用します。
手法1:賃料差額に着目する方法
更新料が「賃料の補充」としての性格を持つことに着目し、現行賃料と市場賃料の差額を基礎として更新料を求める方法です。
更新料 = 賃料差額(年額)× 一定期間
契約賃料が市場賃料より低い場合、その差額分が更新料として補充されるという考え方に立っています。
手法2:更地価格に対する割合
借地契約の更新料について、更地価格の一定割合として求める方法です。この場合の割合は、地域の慣行や過去の更新料の事例を参考にして査定します。
手法3:事例比較
類似の賃貸借契約における更新料の事例を収集し、事例から得られる更新料の水準を比較考量して求める方法です。
手法の適用にあたっての留意点
- 複数の手法を併用して相互検証することが望ましい
- 地域の慣行・慣習を十分に調査する
- 借地の場合は借地権割合や底地割合との整合性を確認する
鑑定評価における名義書換料の評価方法
評価の基本的考え方
名義書換料の評価にあたっては、借地権価格に対する割合を基礎とする方法が一般的です。
手法1:借地権価格に対する割合
借地権の価格に一定の割合を乗じて名義書換料を求める方法です。
名義書換料 = 借地権価格 × 一定割合(10%程度)
手法2:事例比較
類似の借地権譲渡事例における名義書換料の水準を参考にして求める方法です。
裁判所による借地非訟手続との関連
借地権の譲渡について地主の承諾が得られない場合、借地借家法第19条に基づき裁判所が承諾に代わる許可を与えることができます。この場合、裁判所は借地権価格の10%程度の財産上の給付を命ずることが一般的です。鑑定評価においても、この水準が名義書換料の目安の一つとなります。
収益還元法における一時金の取扱い
一時金の運用益
収益還元法の適用において、敷金・保証金等の一時金の運用益は総収益に計上します。更新料や名義書換料については、その発生が確実に見込まれる場合には、年平均額に換算して収益に計上する場合があります。
DCF法における計上方法
DCF法では、更新料の発生が予測される年度に一時的な収入として計上します。たとえば2年ごとに契約更新がある場合、2年目、4年目、6年目…に更新料収入を計上します。
【DCF法のキャッシュフロー計上例】
1年目: 賃料収入 1,200万円
2年目: 賃料収入 1,200万円 + 更新料 100万円 = 1,300万円
3年目: 賃料収入 1,200万円
4年目: 賃料収入 1,200万円 + 更新料 100万円 = 1,300万円
直接還元法における計上方法
直接還元法では、更新料を年平均額に換算して計上します。
更新料の年平均額 = 更新料(1回あたり)÷ 更新周期(年)
= 100万円 ÷ 2年 = 50万円/年
更新料をめぐる判例と実務
最高裁判決(平成23年7月15日)
住宅賃貸借における更新料条項の有効性が争われた最高裁判決では、更新料条項は消費者契約法第10条に反しないとして有効と判断されました。この判決により、更新料の授受が法的に認められることが確定しています。
実務上のポイント
- 更新料の有無は契約書の条項を確認する
- 地域によって慣行が大きく異なる(首都圏では一般的、関西圏ではあまり見られない)
- 近年は更新料を廃止する契約も増加傾向にある
- 更新料の水準は交渉によって決まることも多い
試験での出題ポイント
短答式試験
- 更新料の性格: 「賃料の補充」「契約更新の対価」等の複合的性格を問う
- 名義書換料と権利金の違い: 支払時期と性格の違いを正確に区別する
- 一時金の種類の列挙: 権利金、敷金、保証金、更新料、名義書換料の体系的理解
論文式試験
- 更新料の経済的性格とその評価方法を論述する問題
- 一時金の種類と各一時金の法的性格の違いを体系的に整理して論述する問題
- 収益還元法における一時金の取扱い(運用益の計上方法、DCF法での計上方法)
暗記のポイント
- 更新料の性格: 賃料の補充、賃貸借継続の対価、権利維持の対価
- 名義書換料: 借地権価格の10%程度が目安
- 一時金の体系: 権利金(設定時)→ 敷金・保証金(担保)→ 更新料(更新時)→ 名義書換料(譲渡時)
- DCF法: 更新料は発生年度に一時的収入として計上
- 直接還元法: 更新料は年平均額に換算して計上
まとめ
更新料と名義書換料は、賃貸借契約に伴う一時金として、鑑定評価において重要な位置を占めます。更新料は賃料の補充や契約更新の対価としての性格を持ち、名義書換料は借地権等の譲渡承諾の対価です。収益還元法の適用においては、DCF法では発生年度ごとに計上し、直接還元法では年平均額に換算して計上します。試験では一時金の体系的な理解と、各一時金の経済的性格の違いを正確に説明できることが求められるため、敷金・保証金の運用益とあわせて整理しておきましょう。