証券化対象不動産のDCF法|収支項目の詳細
証券化対象不動産のDCF法とは
証券化対象不動産の鑑定評価においてDCF法を適用する場合、通常のDCF法よりも収支項目を詳細に査定することが求められます。これは、投資家への説明責任(アカウンタビリティ)を果たすためであり、各収支項目の根拠を明確に示す必要があるためです。
不動産鑑定士試験では、各収支項目の名称・内容・計算順序が頻繁に問われます。本記事では、運営収益から純収益(NCF)の算出に至るまでの流れを体系的に整理します。
通常のDCF法との違い
DCF法は、将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて不動産の収益価格を求める手法です。DCF法の基本的な考え方については別記事で解説していますが、証券化対象不動産では以下の点が異なります。
| 項目 | 通常のDCF法 | 証券化対象不動産のDCF法 |
|---|---|---|
| 収支項目 | 総額で査定可 | 項目ごとに詳細に査定 |
| 説明責任 | 通常の水準 | 投資家向けに高い水準 |
| 根拠の明示 | 必要 | より詳細な根拠が必要 |
| エンジニアリングレポート | 参考 | 積極的に活用 |
証券化対象不動産の鑑定評価では、エンジニアリングレポート(建物状況調査報告書)を活用し、修繕費や資本的支出の見積もりの裏付けとすることが重要です。
運営収益の項目
運営収益は、不動産から得られる収入の総額です。以下の項目に分けて査定します。
貸室賃料収入
- 対象不動産のテナントから得られる賃料収入
- 現行賃料と市場賃料の乖離を分析
- 空室率を考慮した稼働ベースでの査定が必要
- 賃料改定の見通しも考慮
共益費収入
- テナントから徴収する共用部分の維持管理費用に充当される収入
- 賃料とは別に計上
- 共益費の水準は地域・ビルグレードにより異なる
駐車場収入
- 駐車場の賃貸による収入
- 月極駐車場と時間貸し駐車場で査定方法が異なる
- 稼働率を適切に査定
その他収入
- 看板・アンテナ設置料
- 自動販売機収入
- 屋上利用料
- 付帯施設の利用料
空室等損失相当額
運営収益の査定にあたっては、空室等損失相当額を控除します。
- 中長期的な稼働率を査定
- 類似不動産の空室率を参考
- テナントの入退去サイクルを考慮
運営収益(有効総収益) = 貸室賃料収入 + 共益費収入 + 駐車場収入 + その他収入 − 空室等損失相当額
運営費用の項目
運営費用は、不動産の運営にかかる経常的な支出です。各項目を詳細に査定します。
維持管理費
- 建物・設備の日常的な保守管理費用
- 清掃費、設備管理費、警備費等を含む
- 管理委託契約の内容を確認
水道光熱費
- 電気・ガス・水道等の光熱費
- テナント負担分とオーナー負担分を区別
- 共用部分の水道光熱費が対象
修繕費
- 建物・設備の経常的な修繕費用
- 資本的支出との区分に注意
- エンジニアリングレポートを参考に査定
PMフィー(プロパティマネジメントフィー)
- 不動産の運営管理を委託する場合の管理報酬
- 運営収益に対する一定割合で設定されることが多い
- PM業務の範囲により水準が異なる
テナント募集費用
- テナントの入替時に発生する仲介手数料等
- 入替率を想定して年間費用を平準化
- 広告費・仲介報酬等を含む
公租公課
- 固定資産税と都市計画税
- 土地・建物それぞれについて査定
- 不動産関連税法の知識も参照
損害保険料
- 建物に付保する火災保険・地震保険等の保険料
- 再調達原価をベースに算出
運営費用の一覧表
| 項目 | 内容 | 査定のポイント |
|---|---|---|
| 維持管理費 | 清掃・設備管理・警備 | 管理委託契約の実績 |
| 水道光熱費 | オーナー負担分 | 共用部分の費用 |
| 修繕費 | 経常的な修繕 | ERの活用 |
| PMフィー | 運営管理報酬 | 収益に対する料率 |
| テナント募集費用 | 仲介手数料等 | 入替率の想定 |
| 公租公課 | 固定資産税・都市計画税 | 課税明細の確認 |
| 損害保険料 | 火災保険等 | 再調達原価ベース |
運営純収益(NOI)から純収益(NCF)の算出
NOI(Net Operating Income)の算出
NOI = 運営収益(有効総収益) − 運営費用
NOIは、不動産の本業からの収益力を示す指標です。
一時金の運用益
- 敷金・保証金等の一時金を運用することで得られる収益
- 運用利回りは安全資産の利回りを基準に査定
- NOIに加算
資本的支出(CAPEX)
- 建物・設備の大規模修繕・更新費用
- 経常的な修繕費とは異なる
- エンジニアリングレポートの長期修繕計画を活用
- NOIから控除
NCF(Net Cash Flow)の算出
NCF = NOI + 一時金の運用益 − 資本的支出
NCFが、DCF法における各期のキャッシュフローとして用いられます。
