契約賃料と経済賃料の乖離とは

不動産鑑定士試験において、継続賃料の鑑定評価を正しく理解するためには、その前提となる契約賃料と経済賃料(正常賃料・新規賃料水準)の乖離のメカニズムを把握しておくことが不可欠です。継続賃料の評価が必要とされるのは、まさにこの乖離が存在するからであり、乖離がなければそもそも賃料改定の問題は発生しません。

不動産鑑定士の実務においても、なぜ契約賃料と経済賃料にズレが生じるのかを賃料の需要者・供給者双方に説明する場面は多く、この論点の理解は試験対策と実務の両面で重要な位置を占めます。本記事では、乖離が発生するメカニズムを「賃料の遅行性(スティッキネス)」を軸に分析し、継続賃料の4手法がこの乖離をどのように処理するかを体系的に整理します。


経済賃料と契約賃料の概念整理

経済賃料(正常賃料・新規賃料水準)

経済賃料とは、価格時点において対象不動産を新たに賃貸借に供する場合に成立するであろう適正な賃料水準を指します。鑑定評価基準上の用語でいえば、正常賃料に相当する概念です。

正常賃料とは、正常価格と同一の市場概念の下において新たな賃貸借等の契約において成立するであろう経済価値を表示する適正な賃料(新規賃料)をいう。

― 不動産鑑定評価基準 総論第5章第3節

経済賃料は、現時点で市場に出された場合に成立するであろう賃料であり、市場の需給動向、代替・競争の原則を反映した「マーケットレント」とほぼ同義です。この水準は、新規賃料の評価手法(積算法・賃貸事例比較法・収益分析法)によって求められます。

契約賃料(現行賃料)

契約賃料とは、既存の賃貸借契約に基づいて現に支払われている(または支払うべき)賃料です。契約賃料は、契約締結時または直近の賃料改定時に当事者間で合意された賃料であり、その後の市場環境の変化にかかわらず、契約上の拘束力によって維持されています。

両者の関係

新規に賃貸借契約が締結された時点では、通常、契約賃料と経済賃料はほぼ一致しています。しかし、時間の経過とともに市場環境が変化するのに対し、契約賃料は契約の拘束力によって据え置かれるため、両者の間に乖離が生じます。

【乖離のイメージ】
時点t0(契約締結時):契約賃料 ≒ 経済賃料(乖離なし)

時点t1(市場環境変化後):
  経済賃料 = 市場の需給を反映した新規賃料水準
  契約賃料 = t0時点の合意賃料のまま

→ 経済賃料と契約賃料の間に「差額賃料」が発生

この差額賃料の存在が、継続賃料の鑑定評価が必要となる根本的な理由です。


賃料の遅行性(スティッキネス)

賃料の遅行性とは

賃料の遅行性(賃料のスティッキネス)とは、不動産の賃料水準が経済環境や不動産市場の変動に対して即座に追随せず、一定のタイムラグをもって変動する性質をいいます。不動産の価格が比較的速やかに市場変動を反映するのに対し、賃料は粘着的(スティッキー)であり、変動が遅れる傾向があります。

この遅行性は、不動産市場の構造的な特性に起因するものであり、以下の複数の要因が複合的に作用しています。

遅行性を生む要因

要因 内容 影響の強さ
契約の拘束力 賃貸借契約は一定期間の継続を前提とし、契約期間中は原則として契約条件が維持される 極めて強い
改定の合意形成コスト 賃料改定には賃貸人・賃借人双方の交渉と合意が必要であり、交渉コスト・時間が発生する 強い
借地借家法の正当事由制度 普通借家契約・普通借地契約では、更新拒絶に正当事由が必要であり、賃貸人側からの契約終了が制限される 強い
借地借家法の賃料増減額請求権 賃料増減額請求は当事者間の協議が優先され、調停・訴訟に至るまで時間と費用がかかる 中程度
テナントの入替えコスト 既存テナントの退去・新規テナントの募集にはダウンタイムや仲介手数料等のコストが発生する 中程度
情報の非対称性 市場賃料の変動に関する情報が賃貸人・賃借人の双方に十分に行き渡らない 弱〜中程度
賃料改定条項の制約 契約に定められた改定ルール(改定時期、改定率の上限等)が市場変動と乖離する場合がある 中程度

