平成30年論文式・鑑定理論の過去問解説
出題の概要
平成30年(2018年)の不動産鑑定士論文式試験・鑑定理論科目は、不動産の類型に応じた鑑定評価と取引事例比較法の適用上の留意点を中心とした出題構成でした。不動産鑑定士試験の論文式において鑑定理論は最も配点比率が高く、この科目で安定して得点できるかどうかが合否を左右します。
平成30年の出題は、基準の各論(総論第7章〜第9章)に該当する内容が多く、実務的な適用場面を意識した論述が求められました。特に、不動産の類型ごとの評価手法の選択と適用、取引事例比較法における事例選択・補修正の手順に関して、基準の条文を正確に引用しながら体系的に論じる力が試されています。本記事では、各テーマの分析と解答の方向性を解説します。
問題の分析
出題テーマ1:不動産の類型と鑑定評価
平成30年の主要テーマとして、不動産の類型に応じた鑑定評価の方法が出題されました。基準は不動産を種別(宅地、農地、林地等)と類型(更地、建付地、借地権、底地等)に分類しており、各類型に応じた評価手法の適用が求められます。
| 分析項目 | 内容 |
|---|---|
| 該当する基準の章 | 総論第7章〜第9章(各論) |
| 問われた能力 | 類型ごとの適用手法を正確に把握し、留意点を論述する力 |
| 難易度 | やや高い(類型ごとの細かい知識が必要) |
| 類似の出題年度 | 令和3年、平成29年 |
出題テーマ2:取引事例比較法の適用手順と留意点
取引事例比較法の適用手順が詳細に問われました。取引事例比較法は鑑定評価の三方式の中で最も基本的な手法であり、事例の選択から比準価格の算定に至る一連の手順を体系的に論述することが求められています。
| 分析項目 | 内容 |
|---|---|
| 該当する基準の章 | 総論第7章第1節(取引事例比較法) |
| 問われた能力 | 事例選択・事情補正・時点修正・要因比較の手順を正確に論述する力 |
| 難易度 | 標準〜やや高い |
| 類似の出題年度 | 令和2年、平成28年 |
出題テーマ3:原価法における減価修正の3要因
減価修正の3要因(物理的要因・機能的要因・経済的要因)に関する詳細な論述も求められました。各減価要因の意義と具体例を示しながら、観察減価法と耐用年数に基づく方法の併用について論じる必要がありました。
| 分析項目 | 内容 |
|---|---|
| 該当する基準の章 | 総論第7章第1節(原価法・減価修正) |
| 問われた能力 | 減価の3要因の定義・具体例・修正方法を体系的に論述する力 |
| 難易度 | 標準 |
| 類似の出題年度 | 令和元年、令和3年 |
解答の方向性
テーマ1:不動産の類型と鑑定評価
論述すべきポイントの整理
-
不動産の種別と類型の体系 – 種別:宅地、農地、林地、見込地、移行地等 – 類型:所有権に基づくもの(更地、建付地、建物及びその敷地等)と所有権以外の権利に基づくもの(借地権、底地、区分地上権等)
-
更地の鑑定評価 – 適用手法:取引事例比較法、収益還元法(土地残余法)、開発法 – 最有効使用の判定が前提 – 建物の建築を前提とした収益還元法の適用が重要
-
建物及びその敷地の鑑定評価 – 適用手法:原価法、取引事例比較法、収益還元法 – 三方式の併用が原則 – 自用の場合と賃貸用の場合で各手法の説得力が異なる
-
借地権の鑑定評価 – 適用手法:取引事例比較法、収益還元法 – 借地権の取引慣行の有無が適用手法に影響 – 借地権割合に基づく方法と収益還元法に基づく方法
答案構成の骨格
【結論】
不動産の鑑定評価は、対象不動産の類型に応じて
適切な手法を選択し適用すべきである。
【不動産の類型の体系】
種別と類型の分類を基準に基づいて説明する。
【更地の鑑定評価】
適用手法と留意点を論述する。
【建物及びその敷地の鑑定評価】
三方式の適用と試算価格の調整を論述する。
【借地権の鑑定評価】
取引慣行の有無に応じた手法の選択を論述する。
【類型別の留意点の整理】
各類型の特徴と手法選択の判断基準をまとめる。
【結論の再確認】
類型に応じた適切な手法の選択が
適正な鑑定評価の基礎であることを確認する。
配点が高い記述のポイント
- 類型ごとの適用手法を表形式で整理した上で、各手法の適用理由を論述すると高得点です
- 三方式の併用が原則であることを前提としつつ、特定の類型では一部の手法が適用困難な場合があることにも言及する
- 各類型の評価において最有効使用の判定が前提となることを必ず述べる
| 類型 | 主な適用手法 | 留意点 |
|---|---|---|
| 更地 | 取引事例比較法、収益還元法、開発法 | 最有効使用の判定が大前提 |
| 建物及びその敷地 | 原価法、取引事例比較法、収益還元法 | 三方式の併用が原則 |
