資料の収集及び整理とは

不動産鑑定士が行う鑑定評価において、資料の収集及び整理は対象不動産の確認に続く第5のステップです。鑑定評価の結論は収集した資料の質と量に大きく依存するため、信頼性の高い資料を十分に収集することが求められます。

基準では、資料の収集について次のように定めています。

鑑定評価に必要な資料は、おおむね、確認資料、要因資料及び事例資料に分けられる。鑑定評価に当たっては、適確にして信頼性の高い資料の収集活動が必要であり、収集された資料は整理のうえ十分に検討されなければならない。

― 不動産鑑定評価基準 総論第8章第5節

資料は確認資料・要因資料・事例資料の3種類に大別され、それぞれが鑑定評価の異なる段階で用いられます。本記事では、各資料の内容・収集方法・信頼性の検証について詳しく解説します。


資料の3分類

全体像

鑑定評価に必要な資料は、その用途に応じて3つに分類されます。

資料の種類 用途 使用ステップ
確認資料 対象不動産の物的状態・権利関係の確認 対象不動産の確認
要因資料 価格形成要因の分析 要因分析
事例資料 鑑定評価の手法の適用 手法の適用

これらの資料は相互に独立したものではなく、重複する場合もあります。例えば、登記事項証明書は確認資料であると同時に、取引事例の調査においては事例資料の一部としても機能します。


確認資料

確認資料とは

確認資料とは、対象不動産の確認のために必要な資料です。物的確認と権利の確認を行うための基礎的な資料がこれに該当します。

主要な確認資料

資料名 内容 収集先
登記事項証明書 所有者、権利関係、面積、構造 法務局
公図 土地の位置関係、隣接地との境界 法務局
地積測量図 正確な面積、座標 法務局
建物図面 各階平面図、建物の配置 法務局
建築確認通知書 建物の構造、面積、遵法性 市区町村(特定行政庁)
検査済証 建築基準法への適合確認 市区町村(特定行政庁)
住宅地図 対象不動産の所在確認 市販
航空写真 広域の土地利用状況の確認 国土地理院等

確認資料収集の留意点

確認資料は、最新のものを収集することが原則です。特に登記事項証明書は、鑑定評価の価格時点に近い時点で取得したものを使用します。ただし、過去時点の鑑定評価の場合には、当時の状況を示す資料が必要です。


要因資料

要因資料とは

要因資料とは、価格形成要因の分析に必要な資料です。一般的要因・地域要因・個別的要因のそれぞれに対応する資料を収集します。

一般的要因に関する資料

一般的要因は社会全体の動向を反映する要因であり、以下の資料が対応します。

要因の分野 収集すべき資料
経済的要因 GDP成長率、物価指数、金利動向、為替レート
社会的要因 人口動態、世帯数の変化、住宅需要
行政的要因 都市計画の変更、税制改正、規制緩和
自然的要因 気候、地形、地質の特性

地域要因に関する資料

地域要因は近隣地域や類似地域の特性を把握するための資料です。

地域の種別 収集すべき資料
住宅地域 街路条件、交通接近条件、環境条件、行政条件
商業地域 繁華性、収益性、顧客の流動状況
工業地域 輸送条件、動力資源、労働力の確保

具体的には、都市計画図、用途地域図、道路台帳、路線価図、地価公示価格等を収集します。

個別的要因に関する資料

個別的要因は対象不動産固有の特性に関する資料です。

  • 土地: 面積、形状(間口・奥行の比率)、接道条件、地勢、日照、騒音
  • 建物: 構造、築年数、設備の状況、管理の状態、増改築の履歴
  • 権利関係: 賃貸借契約書、管理規約、修繕積立金の状況

事例資料

事例資料とは

事例資料とは、鑑定評価の手法の適用に必要な資料です。手法ごとに必要な事例資料が異なります。

手法 必要な事例資料 内容
取引事例比較法 取引事例 近隣・類似地域の取引価格、取引時点、取引事情
収益還元法 収益事例 賃料事例、NOI実績、空室率、経費率
原価法 造成事例・建設事例 造成費、建設費の実績データ

取引事例の収集

取引事例比較法を適用するための取引事例は、不動産取引価格情報(国土交通省が提供)やレインズ(REINS) 等から収集します。収集に当たっては、以下の条件を満たす事例を選択する必要があります。

