鑑定評価が必要になる場面

不動産鑑定士による鑑定評価は、不動産の客観的な経済的価値を法的効力のある形で証明する唯一の方法です。不動産会社の査定やAI査定(AVM)とは異なり、裁判所や税務当局でも証拠として認められる公式な価格です。

では、具体的にどのような場面で鑑定評価が必要になるのでしょうか。依頼が多い5つの場面を紹介します。


場面1:相続の遺産分割

なぜ鑑定評価が必要か

相続財産に不動産が含まれる場合、遺産分割を公平に行うために鑑定評価が必要になるケースが多くあります。

よくある問題 鑑定評価が解決すること
「この家はいくらなのか」で相続人間が揉める 客観的な市場価値を算定
路線価と実際の価値に差がある 時価を正確に把握
代償分割の金額が決まらない 代償金の根拠となる価格を提供
相続税が高すぎると感じる 時価が路線価より低い場合に節税が可能

具体例

ケース:父親の遺産として東京郊外の自宅(土地100坪+築30年の戸建住宅)がある。長男が自宅を相続し、次男に代償金を支払う。

評価方法 評価額 代償金(2分の1)
路線価評価 2,800万円 1,400万円
鑑定評価 3,800万円 1,900万円
差額 1,000万円 500万円

鑑定評価を行わなければ、次男は500万円少ない代償金しか受け取れなかった可能性があります。鑑定費用(約40万円)をはるかに上回る経済的メリットがあります。


場面2:離婚の財産分与

なぜ鑑定評価が必要か

離婚時の財産分与では、婚姻中に取得した不動産の価値を分割する必要があります。夫婦間で不動産の価値について合意できない場合、鑑定評価が客観的な判断基準を提供します。

状況 鑑定評価の役割
夫は「4,000万円の価値がある」と主張 客観的な市場価値を算定
妻は「3,000万円しかない」と主張 どちらの主張が適正かを判断
住宅ローンが残っている 時価 − ローン残高で実質的価値を算定
調停・裁判に発展 裁判所で認められる価格証明を提出

財産分与の計算

財産分与額の算定:
  鑑定評価額        4,200万円
  住宅ローン残高  − 2,800万円
  ────────────────────────────
  実質的価値        1,400万円

  分与額(2分の1)   700万円

相続・離婚と不動産鑑定で具体的なケーススタディを詳しく解説しています。


場面3:裁判・調停での争い

なぜ鑑定評価が必要か

不動産に関する裁判や調停では、不動産の価値が争点になることが多く、裁判所は不動産鑑定士の鑑定評価書を証拠として採用します。

裁判の種類 鑑定評価が必要な理由
賃料増減額請求訴訟 適正賃料の算定に鑑定評価が不可欠
遺産分割調停・審判 相続不動産の時価を確定
共有物分割訴訟 共有不動産の価格を算定
立退料の算定 借家権の価値や移転費用の算定
損害賠償訴訟 不動産の損害額の算定

賃料増減額請求のケース

賃料に関する紛争は、不動産鑑定士の鑑定評価が最も頻繁に活用される裁判分野の一つです。

ステップ 内容
1. 交渉 当事者間で賃料改定の交渉
2. 調停 合意できなければ簡易裁判所で調停
3. 鑑定評価 調停または訴訟で鑑定評価を実施
4. 判決 鑑定評価を参考に裁判所が適正賃料を判断

場面4:担保評価(銀行融資)

なぜ鑑定評価が必要か

金融機関が不動産を担保に融資を行う際に、担保不動産の適正な価値を把握するために鑑定評価が行われます。

融資の場面 鑑定評価の必要性
大口融資(1億円以上) ほぼ必須
住宅ローン 簡易評価で対応(鑑定評価は不要なケースが多い)
事業用不動産ローン 必要になるケースが多い
不動産ファンド(証券化) 法律で鑑定評価が義務

担保評価の流れ

融資の申込み
    ↓
金融機関が鑑定士に評価を依頼
    ↓
鑑定評価の実施(2〜4週間)
    ↓
鑑定評価額に基づいて融資額を決定
    ↓
融資額 = 鑑定評価額 × 掛目(通常 70〜80%)