契約の拘束力と賃料の固定化

賃貸借契約は、賃料額契約期間改定条件等を当事者間で合意したうえで締結されるものです。一旦契約が成立すると、契約期間中は当該賃料が法的に拘束力を持ち、市場賃料が変動しても契約上の賃料は自動的には変更されません。

特に定期建物賃貸借契約では、契約期間の満了まで賃料改定を行わない旨の特約が付されることがあり、この場合には契約期間中の乖離拡大が不可避となります。

借地借家法の正当事由制度と賃料の遅行性

借地借家法は、賃借人の居住・営業の安定を保護するため、普通借家契約・普通借地契約における更新拒絶に正当事由を要求しています。

建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。

― 借地借家法 第28条

この制度の存在により、賃貸人は市場賃料が下落したとしても契約を終了させて新たなテナントを市場賃料で入居させることが容易ではなく、逆に市場賃料が上昇した場合でも賃借人が改定に応じなければ増額が実現しにくいという構造的な障壁が生じます。その結果、契約賃料は市場変動から切り離されて固定化し、乖離が拡大する方向に作用します。


差額賃料の発生メカニズム

差額賃料とは

差額賃料とは、経済賃料(正常賃料)と契約賃料との差額をいいます。差額配分法の核心をなす概念であり、継続賃料の評価においてこの差額をどのように処理するかが最大の論点となります。

差額賃料 = 経済賃料(正常賃料) − 契約賃料

差額賃料がプラスの場合はアンダーレント(契約賃料が経済賃料を下回る状態)、マイナスの場合はオーバーレント(契約賃料が経済賃料を上回る状態)を意味します。

上方乖離(アンダーレント)の発生場面

アンダーレント(契約賃料 < 経済賃料)は、以下のような場面で発生します。

発生場面 メカニズム
地価上昇・賃料上昇局面 市場賃料が上昇しているのに対し、契約賃料が据え置かれている場合
長期間の賃料据置 改定が行われないまま数年~十数年が経過し、市場との乖離が蓄積した場合
縁故関係による低廉な設定 親族間等で市場水準を下回る賃料が設定されている場合
テナント誘致時の優遇 新築時や空室対策としてフリーレント期間後に低廉な賃料を設定した場合
周辺環境の改善 再開発や交通インフラの整備等により地域の経済賃料水準が向上した場合

アンダーレントの状態では、賃貸人側に増額改定のインセンティブが存在します。しかし、借地借家法上の賃料増額請求権を行使しても、賃借人との協議が調わなければ最終的には裁判所の判断に委ねることとなり、改定実現までには相当の時間を要します。

下方乖離(オーバーレント)の発生場面

オーバーレント(契約賃料 > 経済賃料)は、以下のような場面で発生します。

発生場面 メカニズム
地価下落・賃料下落局面 市場賃料が下落しているのに対し、契約賃料が高止まりしている場合
バブル期契約の残存 地価高騰期に締結された契約の賃料がバブル崩壊後も維持されている場合
供給過剰による市場賃料の低下 周辺で大量の新規供給が行われ、市場賃料が下落した場合
対象不動産の経年劣化 建物の老朽化・陳腐化により経済賃料が低下したが、契約賃料が据え置かれている場合
需要構造の変化 産業構造の変化等によりテナント需要が後退し、市場賃料が低下した場合

オーバーレントの状態では、賃借人側に減額改定のインセンティブが存在します。賃借人は借地借家法に基づく賃料減額請求を行うことができますが、こちらも協議・調停・訴訟のプロセスを経る必要があり、即座に改定が実現するわけではありません。

差額賃料の具体例

以下に、地価上昇局面における差額賃料の発生を具体的な数値で示します。

【前提条件】
  対象不動産:東京都港区 事務所ビル 延床面積500m²
  契約締結時点:2020年4月
  直近合意時の支払賃料:月額4,000,000円(8,000円/m²)
  価格時点:2026年2月

【経済賃料の査定】
  賃貸事例比較法等により求めた正常賃料(新規賃料水準)
  = 月額5,000,000円(10,000円/m²)

【差額賃料の算定】
  差額賃料 = 経済賃料 − 契約賃料
          = 5,000,000円 − 4,000,000円
          = 1,000,000円/月(2,000円/m²)
  乖離率 = 1,000,000 ÷ 5,000,000 ≒ 20%

