事業用定期借地権の評価|商業施設の底地
事業用定期借地権の評価の特徴
不動産鑑定士試験において、事業用定期借地権は定期借地権の中でも実務上の出題頻度が高いテーマです。事業用定期借地権は、事業用建物の所有を目的とし、存続期間が10年以上50年未満に限定された定期借地権です。ロードサイド店舗や商業施設の敷地で広く活用されており、建物投資の回収可能性と残存期間に応じた価値の逓減が評価の中心的な論点となります。
専ら事業の用に供する建物(居住の用に供するものを除く。)の所有を目的とし、かつ、存続期間を三十年以上五十年未満として借地権を設定する場合においては、第九条及び第十六条の規定にかかわらず、契約の更新及び建物の築造による存続期間の延長がなく、並びに第十三条の規定による買取りの請求をしないこととする旨を定めることができる。
― 借地借家法 第23条第1項
事業用定期借地権の制度概要
2つの類型
事業用定期借地権は、存続期間に応じて2つの類型に分けられます(平成20年の借地借家法改正による)。
| 類型 | 存続期間 | 根拠条文 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 30年以上50年未満型 | 30年以上50年未満 | 第23条第1項 | 更新なし・買取請求なし等を特約できる |
| 10年以上30年未満型 | 10年以上30年未満 | 第23条第2項 | 更新なし・買取請求なしが当然に適用 |
一般定期借地権との比較
| 比較項目 | 事業用定期借地権 | 一般定期借地権 |
|---|---|---|
| 存続期間 | 10年以上50年未満 | 50年以上 |
| 利用目的 | 事業用建物に限定 | 制限なし |
| 契約方式 | 公正証書 | 公正証書等の書面 |
| 典型的な利用 | ロードサイド店舗、商業施設 | 分譲マンション、住宅 |
| 居住用建物 | 不可 | 可能 |
「事業用建物」の範囲
事業用定期借地権は「専ら事業の用に供する建物」の所有を目的とするものであり、居住の用に供する建物は除外されます。
| 建物用途 | 事業用定期借地権 |
|---|---|
| コンビニ、スーパー | 利用可能 |
| 飲食店、ホテル | 利用可能 |
| 事務所ビル | 利用可能 |
| 物流倉庫 | 利用可能 |
| 住宅(戸建・マンション) | 利用不可 |
| 社宅、従業員寮 | 利用不可 |
事業用定期借地権の評価方法
評価の基本的な考え方
事業用定期借地権の評価は、残存期間にわたる事業収益の現在価値を基礎とします。事業用途に限定されるため、テナントの事業採算性と建物投資の回収可能性が評価の重要な要素となります。
評価手法の体系
| 手法 | 内容 | 適合性 |
|---|---|---|
| DCF法 | 残存期間の各期のキャッシュフローの現在価値の総和 | 最も適合的 |
| 取引事例比較法 | 事業用定期借地権の取引事例に基づく比準 | 事例収集が困難な場合あり |
| 差額方式 | 正常地代と実際支払地代の差額の現在価値の総和 | 差額がある場合 |
DCF法による評価
事業用定期借地権の価格
= Σ(各期の経済的利益の現在価値)
= 賃料差額等の現在価値の総和
経済的利益の構成
| 経済的利益 | 内容 |
|---|---|
| 賃料差額 | 正常地代と実際支払地代の差額 |
| 事業収益 | 建物からの事業利益(事業者の場合) |
| 転借差額 | 建物を第三者に賃貸する場合の差額収益 |
商業施設の底地評価
底地の特徴
事業用定期借地権が設定された商業施設の底地には、以下の特徴があります。
| 特徴 | 普通借地権の底地 | 事業用定期借地権の底地 |
|---|---|---|
| 土地の返還時期 | 不確実 | 確定的 |
| 地代水準 | 低い傾向 | 比較的適正 |
| 投資判断 | 困難 | 見通しが立てやすい |
| 市場性 | 極めて低い | 比較的高い |
底地の評価手法
底地の価格 = 地代収入の現在価値の総和 + 更地復帰価格の現在価値
具体例:ロードサイド店舗の底地
| 前提条件 | 内容 |
|---|---|
| 更地価格 | 1億円 |
| 設定期間 | 20年 |
| 残存期間 | 15年 |
| 年間地代 | 300万円 |
| 公租公課 | 80万円 |
| 純収益 | 220万円/年 |
| 割引率 | 4.0% |
ステップ1:地代収入の現在価値の総和
220万円 × 年金現価係数(15年、4%)
= 220万円 × 11.118
= 約2,446万円
ステップ2:更地復帰価格の現在価値
更地復帰価格 = 1億円 ×(1+年1%上昇)^15 ≒ 1億1,610万円
現在価値 = 1億1,610万円 ÷(1.04)^15