収支項目の全体フロー
貸室賃料収入
+ 共益費収入
+ 駐車場収入
+ その他収入
− 空室等損失相当額
= 運営収益(有効総収益)
− 維持管理費
− 水道光熱費
− 修繕費
− PMフィー
− テナント募集費用
− 公租公課
− 損害保険料
= 運営純収益(NOI)
+ 一時金の運用益
− 資本的支出
= 純収益(NCF)
最終還元利回り(ターミナルキャップレート)
DCF法では、保有期間終了時の復帰価格を求めるために最終還元利回りを用います。
- 定義:保有期間終了時点における直接還元利回り
- 通常、保有期間中の割引率よりもやや高めに設定
- 将来時点の不確実性を反映して、初期利回りに一定のリスクプレミアムを上乗せ
復帰価格 = 保有期間終了時のNCF ÷ 最終還元利回り
最終還元利回りの査定における留意点
- 類似不動産の取引利回りを参考
- 建物の経年劣化によるリスク増加を考慮
- 市場動向の見通しを反映
割引率の査定
割引率は、将来のキャッシュフローを現在価値に割り引くための率です。
割引率の査定方法
| 方法 | 内容 |
|---|---|
| 類似不動産の取引利回りから | 取引事例のIRRを参考 |
| 金融資産の利回りに不動産のリスクプレミアムを加算 | リスクフリーレート+不動産リスクプレミアム |
| 借入金と自己資本の加重平均(WACC) | 資金調達コストの加重平均 |
DCF法による収益価格の算式
収益価格 = Σ(各期のNCF ÷ (1+割引率)^n) + 復帰価格 ÷ (1+割引率)^N
- n:各期の経過年数
- N:保有期間
具体的な計算例:オフィスビルのDCF法
以下は、都心のオフィスビルを想定した証券化DCF法の具体的な収支計算例です。
前提条件
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 物件 | 事務所ビル(延床面積3,000m2、賃貸面積2,400m2) |
| 保有期間 | 10年 |
| 割引率 | 4.5% |
| 最終還元利回り | 5.0% |
収支計算(初年度)
| 項目 | 金額(年額) |
|---|---|
| 貸室賃料収入(@18,000円/坪・月) | 156,816,000円 |
| 共益費収入(@3,000円/坪・月) | 26,136,000円 |
| 駐車場収入 | 6,000,000円 |
| その他収入 | 2,000,000円 |
| (-)空室等損失相当額(5%) | △9,547,600円 |
| = 運営収益(有効総収益) | 181,404,400円 |
| (-)維持管理費 | △12,000,000円 |
| (-)水道光熱費 | △8,000,000円 |
| (-)修繕費 | △5,000,000円 |
| (-)PMフィー(収益の3%) | △5,442,132円 |
| (-)テナント募集費用 | △3,000,000円 |
| (-)公租公課 | △15,000,000円 |
| (-)損害保険料 | △1,500,000円 |
| = NOI | 131,462,268円 |
| (+)一時金の運用益 | 2,000,000円 |
| (-)資本的支出 | △10,000,000円 |
| = NCF | 123,462,268円 |
復帰価格の算定
11年目のNCF = 123,462,268円(簡略化のため初年度と同額と仮定)
復帰価格 = 123,462,268円 ÷ 5.0% = 2,469,245,360円
この復帰価格を10年後の現在価値に割り引き、各期のNCFの現在価値を合算して収益価格を算定します。
試験での出題ポイント
証券化対象不動産のDCF法は、論文式試験で頻出のテーマです。以下の点を重点的に押さえましょう。
- 収支項目の暗記:運営収益・運営費用の各項目を漏れなく列挙できること
- NOIとNCFの違い:計算過程を正確に理解すること
- 最終還元利回りと割引率の関係:両者の意味と査定方法の違いを説明できること
- エンジニアリングレポートの活用:修繕費・資本的支出の査定における役割
- 通常のDCF法との違い:なぜ詳細化が求められるのかの理由
収益還元法の全体像やDCF法の基本と合わせて学習することで、体系的な理解が深まります。
まとめ
証券化対象不動産のDCF法は、通常のDCF法に比べて収支項目の詳細化が最大の特徴です。運営収益(貸室賃料収入、共益費収入、駐車場収入、その他収入)から空室等損失相当額を控除して有効総収益を求め、7つの運営費用項目を差し引いてNOIを算出します。さらに一時金の運用益を加算し資本的支出を控除してNCFを求めます。
試験対策としては、収支項目の計算フローを正確に暗記し、各項目の査定方法を説明できるようにすることが重要です。最終還元利回りと割引率の査定方法についても、論文式試験で問われる可能性が高いため、しっかりと準備しておきましょう。