不動産の価格と賃料の関係|元本と果実の関係
不動産の価格と賃料の関係とは
不動産の価格と賃料は、「元本と果実の関係」にあります。不動産鑑定士試験において、この関係は鑑定理論の根幹をなす頻出論点です。不動産の価格は将来生み出す賃料(果実)の現在価値として把握でき、逆に賃料は不動産の価格(元本)に期待される収益として把握できます。この双方向の関係を理解することが、鑑定評価の三方式や賃料評価手法の理解に不可欠です。
不動産の価格と賃料は、いわゆる元本と果実との関係にある。すなわち、不動産の価格はその不動産から将来にわたって生み出されるであろう経済的利益の現在価値の総和であるとの認識に立てば、賃料は不動産の経済的利益の期間的配分であるということができ、両者は密接な関連をもっている。
― 不動産鑑定評価基準 総論第2章
元本と果実の関係
元本としての不動産の価格
不動産の価格は、その不動産が将来にわたって生み出す経済的利益の現在価値の総和です。この考え方は、収益還元法の理論的基礎でもあります。
ここでいう「元本」とは、利益を生み出す源泉としての不動産の価値を指します。預金の元金が利息を生むように、不動産(元本)は賃料(果実)を生み出します。
不動産の価格(元本)= 将来の賃料(果実)の現在価値の総和
果実としての賃料
賃料は、不動産の経済的利益の期間的配分です。不動産を1年間使用することで得られる経済的利益が、1年分の賃料として把握されます。
賃料は、不動産という元本から生み出される果実であり、元本の価値が高ければ果実も大きくなり、元本の価値が低ければ果実も小さくなるという関係にあります。
双方向の関係
価格と賃料の関係は、一方向ではなく双方向です。
- 価格から賃料へ: 不動産の価格が上昇すれば、その不動産から期待される賃料水準も上昇する傾向があります
- 賃料から価格へ: 賃料の上昇は、将来の収益の増加を意味し、不動産の価格を押し上げます
この双方向の関係は、収益還元法における基本算式にも明確に表れています。
収益価格 = 純収益 ÷ 還元利回り
純収益の大部分は賃料から構成されるため、賃料が上昇すれば収益価格(不動産の価格)も上昇します。逆に、不動産の価格から合理的に期待される収益として賃料水準を導くこともできます。
賃料の種類と価格との関係
新規賃料と継続賃料
鑑定評価基準では、賃料を新規賃料と継続賃料に区分しています。それぞれの賃料と不動産の価格との関係は異なります。
| 区分 | 定義 | 価格との関係 |
|---|---|---|
| 新規賃料 | 新たな賃貸借等の契約において成立する賃料 | 価格時点の市場実勢を反映。価格と密接に連動 |
| 継続賃料 | 既存の賃貸借契約の更新・改定時の賃料 | 契約の経緯・経過も考慮。価格との連動にタイムラグ |
新規賃料と価格の関係
新規賃料は、市場において新たに成立する賃料であり、価格時点の不動産市場の実勢を反映します。新規賃料は不動産の価格と比較的強い連動性を持ちます。
正常賃料とは、正常価格と同一の市場概念の下において新たな賃貸借等の契約において成立するであろう経済価値を表示する適正な賃料(新規賃料)をいう。
― 不動産鑑定評価基準 総論第5章第3節
新規賃料の算定においては、不動産の価格が直接的な基礎として用いられます。例えば、積算法では以下の算式が用いられます。
積算賃料 = 基礎価格 × 期待利回り + 必要諸経費等
ここで「基礎価格」とは、対象不動産の価格を前提とした賃貸に供する不動産の経済価値です。基礎価格が高いほど積算賃料も高くなり、価格と賃料の元本・果実の関係が算式上も明確に表れています。
継続賃料と価格の関係
継続賃料は、既存の賃貸借契約を継続する場合の賃料です。継続賃料は、不動産の価格の変動だけでなく、契約の経緯・経過、直近合意時点からの事情変更等も考慮して決定されます。
