相続税における不動産評価|路線価方式と倍率方式
相続税における不動産評価の概要
相続税における不動産の評価は、国税庁が定める財産評価基本通達に基づいて行われます。不動産鑑定士試験の行政法規では、路線価方式と倍率方式の仕組み、画地補正率の種類、小規模宅地等の特例などが出題対象となります。
不動産鑑定士が行う鑑定評価とは異なる評価体系ですが、相続税路線価は公示価格の80%水準とされており、鑑定評価との関連も深い分野です。税務上の不動産評価の仕組みを理解することは、鑑定士の実務においても不可欠の知識です。
相続税評価の基本的な考え方
時価主義
相続税法第22条は、相続により取得した財産の価額は、取得の時における時価により評価すると定めています。
ただし、「時価」の具体的な算定方法については法律に明示されておらず、国税庁が定める財産評価基本通達に基づいて評価が行われます。
鑑定評価との違い
| 項目 | 相続税評価 | 鑑定評価 |
|---|---|---|
| 根拠 | 財産評価基本通達 | 不動産鑑定評価基準 |
| 評価主体 | 納税者(税理士が補助) | 不動産鑑定士 |
| 価格水準 | 公示価格の約80% | 時価(正常価格等) |
| 評価方法 | 路線価方式・倍率方式(画一的) | 三方式を適用(個別性を反映) |
| 目的 | 課税の公平性確保 | 適正な時価の判定 |
鑑定評価が不動産の個別性を重視するのに対し、相続税評価は大量・迅速な処理を前提とした画一的な評価体系です。
土地の評価方法
路線価方式
路線価方式は、路線価が定められている地域(主に市街地)の宅地の評価に用いられる方法です。
自用地の評価額 = 路線価 × 各種補正率 × 地積
路線価とは
路線価とは、道路(路線)に面する標準的な宅地の1平方メートル当たりの価額をいいます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発表時期 | 毎年7月1日 |
| 基準時点 | 毎年1月1日 |
| 価格水準 | 地価公示価格の約80% |
| 発表元 | 国税庁 |
| 閲覧方法 | 国税庁ウェブサイト「路線価図」 |
路線価図の見方
路線価図には、道路ごとに路線価(千円単位)と借地権割合を示すアルファベットが記載されています。
| 記号 | 借地権割合 |
|---|---|
| A | 90% |
| B | 80% |
| C | 70% |
| D | 60% |
| E | 50% |
| F | 40% |
| G | 30% |
例えば「300D」と記載されている場合、路線価は1平方メートル当たり30万円、借地権割合は60%であることを意味します。
倍率方式
倍率方式は、路線価が定められていない地域(主に郊外・農村部)の宅地の評価に用いられる方法です。
評価額 = 固定資産税評価額 × 倍率
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 適用地域 | 路線価が定められていない地域 |
| 基準 | 固定資産税評価額に国税局長が定める倍率を乗じる |
| 倍率表 | 国税庁ウェブサイト「評価倍率表」で確認 |
画地補正率
路線価方式では、標準的な画地と比較して形状等に差がある場合に、画地補正率を適用して評価額を調整します。
主な画地補正率
| 補正率名 | 適用場面 | 補正の方向 |
|---|---|---|
| 奥行価格補正率 | 奥行が長すぎる or 短すぎる宅地 | 減価 |
| 間口狭小補正率 | 間口が狭い宅地 | 減価 |
| 奥行長大補正率 | 奥行/間口の比率が大きい宅地 | 減価 |
| 不整形地補正率 | 不整形な宅地 | 減価 |
| がけ地補正率 | がけ地を含む宅地 | 減価 |
| 規模格差補正率 | 地積規模の大きな宅地 | 減価 |
| 側方路線影響加算率 | 角地(2路線に接する宅地) | 増価 |
| 二方路線影響加算率 | 2路線に挟まれた宅地 | 増価 |
計算例
以下の条件で自用地の評価額を計算します。
- 路線価:300千円(30万円/m2)
- 地積:200m2
- 奥行価格補正率:0.97(奥行がやや長い)
評価額 = 300,000円 × 0.97 × 200m2
= 58,200,000円
角地の計算例
角地(側方路線がある場合)の計算はやや複雑です。
- 正面路線価:400千円(40万円/m2)、奥行価格補正率:1.00
- 側方路線価:200千円(20万円/m2)、奥行価格補正率:0.98
- 側方路線影響加算率:0.03
- 地積:150m2
正面路線価(補正後)= 400,000円 × 1.00 = 400,000円
側方路線の加算額 = 200,000円 × 0.98 × 0.03 = 5,880円
1m2当たりの評価額 = 400,000円 + 5,880円 = 405,880円
評価額 = 405,880円 × 150m2 = 60,882,000円
借地権・借家権の評価
借地権の評価
借地権の相続税評価額は、以下の算式で求めます。
借地権の評価額 = 自用地の評価額 × 借地権割合
借地権割合は路線価図に記載されたA(90%)〜G(30%)で確認します。
貸宅地(底地)の評価
