処理計画の策定|鑑定評価の設計図
処理計画の策定とは
不動産鑑定士が行う鑑定評価において、処理計画の策定は基本的事項の確定と依頼受付の判断に続く第3のステップです。処理計画とは、鑑定評価の作業全体を見通し、調査の方針・手法の選定・スケジュール等を事前に定める「設計図」に相当する作業です。
基準では、処理計画について次のように定めています。
鑑定評価の手順のうちそれ以降の作業についての処理計画を策定すべきである。
― 不動産鑑定評価基準 総論第8章第3節
処理計画が適切でなければ、資料収集の不足や手法適用の偏りが生じ、鑑定評価全体の品質が低下します。本記事では、処理計画の具体的な内容と策定上の留意点を解説します。
処理計画の位置づけ
鑑定評価の手順における位置
鑑定評価の手順は9つのステップから成りますが、処理計画の策定は第3ステップに位置します。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| 1 | 基本的事項の確定 |
| 2 | 依頼受付の判断 |
| 3 | 処理計画の策定 |
| 4 | 対象不動産の確認 |
| 5 | 資料の収集及び整理 |
| 6〜9 | 要因分析〜報告書作成 |
基本的事項の確定と依頼受付の判断が完了して初めて、処理計画を策定することが可能となります。なぜなら、対象不動産の種類や規模、依頼目的が確定していなければ、適切な調査方針や手法の選定ができないからです。
なぜ処理計画が必要なのか
鑑定評価は、単に数値を計算して結論を出す作業ではありません。現地調査、資料収集、要因分析、手法適用と、多岐にわたる作業を限られた時間と費用の中で効率的に実施する必要があります。
処理計画がない場合に生じるリスクは以下の通りです。
- 資料の収集漏れ — 必要な資料に気づかないまま手法を適用してしまう
- 手法適用の偏り — 特定の手法に偏った評価になる
- 期限超過 — 作業量の見積りが甘く、報告書の提出が遅延する
- 費用の超過 — 不必要な調査に時間を費やす
処理計画の具体的内容
調査計画
現地調査の日程と方法を決定します。対象不動産の種類や規模によって、調査にかかる時間は大きく異なります。
| 対象不動産の種類 | 調査のポイント | 所要時間の目安 |
|---|---|---|
| 更地(住宅地) | 接道、形状、高低差、周辺環境 | 半日程度 |
| 事業用ビル | 建物構造、設備、テナント状況、管理状態 | 1〜2日 |
| 大規模画地 | 土壌汚染、埋設物、造成の可否 | 数日 |
| 農地・林地 | 農業委員会への確認、現況利用状況 | 1日程度 |
調査計画では、関係者へのヒアリングの予定も組み込みます。賃貸不動産であればテナントや管理会社への聞き取り、開発案件であれば行政機関への確認が必要です。
手法適用の方針
鑑定評価の三方式のうち、どの手法をどのように適用するかの方針を定めます。基準では三手法の併用が原則とされていますが、対象不動産の種類や資料の入手可能性によって、重点を置く手法は異なります。
| 対象不動産 | 重視される手法 | 理由 |
|---|---|---|
| 更地(住宅地) | 取引事例比較法 | 取引事例が豊富 |
| 収益用ビル | 収益還元法 | 収益性が価格形成の中心 |
| 新築建物 | 原価法 | 建設費データが入手容易 |
| 農地 | 取引事例比較法 | 収益性の把握が困難な場合がある |
ただし、重視しない手法であっても、その考え方を参酌することが基準の要請です。
資料収集の計画
どのような資料を、どこから、いつまでに収集するかを計画します。収集すべき資料は確認資料・要因資料・事例資料の3種類に分類されます。
- 確認資料: 登記事項証明書、公図、建築確認通知書等
- 要因資料: 経済統計、地価動向、都市計画情報等
- 事例資料: 取引事例、賃貸事例、建設事例等
資料の入手先として、法務局、市区町村役場、不動産取引情報提供サイト、鑑定業者間の情報交換等を想定し、それぞれの入手に要する期間を見込みます。
スケジュール管理
鑑定評価の作業全体を報告書の提出期限から逆算してスケジュールを組みます。
【スケジュール例:住宅地の更地評価】
第1週: 確認資料の収集・現地調査
