定期借地権の評価方法|普通借地権との違い
定期借地権の評価の特徴
不動産鑑定士試験において、定期借地権は普通借地権と対比して問われる重要テーマです。定期借地権は、契約期間の満了により確定的に終了する借地権であり、更新がありません。普通借地権が実質的に半永久的な利用権としての価値を有するのに対し、定期借地権は残存期間の短縮に伴って価値が逓減するという根本的な違いがあります。この相違は、評価手法にも大きな影響を及ぼします。
借地権の鑑定評価額は、借地権の取引慣行の有無及びその成熟の程度によってその手法を異にするものである。
― 不動産鑑定評価基準 各論第1章
定期借地権制度の概要
制度の趣旨
定期借地権制度は、平成4年(1992年)の借地借家法施行により導入されました。従来の普通借地権では、借地借家法の強い保護により地主が土地を回収することが事実上困難であったため、期間満了で確定的に土地が返還される制度を創設し、土地の有効利用を促進することが目的です。
3種類の定期借地権
借地借家法では、以下の3種類の定期借地権が規定されています。
| 種類 | 存続期間 | 利用目的 | 条文 |
|---|---|---|---|
| 一般定期借地権 | 50年以上 | 制限なし | 借地借家法第22条 |
| 事業用定期借地権 | 10年以上50年未満 | 事業用建物に限定 | 借地借家法第23条 |
| 建物譲渡特約付借地権 | 30年以上 | 制限なし | 借地借家法第24条 |
普通借地権との比較
根本的な違い
| 比較項目 | 普通借地権 | 定期借地権 |
|---|---|---|
| 更新 | あり(正当事由がなければ自動更新) | なし(期間満了で確定的に終了) |
| 存続期間 | 最低30年(実質的に半永久) | 契約で定めた期間(確定的) |
| 建物買取請求権 | あり | なし(一般定期・事業用定期) |
| 期間満了時 | 更新が原則 | 原状回復して土地を返還 |
| 借地権の価値 | 安定的(更新により存続) | 残存期間に応じて逓減 |
価格形成メカニズムの違い
普通借地権は更新が前提であるため、期間の経過による価値の低下は限定的です。一方、定期借地権は更新がないため、残存期間が短くなるほど経済的価値が低下します。
【普通借地権】
設定時の価値 ≒ 中途時の価値 ≒ 更新後の価値(安定的)
【定期借地権】
設定時の価値 > 中途時の価値 > 期間満了近くの価値(逓減的)
定期借地権の評価方法
基本的な考え方
定期借地権の評価では、残存期間にわたって借地人が享受する経済的利益の現在価値を求めることが基本的な考え方です。
評価手法の体系
| 手法 | 内容 | 適用の可否 |
|---|---|---|
| DCF法 | 残存期間の各期のキャッシュフローの現在価値の総和 | 最も適合的 |
| 取引事例比較法 | 定期借地権の取引事例に基づく比準 | 事例があれば適用可能 |
| 差額方式 | 正常賃料と実際支払賃料の差額の現在価値の総和 | 賃料差額がある場合 |
| 借地権割合法 | 更地価格に割合を乗じる方法 | 定期借地権には不向き |
DCF法による評価
定期借地権の評価にDCF法が最も適合的である理由は、残存期間が確定しており、各期のキャッシュフローを具体的に予測できるためです。
定期借地権の価格 = Σ(各期の経済的利益の現在価値)
経済的利益の内容
| 経済的利益 | 内容 |
|---|---|
| 賃料差額 | 正常賃料(新規賃料相当)と実際支払賃料(地代)の差額 |
| 使用収益の価値 | 建物を建築して利用することによる収益 |
| 転貸収益 | 転貸が可能な場合の差額収益 |
一般定期借地権の評価
特徴と評価上の留意点
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 存続期間 | 50年以上 |
| 利用目的 | 制限なし(住宅・事業用いずれも可) |
| 典型的な利用形態 | 分譲マンション、戸建住宅 |
| 契約方式 | 公正証書等の書面 |
評価のポイント
- 残存期間が長い場合(例:設定後10年、残存40年)は、定期借地権の価値は比較的高い
- 残存期間が短い場合(例:残存10年)は、土地の返還が近いため価値は大きく低下
- 建物除却費用の見積りが重要(期間満了時に建物を取り壊して更地返還する義務)
数値例
| 前提条件 | 内容 |
|---|---|
| 更地価格 | 5,000万円 |
| 設定期間 | 50年 |
| 残存期間 | 30年 |
| 年間賃料差額 | 80万円 |
| 割引率 | 4.0% |
賃料差額の現在価値の総和(30年間、年80万円、割引率4%)
≒ 80万円 × 年金現価係数(30年、4%)
= 80万円 × 17.292
= 約1,383万円
この結果、定期借地権の価格は更地価格の約28%にとどまります。普通借地権であれば60%〜70%程度の水準であることと比較すると、定期借地権の価値が低いことがわかります。
