不動産の鑑定評価に関する法律の概要
不動産の鑑定評価に関する法律の概要
不動産の鑑定評価に関する法律(鑑定評価法)は、不動産鑑定士の資格制度と不動産鑑定業の登録制度を定め、不動産の鑑定評価の適正な実施を確保することを目的としています。不動産鑑定士試験を受験する者にとって、自らの資格の根拠法であり、その内容を正確に理解しておくことは当然の前提です。
試験では、不動産鑑定士の義務(秘密保持義務、信用失墜行為の禁止等)や懲戒処分の種類が頻出です。
鑑定評価法の目的
この法律は、不動産の鑑定評価に関し、不動産鑑定士及び不動産鑑定業について定め、もつて不動産の鑑定評価の制度を整備し、並びにこれにより不動産の適正な価格の形成に資することを目的とする。
― 不動産の鑑定評価に関する法律 第1条
鑑定評価法の主な内容は以下のとおりです。
- 不動産鑑定士の資格に関する事項を定める
- 不動産鑑定業の登録に関する事項を定める
- 不動産の鑑定評価に関し公正妥当な制度を確立する
- 不動産の適正な価格の形成に資することを目的とする
地価公示法が「一般の土地取引の指標」の提供を目的とするのに対し、鑑定評価法は鑑定評価制度そのものの適正化を目的としている点で異なります。
不動産鑑定士の資格と登録
不動産鑑定士試験の概要
不動産鑑定士になるためには、以下の段階を経る必要があります。
| 段階 | 内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 短答式試験 | 行政法規、鑑定評価理論(短答) | 合格率約30〜35% |
| 論文式試験 | 民法、経済学、会計学、鑑定評価理論(論文) | 合格率約15% |
| 実務修習 | 1年又は2年の実務修習を修了 | 認定実務修習機関で実施 |
| 修了考査 | 実務修習の修了を認定する考査 | ― |
| 登録 | 国土交通大臣の登録を受けて不動産鑑定士となる | 不動産鑑定士名簿に登録 |
試験に関する重要規定
- 試験は毎年1回以上実施される
- 短答式試験の合格者は、当該試験に係る合格発表の日から2年以内に行われる論文式試験について、短答式試験が免除される
- 論文式試験の一部科目に合格した者は、当該合格発表の日から2年以内に行われる論文式試験について、当該科目が免除される
不動産鑑定士の登録
- 登録先:国土交通大臣が管理する不動産鑑定士名簿に登録
- 登録事項:氏名、生年月日、事務所の所在地等
- 登録の拒否事由:禁錮以上の刑に処せられた者、懲戒処分で登録を消除された者(処分の日から3年を経過しない者)等
登録の消除
以下の場合に登録が消除されます。
- 本人の申請
- 死亡・失踪宣告
- 登録の欠格事由に該当するに至った場合
- 不正の手段により登録を受けた場合
- 懲戒処分による消除
鑑定業者の登録制度
不動産鑑定業とは
不動産鑑定業とは、他人の求めに応じて報酬を得て不動産の鑑定評価を業として行うことをいいます。
登録制度
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 登録先 | 事務所が1つの都道府県に所在 → 都道府県知事 / 2以上の都道府県に所在 → 国土交通大臣 |
| 登録の有効期間 | 5年(更新が必要) |
| 登録の条件 | 事務所ごとに1人以上の専任の不動産鑑定士を置く |
登録の拒否事由
- 法人で役員に欠格事由に該当する者がいる場合
- 事務所に専任の不動産鑑定士がいない場合
- 登録の取消しから5年を経過しない者
鑑定評価の依頼と受諾
鑑定評価の受託
- 鑑定業者は、依頼者から鑑定評価の依頼を受けて行う
- 依頼の目的、対象不動産、価格時点等を確認
- 不当な鑑定評価を行ってはならない
鑑定評価書の交付
- 鑑定評価を行ったときは、鑑定評価書を作成し依頼者に交付
- 鑑定評価書には、不動産鑑定士が署名押印
- 鑑定評価書の記載事項は、鑑定評価基準にも規定
不動産鑑定士の義務
秘密保持義務
不動産鑑定士は、正当な理由がなく、その業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を他に漏らしてはなりません。不動産鑑定士でなくなった後も同様です。
- 違反した場合は1年以下の懲役又は50万円以下の罰金
- 退職後・登録消除後も義務が継続する点が重要
信用失墜行為の禁止