= 1億1,610万円 ÷ 1.8009
≒ 約6,447万円
ステップ3:底地の価格
底地の価格 = 2,446万円 + 6,447万円 = 約8,893万円
底地割合 = 8,893万円 ÷ 10,000万円 ≒ 88.9%
普通借地権の底地割合が20%〜30%程度であることと比較すると、事業用定期借地権の底地は大幅に高い割合であることがわかります。これは土地の返還が確定しているためです。
存続期間別の評価のポイント
短期型(10年以上30年未満)
| 特徴 | 評価上の留意点 |
|---|---|
| 比較的短い存続期間 | 建物投資の回収期間が限られる |
| コンビニ、ファストフード等に多い | テナントの業態と採算性が重要 |
| 建物は簡易な構造が多い | 建物除却費用は比較的少額 |
評価の特徴:存続期間が短いため、建物投資の回収可能性が最も重要な判断要素です。テナントの事業採算性が良好であれば、借地権の価値は確保されますが、残存期間が短縮するにつれて急速に逓減します。
長期型(30年以上50年未満)
| 特徴 | 評価上の留意点 |
|---|---|
| 比較的長い存続期間 | 大型の建物投資が可能 |
| 大型商業施設、物流施設等に多い | 長期の事業計画との整合性 |
| 建物は本格的な構造が多い | 建物除却費用が高額になりうる |
評価の特徴:存続期間が長いため、一般定期借地権に近い評価となることがあります。ただし、50年を超えないため、設定時から半永久的な利用は想定されていません。
事業用定期借地権の一時金
一時金の種類
事業用定期借地権の設定に際して、以下の一時金が授受されることがあります。
| 一時金の種類 | 内容 | 返還の有無 |
|---|---|---|
| 権利金 | 借地権設定の対価 | 返還なし |
| 保証金 | 地代債務等の担保 | 契約終了時に返還 |
| 前払い地代 | 地代の一部を一括前払い | 返還なし |
一時金と評価の関係
一時金の額は、事業用定期借地権の経済的価値を反映します。権利金が高い場合は地代が低く設定され、権利金が低い(又はなし)場合は地代が高くなるのが一般的です。
【権利金方式】権利金:高い + 地代:低い
【保証金方式】保証金:高い(返還あり)+ 地代:中程度
【地代方式】 権利金:なし + 地代:高い
実務でよく見る事業用定期借地権
ロードサイド店舗
| 項目 | 典型例 |
|---|---|
| テナント | コンビニ、飲食チェーン、ドラッグストア |
| 存続期間 | 10年〜20年 |
| 地代方式 | 保証金+月額地代が多い |
| 建物 | テナント建設(借地人所有) |
| 特徴 | テナントの信用力が底地の価値を左右 |
大型商業施設
| 項目 | 典型例 |
|---|---|
| テナント | ショッピングセンター、スーパー |
| 存続期間 | 30年〜50年 |
| 地代方式 | 権利金+月額地代、又は建設協力金方式 |
| 建物 | 借地人が大規模建物を建設 |
| 特徴 | 長期にわたる安定的な地代収入が期待される |
試験での出題ポイント
短答式試験
不動産鑑定士の短答式試験では、以下の論点が出題されます。
- 事業用定期借地権の存続期間:10年以上50年未満
- 利用目的の制限:専ら事業の用に供する建物(居住用は不可)
- 契約方式:公正証書による設定契約が必要
- 2つの類型の違い:30年以上50年未満型と10年以上30年未満型
- 一般定期借地権との違い:存続期間と利用目的
論文式試験
論文式試験では、以下の体系的な論述が求められます。
- 事業用定期借地権の制度趣旨と特徴
- 評価手法の体系(DCF法を中心に)
- 底地評価の特殊性(更地復帰価格の現在価値の考慮)
- 収益還元法との関連(キャッシュフローの予測方法)
暗記のポイント
- 存続期間 — 10年以上50年未満(2つの類型:30年以上/10年以上30年未満)
- 利用目的 — 専ら事業の用に供する建物の所有を目的とする(居住用は不可)
- 契約方式 — 公正証書による設定契約
- 底地の特徴 — 普通借地権の底地より大幅に高い価格。更地復帰が確実
- 評価手法 — DCF法が最も適合的。建物投資の回収可能性が重要な判断要素
まとめ
事業用定期借地権は、事業用建物の所有を目的とした存続期間10年以上50年未満の定期借地権です。ロードサイド店舗や商業施設で広く活用されており、建物投資の回収可能性とテナントの事業採算性が評価の中心となります。底地は普通借地権の底地より大幅に高い価格で形成されるのが特徴です。
事業用定期借地権は、定期借地権の評価の一類型であり、借地権の鑑定評価の基礎知識が前提となります。あわせて学習することで、借地権評価の全体像が把握できるでしょう。