→ 契約賃料が経済賃料を20%下回るアンダーレントの状態

この例では、契約締結から約6年の間に市場賃料が25%上昇したにもかかわらず、契約賃料が据え置かれたことにより、月額100万円の差額賃料が発生しています。


地価変動局面と乖離パターン

地価上昇局面での乖離パターン

地価上昇局面では、以下のような乖離パターンが典型的に観察されます。

【地価上昇局面の時系列】

時点    地価指数    経済賃料    契約賃料    差額賃料    状態
t0      100        100        100         0        均衡
t1      110        105        100        +5        アンダーレント
t2      125        115        100        +15       アンダーレント拡大
t3      135        125        110        +15       改定実施、乖離縮小せず
t4      140        130        115        +15       乖離が継続

※ 数値はイメージ。地価の上昇が先行し、賃料が遅行する

特徴的なのは、地価の変動幅に対して賃料の変動幅が小さい(賃料の弾力性が低い)ことです。地価が35%上昇しても経済賃料の上昇は25%程度にとどまり、さらに契約賃料の改定はそれよりも遅れるという二重の遅行構造が存在します。

地価下落局面での乖離パターン

地価下落局面では、逆方向の乖離が生じます。

【地価下落局面の時系列】

時点    地価指数    経済賃料    契約賃料    差額賃料    状態
t0      100        100        100         0        均衡
t1       90         96        100        −4        オーバーレント
t2       75         85        100        −15       オーバーレント拡大
t3       70         80         95        −15       減額改定、しかし乖離継続
t4       72         82         90        −8        乖離が徐々に縮小

※ 地価下落局面でも、賃料は遅行して変動する

地価下落局面では、オーバーレントの状態が長期化しやすいという特徴があります。賃借人が減額請求を行っても、賃貸人が抵抗するため改定実現までに時間がかかり、改定が行われてもなお市場水準には追いつかないケースが多いためです。

価格変動と賃料変動の非対称性

不動産の価格変動と賃料変動の関係には、非対称性が存在します。

比較項目 不動産価格 賃料(経済賃料) 契約賃料
変動速度 速い やや遅い 遅い
変動幅 大きい 小さい さらに小さい
上昇局面の反応 迅速に上昇 遅れて上昇 さらに遅れて上昇
下落局面の反応 迅速に下落 遅れて下落 さらに遅れて下落
変動の要因 将来期待、金融環境 需給バランス 契約条件、改定交渉

この非対称性を理解しておくことは、積算法における基礎価格と賃料の関係を分析する際にも重要であり、積算賃料と比準賃料の乖離の原因の一つとしても関連します。


継続賃料の4手法による乖離の処理

継続賃料の鑑定評価では、契約賃料と経済賃料の乖離を4つの手法を用いて適正な継続賃料に是正します。各手法は、乖離をそれぞれ異なるアプローチで処理しています。

差額配分法

差額配分法は、乖離の処理を最も直接的に行う手法です。経済賃料と契約賃料の差額を求め、その差額を賃貸人・賃借人に配分することで継続賃料を求めます。

差額配分法による継続賃料
= 契約賃料 + 差額賃料 × 配分率

【前提】
  経済賃料:5,000,000円/月
  契約賃料:4,000,000円/月
  差額賃料:1,000,000円/月
  配分率(賃貸人帰属分):1/2

  継続賃料 = 4,000,000 + 1,000,000 × 1/2
          = 4,500,000円/月

差額配分法のポイントは、差額の全額を改定に反映させるのではなく、一定の配分率で按分するという点です。これは、賃貸借の継続性や契約当事者双方の利益を考慮した処理方法であり、乖離の全額を一度に是正するのではなく段階的に是正するという思想が反映されています。

利回り法

利回り法は、基礎価格の変動を通じて乖離を間接的に処理する手法です。価格時点における基礎価格に継続賃料利回りを乗じて純賃料を求め、必要諸経費等を加算して継続賃料を算定します。

利回り法による継続賃料
= 基礎価格 × 継続賃料利回り + 必要諸経費等

利回り法では、地価の変動が基礎価格に反映されることを通じて、間接的に経済環境の変化を継続賃料に取り込みます。ただし、継続賃料利回りは直近合意時点の実質賃料と基礎価格の関係から求められるため、元の契約賃料の水準が出発点となる点で、乖離の是正は部分的なものにとどまります。

