鑑定評価基準と実務指針の関係

不動産鑑定士試験では、鑑定評価基準実務指針(留意事項) の関係を正確に理解しているかが問われます。基準が鑑定評価の原則と基本的枠組みを定め、実務指針がその具体的な運用と留意事項を補足するという二層構造になっています。

基準と実務指針は車の両輪のような関係にあり、両者をあわせて理解することではじめて鑑定評価の全体像を把握できます。本記事では、それぞれの位置づけと法的性格、実務上の関係について解説します。


鑑定評価基準の位置づけ

基準とは

不動産鑑定評価基準とは、不動産の鑑定評価に関する基本的な事項を定めた規範です。国土交通省が策定し、不動産鑑定士が鑑定評価を行う際に遵守すべき統一的な基準として機能しています。

基準の構成

基準は大きく総論各論で構成されています。

区分 内容
総論 鑑定評価の基本的事項 第1章〜第9章
各論 不動産の類型別の評価方法 第1章〜第3章

総論の主な内容:

テーマ
第1章 不動産の鑑定評価に関する基本的考察
第2章 不動産の種別及び類型
第3章 不動産の価格を形成する要因
第4章 不動産の価格に関する諸原則
第5章 鑑定評価の基本的事項
第6章 地域分析及び個別分析
第7章 鑑定評価の方式
第8章 鑑定評価の手順
第9章 鑑定評価報告書

各論の主な内容:

テーマ
第1章 価格に関する鑑定評価(更地、建付地、借地権等)
第2章 賃料に関する鑑定評価(新規賃料、継続賃料)
第3章 証券化対象不動産の評価

基準の法的性格

基準は、直接的には法律そのものではありませんが、不動産の鑑定評価に関する法律に基づき国土交通省が定めたものであり、実質的に鑑定士を拘束する規範としての性格を持っています。基準に違反した鑑定評価を行った場合、懲戒処分の対象となり得ます。


実務指針(留意事項)の位置づけ

実務指針とは

不動産鑑定評価基準に関する実務指針(正式名称)は、基準の規定を実務に適用する際の具体的な留意事項や運用の詳細を定めたものです。一般的に「留意事項」 と呼ばれることも多く、試験でもこの名称で出題されます。

実務指針の役割

実務指針は、以下の役割を果たしています。

役割 具体例
基準の解釈の明確化 基準の条文の意味をより具体的に示す
運用上の留意点 実務で注意すべき事項を補足する
具体的な方法の提示 基準が抽象的に定める事項の具体的な適用方法を示す
実務上の課題への対応 基準だけでは対応が困難な実務上の問題に指針を与える

実務指針の法的性格

実務指針は基準と同様に国土交通省が策定したものですが、基準を補足・解説する位置づけであり、基準そのものとは区別されます。ただし、実務上は基準と実務指針の両方を遵守することが求められています。


基準と実務指針の関係

二層構造の理解

基準と実務指針の関係は、以下のように整理できます。

項目 基準 実務指針(留意事項)
性格 原則・基本枠組み 具体的運用・留意事項
抽象度 高い(一般的な原則を記述) 低い(具体的な場面を想定)
文量 比較的簡潔 基準より詳細
改定頻度 比較的少ない 実務の変化に対応して改定
策定者 国土交通省 国土交通省

基準が原則を定め、実務指針が具体化する

例えば、試算価格の調整について、基準と実務指針では以下のような関係になっています。

基準(原則):

試算価格の調整とは、鑑定評価の複数の手法により求められた各試算価格の再吟味及び各試算価格が有する説得力に係る判断を行い、鑑定評価における最終判断である鑑定評価額の決定に導く作業をいう。

― 不動産鑑定評価基準 総論第8章第8節

実務指針(具体化):

実務指針では、調整に当たって検討すべき具体的な事項(資料の信頼性、手法の適合性等)や、各不動産類型における手法の適用の考え方をより詳細に記述しています。

もう一つの例:収益還元法

基準: 収益還元法の基本的な考え方と算式を定める 実務指針: 純収益の査定における具体的な項目(総収入の内訳、総費用の項目、空室率の考え方等)を詳述


実務指針の具体的な内容例

総論に関する留意事項

基準の該当箇所 実務指針で詳述される内容
総論第3章(価格形成要因) 各要因の具体的な項目の列挙
総論第5章(基本的事項) 条件設定の具体的な判断基準
総論第6章(地域分析) 同一需給圏の判定方法の具体例
総論第7章(鑑定評価方式) 各手法の適用上の具体的留意点
総論第8章(手順) 各ステップの詳細な実施方法
総論第9章(報告書) 記載事項の具体的な記載方法

