物権法の出題傾向

不動産鑑定士試験の論文式・民法において、物権法は最も出題頻度の高い分野です。特に不動産物権変動と対抗要件(民法177条)抵当権用益物権(地上権・地役権)は繰り返し出題されており、答案構成のパターンを確立しておくことが合格への近道です。

民法の全体的な対策として出題形式や学習法を把握した上で、本記事では物権法の各論点を深掘りしていきます。

物権変動と対抗要件

民法177条の基本

不動産の物権変動における最重要条文が民法177条です。

不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

― 民法 第177条

この条文が定めるのは、不動産の物権変動は登記がなければ第三者に対抗できないという対抗要件主義です。

「物権変動」の範囲

177条が適用される物権変動の範囲について、判例は以下のように解しています。

物権変動の原因 177条の適用 備考
売買 適用あり 典型例。二重譲渡の事案
相続 法定相続分を超える部分に適用 2019年改正で明文化(899条の2)
取得時効 適用あり 時効完成前の第三者と時効完成後の第三者で扱いが異なる
解除 適用あり 解除前の第三者と解除後の第三者で扱いが異なる
取消し 取消し後に適用 取消し前の善意の第三者は96条3項で保護
共有持分の放棄 適用あり

「第三者」の範囲

177条の「第三者」とは、判例上、当事者もしくはその包括承継人以外の者であって、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者と定義されています。

第三者に該当する者

  • 二重譲受人
  • 差押債権者
  • 抵当権者
  • 賃借人(対抗力のある賃借権を有する者)
  • 転得者

第三者に該当しない者

  • 不法占拠者:登記の欠缺を主張する正当な利益を有しない
  • 不法行為者:不法占拠者と同様
  • 背信的悪意者信義則に反する者は登記の欠缺を主張できない(背信的悪意者排除説)
  • 詐欺・強迫による取消前の第三者(詐欺の場合は96条3項の問題)

背信的悪意者排除説

背信的悪意者排除説は、不動産物権変動の最頻出論点の一つです。

判例は、単なる悪意者は第三者に該当する(悪意であっても登記の欠缺を主張できる)が、信義誠実の原則に反するような態様で登記の欠缺を主張する者は第三者に該当しないとしています。

背信的悪意者と認定されるための要件は以下のとおりです。

  • 物権変動の事実を知っていた(悪意)
  • かつ、登記の欠缺を主張することが信義則に反すると評価されること

答案構成のポイント:背信的悪意者の問題では、(1)177条の「第三者」の定義、(2)背信的悪意者排除説の法理、(3)具体的事実へのあてはめ、の順で論じます。

時効と登記

取得時効と登記の問題は、第三者の出現時期によって結論が異なります。

場面 結論 根拠
時効完成前の第三者 時効取得者は登記なしに対抗できる 時効完成時に物権を原始取得するため
時効完成後の第三者 先に登記を備えた方が優先 二重譲渡と同様の関係(177条の問題)

解除と登記

契約解除と登記の問題も、第三者の出現時期によって結論が異なります。

場面 結論 根拠
解除前の第三者 第三者が登記を備えていれば保護される 民法545条1項ただし書
解除後の第三者 先に登記を備えた方が優先 177条の問題(復帰的物権変動)

抵当権

抵当権の基本

抵当権は、不動産を担保として優先弁済を受ける権利であり、不動産鑑定評価とも密接に関連します。

抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。

― 民法 第369条第1項

抵当権の効力の及ぶ範囲

抵当権の効力が及ぶ範囲は、試験で頻出の論点です。

対象 効力の及ぶ範囲 根拠
付加一体物 及ぶ 370条(抵当権設定後に附加されたものも含む)
従物 設定時に存在する従物に及ぶ 370条・87条2項
従たる権利 及ぶ 借地上の建物に抵当権を設定した場合の借地権
天然果実 被担保債権の不履行後に及ぶ 371条
法定果実(賃料) 被担保債権の不履行後に及ぶ 371条(物上代位)
分離物 搬出前は及ぶ、搬出後は及ばない 判例

法定地上権(388条)

法定地上権は、抵当権の最重要論点の一つです。

法定地上権とは、土地と建物が同一所有者に属する場合に、一方に抵当権が設定され、競売の結果土地と建物の所有者が異なることとなった場合に、法律上当然に成立する地上権です。

成立要件

  1. 抵当権設定時に土地上に建物が存在すること
  2. 抵当権設定時に土地と建物が同一所有者に属すること
  3. 土地又は建物の一方又は双方に抵当権が設定されたこと
  4. 競売の結果、土地と建物の所有者が異なることとなったこと

