収益分析法の詳解|企業収益から賃料を求める
収益分析法とは
収益分析法は、新規賃料を求める鑑定評価手法の一つで、不動産を利用する企業の総収益から不動産に帰属する純収益を求め、これに必要諸経費等を加算して賃料を算定する方法です。不動産鑑定士試験では、収益分析法の手順・算式・他の賃料評価手法との関係が出題されます。企業経営の視点から賃料の妥当性を検証できる点で独自の意義を持つ手法です。
収益分析法は、一般の企業経営に基づく総収益を分析して対象不動産が一定期間に生み出すであろうと期待される純収益(減価償却後のものとする。以下「期待純収益」という。)を求め、これに必要諸経費等を加算して試算賃料を求める手法である。
― 不動産鑑定評価基準 各論第2章第1節
収益分析法の位置づけ
新規賃料の4手法
不動産鑑定評価基準は、新規賃料を求める手法として以下の4つを定めています。
| 手法 | 内容 |
|---|---|
| 積算法 | 基礎価格に期待利回りを乗じ、必要諸経費等を加算 |
| 賃貸事例比較法 | 類似の賃貸事例から比準して求める |
| 収益分析法 | 企業収益から不動産に帰属する純収益を求めて算定 |
| 企業経営に基づく賃料の算定法 | 実際の企業経営に基づく支払可能賃料を求める |
収益分析法は、他の3手法が貸主側または市場の観点から賃料を求めるのに対し、借主(企業)側の収益力の観点から賃料の妥当性を検証できる独自の手法です。
賃貸事例比較法との関係
賃貸事例比較法が市場の実際の賃貸事例から賃料水準を把握するのに対し、収益分析法は理論的に導かれる適正賃料を求めます。両手法の結果を比較することで、市場賃料と理論賃料の整合性を確認できます。
収益分析法の手順
基本的な手順
収益分析法は、以下の手順で賃料を求めます。
Step 1: 対象不動産を利用する企業の総収益を把握
Step 2: 総収益から総費用を控除して企業の純収益を算出
Step 3: 企業の純収益を各生産要素に配分
Step 4: 不動産に帰属する純収益(期待純収益)を求める
Step 5: 期待純収益に必要諸経費等を加算して賃料を算定
算式
収益分析法による試算賃料 = 期待純収益 + 必要諸経費等
ここで、期待純収益は企業の総収益を分析して不動産に帰属する部分を抽出したものです。
各ステップの詳細
Step 1: 企業の総収益の把握
総収益とは、対象不動産を利用して事業を営む企業の売上高等の総収入をいいます。
| 業種 | 総収益の内容 | 具体例 |
|---|---|---|
| 小売業 | 売上高 | 月商5,000万円のスーパーマーケット |
| 飲食業 | 売上高 | 月商800万円のレストラン |
| ホテル業 | 宿泊料収入+飲食収入等 | 年間売上10億円のビジネスホテル |
| 製造業 | 製品売上高 | 工場からの出荷額 |
Step 2: 企業の純収益の算出
総収益から不動産の賃料を除く総費用を控除して、企業の純収益を求めます。
【企業の純収益の計算例(小売店の場合)】
総収益(年間売上高) : 60,000万円
総費用(賃料を除く):
売上原価 : 42,000万円(原価率70%)
人件費 : 8,000万円
水道光熱費 : 1,200万円
広告宣伝費 : 600万円
消耗品費 : 400万円
その他経費 : 1,800万円
総費用合計 : 54,000万円
企業の純収益 = 60,000万円 − 54,000万円 = 6,000万円
注意: ここでの総費用には賃料を含めません。賃料を控除してしまうと循環論法になるためです。
Step 3: 各生産要素への配分
企業の純収益は、以下の生産要素に帰属する収益の合計と考えます。
| 生産要素 | 内容 | 配分の考え方 |
|---|---|---|
| 不動産(土地・建物) | 店舗・事務所等の物的空間 | 不動産の価値に対する適正な利回り |
| 資本 | 事業用の設備投資・運転資金 | 資本に対する適正な利回り |
| 労働 | 経営者・従業員の労働力 | 適正な報酬水準 |
| 経営能力 | 企業家利潤 | 経営リスクに見合う利潤 |
Step 4: 不動産に帰属する純収益(期待純収益)
不動産に帰属する純収益は、企業の純収益から他の生産要素に帰属する部分を控除して求めます。
【期待純収益の計算例】
企業の純収益 : 6,000万円
他の生産要素への配分:
資本への配分 : 1,500万円
(事業用資産2億円 × 期待利回り7.5%)
経営者報酬・企業家利潤 : 2,000万円
不動産に帰属する純収益(期待純収益)
= 6,000万円 − 1,500万円 − 2,000万円
= 2,500万円/年
Step 5: 試算賃料の算定
期待純収益に必要諸経費等を加算して試算賃料を求めます。
【試算賃料の算定例】
期待純収益(減価償却後): 2,500万円/年
必要諸経費等:
減価償却費 : 800万円(建物の減価償却相当額)
修繕費 : 200万円
公租公課 : 300万円
損害保険料 : 50万円
管理費 : 150万円
必要諸経費等合計 : 1,500万円
