令和3年論文式試験の概要

令和3年(2021年)の不動産鑑定士論文式試験・鑑定理論科目では、価格形成要因の体系的な論述不動産の類型に応じた評価手法の選択・適用が主要論点でした。本記事では、これらの論点について基準の該当条文を根拠にした答案構成の骨格を解説します。

論文式の鑑定理論では、「結論→基準引用→趣旨説明→当てはめ→結論」の論述パターンが高得点に直結します。以下、論点ごとに具体的な答案の組み立て方を示します。


令和3年論文式試験の概要

試験の基本情報

項目 内容
試験日 2021年8月(3日間)
鑑定理論(論文) 午前2時間+午後2時間
鑑定理論(演習) 2時間
出題形式 記述式
配点 鑑定理論は全科目中で最も配点比率が高い

合格率の推移

年度 論文式合格率(概算) 最終合格者数
令和元年 約15% 121人
令和2年 約16% 135人
令和3年 約17% 143人
令和4年 約15% 143人

主要論点1:価格形成要因の3分類と分析方法

論点の特定

価格形成要因の3分類は、論文式で体系的な論述を求められる代表的テーマです。

引用すべき基準の条文

価格形成要因とは、不動産の効用及び相対的稀少性並びに不動産に対する有効需要の三者に影響を与える要因をいう。不動産の価格は、多数の価格形成要因の相互作用の結果として形成されるものであるが、要因それ自体も常に変動する傾向を持っている。

― 不動産鑑定評価基準 総論第3章

答案構成の骨格

問い:「価格形成要因について、その意義、分類及び分析方法を述べよ」

【結論】
価格形成要因とは、不動産の経済価値に影響を与える要因であり、
一般的要因、地域要因、個別的要因の3つに分類される。

【基準の引用:価格形成要因の定義】
「価格形成要因とは、不動産の効用及び相対的稀少性並びに
 不動産に対する有効需要の三者に影響を与える要因をいう。」
(総論第3章)

【一般的要因の説明】
一般的要因とは、一般経済社会における不動産のあり方及び
その価格の水準に影響を与える要因をいう。
  具体例:自然的要因、社会的要因、経済的要因、行政的要因

【地域要因の説明】
地域要因とは、一般的要因の相関結合によって規模、構成の内容、
機能等にわたる各地域の特性を形成し、その地域に属する不動産の
価格の形成に全般的な影響を与える要因をいう。
  具体例:住宅地域の場合、交通接近条件、環境条件、
  行政的条件等

【個別的要因の説明】
個別的要因とは、不動産に個別性を生じさせ、
その価格を個別的に形成する要因をいう。
  具体例:土地の場合、画地の形状、間口・奥行、
  接面街路の状況等

【分析方法】
価格形成要因の分析は、地域分析と個別分析を通じて行う。
地域分析では近隣地域と類似地域の特性を把握し、
個別分析では対象不動産固有の特性を把握する。

【結論の再確認】
以上のように、価格形成要因の3分類を正確に把握し、
それぞれを適切に分析することが、
適正な鑑定評価の基礎となる。

典型的な失点パターン

失点パターン 原因分析 対策
3分類の定義が不正確 基準の文言と異なる表現で書いてしまう 各定義を基準の文言そのままで暗記
具体例が乏しい 定義だけ書いて具体的な要因を列挙しない 各分類の具体例を最低5つ暗記
3分類の影響範囲を混同 一般的要因と地域要因の違いが不明確 「価格水準全般」「地域全般」「個々の不動産」の階層を整理
分析方法への言及がない 分類の説明で終わり、分析の手順を書かない 地域分析・個別分析との関連を必ず言及

主要論点2:地域分析と個別分析

論点の特定

地域分析と個別分析は、価格形成要因の分析と密接に関連する論点です。

引用すべき基準の条文

基準では、地域分析について、対象不動産がどのような地域に存するか、その地域はどのような特性を有するか、対象不動産に係る市場はどのような特性を有するか、それらの特性はその地域内の不動産の利用形態と価格形成についてどのような影響力を持っているかを分析し、判定することと規定しています。