スライド法

スライド法は、直近合意時点の賃料に変動率(スライド率)を乗じて継続賃料を求める手法です。

スライド法による継続賃料
= 直近合意時点の純賃料 ×(1 + 変動率)+ 必要諸経費等

スライド法は、直近合意時点の賃料を起点として変動率を適用するため、契約の経緯(契約賃料の水準)が出発点となります。変動率として消費者物価指数の変動率や地価変動率等を用いますが、これらの指標が経済賃料の変動率と一致するとは限りません。そのため、スライド法による継続賃料は、乖離を間接的・部分的に反映するにとどまります。

賃貸事例比較法(継続賃料)

賃貸事例比較法は、継続中の賃貸借における改定事例を収集して、対象不動産の継続賃料を比較考量する手法です。

賃貸事例比較法は、実際に市場で行われた賃料改定の実態を反映するため、市場における乖離是正の実態を直接的に取り込むことができます。ただし、継続賃料の改定事例は個別性が強く、適切な事例の収集が困難な場合も多い点が課題です。

4手法による乖離処理の比較

手法 乖離の処理方法 処理の直接性 着目する側面
差額配分法 差額賃料を直接算定し、配分する 直接的 経済賃料と契約賃料の差額
利回り法 基礎価格の変動を通じて反映 間接的 不動産の元本価値の変動
スライド法 変動率の適用により反映 間接的 経済指標(物価・地価等)の変動
賃貸事例比較法 改定事例の実態から反映 直接的 市場における改定の実態

賃料改定における乖離の是正プロセス

是正の段階性

賃料改定による乖離の是正は、通常、一度の改定で完全に是正されるのではなく、複数回の改定を通じて段階的に進行します。これは、以下の理由によります。

  • 契約関係の安定性の確保: 一度に大幅な改定を行うと、賃借人の事業計画や生活設計に重大な影響を及ぼすため、段階的な改定が合理的とされる
  • 裁判例の傾向: 裁判所が認定する継続賃料も、差額の全額ではなく一定割合のみを増額(または減額)するケースが多い
  • 差額配分法の配分率: 差額配分法では差額の1/3~1/2程度を賃貸人帰属分として配分するのが一般的であり、1回の改定で乖離が完全に解消されることは稀である

是正プロセスの具体例

【アンダーレントの是正プロセス】

前提:契約賃料400万円、経済賃料500万円(差額100万円)

第1回改定(2026年):
  差額100万円の1/2を配分 → 50万円増額
  改定後賃料:450万円
  残存乖離:50万円

第2回改定(2028年):
  経済賃料が520万円に上昇と仮定
  差額 = 520万円 − 450万円 = 70万円
  差額70万円の1/2を配分 → 35万円増額
  改定後賃料:485万円
  残存乖離:35万円

第3回改定(2030年):
  経済賃料が530万円に上昇と仮定
  差額 = 530万円 − 485万円 = 45万円
  差額45万円の1/2を配分 → 22.5万円増額
  改定後賃料:507.5万円
  残存乖離:22.5万円

→ 3回の改定を経ても完全には解消されない

この例が示すように、乖離の是正には長い期間を要し、特に経済賃料自体が変動し続ける場合には、完全な解消が困難であるケースも珍しくありません。この「完全には是正されない」という特性こそが、継続賃料固有の価格形成要因の本質を表しています。

是正の方向性と制約

乖離の是正には、アンダーレントの場合とオーバーレントの場合で異なる制約が存在します。

項目 アンダーレント(増額方向) オーバーレント(減額方向)
請求権者 賃貸人 賃借人
制度的裏付け 借地借家法の賃料増額請求権 借地借家法の賃料減額請求権
交渉上の力関係 賃借人の抵抗が強い(正当事由制度による保護) 賃貸人の抵抗が強い(収入減少への抵抗)
是正のスピード 遅い傾向 やや遅い傾向
裁判所の傾向 段階的な増額を認める傾向 市場水準への近接を認める傾向

乖離と継続賃料の関係の本質

なぜ「新規賃料と異なる水準」の賃料が正当化されるか

継続賃料が新規賃料と異なる水準で決定されることの正当性は、賃貸借の継続に固有の事情に基づいています。鑑定評価基準は、継続賃料の特性について以下のように述べています。

