容積率が土地価格に与える影響

容積率と土地価格の関係は、不動産鑑定士試験の鑑定理論において、個別分析の重要な論点です。容積率が大きいほど建物の延べ床面積を大きく確保できるため、土地から得られる収益が増加し、土地の価格も高くなります。ただし、容積率と土地価格の関係は単純な比例関係ではない点が重要であり、容積率格差修正の方法と理論的根拠を正確に理解する必要があります。

宅地についての個別的要因の主なものを例示すれば、次のとおりである。

― 不動産鑑定評価基準 総論第3章第2節


容積率の基本

容積率とは

容積率とは、建築物の延べ面積の敷地面積に対する割合です。

容積率 = 建築物の延べ面積 ÷ 敷地面積 × 100(%)

例えば、敷地面積200平方メートルの土地に延べ面積600平方メートルの建物を建築する場合、容積率は300%となります。

建築物の延べ面積の敷地面積に対する割合は、用途地域に関する都市計画において定められた数値以下でなければならない。

― 建築基準法 第52条第1項

指定容積率と基準容積率

容積率には指定容積率基準容積率の2種類があり、いずれか小さい方が実際に適用される容積率の上限(適用容積率)となります。

種類 内容 決定要因
指定容積率 都市計画で定められた容積率 用途地域に応じて50%~1300%の範囲
基準容積率 前面道路幅員に基づく容積率 前面道路幅員 × 法定乗数
適用容積率 = min(指定容積率, 基準容積率)

基準容積率の計算

基準容積率は、前面道路の幅員が12m未満の場合に適用されます。

基準容積率 = 前面道路幅員(m)× 法定乗数

法定乗数は用途地域によって異なります。

用途地域 法定乗数
住居系用途地域 4/10(0.4)
その他の用途地域(商業地域等) 6/10(0.6)

計算例:

  • 第一種住居地域、指定容積率300%、前面道路幅員6mの場合
  • 基準容積率 = 6m × 0.4 = 240%(= 2.4 × 100)
  • 適用容積率 = min(300%, 240%)= 240%

この例では、指定容積率は300%であっても、前面道路幅員の制約により実際に利用できる容積率は240%に制限されます。


容積率と収益性・市場性の関係

収益性との関係

容積率が土地価格に影響する最も基本的なメカニズムは、収益性を通じたものです。

  • 容積率が大きい → 建物の延べ床面積を大きく確保できる → 賃料収入が増加 → 土地の価格が上昇
  • 容積率が小さい → 建物の延べ床面積が制限される → 賃料収入が限定的 → 土地の価格が低下

容積率と価格の非比例関係

容積率と土地価格は単純な比例関係にはなりません。その理由は以下の通りです。

理由 内容
建築コストの逓増 高層化するほど構造コスト(基礎工事、エレベーター等)が増大
収益の逓減 高層階の賃料が必ずしも低層階と同水準とは限らない場合がある
建ぺい率等の制約 容積率だけでは建物の規模は決まらない
日影規制等の制約 周辺への日影の影響により建物の形態が制約される
市場性の変化 規模が大きくなると買手・テナントの範囲が変わる

したがって、容積率が2倍になったからといって、土地の価格が2倍になるわけではありません。この点は試験でも問われる重要な論点です。


容積率格差修正の方法

容積率格差修正とは

容積率格差修正とは、取引事例比較法の適用において、取引事例の容積率と対象不動産の容積率が異なる場合に行う個別的要因の比較修正です。

修正方法の考え方

容積率格差修正の方法には、主に以下のアプローチがあります。

方法1:直接的修正

容積率の比率を用いて直接的に修正する方法です。ただし、容積率と価格は非比例関係にあるため、そのまま容積率の比率を適用することは適切ではありません

方法2:収益ベースの修正

容積率の違いによる収益の差を基にして修正する方法です。

容積率格差修正率 = 対象不動産の容積率に基づく土地帰属純収益 ÷ 事例の容積率に基づく土地帰属純収益

この方法は、容積率の違いが収益にどのように影響するかを具体的に分析するため、理論的に精度が高い方法です。

方法3:実証的修正

同一地域内で容積率の異なる複数の取引事例を分析し、容積率と単価の関係を実証的に把握する方法です。

容積率格差修正の計算例

以下の条件で容積率格差修正を行う例を示します。

項目 取引事例 対象不動産
容積率 400% 300%
地域 同一近隣地域

収益ベースの修正を行う場合:

項目 容積率400%の場合 容積率300%の場合
延べ床面積(敷地100平方メートル当たり) 400平方メートル 300平方メートル
賃貸可能面積(85%とする) 340平方メートル 255平方メートル
年間賃料収入(単価20,000円/平方メートル) 6,800,000円 5,100,000円
建築費(逓増を考慮) 480,000,000円 330,000,000円
建物帰属収益 △2,400,000円 △1,650,000円
土地帰属純収益 4,400,000円 3,450,000円
容積率格差修正率 = 3,450,000円 ÷ 4,400,000円 ≒ 0.784