各論に関する留意事項

基準の該当箇所 実務指針で詳述される内容
各論第1章(価格の鑑定評価) 各類型の評価における手法適用の具体的考え方
各論第2章(賃料の鑑定評価) 新規賃料・継続賃料の手法適用の具体的方法
各論第3章(証券化対象不動産) DCF法の適用に当たっての詳細な留意事項

試験における基準と実務指針の出題範囲

短答式試験

短答式試験では、基準と実務指針の両方から出題されます。出題の比重は基準のほうが高いですが、実務指針特有の内容も問われます。

出題テーマ 基準から 実務指針から
定義・原則
具体的な適用方法
数値例・具体例
条文の正誤判定

論文式試験

論文式試験では、基準の条文を正確に再現することが求められますが、実務指針の内容を具体的な説明や補足として活用することが有効です。

例えば、「試算価格の調整について論ぜよ」という問題に対して、基準の定義を示した上で、実務指針に記載されている具体的な検討事項を述べることで、答案の具体性と説得力が増します。


基準の改定と実務指針の改定

改定の歴史

鑑定評価基準は、不動産市場や社会情勢の変化に応じて改定が行われてきました。

改定年 主な改定内容
1964年(昭和39年) 基準の初版策定
1990年(平成2年) 大幅改定
2002年(平成14年) 証券化対象不動産の規定を追加
2009年(平成21年) 各論第3章の改定
2014年(平成26年) 最新の大幅改定

実務指針は基準の改定に合わせて改定されるほか、実務上の課題に対応して基準とは独立に改定されることもあります。

受験生が押さえるべきポイント

試験対策としては、最新の基準と実務指針に基づいて学習することが重要です。過去の基準との違いが問われることは稀ですが、改定の趣旨を理解していると、基準の規定の意味をより深く理解できます。


基準・実務指針と他の規範との関係

不動産の鑑定評価に関する法律

基準と実務指針は、不動産の鑑定評価に関する法律を上位法令として位置づけています。法律が鑑定評価の大枠を定め、基準と実務指針がその具体的な内容を規定するという三層構造です。

不動産の鑑定評価に関する法律(法律レベル)
 ↓
不動産鑑定評価基準(原則・基本枠組み)
 ↓
実務指針・留意事項(具体的運用)

鑑定評価に関するその他の指針

基準と実務指針のほかに、日本不動産鑑定士協会連合会が策定した業務指針や実務上のガイドラインも存在します。これらは基準・実務指針を補完するものですが、試験では基準と実務指針が中心的に出題されます。


試験での出題ポイント

短答式試験

  • 基準と実務指針の位置づけの違い
  • 基準が原則を定め、実務指針が具体的運用を定めること
  • 実務指針は「不動産鑑定評価基準に関する実務指針」 が正式名称
  • 基準の総論と各論の章立て
  • 基準に違反した場合の懲戒処分

論文式試験

  • 基準と実務指針の関係について体系的に論述する問題
  • 特定の論点(例:試算価格の調整)について基準の定めと実務指針の具体化の両面から論述
  • 基準改定の趣旨と改定内容の論述

暗記のポイント

  1. 基準は原則・基本枠組み、実務指針は具体的運用・留意事項
  2. 実務指針の正式名称は「不動産鑑定評価基準に関する実務指針」
  3. 基準は総論(第1〜9章)と各論(第1〜3章) で構成
  4. 基準に違反すると懲戒処分の対象
  5. 法律→基準→実務指針の三層構造で鑑定評価制度が成り立つ

まとめ

鑑定評価基準と実務指針(留意事項)は、基準が原則を定め、実務指針がその具体的な運用を補足する二層構造をなしています。両者をあわせて理解することで、鑑定評価制度の全体像を正確に把握することができます。

試験では、基準の条文を正確に記述できることが最も重要ですが、実務指針の内容を活用して具体的な説明ができると、答案の質が大きく向上します。

基準の全体像については鑑定評価基準とはを、基準を支える法律については不動産の鑑定評価に関する法律を参照してください。