継続賃料を求める場合において、賃貸借等の契約に当たって、賃料についての合意が成立した時以降において、公租公課、土地及び建物価格、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等における賃料又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃料等の変動のほか、賃貸借等の契約の経緯、賃料改定の経緯及び契約内容を総合的に勘案するものとする。
― 不動産鑑定評価基準 各論第3章
このため、継続賃料は不動産の価格の変動に対してタイムラグを伴って変動する傾向があります。不動産の価格が急激に上昇しても、既存契約の賃料はすぐには上昇せず、契約更新時に段階的に調整されるのが一般的です。この現象を「賃料の遅行性」といいます。
価格と賃料の関係を示す指標
還元利回りと賃料利回り
価格と賃料の関係を数値的に示す重要な指標が、還元利回り(キャップレート)と賃料利回りです。
還元利回りは、不動産の純収益を価格で除した率です。
還元利回り = 純収益 ÷ 不動産の価格
例えば、年間純収益が5,000万円の収益不動産の価格が10億円の場合、還元利回りは5%です。この5%は、不動産という元本が生み出す果実の割合を示しています。
| 不動産の種類 | 還元利回りの目安 | 特徴 |
|---|---|---|
| 都心オフィスビル | 3〜4%程度 | 低利回り=高価格。安定性が高い |
| 郊外住宅(賃貸) | 5〜7%程度 | 中程度の利回り |
| 商業施設 | 5〜8%程度 | テナントリスクにより変動 |
| 地方収益物件 | 8〜12%程度 | 高利回り=低価格。リスクが高い |
還元利回りが低いほど、不動産の価格は高いことを意味します。これは、安定した賃料収入が期待される不動産ほど、投資家が低い利回りでも投資する(=高い価格を許容する)ためです。
期待利回り
期待利回りは、賃料の算定において用いられる利回りです。積算法では、基礎価格に期待利回りを乗じて「元本に帰属する純賃料」を求めます。
純賃料(元本に帰属する部分)= 基礎価格 × 期待利回り
期待利回りは、不動産の価格に対してどの程度の賃料収入が期待されるかを示す指標です。還元利回りと類似していますが、賃料算定の基礎として用いられる点が異なります。
価格と賃料の相互作用の実例
不動産価格の上昇が賃料に及ぼす影響
不動産の価格が上昇する局面では、以下のメカニズムで賃料にも影響が及びます。
- 地価の上昇により、不動産の取得コストが増加する
- 投資家は増加した投資額に見合う賃料収入を求める
- 新規賃貸借において賃料水準が引き上げられる
- 既存契約においても契約更新時に賃料改定が行われる
例えば、ある商業ビルの価格(基礎価格)が8億円から10億円に上昇した場合、期待利回りが5%のとき、純賃料は以下のように変動します。
価格上昇前: 8億円 × 5% = 4,000万円(年間純賃料)
価格上昇後: 10億円 × 5% = 5,000万円(年間純賃料)
価格の25%の上昇が、期待される賃料の25%の上昇に対応する計算となります。
賃料の上昇が不動産価格に及ぼす影響
逆に、賃料が上昇する局面では、不動産の価格にも影響が及びます。
- テナント需要の増加により、賃料水準が上昇する
- 賃料上昇に伴い、収益不動産の純収益が増加する
- 収益還元法による収益価格が上昇する
- 取引市場においても不動産の価格が上昇する
例えば、年間純収益が4,000万円から5,000万円に上昇した収益不動産について、還元利回りが4%の場合、収益価格は以下のように変動します。
賃料上昇前: 4,000万円 ÷ 0.04 = 10億円
賃料上昇後: 5,000万円 ÷ 0.04 = 12.5億円
純収益の25%の上昇が、不動産価格の25%の上昇に対応しています。