事業用定期借地権の評価
特徴
事業用定期借地権については事業用定期借地権の評価で詳しく解説していますが、主な特徴は以下の通りです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 存続期間 | 10年以上50年未満 |
| 利用目的 | 事業用建物に限定(住居用は不可) |
| 典型的な利用形態 | ロードサイド店舗、コンビニ、商業施設 |
| 契約方式 | 公正証書による設定契約 |
評価のポイント
- 存続期間が比較的短いため、期間中の収益性が評価の中心
- 事業用途に限定されるため、市場性が普通借地権や一般定期借地権と異なる
- 建物投資の回収可能性が重要な判断要素
建物譲渡特約付借地権の評価
特徴
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 存続期間 | 30年以上 |
| 特徴 | 期間満了時に地主が建物を相当の対価で買い取る特約 |
| 利用目的 | 制限なし |
| 建物買取 | 地主が買い取ることで借地権が消滅 |
評価のポイント
- 一般定期借地権と異なり、建物の取壊し義務がない
- 期間満了時に建物が地主に譲渡されるため、建物の残存価値を考慮する必要
- 借地人にとっては建物の取壊し費用が不要であるため、設定時の一時金が高くなる傾向
残存期間と定期借地権の価値の関係
価値の逓減カーブ
定期借地権の価値は、残存期間の短縮に伴って逓減します。ただし、その逓減は直線的ではなく、期間満了に近づくほど急激に低下する傾向があります。
| 残存期間 | 定期借地権の価値(概算) | 更地価格に対する割合 |
|---|---|---|
| 50年(設定時) | 高い | 25%〜40% |
| 40年 | やや高い | 20%〜35% |
| 30年 | 中程度 | 15%〜28% |
| 20年 | やや低い | 10%〜20% |
| 10年 | 低い | 5%〜12% |
| 5年以下 | 極めて低い | 3%以下 |
逓減が急激になる理由
- 建物の利用可能期間の制約:残存期間が短いと建替えが不経済になる
- 建物除却費用の重み:残存期間が短いほど、除却費用が相対的に大きくなる
- 利用の制約:残存期間が短いと、新たな投資や用途転換が困難になる
定期借地権と底地の関係
定期借地権付きの底地
定期借地権が設定された土地の底地は、普通借地権の底地と比べて比較的高い価格で形成されます。これは、期間満了時に確実に土地が返還されるためです。
| 比較項目 | 普通借地権の底地 | 定期借地権の底地 |
|---|---|---|
| 土地の返還 | 不確実(更新が原則) | 確実(期間満了で返還) |
| 底地の価格 | 低い | 比較的高い |
| 地代水準 | 低い傾向 | 適正水準に近い |
| 投資判断 | 土地回収の見込みが立ちにくい | 回収時期が確定しているため判断しやすい |
定期借地権の底地価格 = 地代の現在価値の総和 + 更地復帰価格の現在価値
試験での出題ポイント
短答式試験
不動産鑑定士の短答式試験では、以下の論点が出題されます。
- 3種類の定期借地権の違い:存続期間、利用目的、契約方式
- 普通借地権との根本的な違い:更新の有無、建物買取請求権の有無
- 残存期間と価値の関係:残存期間の短縮に伴い価値が逓減すること
- 評価手法:DCF法が最も適合的であること
論文式試験
論文式試験では、以下の体系的な論述が求められます。
- 定期借地権と普通借地権の価格形成メカニズムの違い
- 残存期間に応じた価値の逓減を理論的に説明する
- 定期借地権の評価手法の体系(DCF法を中心に)
- 定期借地権の底地が普通借地権の底地より高い理由
暗記のポイント
- 3種類の定期借地権 — 一般定期(50年以上)、事業用定期(10年以上50年未満)、建物譲渡特約付(30年以上)
- 普通借地権との違い — 更新なし、建物買取請求権なし(一般定期・事業用定期)、期間満了で確定的に終了
- 価値の逓減 — 残存期間の短縮に伴い価値が逓減。期間満了に近づくほど急激に低下
- 評価手法 — DCF法が最も適合的。借地権割合法は不向き
- 底地との関係 — 定期借地権の底地は普通借地権の底地より価格が高い
まとめ
定期借地権は、更新がなく期間満了で確定的に終了する借地権であり、残存期間に応じて価値が逓減する点が普通借地権との最大の違いです。評価にはDCF法が最も適合的であり、残存期間中のキャッシュフローの現在価値として価格を求めます。定期借地権の底地は、土地の返還が確実であるため普通借地権の底地より高い価格で形成されます。
定期借地権の理解は、借地権の鑑定評価の基礎知識が前提となります。また、事業用定期借地権の評価や底地割合と底地価格の関係とあわせて学習することで、定期借地権の全体像が把握できるでしょう。