| 借地権 | 取引事例比較法、収益還元法 | 取引慣行の有無を確認 |
| 底地 | 収益還元法、取引事例比較法 | 安定的な地代収入の把握 |
テーマ2:取引事例比較法の適用手順
論述すべきポイントの整理
-
取引事例比較法の意義 – 多数の取引事例を収集して適切な事例の選択を行い、事例に係る取引価格に必要に応じて事情補正・時点修正を行い、かつ地域要因の比較・個別的要因の比較を行って求められた価格を比較考量して、対象不動産の試算価格を求める手法
-
事例選択の要件 – 事例選択の段階で、近隣地域又は類似地域に所在する不動産の取引事例を選択する – 事情が正常なもの、又は正常なものに補正できるものを採用 – 時点修正が可能なものを採用 – 地域要因・個別的要因の比較が可能なものを採用
-
補修正の4段階 – 事情補正:特殊な事情を排除し正常な価格に補正 – 時点修正:取引時点と価格時点の間の価格変動を修正 – 地域要因の比較:事例不動産の属する地域と対象不動産の属する地域の要因比較 – 個別的要因の比較:事例不動産と対象不動産の個別的要因の比較
-
比準価格の算定 – 複数の事例から求められた各比準価格を比較考量して試算価格を決定
答案構成の骨格
【結論】
取引事例比較法は、取引事例から比準価格を求める手法であり、
事例選択→事情補正→時点修正→要因比較の手順で適用する。
【基準の引用】
取引事例比較法の定義を正確に引用する。
【事例選択の要件】
適切な事例を選択するための要件を論述する。
【事情補正】
特殊な事情の排除方法を説明する。
【時点修正】
価格変動の修正方法を説明する。
【地域要因・個別的要因の比較】
比較の方法と留意点を説明する。
【比準価格の算定】
複数事例の比較考量による試算価格の決定方法を説明する。
【結論の再確認】
取引事例比較法の意義と各手順の重要性を再確認する。
テーマ3:原価法における減価修正の3要因
論述すべきポイントの整理
-
減価修正の意義 – 再調達原価から減価額を控除して積算価格を求める – 減価の原因を的確に把握し、適切に減価額を算出する
-
物理的減価 – 経年による劣化、損耗、老朽化 – 具体例:外壁のひび割れ、設備の腐食、屋根の劣化
-
機能的減価 – 設備の旧式化、間取りの陳腐化、建物の不適合 – 具体例:エレベーターの未設置、耐震性能の不足、設備仕様の低さ
-
経済的減価 – 周辺環境の変化、市場需要の変化、法的規制の変更 – 具体例:近隣に嫌悪施設が建設された、用途地域の変更による不適合
-
耐用年数に基づく方法と観察減価法の併用 – 耐用年数に基づく方法だけでは機能的減価・経済的減価を適切に捉えられない – 観察減価法を併用することで、実態に即した減価修正が可能になる
高得点のための留意事項
| ポイント | 記述内容 |
|---|---|
| 3要因の定義 | 各減価要因の意義を正確に記述する |
| 具体例の列挙 | 各要因について最低2〜3の具体例を示す |
| 併用の理由 | なぜ2つの方法を併用するのかの理由を論じる |
| 減価額の算出 | 減価額 = 再調達原価 × 減価率であることを示す |
関連する基準の条文
不動産の種別
不動産の種別とは、不動産の用途に関して区分される不動産の分類をいい、その種類を異にするに従って、不動産の価格形成要因及び鑑定評価の手法の適用が異なることとなる。
― 不動産鑑定評価基準 総論第2章
取引事例比較法の定義
取引事例比較法は、まず多数の取引事例を収集して適切な事例の選択を行い、これらに係る取引価格に必要に応じて事情補正及び時点修正を行い、かつ、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って求められた価格を比較考量し、これによって対象不動産の試算価格を求める手法である。
― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節
事例の選択要件
取引事例は、近隣地域又は同一需給圏内の類似地域に存する不動産に係るもののうちから選択するものとし、必要やむを得ない場合には近隣地域の周辺の地域に存する不動産に係るもののうちから、対象不動産の最有効使用が標準的使用と異なる場合等には、同一需給圏内の代替競争不動産に係るもののうちから選択するものとする。
― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節
減価修正の3要因
減価の要因は、物理的要因、機能的要因及び経済的要因に分けられる。
― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節
減価修正の方法