また、近隣地域の概念について、基準は以下のように規定しています。

近隣地域とは、対象不動産の属する用途的地域であって、より大きな規模と内容とを持つ地域である都市あるいは農村等の内部にあって、居住、商業活動、工業生産活動等人の生活と活動とに関して、ある特定の用途に供されることを中心として地域的にまとまりを示している地域をいい、対象不動産の価格の形成に関して直接に影響を与えるような特性を持つものである。

― 不動産鑑定評価基準 総論第6章第1節

答案構成の骨格

問い:「地域分析の意義と手順について述べよ」

【結論】
地域分析とは、対象不動産の属する地域の特性を把握し、
最有効使用の判定の基礎とする分析手法である。

【地域分析の意義】
- 対象不動産の属する近隣地域の特性を把握する
- 対象不動産に係る市場の特性を把握する
- 最有効使用の判定の基礎とする

【近隣地域の概念(基準引用)】
近隣地域とは「対象不動産の属する用途的地域であって…
対象不動産の価格の形成に関して直接に影響を与えるような
特性を持つもの」(総論第6章第1節)

【類似地域と同一需給圏の概念】
- 類似地域:近隣地域の地域の特性と類似する特性を有する地域
- 同一需給圏:対象不動産と代替、競争等の関係が成り立つ
  地域の範囲

【個別分析との関係】
地域分析の結果を踏まえた上で、対象不動産の個別的要因が
価格に与える影響を分析するのが個別分析である。

【結論の再確認】
地域分析は鑑定評価の手順において不可欠な工程であり、
その結果が最有効使用の判定と鑑定評価手法の適用に
直接影響する。

典型的な失点パターン

失点パターン 原因分析 対策
近隣地域と類似地域の区別が曖昧 両者の定義を正確に暗記していない 近隣地域=「属する」地域、類似地域=「類似する」地域と区別
地域分析の目的を書いていない 手順の説明に終始する 「最有効使用の判定の基礎とする」と明記
同一需給圏の概念が不正確 近隣地域との関係を理解していない 同一需給圏は近隣地域を含むより広い範囲

主要論点3:不動産の類型と評価手法の適用

論点の特定

不動産の種別と類型に応じた評価手法の選択は、各論の中核的な論点です。

類型別の適用手法と答案のポイント

不動産の類型 主な適用手法 答案で論じるべきポイント
更地 取引事例比較法、収益還元法、開発法 最有効使用の判定が前提。建物の建築を前提とした評価か、現状のままの評価かを明確にする
建物及びその敷地 原価法、取引事例比較法、収益還元法 3手法の併用が原則。各手法の適用が可能かどうかを検討し、適用できない場合はその理由を述べる
借地権 取引事例比較法、収益還元法 借地権の取引慣行の有無、借地権割合の適用可否を論じる
底地 収益還元法、取引事例比較法 底地特有の収益性の把握方法を論じる

答案構成の骨格(建物及びその敷地の場合)

問い:「建物及びその敷地の鑑定評価について、適用すべき手法と留意点を述べよ」

【結論】
建物及びその敷地の評価には、原価法、取引事例比較法、
収益還元法の3手法を原則として適用すべきである。

【原価法の適用と留意点】
- 再調達原価の算定:土地は取引事例比較法等で求めた価格、
  建物は直接法又は間接法で再調達原価を求める
- 減価修正:物理的・機能的・経済的減価を適切に把握
- 留意点:建物の減価修正において、耐用年数に基づく方法と
  観察減価法を併用すべき

【取引事例比較法の適用と留意点】
- 複合不動産としての取引事例を収集
- 事情補正・時点修正・地域要因比較・個別要因比較を実施
- 留意点:複合不動産の取引事例は、土地と建物の個別的要因が
  異なるため、比較に際して慎重な検討が必要

【収益還元法の適用と留意点】
- 対象不動産が生み出す純収益を把握
- 直接還元法又はDCF法を適用
- 留意点:賃貸用不動産の場合は収益還元法の説得力が高く、
  自用の場合は帰属賃料の把握方法に留意

【試算価格の調整】
3手法で求めた試算価格の説得力を検討し、
対象不動産の類型と市場の特性に応じて調整

【結論の再確認】
建物及びその敷地の評価においては、3手法を可能な限り
適用し、それぞれの試算価格の信頼性を検証した上で
鑑定評価額を決定すべきである。

主要論点4:原価法と収益還元法の適用上の留意点

原価法の引用すべき基準条文

原価法は、価格時点における対象不動産の再調達原価を求め、この再調達原価について減価修正を行って対象不動産の試算価格を求める手法である。

― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

原価法の論述ポイント

再調達原価の求め方

方法 内容
直接法 対象不動産を価格時点において再調達することを想定した場合に必要とされる適正な原価の総額を求める方法
間接法 類似の不動産の建設費等を基に対象不動産の再調達原価を間接的に求める方法

