差額配分法における契約賃料と正常賃料の差額
差額配分法の仕組み
差額配分法は、継続賃料を求める4手法の一つです。現行の契約賃料と、仮に新規に契約した場合の正常賃料との差額を求め、その差額を賃貸人と賃借人の間で配分することで、適正な継続賃料を算定します。
不動産鑑定士試験では、差額配分法の算定式と配分の考え方が繰り返し出題されます。
差額配分法の定義
差額配分法は、対象不動産の経済価値に即応した適正な実質賃料又は支払賃料と実際実質賃料又は実際支払賃料との間に発生している差額について、契約の内容、契約締結の経緯等を総合的に勘案して、当該差額のうち賃貸人等に帰属する部分を適切に判定して得た額を実際実質賃料又は実際支払賃料に加減して試算賃料を求める手法である。
― 不動産鑑定評価基準 各論第2章第1節
差額配分法の算定式
基本式
差額配分法による試算賃料 = 現行賃料 +(正常賃料 − 現行賃料)× 配分率
これを整理すると:
差額 = 正常賃料 − 現行賃料
賃貸人帰属分 = 差額 × 配分率
試算賃料 = 現行賃料 + 賃貸人帰属分
各要素の説明
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 正常賃料 | 価格時点において新規に賃貸借契約を結ぶとした場合の正常賃料 |
| 現行賃料(実際賃料) | 現在の契約に基づいて支払われている賃料 |
| 差額 | 正常賃料と現行賃料の差(プラスにもマイナスにもなりうる) |
| 配分率 | 差額のうち賃貸人に帰属すべき割合 |
差額が生じる原因
なぜ契約賃料と正常賃料に差が出るのか
賃貸借契約は通常数年単位の長期契約であるため、契約期間中に市場の賃料水準が変動します。その結果、以下のような乖離が生じます。
| 差額のパターン | 原因 |
|---|---|
| 正常賃料 > 現行賃料(差額がプラス) | 市場賃料が上昇したが、契約賃料は据え置き |
| 正常賃料 < 現行賃料(差額がマイナス) | 市場賃料が下落したが、契約賃料が高止まり |
差額がプラスの場合は賃料の増額改定の方向に、マイナスの場合は減額改定の方向に調整されます。
配分率の考え方
配分率とは
差額の全額を賃貸人に帰属させる(つまり正常賃料まで一気に引き上げる)のは、既存の契約関係の安定性を無視した考え方です。そこで、差額のうちどの程度を賃貸人に帰属させるか(=どの程度賃料を改定するか)を配分率として判定します。
配分率を判定する際の考慮要素
| 考慮要素 | 内容 |
|---|---|
| 契約の内容 | 契約期間、更新条件、賃料改定条項の有無 |
| 契約締結の経緯 | 当初の賃料水準がどのように決まったか |
| 経過した時間 | 前回の賃料改定からの期間 |
| 当事者間の関係 | 賃貸人・賃借人の力関係、信頼関係 |
| 市場の動向 | 賃料水準の変動の程度と方向 |
一般的な配分率の水準
実務上、配分率は概ね2分の1(50%) を基準とすることが多いとされます。ただし、これは固定的なものではなく、上記の考慮要素に基づいて個別に判定されます。
- 差額が大きい場合 → 配分率をやや高めに設定し、市場賃料に近づける
- 契約の安定性が重視される場合 → 配分率をやや低めに設定し、急激な変動を抑制
実質賃料と支払賃料の区別
差額配分法の適用にあたっては、実質賃料ベースと支払賃料ベースのどちらで計算するかを明確にする必要があります。
| 賃料の種類 | 内容 |
|---|---|
| 実質賃料 | 支払賃料 + 一時金の運用益・償却額 |
| 支払賃料 | 毎月実際に支払われる賃料 |
一時金(権利金・敷金・保証金等)がある場合、その運用益や償却額を含めた実質賃料ベースで差額を計算するのが正確です。
具体例で理解する
ケース:事務所ビルの賃料改定
- 現行の支払賃料: 月額80万円(5年前に契約)
- 正常賃料(支払賃料ベース): 月額100万円(価格時点の市場水準)
- 差額: 100万円 − 80万円 = 20万円
- 配分率: 50%と判定
試算賃料 = 80万円 + 20万円 × 50%
= 80万円 + 10万円
= 月額90万円
この場合、差額配分法による試算賃料は月額90万円となります。現行賃料(80万円)と正常賃料(100万円)のちょうど中間に位置します。
差額配分法の長所と短所
長所
- 論理がシンプルで理解しやすい
- 現行賃料と市場賃料の乖離を段階的に是正する機能がある
- 契約の安定性と市場適合性のバランスを取ることができる
短所
- 正常賃料の精度に大きく依存する(正常賃料の算定が困難な場合は限界がある)
- 配分率の判定が恣意的になりうる(客観的な基準が乏しい)
- 差額がゼロ(現行賃料 = 正常賃料)の場合、改定の方向性を示せない
他の継続賃料手法との比較
| 手法 | 着目点 | 算定の起点 |
|---|---|---|
| 差額配分法 | 正常賃料との差額 | 現行賃料 + 差額の配分 |
| 利回り法 | 基礎価格に対する利回り | 基礎価格 × 継続賃料利回り |
| スライド法 | 経済指標の変動率 | 現行賃料 × スライド率 |
| 賃貸事例比較法 | 類似の賃貸事例 | 事例賃料の比準 |
差額配分法は、正常賃料を求める必要があるという点で他の手法より工数が多くなりますが、市場水準との乖離を明確に把握できるという利点があります。
試験での出題ポイント
短答式試験
- 差額配分法の算定式を正確に答えられるか
- 「差額は全額賃貸人に帰属する」→ 誤り。差額を配分して賃貸人帰属分を判定する
- 差額がマイナスの場合(正常賃料 < 現行賃料)も適用可能であることの理解
論文式試験
- 「差額配分法の意義と適用上の留意点を述べよ」
- 配分率の判定根拠を具体的に論述できるか
- 実質賃料ベースと支払賃料ベースの区別に言及できるか
暗記のポイント
- 算定式: 現行賃料 +(正常賃料 − 現行賃料)× 配分率
- 配分率は「契約の内容、契約締結の経緯等を総合的に勘案」して判定
- 実質賃料ベースと支払賃料ベースの区別
- 差額はプラスにもマイナスにもなりうる
まとめ
差額配分法は、契約賃料と正常賃料の差額を当事者間で配分することで継続賃料を求める手法です。配分率の判定が鍵であり、契約の内容や経緯を総合的に勘案して判断します。利回り法やスライド法など他の手法と併用して、継続賃料を多角的に検証することが実務・試験の双方で求められます。