継続賃料固有の価格形成要因には、[中略]賃料改定の経緯等の契約の内容に関する事項が含まれる。

― 不動産鑑定評価基準 各論第2章第1節

継続賃料は、純粋な市場賃料でも、従前の契約賃料そのままでもなく、両者の間で契約の経緯や当事者間の事情を考慮して決定される独自の価値概念です。差額賃料が存在するからこそ継続賃料の鑑定評価が必要となり、その差額をどのように処理するかが鑑定士の判断の核心となります。

乖離と4手法の総合的理解

4手法による継続賃料の試算結果は、通常、以下のような関係に落ち着きます。

【アンダーレントの場合の典型的な序列】

経済賃料(正常賃料): 5,000,000円/月

差額配分法:     4,500,000円/月(差額の1/2を反映)
賃貸事例比較法: 4,400,000円/月(改定事例の実態を反映)
利回り法:       4,300,000円/月(基礎価格の変動を反映)
スライド法:     4,200,000円/月(経済指標の変動を反映)

契約賃料:       4,000,000円/月

→ いずれの手法も「契約賃料<継続賃料<経済賃料」の範囲に収まる

ただし、この序列は常に成り立つものではなく、具体的な案件の条件(地価変動の程度、契約の経緯、配分率の設定等)によって異なります。重要なのは、4手法の試算結果の幅が「乖離の是正の程度」を表しているという理解です。


試験での出題ポイント

短答式試験

  • 賃料の遅行性(スティッキネス)の概念に関する正誤判定
  • アンダーレントオーバーレントの定義と発生原因に関する出題
  • 契約賃料と経済賃料の乖離が継続賃料の鑑定評価が必要となる背景であることの理解
  • 差額賃料の算定式(差額賃料 = 経済賃料 − 契約賃料)の正確な理解
  • 借地借家法の賃料増減額請求権の要件(租税等の増減、経済事情の変動、近傍同種の賃料との比較)
  • 継続賃料固有の価格形成要因に含まれる項目の正確な理解

論文式試験

  • 契約賃料と経済賃料の乖離が生じるメカニズムを賃料の遅行性の概念を用いて論述する出題
  • 継続賃料の4手法が乖離をそれぞれどのように処理するかを対比的に論述する出題
  • 地価上昇局面と下落局面における乖離パターンの違いを具体例とともに説明する出題
  • 差額配分法における配分率の設定の合理性を論述させる出題
  • 賃料改定における乖離の是正プロセスの段階性を説明する出題

暗記のポイント

  1. 差額賃料の定義: 経済賃料(正常賃料)と契約賃料の差額。プラスならアンダーレント、マイナスならオーバーレント
  2. 賃料の遅行性の主要因: 契約の拘束力、改定の合意形成コスト、借地借家法の正当事由制度、賃料増減額請求の手続コスト
  3. 4手法の乖離処理: 差額配分法(直接的)、利回り法(間接的・基礎価格経由)、スライド法(間接的・指標経由)、賃貸事例比較法(直接的・改定実態)
  4. 是正の段階性: 1回の改定では乖離は完全に解消されず、複数回の改定を通じて段階的に是正される
  5. 継続賃料の範囲: 通常、契約賃料と経済賃料の間に位置する(契約賃料 < 継続賃料 < 経済賃料、またはその逆)
  6. 借地借家法の賃料増減額請求の要件: 租税その他の負担の増減、土地又は建物の価格の上昇又は低下その他の経済事情の変動、近傍同種の建物の借賃に比較して不相当

まとめ

契約賃料と経済賃料の乖離は、賃料の遅行性(スティッキネス)という不動産市場の構造的な特性に起因して発生する現象です。契約の拘束力、改定の合意形成コスト、借地借家法の正当事由制度等の複合的な要因により、契約賃料は市場賃料の変動に即座に追随できず、時間の経過とともに差額賃料(乖離)が蓄積されていきます。この乖離の存在こそが継続賃料の鑑定評価が必要とされる根本的な理由であり、差額配分法をはじめとする継続賃料の4手法は、それぞれ異なるアプローチでこの乖離を適正な継続賃料に反映する仕組みとなっています。乖離の是正は一度の改定で完了するものではなく、複数回の改定を通じて段階的に進行するという特性を理解しておくことが重要です。関連記事として、継続賃料固有の価格形成要因新規賃料と継続賃料の乖離もあわせて学習することで、継続賃料の評価の全体像を体系的に把握できます。