  • 近隣地域又は同一需給圏内の類似地域に所在すること
  • 取引時点が価格時点に近いこと
  • 特殊な事情(投げ売り等)がないこと(事情補正が可能な程度であること)

事例の選択基準の詳細は取引事例の選択を参照してください。

収益事例の収集

収益還元法の適用には、賃料の水準や空室率、運営経費等の収益データが必要です。これらは市場調査報告書、管理会社へのヒアリング、物件のレントロール等から収集します。

建設事例の収集

原価法の適用には、建物の建設費データが必要です。建設物価調査会の「建設物価」「建築コスト情報」等の専門誌から標準的な建設費を把握するとともに、類似建物の実績データも参考にします。


資料の信頼性の検証

なぜ信頼性の検証が必要か

収集した資料がどれだけ豊富であっても、信頼性が低ければ鑑定評価の質は担保されません。基準が「適確にして信頼性の高い資料」の収集を求めているのは、このためです。

信頼性の判断基準

判断基準 内容 信頼性が低い例
出所の確実性 公的機関や信頼できる団体からの情報か 出所不明のインターネット情報
正確性 データの記録・転記に誤りがないか 面積の記載誤り
最新性 情報が更新されているか 数年前の市場調査データ
客観性 特定の利害関係に基づいていないか 売主が提示する「希望価格」
十分性 必要なデータ項目が揃っているか 取引時点や取引事情が不明な事例

複数資料の照合

一つの事実に対して複数の資料で裏付ける(クロスチェック) ことが重要です。例えば、面積については登記簿上の面積と実測面積を照合し、相違がある場合にはその原因を調査します。


資料の整理

整理の目的

収集した大量の資料を体系的に整理することで、以降の要因分析や手法適用の作業を効率的に進めることができます。

整理の方法

分類基準 整理の方法
資料の種類別 確認資料・要因資料・事例資料に分類
対象不動産別 土地に関する資料と建物に関する資料を区分
手法別 取引事例比較法用、収益還元法用、原価法用に分類
時系列 収集時点の新しいものから並べる

整理の段階で資料の不足に気づいた場合は、追加収集を行います。処理計画の策定段階で想定していた資料が入手できない場合は、代替資料の検討も必要です。


資料の収集が困難な場合の対応

資料が不足する場合

地方部や特殊な用途の不動産では、取引事例や収益事例が極めて少ない場合があります。このような場合の対応方法は以下の通りです。

  • 類似地域の範囲を広げる — 近隣地域に事例がなければ、同一需給圏内の類似地域まで範囲を拡大
  • 時点の範囲を広げる — 直近の事例がなければ、やや過去に遡って事例を収集(時点修正で補正)
  • 代替資料を活用 — 取引事例が少ない場合、公示価格や基準地価格を参考にする

資料の入手が制限される場合

個人情報保護の観点から、取引当事者の情報が入手できないこともあります。このような場合は、入手可能な範囲の情報で合理的な推定を行い、その旨を鑑定評価報告書に記載します。


試験での出題ポイント

短答式試験

  • 資料の3分類(確認資料・要因資料・事例資料)の区別
  • 各分類に該当する具体的な資料名
  • 資料収集が鑑定評価の手順の第5ステップであること
  • 資料の信頼性の判断基準

論文式試験

  • 資料の3分類の意義と、各分類に含まれる資料の具体的内容の論述
  • 資料の信頼性の検証方法についての論述
  • 資料が不足する場合の対応策
  • 資料の収集と価格形成要因の分析の関連

暗記のポイント

  1. 資料は「確認資料」「要因資料」「事例資料」 の3種類
  2. 確認資料は対象不動産の確認のための資料
  3. 要因資料は価格形成要因の分析のための資料
  4. 事例資料は手法の適用のための資料(取引事例・収益事例・建設事例)
  5. 資料の信頼性は出所の確実性・正確性・最新性・客観性・十分性で判断

まとめ

資料の収集及び整理は、鑑定評価の質を左右する重要なステップです。確認資料・要因資料・事例資料の3種類の資料を体系的に収集し、その信頼性を検証したうえで整理することが、適切な鑑定評価の前提となります。

試験では、資料の3分類とそれぞれに含まれる具体的な資料名を正確に挙げられることが基本です。さらに、資料の信頼性の判断基準や、収集が困難な場合の対応まで理解していることが求められます。

資料の収集が完了したら、次のステップである価格形成要因の分析に進みます。鑑定評価の手順の全体像は鑑定評価の手順を参照してください。