生産緑地法の概要

生産緑地法は、市街化区域内にある農地等を計画的に保全し、良好な都市環境の形成を図ることを目的とする法律です。不動産鑑定士の鑑定評価の実務では、生産緑地地区の指定要件行為制限買取り申出制度が重要な論点です。

※ 本法令は不動産鑑定士試験(行政法規)の37法令には含まれません。ただし、鑑定評価の実務において不動産の価格形成に影響を与える法令であるため、実務的な観点から解説します。

また、2022年に多くの生産緑地が指定から30年を迎えた「2022年問題」は、不動産市場への影響を含めて鑑定評価の実務にも関わる重要なテーマです。


生産緑地法の目的

この法律は、生産緑地地区に関する都市計画に関し必要な事項を定めることにより、農林漁業との調整を図りつつ、良好な都市環境の形成に資することを目的とする。

― 生産緑地法 第1条

市街化区域は本来、優先的に市街化を進める区域です。しかし、市街化区域内にある農地をすべて宅地化すると、緑地や農地が失われ、都市環境が悪化する恐れがあります。生産緑地法は、こうした農地のうち保全すべきものを生産緑地地区として指定し、農業を継続させることで都市環境を維持する制度です。


生産緑地地区の指定要件

指定の主体

生産緑地地区は、市町村が定める都市計画として指定されます。

指定の要件

生産緑地地区に指定されるためには、次の要件を満たす必要があります。

要件 内容
公害・災害の防止等 公害又は災害の防止、農林漁業と調和した都市環境の保全等に効用があり、公共施設等の敷地の用に供する土地として適していること
面積要件 一団の区域の面積が300㎡以上であること(2017年改正で500㎡から引下げ。条例でさらに引下げ可能)
農林漁業の継続 用排水その他の状況を勘案して農林漁業の継続が可能であること

2017年の法改正による変更点

2017年(平成29年)の法改正では、以下の重要な変更が行われました。

  • 面積要件の引下げ: 500㎡以上 → 300㎡以上(条例でさらに引下げ可能)
  • 特定生産緑地制度の創設: 指定から30年経過前に、10年延長を可能とする制度
  • 建築制限の緩和: 農産物の加工施設や直売所等の設置が可能に

生産緑地地区における行為制限

原則

生産緑地地区では、次の行為が原則として禁止されています。

  • 建築物の新築、改築、増築
  • 宅地の造成
  • 土石の採取その他の土地の形質の変更

生産緑地地区内においては、次に掲げる行為は、市町村長の許可を受けなければ、してはならない。

― 生産緑地法 第8条第1項

例外(許可される行為)

以下の行為は、市町村長の許可を受けて行うことができます。

許可される行為 内容
農林漁業を営むために必要な施設 農業用温室、畜舎、農機具収納施設等
農産物等の加工施設・直売所 2017年改正で追加
農家レストラン 2017年改正で追加

買取り申出制度

制度の概要

生産緑地の所有者は、一定の要件を満たした場合に市町村長に対して買取りを申し出ることができます。

買取り申出ができる場合

要件 内容
30年経過 生産緑地地区の指定から30年が経過したとき
主たる従事者の死亡 農業の主たる従事者が死亡したとき
主たる従事者の故障 農業の主たる従事者が農業に従事することが不可能になる故障を負ったとき

買取り申出後の流れ

  1. 所有者が市町村長に買取り申出
  2. 市町村長は1か月以内に買い取るか否かを通知
  3. 市町村が買い取らない場合 → 農業委員会へのあっせん(農業従事者への売渡しの仲介)
  4. あっせんが成立しない場合(申出から3か月経過) → 行為制限が解除される

行為制限が解除されると、所有者は自由に宅地化できるようになります。


2022年問題とは

問題の背景

1992年(平成4年)の生産緑地法改正で指定された多くの生産緑地が、2022年に指定から30年を迎えました。30年が経過すると所有者は買取り申出が可能になるため、大量の生産緑地が一斉に宅地化される恐れが指摘されていました。これが「2022年問題」です。

不動産市場への影響

影響 内容
宅地供給の増加 生産緑地が宅地化されれば、特に都市部の住宅用地の供給が増加
地価への影響 大量供給により、周辺の地価が下落する可能性
税制の変化 生産緑地の指定が外れると、固定資産税が農地課税から宅地並み課税へ大幅増

特定生産緑地制度による対応

2022年問題への対策として、2017年改正で特定生産緑地制度が創設されました。

  • 指定から30年経過前に、所有者の同意を得て特定生産緑地に指定できる
  • 特定生産緑地に指定されると、買取り申出可能時期が10年延長される
  • 10年ごとに繰り返し延長が可能
  • 特定生産緑地に指定しなかった場合、30年経過後はいつでも買取り申出が可能

鑑定評価との関連

生産緑地の評価上の留意点

生産緑地を鑑定評価する場合、以下の点に留意する必要があります。

評価上の論点 内容
行為制限 建築物の建築や宅地造成が制限されているため、宅地としての利用は不可
買取り申出の可否 30年経過前か後かで、宅地化の可能性が異なる
特定生産緑地の指定 特定生産緑地に指定されていれば、当面は農地としての評価が基本
税制面の影響 農地課税か宅地並み課税かで所有コストが大幅に異なる

評価の類型

生産緑地の評価は、以下のように場面によって異なります。

  • 指定継続中: 農地としての評価が基本。行為制限を反映して宅地としての評価は困難
  • 買取り申出後(行為制限解除前): 解除の見込み時期を考慮した評価
  • 行為制限解除後: 宅地見込地として評価。宅地化に要する費用等を控除

鑑定評価の実務での留意点

重要な数値・要件の整理

  • 面積要件: 300㎡以上(2017年改正後の数値)
  • 買取り申出の要件: 30年経過、主たる従事者の死亡・故障
  • 買取り申出後の流れ: 1か月以内の通知、3か月経過で行為制限解除
  • 「生産緑地地区内では一切の建築行為が禁止されている」→ 誤り。農林漁業用施設等は許可を受けて建築可能

評価における着眼点

  • 2022年問題と特定生産緑地制度の関係が不動産市場に与える影響
  • 生産緑地の鑑定評価上の留意点と行為制限との関係

主要ポイントの整理

  1. 面積要件: 300㎡以上(条例でさらに引下げ可能)
  2. 買取り申出: 30年経過死亡故障の3つ
  3. 市町村の通知期限: 1か月以内、行為制限解除: 3か月経過
  4. 特定生産緑地: 10年ごとに延長可能

まとめ

生産緑地法は、市街化区域内の農地を保全し、良好な都市環境を維持するための法律です。面積要件(300㎡以上)、行為制限、買取り申出制度、そして2022年問題への対策としての特定生産緑地制度を正確に押さえておきましょう。鑑定評価の実務では、価格形成要因の分析において生産緑地の指定の有無が重要な要素となります。行政法規の他の論点は都市計画法の概要農地法の概要の記事も参照してください。