第2週: 要因資料・事例資料の収集
第3週: 価格形成要因の分析・手法の適用
第4週: 試算価格の調整・報告書作成
共同鑑定の必要性
対象不動産の規模や専門性によっては、他の鑑定士との共同鑑定を検討する必要があります。例えば、大規模な工場用地の評価では、環境調査の専門家との連携が必要になることがあります。
処理計画の策定における留意事項
柔軟性の確保
処理計画はあくまで計画であり、実際の作業の進行に伴い修正が必要になることがあります。例えば、現地調査の結果、当初想定していなかった土壌汚染の可能性が判明した場合には、追加調査の計画を組み込む必要があります。
計画に固執するあまり必要な調査を省略するようなことがあってはなりません。 逆に、計画を全く立てずに場当たり的に作業を進めることも避けるべきです。
対象不動産の特性に応じた計画
対象不動産が証券化対象不動産である場合には、通常の鑑定評価とは異なる特別な手続が求められます。エンジニアリングレポートの活用やDCF法の適用が必要となるため、処理計画の段階でこれらを組み込んでおく必要があります。
依頼者との合意
処理計画の内容は、依頼者に説明し合意を得ておくことが望ましいとされています。特に、調査の範囲や手法適用の方針について、依頼者の認識と鑑定士の計画が乖離していると、後のトラブルの原因となります。
処理計画と依頼受付の判断の関係
処理計画の策定は、依頼受付の判断(第2ステップ)の後に行われますが、実務上は両者を同時並行的に検討することも少なくありません。
依頼を受けるかどうかの判断には、以下の観点が含まれます。
- 依頼された条件(期限・報酬等)のもとで適切な評価が実現可能か
- 鑑定士自身が当該不動産の評価に必要な専門能力を有しているか
- 対象不動産との間に利害関係がないか
これらの判断を行う際に、頭の中では既に処理計画の概要を検討しています。つまり、処理計画を大まかに想定できなければ、依頼受付の判断も適切にできないという関係にあります。
基本的事項の確定との関係
基本的事項の確定で定めた内容は、処理計画の策定の前提条件となります。
| 基本的事項 | 処理計画への影響 |
|---|---|
| 対象不動産の種類 | 調査方法、適用手法の方針を左右 |
| 価格時点 | 資料の収集範囲、過去時点なら当時の資料が必要 |
| 鑑定評価の条件 | 想定上の条件があれば追加調査が必要 |
| 価格の種類 | 正常価格以外であれば特別な検討が必要 |
例えば、対象不動産が更地であれば取引事例比較法を重視した計画を、賃貸ビルであれば収益還元法を重視した計画を策定することになります。
試験での出題ポイント
短答式試験
- 処理計画は鑑定評価の手順の第3ステップであること
- 処理計画に含まれる具体的な内容(調査計画、手法適用方針、スケジュール等)
- 「依頼受付の判断」と「処理計画の策定」の順序の正誤
- 処理計画の策定が基本的事項の確定を前提とすること
論文式試験
- 処理計画の意義と具体的な策定内容の論述
- 鑑定評価の手順における処理計画の位置づけと、前後のステップとの関連
- 対象不動産の種類に応じた処理計画の策定方法の具体的な記述
- 処理計画の修正が必要となる場面とその対応
暗記のポイント
- 処理計画は鑑定評価の手順の第3ステップ(基本確定→受付判断→処理計画)
- 計画に含まれる要素は「調査計画」「手法適用方針」「資料収集計画」「スケジュール」
- 処理計画は柔軟に修正可能であるが、場当たり的な作業は許されない
- 基本的事項の確定内容が処理計画の前提条件となる
- 証券化対象不動産の場合は特別な手続の計画が必要
まとめ
処理計画の策定は、鑑定評価の作業全体を見通し、調査方針・手法選定・スケジュールを事前に設計する重要なステップです。処理計画の適切さは鑑定評価の品質を大きく左右するため、対象不動産の特性を踏まえた計画の策定が求められます。
試験では、処理計画の位置づけ(第3ステップ)や具体的内容の正確な記述が求められるほか、基本的事項の確定との関係を理解しているかが問われます。
処理計画の策定が完了したら、次のステップである対象不動産の確認に進みます。鑑定評価の手順の全体像については鑑定評価の手順を確認してください。