法定地上権の論点パターン

パターン 法定地上権の成否
土地に抵当権設定→競売で土地が別人に 成立する
建物に抵当権設定→競売で建物が別人に 成立する
更地に抵当権設定→後に建物建築→競売 成立しない(要件1を欠く)
共同抵当(土地・建物双方に抵当権)→建物再築→競売 成立しない(判例)

答案構成のポイント:法定地上権の問題では、(1)388条の趣旨(建物保護)、(2)4つの成立要件の検討、(3)本件へのあてはめ、の順で論じます。

抵当権侵害と妨害排除請求権

第三者が抵当不動産を不法占拠している場合に、抵当権者が妨害排除請求をできるかという論点です。

判例は、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ、抵当権者の優先弁済権の行使が困難となるような状態がある場合には、抵当権者は抵当権に基づく妨害排除請求権を行使できるとしています。

根抵当権(398条の2〜398条の22)

根抵当権とは、一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度で担保する抵当権です。

項目 抵当権 根抵当権
被担保債権 特定の債権 不特定の債権(一定の範囲内)
付従性 あり 元本確定前はなし
随伴性 あり 元本確定前はなし
極度額 なし あり(必ず定める)
元本確定 不要 確定事由発生で確定

用益物権

地上権

地上権は、他人の土地において工作物又は竹木を所有するために土地を使用する権利です(265条)。

項目 地上権 賃借権
性質 物権 債権
対抗要件 登記 登記(借地借家法では建物の登記でも可)
譲渡・転貸 地主の承諾不要 地主の承諾必要(612条)
地代 必須ではない 賃料の支払いが必須
存続期間 制限なし 借地借家法の適用あり

不動産鑑定評価においては、地上権は借地権の一形態として評価対象となります。

地役権

地役権は、設定行為で定めた目的に従い、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利です(280条)。

地役権の特徴

  • 要役地と承役地:便益を受ける土地(要役地)と、利用される土地(承役地)
  • 付従性:要役地の所有権に従属する(要役地と分離して処分できない)
  • 不可分性:要役地・承役地が共有の場合、持分に応じた地役権の設定は不可
  • 承役地所有者の義務:原則として消極的義務(受忍義務)

通行地役権

最も典型的な地役権が通行地役権であり、不動産鑑定評価においても個別的要因として考慮する必要があります。

共有

共有の基本

共有に関する論点も、不動産鑑定士試験では出題されます。

行為の種類 要件 具体例
保存行為 各共有者が単独でできる 修繕、不法占拠者への明渡請求
管理行為 持分の過半数で決定 共有物の利用方法の決定、賃貸借契約(短期)
変更行為 共有者全員の同意 売却、抵当権の設定、大規模な造成

2021年民法改正における共有の変更

2021年の民法改正により、共有に関する規定が大幅に見直されました。

  • 軽微な変更は持分の過半数で決定できるようになった
  • 所在不明共有者がいる場合の対応手続が整備された
  • 共有物の管理者制度が新設された

試験での出題ポイント

論文式試験の出題パターン

民法・物権法の論文式では、以下のような事例問題が出題されます。

  • 二重譲渡の事例:177条の「第三者」の範囲、背信的悪意者
  • 法定地上権の事例:成立要件のあてはめ
  • 抵当権の効力の事例:付加一体物・従物への効力の及ぶ範囲
  • 時効と登記の事例:時効完成前後での結論の相違
  • 共有に関する事例:保存・管理・変更行為の区別

答案構成の基本パターン

  1. 問題の所在を明示する(「本件では〜が問題となる」)
  2. 条文を引用する(条文番号と要件を正確に)
  3. 判例・学説の立場を示す
  4. あてはめを丁寧に行う(事実を拾い上げて要件に当てはめる)
  5. 結論を明確に述べる

暗記のポイント

  1. 177条の「第三者」の定義:当事者もしくはその包括承継人以外の者で、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者
  2. 背信的悪意者排除説:単なる悪意者は第三者に該当するが、信義則に反する者は該当しない
  3. 法定地上権の4要件:建物存在、同一所有者、抵当権設定、競売で別所有者
  4. 抵当権の効力範囲:付加一体物(370条)、果実は不履行後(371条)
  5. 地上権と賃借権の違い:物権 vs 債権、譲渡の自由度
  6. 共有の行為分類:保存(単独)、管理(過半数)、変更(全員の同意)

まとめ

民法・物権法は、不動産鑑定士試験の民法科目で最も出題頻度の高い分野です。不動産物権変動と177条抵当権(特に法定地上権)用益物権の3つの領域を中心に、判例の結論を正確に暗記し、事例問題への当てはめ能力を養うことが重要です。

物権法の知識は、借地権の鑑定評価底地の鑑定評価の理解にも直結します。民法・債権法の頻出論点と併せて、民法全体のバランスの取れた学習を進めましょう。