収益分析法による試算賃料
= 2,500万円 + 1,500万円
= 4,000万円/年
月額賃料 = 4,000万円 ÷ 12ヶ月 ≒ 333万円/月
期待純収益の求め方の留意点
「減価償却後のもの」の意味
基準は、期待純収益を「減価償却後のもの」としています。これは、建物の減価償却費は必要諸経費等として別途加算するため、二重計上を避ける趣旨です。
【期待純収益と減価償却の関係】
期待純収益(減価償却後) = 不動産に帰属する純収益 − 建物の減価償却費
試算賃料 = 期待純収益(減価償却後) + 必要諸経費等(減価償却費を含む)
配分の困難性
企業の純収益を各生産要素に配分する作業は、実務上最も困難な部分です。特に以下の点が問題になります。
| 問題点 | 内容 |
|---|---|
| 配分基準の設定 | 各生産要素への配分比率をどう決めるか |
| 経営能力の評価 | 企業家利潤をいくらと見るか |
| 業種による違い | 業種によって不動産の貢献度が大きく異なる |
| 企業の個別性 | 同じ不動産でも借主の業態によって収益が異なる |
業種別の適用例
小売店舗の場合
売場面積 : 300㎡
月商 : 3,000万円(坪当たり月商33万円)
売上に対する賃料負担率の目安 : 8〜12%
収益分析法による月額賃料 = 3,000万円 × 10% = 300万円/月
㎡単価 = 300万円 ÷ 300㎡ = 10,000円/㎡・月
ホテルの場合
客室数 : 200室
稼働率 : 80%
平均客室単価(ADR): 12,000円
客室売上 : 200室 × 80% × 12,000円 × 365日 = 70,080万円/年
総売上(飲食等含む): 85,000万円/年
不動産への配分率 : 25〜35%
期待純収益 = 85,000万円 × 30% − 必要諸経費 = 約20,000万円/年
オフィスの場合
事業の純収益 : 10,000万円/年
資本への配分 : 3,000万円
経営者報酬等 : 4,000万円
期待純収益 = 10,000 − 3,000 − 4,000 = 3,000万円/年
他の新規賃料手法との比較
4手法の比較
| 手法 | アプローチ | 標準/比較考量 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 積算法 | コスト・アプローチ | 比較考量 | 不動産の元本価格から賃料を導出 |
| 賃貸事例比較法 | マーケット・アプローチ | 比較考量 | 市場の取引実態を反映 |
| 収益分析法 | インカム・アプローチ(借主側) | 比較考量 | 借主の収益力から賃料を検証 |
| 企業経営に基づく賃料の算定法 | インカム・アプローチ(借主側) | 比較考量 | 実際の企業経営から支払可能賃料を算定 |
収益分析法と積算法の違い
| 項目 | 収益分析法 | 積算法 |
|---|---|---|
| 出発点 | 企業の総収益 | 不動産の基礎価格(元本価格) |
| 視点 | 借主の収益力 | 貸主の投資利回り |
| 賃料の意味 | 企業が支払える適正賃料 | 不動産から期待される適正賃料 |
適用上の注意点
適用が適する場面
- 事業用不動産: 店舗・ホテル・工場等、不動産が収益活動に直接寄与する場合
- 賃料の妥当性検証: 他の手法で求めた賃料の合理性を企業収益の観点から検証
適用が困難な場面
- 住宅: 居住目的であり企業収益の概念が適合しない
- 自社ビル: 直接的な収益を生まないため配分が困難
- 新規開業: 企業の収益実績がない場合
試験での出題ポイント
短答式試験
- 収益分析法の定義: 企業の総収益を分析して期待純収益を求め、必要諸経費等を加算
- 期待純収益の意味: 「減価償却後のもの」とする理由
- 4手法の中での位置づけ: 新規賃料の手法の一つとしての位置
- 適用場面: 事業用不動産の賃料評価に適する
論文式試験
- 収益分析法の手順の論述: Step 1〜5の手順を体系的に説明
- 期待純収益の求め方: 生産要素への配分方法の考え方
- 他の手法との比較: 特に積算法・賃貸事例比較法との視点の違い
暗記のポイント
- 定義: 企業経営に基づく総収益を分析して期待純収益を求め、必要諸経費等を加算
- 算式: 試算賃料 = 期待純収益(減価償却後) + 必要諸経費等
- 期待純収益: 「減価償却後のもの」(減価償却費は必要諸経費等に含む)
- 配分の対象: 不動産、資本、労働、経営能力の4要素
まとめ
収益分析法は、企業の総収益から不動産に帰属する純収益を求めて賃料を算定する手法であり、借主(企業)側の収益力から賃料の妥当性を検証できる独自の意義を持ちます。期待純収益は「減価償却後のもの」とし、必要諸経費等を加算して試算賃料を求めます。配分の困難性という実務上の課題がありますが、事業用不動産の賃料評価において重要な役割を果たします。
新規賃料の評価体系については新規賃料の鑑定評価を、四手法の比較と選択基準については新規賃料の四手法を、継続賃料との関係は継続賃料の鑑定評価をあわせて確認してください。