割引率の求め方の概要

DCF法における割引率は、将来の各期の純収益と復帰価格を現在価値に割り引くための率であり、その求め方には積上法取引利回り比較法があります。不動産鑑定士試験では、割引率の意義、求め方の手順、還元利回りとの関係が重要論点として出題されます。

割引率は、将来の収益に影響を与える要因の変動予測と予測に伴う不確実性を含むものである。

― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節


割引率の意義

割引率とは

割引率とは、将来時点の収益を現在価値に換算するための率です。不動産投資において、1年後に受け取る100万円は現在の100万円よりも価値が低い(時間価値)ため、将来の収益を割り引いて現在の価値に引き直す必要があります。

n年後の収益の現在価値 = n年後の収益 ÷ (1 + 割引率)^n

DCF法における割引率の位置づけ

DCF法の収益価格は以下の算式で求められます。

         n     純収益t        復帰価格
収益価格 = Σ ──────── + ────────
        t=1 (1+Y)^t      (1+Y)^n

Y: 割引率
n: 保有期間

割引率の水準が変わると収益価格は大きく変動するため、割引率の査定は収益還元法の精度を決定づける最重要要素の一つです。


積上法による割引率の求め方

積上法の考え方

積上法は、リスクフリーレート(無リスク利率)を基礎に、不動産投資に伴う各種リスクに対応するプレミアムを加算して割引率を求める方法です。

割引率 = リスクフリーレート + リスクプレミアム

リスクフリーレートとは

リスクフリーレートは、信用リスクがほぼゼロとみなされる投資の利回りです。

指標 内容 水準(例)
10年物国債利回り 最も一般的な指標 0.5〜1.5%
長期プライムレート 金融機関の長期貸出金利 1.0〜2.0%

実務上は、10年物国債利回りをリスクフリーレートの基礎とすることが多いとされています。

リスクプレミアムの構成

リスクプレミアムは、不動産投資に固有のリスクを反映するための上乗せ率であり、以下の要素から構成されます。

リスク要素 内容 目安
不動産の個別性リスク 立地・用途・築年数等に起因するリスク 1.0〜3.0%
流動性リスク 不動産は換金に時間がかかる 0.5〜1.5%
管理運営リスク テナント管理・修繕等の負担 0.3〜1.0%
市場変動リスク 不動産市場の景気変動による影響 0.5〜2.0%
インフレリスク 物価変動による実質価値の変化 0.0〜0.5%

積上法の計算例

【例】都心部の事務所ビル
リスクフリーレート(10年国債利回り):     1.0%
不動産の個別性リスク:                     1.5%
流動性リスク:                             0.8%
管理運営リスク:                           0.5%
市場変動リスク:                           1.0%
インフレリスク:                           0.2%
────────────────────────────────────────
割引率 = 1.0 + 1.5 + 0.8 + 0.5 + 1.0 + 0.2 = 5.0%
【例】郊外の住宅用賃貸マンション
リスクフリーレート:                       1.0%
不動産の個別性リスク:                     2.5%
流動性リスク:                             1.2%
管理運営リスク:                           0.8%
市場変動リスク:                           1.5%
インフレリスク:                           0.3%
────────────────────────────────────────
割引率 = 1.0 + 2.5 + 1.2 + 0.8 + 1.5 + 0.3 = 7.3%

取引利回り比較法による割引率の求め方

取引利回り比較法の考え方

取引利回り比較法は、類似の不動産の取引事例から把握される利回り(取引利回り)を基礎として、対象不動産の割引率を査定する方法です。

手順

  1. 類似の取引事例を収集: 対象不動産と用途・規模・立地等が類似する投資用不動産の取引事例を収集
  2. 取引利回りの把握: 各事例について、取引価格とDCF法の分析に基づく割引率を把握
  3. 比較検討: 各事例の割引率と対象不動産の特性を比較し、適切な割引率を査定

比較にあたっての調整要素

調整要素 内容
用途 事務所・住宅・商業施設等の用途の違い
立地 都心部・郊外等の立地条件の違い
築年数・グレード 建物の品等の違い
テナント構成 入居テナントの信用力、契約条件の違い
市場環境 取引時点の市場環境の違い