貸宅地(底地)の評価額は、以下の算式で求めます。
貸宅地の評価額 = 自用地の評価額 × (1 − 借地権割合)
貸家建付地の評価
貸家の敷地(貸家建付地)の評価額は、以下の算式で求めます。
貸家建付地の評価額 = 自用地の評価額 × (1 − 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
借家権割合は全国一律30%と定められています。
計算例
- 自用地の評価額:1億円
- 借地権割合:60%(D地域)
- 借家権割合:30%
- 賃貸割合:100%(満室)
貸家建付地の評価額 = 1億円 × (1 − 0.6 × 0.3 × 1.0)
= 1億円 × 0.82
= 8,200万円
自用地に比べて18%の減額となります。
家屋の評価
自用家屋の評価
自用家屋の評価額は、以下のとおりです。
自用家屋の評価額 = 固定資産税評価額 × 1.0
つまり、家屋の評価は固定資産税評価額そのままです。
貸家の評価
貸家の評価額は、借家権割合を控除して求めます。
貸家の評価額 = 固定資産税評価額 × (1 − 借家権割合 × 賃貸割合)
満室の場合、借家権割合30%が控除され、固定資産税評価額の70%が評価額となります。
小規模宅地等の特例
制度の概要
小規模宅地等の特例は、被相続人等の事業用・居住用宅地等について、相続税の課税価格の計算上、一定の面積まで評価額を最大80%減額できる制度です。
| 宅地の種類 | 減額割合 | 限度面積 |
|---|---|---|
| 特定居住用宅地等 | 80% | 330m2 |
| 特定事業用宅地等 | 80% | 400m2 |
| 特定同族会社事業用宅地等 | 80% | 400m2 |
| 貸付事業用宅地等 | 50% | 200m2 |
特定居住用宅地等の要件
特定居住用宅地等として80%減額の適用を受けるための主な要件は以下のとおりです。
- 配偶者が取得する場合:無条件で適用可
- 同居親族が取得する場合:相続税の申告期限まで居住継続 + 保有継続
- 家なき子特例(別居親族):3年以内に自己又は配偶者が所有する家屋に居住していない等の要件
計算例
- 自用地の評価額:5,000万円
- 地積:250m2(330m2以下)
- 特定居住用宅地等に該当
減額金額 = 5,000万円 × 80% = 4,000万円
課税価格 = 5,000万円 − 4,000万円 = 1,000万円
鑑定評価との関連
路線価と公示価格の関係
| 価格 | 水準 | 基準日 | 発表元 |
|---|---|---|---|
| 公示価格 | 100% | 1月1日 | 国土交通省 |
| 基準地価格 | 100% | 7月1日 | 都道府県 |
| 相続税路線価 | 公示価格の約80% | 1月1日 | 国税庁 |
| 固定資産税評価額 | 公示価格の約70% | 1月1日(3年ごと評価替え) | 市町村 |
鑑定評価で求められる正常価格は公示価格と同水準であるのに対し、路線価は約80%、固定資産税評価額は約70%の水準です。この価格差は、相続税評価において一定の安全率を見込んでいるためです。
鑑定評価が必要な場合
相続税の申告において、財産評価基本通達による評価額が時価を上回ると考えられる場合、不動産鑑定士による鑑定評価書を添付して、通達によらない評価を主張することが認められています。
- 広大地の評価
- 不整形が著しい土地の評価
- 市場性が著しく乏しい不動産の評価
- 借地権・底地の評価
試験での出題ポイント
短答式試験
相続税評価は、不動産税制の範囲内で以下のように出題されます。
- 路線価方式と倍率方式の適用場面の違い
- 路線価の基準日(1月1日)と発表時期(7月1日)
- 路線価の水準:公示価格の約80%
- 借地権割合のアルファベット表記(A=90%〜G=30%)
- 借家権割合:全国一律30%
- 小規模宅地等の特例の減額割合と限度面積
- 家屋の評価:固定資産税評価額 × 1.0
暗記のポイント
- 路線価の水準:公示価格の約80%
- 固定資産税評価額の水準:公示価格の約70%
- 路線価の基準日:1月1日、発表時期:7月1日
- 借地権割合:A(90%)、B(80%)、C(70%)、D(60%)、E(50%)、F(40%)、G(30%)
- 借家権割合:全国一律30%
- 貸家建付地の算式:自用地 ×(1 − 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
- 小規模宅地等の特例:居住用330m2まで80%減、事業用400m2まで80%減、貸付用200m2まで50%減
- 家屋の評価:固定資産税評価額 × 1.0
まとめ
相続税における不動産評価は、路線価方式(市街地)と倍率方式(郊外・農村部)の2つの方法で行われます。路線価は公示価格の約80%の水準に設定されており、画地補正率による調整を経て評価額が算定されます。
小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等は330m2まで80%減額)は、相続税対策の中核的な制度であり、試験でも頻出です。路線価・借地権割合・借家権割合の数値を正確に暗記し、貸家建付地等の算式を使いこなせるようにしておきましょう。