物的確認と権利の態様の確認の概要

不動産の鑑定評価において、対象不動産を正確に把握するためには物的確認権利の態様の確認の2つの確認作業を行う必要があります。不動産鑑定士試験では、この2つの確認の内容と手順を正確に区別できるかが問われます。

物的確認とは対象不動産の物理的な実態を確かめる作業であり、権利の態様の確認とは対象不動産に係る権利関係の実態を確かめる作業です。両者は対象不動産の確定に基づいて行われ、鑑定評価プロセスの初期段階における基礎的な手続として位置づけられています。

対象不動産の確定に当たっては、対象不動産の物的確定及び権利の態様の確定を行う。

― 不動産鑑定評価基準 総論第5章第1節

この規定にある「確定」の後に行われるのが「確認」です。確定が評価対象の範囲を決めることであるのに対し、確認は確定した範囲について実態を調査することであり、両者は連続するプロセスとして理解する必要があります。


物的確認の具体的手順

土地に関する物的確認

土地の物的確認は、登記記録や各種公的資料の調査実地調査を組み合わせて行います。以下に確認すべき事項と具体的な手順を整理します。

所在・地番の確認

手順 確認方法 使用資料
1 登記事項証明書で所在・地番を確認 登記事項証明書
2 公図で対象地の位置を特定 公図(地図・地図に準ずる図面)
3 現地で公図の位置と実際の位置を照合 公図、住宅地図

所在・地番は土地を特定するための基本情報であり、登記上の表示と現地の状況が一致しているかを確認することが重要です。特に、地番と住居表示は異なるため、混同しないよう注意が必要です。

面積・形状の確認

手順 確認方法 使用資料
1 登記簿上の面積(地積)を確認 登記事項証明書
2 地積測量図が存在する場合は実測面積を把握 地積測量図
3 現地で形状を目視確認し、図面と照合 地積測量図、公図
4 必要に応じて測量成果を依頼者から取得 確定測量図

登記簿上の面積と実測面積が異なる場合があります。特に古い時代に測量された土地は公簿面積と実測面積の乖離が大きいことがあり、この乖離が評価に与える影響を把握しておく必要があります。

地勢・地盤の確認

確認事項 確認のポイント
高低差 前面道路との高低差、隣地との高低差
傾斜 傾斜の方向・角度(崖地に該当するか)
地盤 軟弱地盤、液状化リスク、過去の埋立履歴
排水 雨水の排水状況、浸水履歴の有無

地勢・地盤は個別的要因に直結する重要な確認事項です。特に崖地や低地に位置する土地は、減価要因として価格に大きく影響する可能性があります。

接道状況の確認

接道状況の確認は、建築基準法上の接道義務との関連で特に重要です。

確認事項 内容
前面道路の種類 公道か私道か、建築基準法上の道路の種別(42条1項1号〜5号、2項等)
道路幅員 前面道路の現況幅員、認定幅員
接道長さ 対象地が道路に接する長さ(原則2m以上)
角地かどうか 2以上の道路に接面する場合は角地の判定
セットバック 2項道路の場合のセットバック面積の有無

接道義務を満たさない土地は再建築不可となり、価格に重大な影響を及ぼします。


建物に関する物的確認

建物の物的確認では、登記記録と現況を対比しながら以下の事項を確認します。

基本事項の確認

確認事項 確認方法 留意点
構造 登記記録の確認、現地での外観確認 木造・鉄骨造・RC造等の判定
階数 登記記録の確認、現地での確認 地上階数と地下階数
延床面積 登記簿面積の確認、図面との対比 未登記の増築部分がないか
建築時期 登記記録、建築確認済証で確認 新耐震基準の適用有無(1981年6月以降か)
用途 登記記録の確認、現況の利用用途 登記上の用途と現況の不一致がないか

劣化・設備の確認

確認事項 確認内容
外壁の状況 ひび割れ、タイルの剥落、塗装の劣化
屋根の状況 雨漏りの痕跡、防水層の劣化
基礎の状況 ひび割れ、沈下の有無
設備の状況 給排水設備、電気設備、空調設備、エレベーターの状態
内装の状況 床・壁・天井の劣化程度、間取りの状況
法定点検の状況 エレベーター、消防設備等の法定点検の実施状況

建物の劣化状況は、減価修正における物理的減価の査定に直結します。経年劣化だけでなく、管理状態の良否も確認する必要があります。

未登記の増改築の確認

建物の物的確認において特に注意すべきは、未登記の増改築の有無です。

未登記増改築の種類 発見方法 鑑定評価への影響
増築 登記簿面積と現況面積の不一致 評価面積の確定に影響
用途変更 登記簿上の用途と現況の不一致 収益力の把握に影響
大規模修繕 建物の外観・仕様と築年数の不整合 経済的残存耐用年数の判定に影響

未登記の増改築が発見された場合は、その内容を記録したうえで、評価にどのように反映するかを判断する必要があります。


権利の態様の確認の具体的手順

所有権に関する確認

手順 確認方法 使用資料
1 登記簿上の所有者を確認 登記事項証明書(甲区)
2 所有権の移転経緯を確認 登記事項証明書の甲区履歴
3 共有の場合は持分割合を確認 登記事項証明書
4 相続未登記の可能性がないか確認 依頼者へのヒアリング

登記事項証明書の甲区(所有権に関する事項)は、所有権の帰属を確認するための基本的な資料です。所有権に関する仮登記や差押えの登記がある場合は、所有権の処分に制約があることを意味しますので、注意が必要です。