計算例

【例】事務所ビルの割引率査定
事例A:  都心5A 築5年  割引率 4.5%
事例B:  都心3A 築10年 割引率 5.0%
事例C:  都心5A 築15年 割引率 5.2%
事例D:  副都心  築8年  割引率 5.5%

対象不動産: 都心3A 築12年

→ 事例B・Cを重視し、築年数の違いを考慮
→ 割引率: 5.2%と査定

割引率と還元利回りの関係

両者の定義の違い

項目 割引率 還元利回り
使用する手法 DCF法 直接還元法
役割 各期の収益を現在価値に割り引く 一期間の純収益を収益価格に還元する
記号 Y(Yield Rate) R(Capitalization Rate)
将来予測の反映 割引率自体に含む 純収益または利回りに含む

数学的な関係

理論的には、還元利回りと割引率の間には以下の関係が成り立ちます。

R = Y − g

R: 還元利回り
Y: 割引率
g: 純収益の変動率(成長率)

この式から、純収益が成長すると見込まれる場合は還元利回りは割引率よりも低くなり、純収益が減少すると見込まれる場合は還元利回りは割引率よりも高くなることがわかります。

具体例での比較

【例1】純収益が年2%成長する場合
割引率:     5.0%
純収益成長率: 2.0%
還元利回り:   5.0% − 2.0% = 3.0%

【例2】純収益が年1%減少する場合
割引率:     5.0%
純収益成長率: −1.0%
還元利回り:   5.0% − (−1.0%) = 6.0%

【例3】純収益が安定している場合
割引率:     5.0%
純収益成長率: 0%
還元利回り:   5.0% − 0% = 5.0%

割引率の感度分析

割引率のわずかな変動が収益価格に与える影響を確認します。

【前提】年間純収益500万円、保有期間10年、復帰価格8,000万円

割引率4.0%の場合:
  純収益の現在価値: 500 × 8.1109 ≒ 4,055万円
  復帰価格の現在価値: 8,000 ÷ 1.4802 ≒ 5,405万円
  収益価格: 4,055 + 5,405 ≒ 9,460万円

割引率5.0%の場合:
  純収益の現在価値: 500 × 7.7217 ≒ 3,861万円
  復帰価格の現在価値: 8,000 ÷ 1.6289 ≒ 4,911万円
  収益価格: 3,861 + 4,911 ≒ 8,772万円

割引率6.0%の場合:
  純収益の現在価値: 500 × 7.3601 ≒ 3,680万円
  復帰価格の現在価値: 8,000 ÷ 1.7908 ≒ 4,468万円
  収益価格: 3,680 + 4,468 ≒ 8,148万円

割引率が1%変動するだけで、収益価格は600〜700万円程度変動します。このことから、割引率の査定がいかに重要であるかがわかります。


試験での出題ポイント

短答式試験

  • 積上法の構成要素(リスクフリーレート+リスクプレミアム)の正誤判定
  • 割引率と還元利回り定義の違い
  • 割引率と純収益の変動率の関係(R = Y − g)
  • 割引率が上昇した場合の収益価格への影響

論文式試験

  • 割引率の意義と求め方(積上法・取引利回り比較法)の記述
  • 割引率と還元利回りの関係を数式を用いて説明
  • DCF法における割引率の位置づけと査定の留意点

暗記のポイント

  1. 割引率の意義: 将来の収益を現在価値に割り引くための率
  2. 積上法: 割引率 = リスクフリーレート + リスクプレミアム
  3. 取引利回り比較法: 類似不動産の取引利回りを基礎に査定
  4. 還元利回りとの関係: R = Y − g(還元利回り = 割引率 − 純収益の変動率)
  5. 基準の文言: 割引率は「将来の収益に影響を与える要因の変動予測と予測に伴う不確実性を含む」

まとめ

DCF法における割引率は、積上法と取引利回り比較法によって求められます。積上法ではリスクフリーレートにリスクプレミアムを加算し、取引利回り比較法では類似不動産の取引利回りを基礎とします。また、還元利回りとの関係(R = Y − g)を理解することで、直接還元法とDCF法の整合性を検証することもできます。DCF法の全体像や還元利回りの求め方と合わせて学習を進めましょう。