この場合、容積率は300% ÷ 400% = 0.75(75%)ですが、修正率は0.784と、単純な容積率の比率よりも大きくなります。これは、高層化に伴う建築コストの逓増を反映した結果です。


指定容積率と基準容積率の価格への影響

前面道路幅員による容積率制限と価格

前面道路幅員が12m未満の場合、基準容積率によって実際に利用可能な容積率が制限されることがあります。この場合、同じ指定容積率の地域であっても、前面道路幅員によって土地の価格が異なることになります。

前面道路幅員 基準容積率(住居系) 指定容積率200%の場合の適用容積率
4m 160% 160%
5m 200% 200%
6m 240% 200%
8m 320% 200%

この表からわかるように、前面道路幅員が5m未満の場合は基準容積率が指定容積率を下回り、実際に利用可能な容積率が制限されるため、土地の価格に影響を与えます。

角地緩和等の特例

角地等の場合、建築基準法により建ぺい率が緩和される場合があります。また、容積率についても、特定行政庁が定める区域内の角地等では緩和される場合があります。

さらに、都市計画で定められた特定街区高度利用地区では、容積率の特例が認められることがあり、これらの特例は土地の価格に影響を与えます。


容積率に関連する規制と価格

容積率以外の建物規模に関する規制

容積率は建物の延べ面積を制限しますが、実際の建物規模は容積率だけでは決まりません。以下の規制も建物の規模・形態に影響します。

規制 内容 価格への影響
建ぺい率 建築面積の敷地面積に対する割合 建物の水平方向の広がりを制約
日影規制 周辺への日影の時間を制限 建物の高さ・形態を制約
斜線制限 道路斜線、隣地斜線、北側斜線 建物の高さ・形態を制約
絶対高さ制限 建物の絶対的な高さの上限 容積率が消化できない場合あり
高度地区 建物の高さの最高限度又は最低限度 地域の景観・環境に影響

これらの規制により、指定容積率を建物として消化できない場合があります。このような場合、指定容積率が高くても実質的に利用可能な容積率は低下するため、土地の価格もそれに応じて低下する可能性があります。

容積率の移転(容積移転)

容積率の移転とは、一定の条件のもとで、ある土地の未利用の容積率を別の土地に移転する仕組みです。特定街区制度等を活用して容積を移転することが可能であり、容積を受け入れる側の土地の価格が上昇する効果があります。


実務における容積率分析の留意点

有効容積率の把握

鑑定評価の実務では、有効容積率(実際に建物として消化可能な容積率)を把握することが重要です。

有効容積率 ≦ 適用容積率(= min(指定容積率, 基準容積率))

有効容積率は、日影規制・斜線制限等の形態規制を考慮した結果、適用容積率よりも低くなる場合があるため、これらの規制を個別に検討する必要があります。

容積対地価比の活用

容積対地価比とは、容積率1%あたりの地価を示す指標です。

容積対地価比 = 地価(円/平方メートル)÷ 容積率(%)

容積対地価比を用いることで、容積率が異なる土地の価格水準を比較することができます。ただし、容積率と価格の非比例関係に留意が必要です。


試験での出題ポイント

短答式試験

不動産鑑定士の短答式試験では、以下の論点が問われます。

  • 指定容積率と基準容積率の違い
  • 基準容積率の計算方法(前面道路幅員 × 法定乗数)
  • 容積率と土地価格の関係が非比例である理由
  • 適用容積率の判定:min(指定容積率, 基準容積率)

論文式試験

論文式試験では、以下のテーマが出題される可能性があります。

  • 容積率格差修正の方法と理論的根拠
  • 容積率と土地価格の非比例関係の論述
  • 前面道路幅員が容積率を通じて土地価格に与える影響
  • 有効容積率と適用容積率の関係

暗記のポイント

  1. 容積率の定義 — 延べ面積 ÷ 敷地面積 × 100(%)
  2. 適用容積率 — min(指定容積率, 基準容積率)
  3. 基準容積率 — 前面道路幅員 × 法定乗数(住居系:4/10、その他:6/10)
  4. 非比例関係 — 高層化に伴う建築コストの逓増等により、容積率と価格は単純比例しない
  5. 容積率格差修正 — 収益ベースの修正が理論的に精度が高い

まとめ

容積率は土地の収益性を通じて価格に大きく影響する重要な個別的要因です。指定容積率と基準容積率の関係を正確に把握し、適用容積率を判定した上で、容積率格差修正を適切に行う能力が求められます。容積率と土地価格は単純な比例関係にはならず、建築コストの逓増等を考慮した収益ベースの分析が重要です。画地条件の基本個別的要因(土地)とあわせて理解を深めましょう。