借地借家法の概要|普通借地権と定期借地権
借地借家法の概要
借地借家法は、建物の所有を目的とする土地の賃借権(借地権)と、建物の賃借権(借家権)について、民法の特則を定めた法律です。不動産鑑定評価においても、借地権・借家権の価格算定の前提として、借地借家法の正確な理解が不可欠です。
※ 本法令は不動産鑑定士試験(行政法規)の37法令には含まれません。ただし、鑑定評価の実務において不動産の価格形成に影響を与える法令であるため、実務的な観点から解説します。
この法律は、建物の所有を目的とする地上権及び土地の賃借権の存続期間、効力等並びに建物の賃貸借の契約の更新、効力等に関し特別の定めをするとともに、借地条件の変更等の裁判手続に関し必要な事項を定めるものとする。
― 借地借家法 第1条
借地借家法の趣旨と構成
法律の趣旨
借地借家法は、経済的に弱い立場にある借地人・借家人を保護することを目的としています。民法の原則(契約自由の原則)のもとでは、貸主が一方的に契約を終了させることが可能ですが、借地借家法は存続期間の保障、更新拒絶の制限(正当事由制度)、対抗力の付与等により、借主の地位を強化しています。
法律の構成
| 章 | 内容 | 主な規定 |
|---|---|---|
| 第1章 総則 | 法律の趣旨 | 目的(第1条) |
| 第2章 借地 | 借地権に関する規定 | 存続期間、更新、建物再築、定期借地権 |
| 第3章 借家 | 借家権に関する規定 | 存続期間、更新、造作買取請求権、定期建物賃貸借 |
| 第4章 借地条件の変更等 | 裁判所による借地条件の変更手続き | 非訟事件手続 |
| 第5章 雑則 | その他 | 強行規定 |
借地権の種類
普通借地権と定期借地権
借地権は、大きく普通借地権と定期借地権に分類されます。
| 項目 | 普通借地権 | 定期借地権 |
|---|---|---|
| 更新 | あり(正当事由がなければ更新拒絶不可) | なし(期間満了で確定的に終了) |
| 存続期間 | 当初30年以上、更新後は1回目20年以上、2回目以降10年以上 | 種類による(50年以上等) |
| 借地人の保護 | 極めて強い | 限定的 |
| 地主の立場 | 回収困難(半永久的に借地が継続) | 期間満了で確実に土地が返還 |
普通借地権の存続期間
借地権の存続期間は、三十年とする。ただし、契約でこれより長い期間を定めたときは、その期間とする。
― 借地借家法 第3条
| 区分 | 存続期間 |
|---|---|
| 当初の設定 | 30年以上(30年未満の定めは30年に引き上げ) |
| 1回目の更新 | 20年以上 |
| 2回目以降の更新 | 10年以上 |
定期借地権の3類型
一般定期借地権
存続期間を五十年以上として借地権を設定する場合においては、第九条及び第十六条の規定にかかわらず、契約の更新(更新の請求及び土地の使用の継続によるものを含む。)及び建物の築造による存続期間の延長がなく、並びに第十三条の規定による買取りの請求をしないこととする旨を定めることができる。
― 借地借家法 第22条
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 存続期間 | 50年以上 |
| 更新 | なし |
| 建物買取請求権 | なし |
| 契約方法 | 書面(公正証書でなくても可) |
| 期間満了後 | 原則として更地で返還 |
| 典型的な用途 | 分譲マンション、戸建住宅 |
事業用定期借地権
専ら事業の用に供する建物(居住の用に供するものを除く。)の所有を目的とし、かつ、存続期間を三十年以上五十年未満として借地権を設定する場合においては、[中略] 契約の更新及び建物の築造による存続期間の延長がなく、並びに第十三条の規定による買取りの請求をしないこととする旨を定めることができる。
― 借地借家法 第23条第1項
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 存続期間 | 10年以上50年未満 |
| 更新 | なし |
| 用途制限 | 事業用建物のみ(居住用は不可) |
| 契約方法 | 公正証書に限る |
| 典型的な用途 | コンビニ、ロードサイド店舗、物流施設 |
建物譲渡特約付借地権
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 存続期間 | 30年以上 |
| 特約 | 30年以上経過後に地主が建物を相当の対価で買い取る旨の特約 |
| 建物買取後 | 借地権は消滅するが、建物の借家人は保護される |
| 契約方法 | 書面(方式の制限なし) |
3つの定期借地権の比較
| 項目 | 一般定期借地権 | 事業用定期借地権 | 建物譲渡特約付借地権 |
|---|---|---|---|
| 存続期間 | 50年以上 | 10年以上50年未満 | 30年以上 |
| 用途制限 | なし | 事業用のみ | なし |
| 契約方式 | 書面 | 公正証書 | 制限なし |
| 更新 | なし | なし | なし(建物譲渡で終了) |
| 建物買取請求権 | なし | なし | あり(特約として) |
普通借地権の更新と正当事由
更新の仕組み
普通借地権は、期間満了時に借地人が更新を請求した場合、地主に正当事由がなければ更新を拒絶できません。
借地権の存続期間が満了する場合において、借地権者が契約の更新を請求したときは、建物がある場合に限り、前条の規定によるもののほか、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、借地権設定者が遅滞なく異議を述べたときは、この限りでない。