例えば、鑑定評価額が5,000万円の場合、融資額は3,500〜4,000万円(掛目70〜80%)となります。鑑定評価額が高いほど融資額が増えるため、適正な評価が借入人にとっても重要です。


場面5:賃料交渉

なぜ鑑定評価が必要か

オフィスビルや商業施設の賃料改定の際に、適正な賃料水準を算定するために鑑定評価が活用されます。

賃料交渉の場面 当事者 鑑定評価の役割
賃料の値上げ 賃貸人(オーナー) 値上げの根拠となる適正賃料の算定
賃料の値下げ 賃借人(テナント) 値下げの根拠となる適正賃料の算定
契約更新時 双方 更新後の適正賃料の算定
サブリース契約 サブリース業者と原賃貸人 適正なサブリース賃料の算定

賃料交渉の経済的インパクト

賃料の鑑定評価は、費用対効果が非常に高いケースの一つです。

物件 現行賃料 鑑定適正賃料 年間差額
オフィス(100坪) 月300万円 月260万円 480万円/年の削減
商業テナント 月150万円 月180万円 360万円/年の増収

鑑定費用(50〜100万円程度)に対して、賃料改定の効果は年間で数百万円に及ぶことがあり、投資対効果は極めて高いです。


その他の鑑定評価が必要な場面

上記5つ以外の主要な場面

場面 内容
M&A(企業買収) 買収対象企業が保有する不動産の時価評価
IFRS(国際会計基準)対応 企業の保有不動産の時価開示
不動産証券化 J-REIT等の運用資産の評価(法律で義務)
都市再開発 権利変換の基礎となる評価
区画整理 従前・従後の評価
保険 火災保険等の再取得価額の算定
税務 税務署への価格立証(時価が路線価を下回る場合)
地代の改定 借地の地代の増減交渉

鑑定評価が不要な場面

逆に、以下の場面では鑑定評価は通常不要です。

場面 理由 代替手段
自宅の売却検討 概算価格で十分 不動産会社の無料査定
住宅ローンの借り換え 金融機関の簡易評価で対応 金融機関の内部評価
相続税の申告(一般的なケース) 路線価で十分 税理士による路線価評価
投資用マンションの購入検討 相場確認で十分 市場調査、AI査定

鑑定評価を依頼するタイミング

早めの依頼が有利な理由

鑑定評価は結果が出るまでに3〜4週間かかるため、必要になる前に依頼することが重要です。

場面 推奨タイミング
相続 遺産分割協議の開始前
離婚 調停申立ての
裁判 訴訟提起の
融資 融資申込みの1ヶ月以上前
賃料交渉 賃料改定期日の2〜3ヶ月前

鑑定士の選び方

選定基準 ポイント
地域の専門性 対象不動産の所在する地域に精通していること
類似案件の実績 相続・離婚・賃料等の目的に応じた実績
費用の透明性 見積りが明確で、追加費用の有無が事前にわかること
複数社からの見積り 2〜3社から見積りを取って比較
独立性 依頼者の利害に左右されない独立した鑑定士

鑑定評価の費用の目安

対象物件 費用目安 所要期間
戸建住宅(土地+建物) 30〜50万円 3〜4週間
マンション 25〜40万円 2〜3週間
土地のみ 20〜40万円 2〜3週間
収益物件 40〜80万円 3〜4週間
大規模物件(商業ビル等) 80〜200万円 4〜6週間
賃料の鑑定 30〜60万円 2〜4週間

費用の詳細は鑑定評価の費用相場で解説しています。


まとめ

不動産鑑定評価が必要になる主な場面は、相続の遺産分割、離婚の財産分与、裁判・調停、担保評価、賃料交渉の5つです。いずれも不動産の「正しい価値」が問われる場面であり、不動産鑑定士による客観的な評価が紛争の解決や経済的利益の確保に直結します。

費用は30〜100万円程度かかりますが、不動産の価値が数千万円〜数億円規模であることを考えると、適正な価格を知るための投資として十分に合理的です。

鑑定評価と査定の違いについては鑑定評価と不動産査定の違いを、鑑定評価の手順については鑑定評価の手順をあわせてご覧ください。