所有権以外の権利に関する確認

権利の種類 確認方法 確認のポイント
抵当権 登記事項証明書(乙区)で確認 債権額、債権者、設定日
根抵当権 登記事項証明書(乙区)で確認 極度額、債務者、確定の有無
地上権 登記事項証明書(乙区)で確認 存続期間、地代の有無
地役権 登記事項証明書(乙区)で確認 目的(通行、排水等)、範囲
賃借権 登記がない場合は契約書で確認 期間、賃料、更新条件
区分地上権 登記事項証明書(乙区)で確認 設定範囲(地下・上空)、存続期間

登記事項証明書の乙区(所有権以外の権利に関する事項)は、対象不動産に設定された各種権利を確認するための基本的な資料です。

賃貸借の実態確認

賃貸借の確認は、登記記録だけでは不十分な場合が多く、以下の資料も必要となります。

確認資料 確認内容
賃貸借契約書 契約期間、賃料、更新条件、特約条項
レントロール テナント一覧、契約賃料、契約面積、契約期間
入居状況 空室の有無、空室率、入居時期
滞納状況 賃料の滞納の有無、滞納額
テナントの属性 個人か法人か、業種、信用力

賃貸借の実態は、収益還元法を適用する際の基礎情報となるため、正確かつ詳細な確認が必要です。


確認に用いる資料の体系

公的資料

資料名 取得先 確認できる内容
登記事項証明書 法務局 所有者、面積、構造、権利関係
公図 法務局 土地の位置、形状、隣接関係
地積測量図 法務局 正確な土地の面積・形状
建物図面 法務局 建物の位置、各階平面図
都市計画図 市区町村 用途地域、都市計画制限
道路台帳 市区町村・道路管理者 前面道路の種別、幅員
固定資産税評価証明書 市区町村 固定資産税評価額、課税面積

民間資料

資料名 取得先 確認できる内容
確定測量図 依頼者・測量会社 実測面積、境界の確定状況
建築確認済証 依頼者 建築計画の内容、適法性
検査済証 依頼者 建物の竣工検査の合否
管理規約 管理組合 マンションの管理ルール
修繕履歴 依頼者・管理会社 建物の修繕実施状況
土壌汚染調査報告書 依頼者 土壌汚染の有無・程度

物的確認と権利確認の相互関係

両者が連動する場面

物的確認と権利の態様の確認は、独立した作業ではなく相互に関連しています。

物的確認の結果 権利確認への影響
敷地上に他人の建物を発見 借地権の存在の可能性を確認
隣地からの越境を発見 越境に関する合意書の有無を確認
区分建物であることを確認 区分所有権の権利関係を確認
未登記建物を発見 所有者の確認、固定資産税の課税状況を調査
地下埋設物の存在を確認 地下の使用権(区分地上権等)の設定の有無を確認

このように、物的確認の過程で発見された事実が権利確認の範囲を広げることがあり、逆に権利確認の過程で物的な調査が必要となる場合もあります。

確認の順序

一般的な確認の順序は以下のとおりです。

  1. 事前調査: 登記事項証明書等の公的資料を収集し、机上で概要を把握する
  2. 実地調査: 現地に赴き、物的な実態を確認する
  3. 権利関係の詳細調査: 契約書等の民間資料を確認し、権利関係の詳細を把握する
  4. 整合性の確認: 事前調査・実地調査・権利調査の結果を突き合わせ、不整合がないか確認する
  5. 不整合への対応: 不整合が発見された場合は追加調査を行い、原因を究明する

試験での出題ポイント

短答式試験

  • 物的確認と権利確認の区別: 「面積の確認は権利の態様の確認に含まれる」→ 誤り(物的確認に含まれる)
  • 確認に用いる資料の適切な選択: 「抵当権の有無は登記事項証明書の甲区で確認する」→ 誤り(乙区で確認する)
  • 実地調査の必要性: 「登記記録の確認のみで物的確認は完了する」→ 誤り(実地調査が原則必要)
  • 未登記の増改築や賃借権の存在と鑑定評価への影響

論文式試験

  • 「物的確認と権利の態様の確認の具体的手順を、使用する資料とともに論述せよ」
  • 「対象不動産の確認において、登記記録と現況に不一致が生じた場合の対応を述べよ」
  • 対象不動産の確定と確認の関係を体系的に論述させる問題

暗記のポイント

  1. 物的確認の対象: 所在、面積、形状、地勢、接道、境界、建物の構造・築年数・設備
  2. 権利確認の対象: 所有権、共有、借地権、賃借権、担保権、地役権
  3. 登記事項証明書の構成: 表題部(物的事項)、甲区(所有権)、乙区(所有権以外の権利)
  4. 登記と実態の不一致: 未登記建物、面積の相違、未登記賃借権、相続未登記
  5. 確認の順序: 事前調査 → 実地調査 → 権利詳細調査 → 整合性確認

まとめ

物的確認と権利の態様の確認は、鑑定評価における対象不動産の把握を正確に行うための基本的な手続です。物的確認では土地の所在・面積・形状・接道状況や建物の構造・築年数・劣化状況を、権利の態様の確認では所有権・賃借権・担保権等の権利関係を、登記記録や契約書等の資料と実地調査を組み合わせて確認します。両者は相互に関連しており、物的確認の過程で権利確認の必要性が生じることもあります。対象不動産の確定と確認の違いを明確にし、対象確定条件の3類型との関係とあわせて理解しておくことが、試験合格の基礎となります。