賃料評価における価格との関係の活用
新規賃料の評価手法と価格の関係
新規賃料を求める鑑定評価の手法と、不動産の価格との関係を整理します。
| 手法 | 算式 | 価格との関係 |
|---|---|---|
| 積算法 | 基礎価格 × 期待利回り + 必要諸経費等 | 基礎価格(=不動産の価格)が直接の基礎 |
| 賃貸事例比較法 | 事例賃料を補正・修正 | 間接的に価格水準を反映 |
| 収益分析法 | 企業収益から賃料負担力を分析 | 不動産の価格は背景的要素 |
積算法は、価格と賃料の元本・果実の関係を最も直接的に反映する手法です。
継続賃料の評価手法と価格の関係
継続賃料の評価においても、不動産の価格は重要な役割を果たします。
| 手法 | 算式 | 価格との関係 |
|---|---|---|
| 差額配分法 | 経済賃料と実際賃料の差額を配分 | 基礎価格を用いて経済賃料を算出 |
| 利回り法 | 基礎価格 × 継続賃料利回り + 必要諸経費等 | 基礎価格が直接の基礎 |
| スライド法 | 直近合意賃料 × 変動率 | 価格変動が変動率の一要素 |
| 賃貸事例比較法 | 事例賃料を補正・修正 | 間接的に価格水準を反映 |
差額配分法と利回り法は、不動産の価格(基礎価格)を直接の基礎として継続賃料を求める手法であり、ここでも元本と果実の関係が活用されています。
価格と賃料の乖離現象
賃料の遅行性
実際の不動産市場では、価格と賃料は必ずしも同時に同じ方向に変動するとは限りません。不動産の価格が急激に変動した場合、賃料は遅れて追随する傾向があります。これを「賃料の遅行性」(賃料のスティッキネス)といいます。
賃料の遅行性が生じる原因は以下の通りです。
- 賃貸借契約の期間拘束: 契約期間中は原則として賃料が固定される
- 賃料改定の困難性: 特に値上げは借主の合意が必要で容易ではない
- 借地借家法による保護: 正当事由なき更新拒絶の制限
不動産バブル期の乖離
不動産の価格が急騰する局面(バブル期)では、価格と賃料の乖離が顕著になります。価格は投機的な期待を反映して急上昇する一方、賃料は実需に基づくため比較的安定しています。この結果、還元利回りが著しく低下し、価格の適正性に疑問が生じます。
逆に、不動産の価格が急落する局面では、価格は下落しても賃料はすぐには下がらないため、一時的に還元利回りが上昇する現象が見られます。
試験での出題ポイント
短答式試験
- 不動産の価格と賃料は「元本と果実の関係」にあるという基本原則
- 「不動産の価格はその不動産から将来にわたって生み出されるであろう経済的利益の現在価値の総和」
- 「賃料は不動産の経済的利益の期間的配分」
- 新規賃料と継続賃料の違い
- 賃料の遅行性(スティッキネス)
論文式試験
- 元本と果実の関係の意義を論述
- 価格と賃料の相互関連のメカニズムの説明
- 新規賃料と継続賃料における価格との関係の違い
- 賃料評価の各手法と価格の関係の整理
暗記のポイント
- 基準の条文: 「不動産の価格と賃料は、いわゆる元本と果実との関係にある」
- 価格は「将来の経済的利益の現在価値の総和」
- 賃料は「経済的利益の期間的配分」
- 新規賃料は市場実勢を反映し、継続賃料は契約の経緯等も考慮する
- 賃料の遅行性: 価格変動に対して賃料は遅れて追随する
まとめ
不動産の価格と賃料は「元本と果実の関係」にあり、価格は将来の経済的利益(賃料)の現在価値の総和、賃料は経済的利益の期間的配分として把握されます。この関係は、収益還元法や積算法をはじめとする鑑定評価の各手法の理論的基礎となっています。
試験対策としては、元本と果実の関係という基本概念を正確に理解し、新規賃料・継続賃料それぞれにおける価格との関わり方の違いを整理しておきましょう。鑑定評価の三方式や賃料評価手法との関連も合わせて学習すると、より体系的な理解が深まります。