不動産鑑定士は、不動産鑑定士の信用又は品位を害するような行為をしてはなりません。
不当な鑑定評価の禁止
- 故意に不当な鑑定評価を行うこと
- 不当な鑑定評価を行うよう指示すること
これらは懲戒処分の対象となります。
その他の義務
| 義務 | 内容 |
|---|---|
| 事務所への掲示 | 登録証を事務所の見やすい場所に掲示 |
| 帳簿の備え付け | 鑑定評価の記録を帳簿に記載し、保存 |
| 書類の閲覧 | 業務に関する書類を事務所に備え置く |
義務違反と罰則の整理
| 違反行為 | 罰則 |
|---|---|
| 秘密保持義務違反 | 1年以下の懲役又は50万円以下の罰金 |
| 不当な鑑定評価 | 懲戒処分の対象 |
| 名称の使用制限違反(鑑定士でない者が名乗る) | 30万円以下の罰金 |
| 鑑定業の無登録営業 | 1年以下の懲役又は100万円以下の罰金 |
| 届出義務違反 | 30万円以下の罰金 |
秘密保持義務違反には刑事罰が科される一方、信用失墜行為の禁止や不当な鑑定評価の禁止は懲戒処分の対象であり、直接の刑事罰はありません。この区別は試験で問われます。
懲戒処分
国土交通大臣は、不動産鑑定士が法令に違反した場合等に、懲戒処分を行うことができます。
懲戒処分の種類
| 処分 | 内容 |
|---|---|
| 戒告 | 将来を戒める処分(最も軽い) |
| 業務の禁止 | 2年以内の期間を定めて鑑定評価等の業務を禁止 |
| 登録の消除 | 不動産鑑定士名簿からの登録を消除(最も重い) |
鑑定業者に対する処分
| 処分 | 内容 |
|---|---|
| 戒告 | 将来を戒める処分 |
| 業務の停止 | 1年以内の期間を定めて業務を停止 |
| 登録の取消し | 鑑定業者の登録を取消し |
不動産鑑定士と鑑定業者の処分の違い
- 不動産鑑定士:戒告、業務の禁止(2年以内)、登録の消除
- 鑑定業者:戒告、業務の停止(1年以内)、登録の取消し
用語の違い(禁止/停止、消除/取消し)と期間の違い(2年/1年)が出題されやすいため、正確に区別して覚えましょう。
聴聞
- 登録の消除又は取消しの処分を行う場合は、聴聞を行わなければならない
- 聴聞は処分を受ける者に弁明の機会を与える手続
不動産鑑定評価基準との関係
鑑定評価法は、不動産の鑑定評価に関する制度面(資格、登録、義務、処分等)を定めるものです。一方、鑑定評価の実体的な内容(価格の種類、評価手法、評価の手順等)は、不動産鑑定評価基準に定められています。
| 項目 | 鑑定評価法 | 鑑定評価基準 |
|---|---|---|
| 性格 | 法律(国会制定法) | 国土交通省が定める基準 |
| 内容 | 資格・登録・義務・処分 | 評価手法・評価手順・価格概念 |
| 法的拘束力 | あり | 鑑定評価法に基づき準拠が求められる |
試験での出題ポイント
暗記必須事項
- 秘密保持義務は鑑定士でなくなった後も継続
- 懲戒処分の種類と期間(鑑定士:2年以内の禁止 / 業者:1年以内の停止)
- 鑑定業の登録の有効期間は5年
- 専任の鑑定士が事務所ごとに1人以上必要
- 登録先:鑑定士は国土交通大臣、鑑定業者は知事又は大臣
よく出る引っかけ
- 「秘密保持義務は登録消除後は免除される」→ 誤り(消除後も継続)
- 「鑑定業者の登録の有効期間は3年」→ 誤り(5年)
- 「鑑定士の業務禁止は1年以内」→ 誤り(2年以内。1年以内は業者の業務停止)
- 「鑑定業は免許制である」→ 誤り(登録制)
暗記の語呂合わせ
鑑定士と業者の処分の違いを正確に覚えるために、以下の整理が有効です。
- 鑑定士の処分:「戒告 → 禁止(2年以内)→ 消除」 = 「きんし・しょうじょ」
- 業者の処分:「戒告 → 停止(1年以内)→ 取消し」 = 「ていし・とりけし」
「個人(鑑定士)の方が処分が重い」と覚えると、期間も鑑定士2年 > 業者1年と整理しやすくなります。
まとめ
不動産の鑑定評価に関する法律は、不動産鑑定士の資格制度と不動産鑑定業の登録制度を定め、鑑定評価の適正な実施を確保するための法律です。秘密保持義務が鑑定士でなくなった後も継続すること、懲戒処分における鑑定士と鑑定業者の処分の違い(期間・用語)は最頻出の論点です。
鑑定評価法は制度面を定めるものであり、評価の実体については鑑定評価基準が規定しています。両者の関係を正しく理解した上で、短答式試験の行政法規対策に活かしましょう。