試算価格の乖離が大きい場合の再検討手順
試算価格の乖離
鑑定評価の三方式を適用して得られた試算価格(積算価格、比準価格、収益価格)は、通常、完全には一致しません。この差異を開差または乖離といいます。乖離が大きい場合、その原因を分析し、適切に対応することが求められます。
鑑定評価の手順の各段階について客観的、批判的に再吟味し、各手法の適用において行った各種の判断の適否についての検討を踏まえた上で、各試算価格が有する説得力に係る判断を行うべきである。
― 不動産鑑定評価基準 総論第8章第4節
乖離の程度と対応
乖離の程度の目安
| 乖離率 | 程度 | 対応 |
|---|---|---|
| 5%以内 | 小さい | 通常の調整で対応 |
| 5〜15% | 中程度 | 原因分析が必要 |
| 15%超 | 大きい | 詳細な再検討が必要 |
乖離率の計算
乖離率 =(最高値 − 最低値)÷ 中央値 × 100%
【計算例】
積算価格:10,000万円
比準価格:9,500万円
収益価格:8,500万円
中央値:9,500万円
乖離率 =(10,000 − 8,500)÷ 9,500 × 100% ≒ 15.8%
→ 乖離が大きい
再検討の手順
手順の概要
【再検討の手順】
1. 乖離の確認と程度の把握
↓
2. 各手法の適用過程の再吟味
↓
3. 乖離原因の分析
↓
4. 必要に応じて修正・再計算
↓
5. 説得力の判定
↓
6. 鑑定評価額の決定
各手法の再吟味
各手法について、以下の観点から再吟味します。
原価法 – 再調達原価の算定は適切か – 減価修正の判断は妥当か – 市場性の反映は適切か
取引事例比較法 – 採用した事例は適切か – 事情補正・時点修正は妥当か – 要因比較(格差修正)は適切か
収益還元法 – 純収益の査定は適切か – 還元利回り・割引率は妥当か – 将来予測は合理的か
乖離原因の分析
原因の類型
乖離が生じる原因は、以下のように分類できます。
| 類型 | 内容 | 対応 |
|---|---|---|
| データの問題 | 不適切なデータの採用 | データを見直し |
| 判断の問題 | パラメータ設定の誤り | 判断を修正 |
| 適用範囲の問題 | 手法の適用可能性に限界 | 説得力の再評価 |
| 市場の特性 | 市場の非効率性を反映 | 市場特性として理解 |
データの問題
データに問題がある場合の対応:
【取引事例の問題】
問題:採用した事例に特殊事情があった
対応:事情補正を見直す、または事例を差し替え
【賃料データの問題】
問題:採用した賃料事例が古い
対応:最新のデータに更新、または査定を修正
判断の問題
判断に問題がある場合の対応:
【還元利回りの問題】
問題:還元利回りの設定根拠が不明確
対応:市場データを再確認し、設定根拠を明確化
【減価修正の問題】
問題:減価率の査定が市場実態と乖離
対応:観察減価法で再検討
市場の特性と乖離
本質的な乖離
市場の特性により、本質的に乖離が生じる場合もあります。
| 市場特性 | 乖離の傾向 |
|---|---|
| 原価重視市場 | 積算価格 > 収益価格 |
| 収益重視市場 | 収益価格 > 積算価格 |
| 取引活発市場 | 比準価格に他が収束 |
乖離の合理的説明
本質的な乖離がある場合、その合理的な説明が必要です。
【説明の例】
「積算価格と収益価格に乖離が見られるが、これは対象不動産が
建築コストの高い高級仕様である一方、賃料水準は市場で
競合する標準的物件と大きな差がないことに起因する。
当該市場は収益性を重視する投資家が主体であることから、
収益還元法を最も重視して鑑定評価額を決定した。」
修正の可否と限界
修正が可能な場合
データや判断に明らかな誤りがある場合は、修正を行います。
【修正の例】
発見:採用した取引事例が親族間取引であった
修正:事例を差し替え、または大幅な事情補正を適用
結果:比準価格が5%上昇、乖離が縮小
修正が困難な場合
本質的な乖離であり、修正が困難な場合は、説得力の判定により対応します。
【対応の例】
状況:市場の特性により積算価格と収益価格に乖離
判断:収益還元法の説得力が高い
対応:収益価格を重視して鑑定評価額を決定
調整と鑑定評価額の決定
調整の原則
試算価格の調整は、機械的な平均ではなく、各試算価格の説得力を考慮した合理的な調整を行います。
【調整の考え方】
× 単純平均:(10,000 + 9,500 + 8,500)÷ 3 = 9,333万円
○ 説得力を考慮:
収益還元法が最も説得力が高い場合
→ 収益価格8,500万円を最も重視しつつ、
他の手法も参考として8,800万円と決定
決定の理由
鑑定評価書には、調整と決定の理由を明確に記載します。
試験での出題ポイント
短答式試験
- 乖離(開差)の概念
- 乖離の程度と対応の関係
- 再吟味の観点
- 機械的平均ではないことの理解
論文式試験
- 乖離が大きい場合の再検討手順を体系的に論述
- 乖離原因の分析の方法を説明
- 本質的な乖離と修正可能な乖離の区別
- 具体的なケースを想定した対応と調整
暗記のポイント
- 乖離率15%超:詳細な再検討が必要
- 再吟味の観点:データ、判断、適用過程
- 乖離原因:データ、判断、適用範囲、市場特性
- 修正の限界:本質的乖離は修正困難
- 調整:機械的平均ではなく説得力を考慮
まとめ
試算価格の乖離が大きい場合は、各手法の適用過程を再吟味し、乖離原因を分析することが重要です。データや判断に問題がある場合は修正を行い、本質的な乖離である場合は各試算価格の説得力を判定して調整を行います。調整は機械的な平均ではなく、規範性と説明力を考慮した合理的な判断に基づいて行い、その理由を明確にすることが求められます。関連する論点として、三方式の説得力の判定や試算価格の調整もあわせて学習しましょう。
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