減価修正の方法には、耐用年数に基づく方法と、観察減価法の二つがある。これらを併用するものとする。
― 不動産鑑定評価基準 総論第7章第1節
更地の鑑定評価
更地の鑑定評価は、更地並びに配分法が適用できる場合における建物及びその敷地の取引事例に基づく比準価格並びに土地残余法による収益価格を関連づけて決定するものとする。再調達原価が把握できる場合には、積算価格をも関連づけて決定すべきである。
― 不動産鑑定評価基準 各論第1章第1節
試験での出題ポイント
平成30年の出題の特徴
平成30年の論文式・鑑定理論には、以下の特徴がありました。
| 特徴 | 詳細 |
|---|---|
| 各論の重視 | 不動産の類型に応じた評価方法という各論レベルの知識が問われた |
| 取引事例比較法の深掘り | 事例選択から比準価格算定までの手順を詳細に論述する必要があった |
| 減価修正の3要因 | 3つの減価要因を具体例とともに説明する力が求められた |
| 体系的な論述力 | 複数の論点を整理し、論理的に構成する力が試された |
類似テーマの出題履歴
| テーマ | 令和2年 | 令和元年 | 平成30年 | 平成29年 | 平成28年 |
|---|---|---|---|---|---|
| 不動産の類型と評価 | ― | ― | 出題 | ― | ― |
| 取引事例比較法 | ― | ― | 出題 | ― | 出題 |
| 原価法・減価修正 | ― | 出題 | 出題 | ― | ― |
| 収益還元法 | 出題 | ― | ― | ― | 出題 |
| 地域分析・個別分析 | ― | 出題 | ― | 出題 | ― |
三方式の各手法は順番に出題される傾向が見られます。平成30年では原価法と取引事例比較法が中心でしたが、収益還元法も他年度で頻繁に出題されており、三方式すべてを万遍なく対策する必要があります。
平成30年の出題から学ぶべきこと
-
類型別の評価手法を整理しておくこと:どの類型にどの手法が適用されるかを表形式で整理し、即座に論述できるように準備すべきです
-
取引事例比較法の4段階の手順を正確に暗記すること:事情補正→時点修正→地域要因の比較→個別的要因の比較の順序と各段階の内容を正確に書けることが必須です
-
減価修正は3要因と2つの方法をセットで記述すること:3つの減価要因と2つの修正方法(耐用年数法・観察減価法の併用)は必ずセットで出題されるため、一体として論述できるよう準備が必要です
-
具体例を豊富に示すこと:定義の引用だけでなく、各論点について具体的な例を示すことで答案の説得力が格段に上がります
合格率と受験状況
| 年度 | 論文式合格率(概算) | 最終合格者数 |
|---|---|---|
| 平成28年 | 約14% | 103人 |
| 平成29年 | 約14% | 106人 |
| 平成30年 | 約15% | 117人 |
| 令和元年 | 約15% | 121人 |
| 令和2年 | 約16% | 135人 |
平成30年は合格者数が117人と前年から増加傾向にありましたが、合格率は約15%と依然として厳しい数字でした。
まとめ
平成30年(2018年)の不動産鑑定士論文式試験・鑑定理論の出題テーマと解答の方向性を整理します。
- 不動産の類型に応じた鑑定評価が主要テーマとして出題され、更地・建物及びその敷地・借地権等の各類型に対する適用手法と留意点を体系的に論述する力が問われた
- 取引事例比較法では、事例選択から比準価格算定に至る4段階の手順(事情補正・時点修正・地域要因比較・個別的要因比較)を正確かつ詳細に論述することが求められた
- 減価修正の3要因(物理的・機能的・経済的)について、定義と具体例を明確に示し、耐用年数に基づく方法と観察減価法の併用の必要性を論じることが必要だった
- 各論レベルの知識が重視される出題傾向であり、類型ごとの評価手法を表形式で整理しておくことが有効
- 答案は「結論→基準引用→趣旨説明→当てはめ→結論」の5段階構成を徹底すべき
平成30年の出題は各論を中心とした実践的な内容でした。平成29年論文式・鑑定理論の過去問解説や令和元年論文式・鑑定理論の過去問解説と比較し、出題パターンを把握しましょう。論文式・鑑定理論の対策や鑑定評価基準の暗記術も活用してください。
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短答式の肢別演習・過去問から、論文式のドリル・論証カードまで、体系的に学習を進められます。
- 肢別演習 ― 鑑定理論・行政法規を一問一答で反復
- 過去問演習 ― 年度別・分野別に出題傾向を把握
- ドリル ― 重要用語を穴埋めで定着
- 論証カード ― 論文式で使える論証パターンを暗記