― 借地借家法 第5条第1項
正当事由の判断要素
地主が更新拒絶するためには正当事由が必要であり、その判断は以下の要素を総合的に考慮して行われます。
借地権設定者及び借地権者(転借地権者を含む。)が土地の使用を必要とする事情のほか、借地に関する従前の経過及び土地の利用状況並びに借地権設定者が土地の明渡しの条件として又は土地の明渡しと引換えに借地権者に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、述べることができない。
― 借地借家法 第6条
| 判断要素 | 内容 |
|---|---|
| 双方の土地使用の必要性 | 地主・借地人それぞれの利用の必要性 |
| 借地に関する従前の経過 | 地代の支払状況、契約違反の有無 |
| 土地の利用状況 | 現在の利用が適切かどうか |
| 財産上の給付(立退料) | 立退料の提供の有無・金額 |
正当事由と鑑定評価の関係
立退料の算定は、鑑定評価の重要な実務分野です。正当事由の補完としての立退料の金額は、借地権の価格等を参考に算定されます。
借家権に関する規定
借家権の存続期間
借家権(建物の賃借権)の存続期間については、以下の規定があります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 最短期間 | 1年未満の定めは「期間の定めのない契約」とみなされる |
| 最長期間 | 制限なし(民法の604条の制限は適用されない) |
| 更新 | 正当事由がなければ更新拒絶不可(普通借家の場合) |
借家権の対抗力
建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずる。
― 借地借家法 第31条
借家権は、建物の引渡し(入居)があれば、登記がなくても第三者に対抗できるとされています。これは、借家人が登記に協力を得られない場合でも保護されるようにするための規定です。
定期建物賃貸借(定期借家)
期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、第二十六条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。
― 借地借家法 第38条第1項
| 項目 | 普通借家 | 定期借家 |
|---|---|---|
| 更新 | あり(正当事由が必要) | なし |
| 契約方法 | 制限なし | 書面(公正証書等) |
| 説明義務 | なし | 更新がない旨の書面による事前説明が必要 |
| 期間 | 1年以上 | 制限なし(1年未満も可) |
鑑定評価との関連
借地権の価格への影響
借地借家法の規定は、借地権・底地の価格に直接的な影響を与えます。
| 借地権の種類 | 借地権価格への影響 |
|---|---|
| 普通借地権 | 正当事由制度により強く保護 → 借地権価格は高い |
| 一般定期借地権 | 更新なし → 残存期間に応じて価格が低減 |
| 事業用定期借地権 | 更新なし+用途制限 → 事業収益に応じた価格 |
普通借地権の場合、借地権割合は一般的に更地価格の40%〜90%(地域により異なる)とされ、借地借家法の強い保護が借地権の経済的価値を高めています。
借家権の価格への影響
借家権の価格は、借家権付建物及びその敷地の評価において問題になります。
| 借家権の種類 | 価格への影響 |
|---|---|
| 普通借家権 | 正当事由による保護あり → 借家権価格が発生 |
| 定期借家権 | 更新なし → 残存期間に応じた価格(通常は低い) |
継続賃料との関連
継続賃料の評価では、借地借家法の更新規定が前提となります。普通借地権・普通借家権の場合、契約が更新されることを前提とした賃料が継続賃料として求められます。
実務での確認ポイント
実務で押さえる制度整理
- 普通借地権の存続期間: 当初30年、1回目更新20年、2回目以降10年
- 定期借地権の3類型: 一般定期(50年以上)、事業用(10年以上50年未満・公正証書)、建物譲渡特約付(30年以上)
- 正当事由の判断要素: 双方の使用の必要性、従前の経過、利用状況、立退料
- 借家権の対抗力: 建物の引渡しにより対抗力を取得(登記不要)
- 定期借家の要件: 書面による契約+更新がない旨の事前説明
鑑定評価での着眼点
- 普通借地権と定期借地権の比較: 存続期間、更新の有無、借地人保護の程度
- 正当事由制度の趣旨と判断基準: 各判断要素の具体的な適用
- 借地借家法と鑑定評価の関係: 法的保護の程度が借地権価格・借家権価格に与える影響
整理のポイント
- 普通借地権の存続期間: 30年→更新1回目20年→2回目以降10年
- 定期借地権の3類型: 一般(50年以上)、事業用(10年以上50年未満・公正証書必須)、建物譲渡特約付(30年以上)
- 正当事由の4要素: 使用の必要性、従前の経過、利用状況、財産上の給付(立退料)
- 借家権の対抗力: 建物の引渡しで取得(第31条)
- 定期借家: 書面契約+事前説明(第38条)
まとめ
借地借家法は、借地人・借家人を保護するための民法の特別法であり、不動産鑑定評価の前提として極めて重要な法律です。普通借地権は正当事由制度により強く保護されるため高い借地権価格が形成され、定期借地権は更新がないため残存期間に応じた価格となります。借家権についても同様に、普通借家と定期借家で保護の程度が異なり、価格に直接影響します。
関連する論点として、借地権の鑑定評価や底地の鑑定評価もあわせて学習してください。賃料評価との関連では継続賃料の鑑定評価が参考になります。