減価修正の論述で必須の内容

減価修正の方法には、耐用年数に基づく方法と、観察減価法の二つがある。これらを併用するものとする。

― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

答案では必ず以下を論じる必要があります。

  1. 減価修正の2つの方法(耐用年数に基づく方法と観察減価法)
  2. これらを併用すること
  3. 減価の3つの要因(物理的要因、機能的要因、経済的要因)

収益還元法の論述ポイント

収益還元法は、対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総和を求めることにより対象不動産の試算価格を求める手法である。

― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節

純収益の種類と算定

項目 内容
総収益 賃料収入、共益費収入、駐車場収入等
総費用 維持管理費、修繕費、公租公課、損害保険料等
純収益 総収益 − 総費用

答案では、純収益の算定方法を具体的に示すことが高得点につながります。


答案作成の実践テクニック

「問いに答える」ことの徹底

論文式試験で最もよくある失点原因は、問いに正面から答えていない答案です。

失敗パターン 対策
知識の羅列 問いの要求を明確にし、関連する知識のみを記述
当てはめ不足 引用後に必ず「本件では〜」と当てはめる
結論不明 冒頭と末尾に結論を明示する
論点ズレ 答案構成の段階で「何が問われているか」を言語化する

答案構成メモの作り方

【問い】何が問われているかを一文で整理
【結論】問いに対する答えを一文で
【引用する条文】キーワードをメモ
【論述の流れ】1→2→3の順番
【当てはめ】事例への適用(ある場合)
【関連論点】周辺で言及すべきこと

試験での出題ポイント

論文式で繰り返し出題されるテーマ

テーマ 出題頻度 答案で必須の内容
価格形成要因 2年に1回程度 3分類の定義(基準引用)+具体例+分析方法
地域分析・個別分析 2年に1回程度 近隣地域の定義+分析の目的+最有効使用との関連
類型別の評価手法 不定期 類型ごとの適用手法+各手法の留意点
原価法の減価修正 頻出 2つの方法+併用+3つの減価要因
収益還元法の純収益 頻出 定義+算定方法+直接還元法とDCF法

他年度との比較

令和3年と令和4年の出題テーマを比較すると、異なるテーマが交互に出題される傾向が見えます。両年度を解くことで、出題範囲の全体像を把握できます。

テーマ 令和3年 令和4年
価格形成要因 出題
地域分析・個別分析 出題
価格の種類 出題
鑑定評価の手順 出題
三方式の適用 出題 出題

三方式の適用は両年度で出題されており、最優先で対策すべきテーマです。


過去問の活用法

令和3年の過去問で練習すべきこと

  1. 答案構成の練習:問題を読んで10分で構成メモを作る
  2. 条文引用の練習:基準の条文を見ずに正確に書く。特に価格形成要因の3分類の定義
  3. 時間を計ったフル答案の作成:2時間で完成させる
  4. 模範答案との比較:予備校等の解答例と比較し、不足している論点を特定

過去問を使った効率的な学習法も参考にしてください。


まとめ

令和3年論文式試験・鑑定理論の主要論点と対策を整理します。

  • 価格形成要因の3分類は定義を基準の文言そのままで暗記し、具体例を最低5つ列挙できるようにする
  • 地域分析では近隣地域の定義を正確に引用し、「最有効使用の判定の基礎とする」という目的を明記する
  • 類型別の評価手法は各類型に適用すべき手法と留意点をセットで論述する
  • 原価法の減価修正は「2つの方法の併用」と「3つの減価要因」を必ず含める
  • 答案は「結論→基準引用→趣旨説明→当てはめ→結論」の5段階で構成する
  • 答案構成メモを先に作ることで、論理的で漏れのない答案になる

論文式の鑑定理論は、暗記力・論理構成力・当てはめ力の3つが求められます。論文式・鑑定理論の対策鑑定評価基準の暗記術も活用し、計画的に対策を進めましょう。