鑑定評価報告書の留意事項と責任
鑑定評価報告書の留意事項とは
不動産鑑定士が行う鑑定評価の最終ステップは、鑑定評価報告書の作成です。報告書は鑑定評価の結論とその過程を記載した公式文書であり、鑑定士の専門的判断と責任を体現するものです。
基準では、鑑定評価報告書について次のように定めています。
不動産鑑定士は、鑑定評価の結果を記載した鑑定評価報告書を作成し、その報告書に署名押印のうえ、依頼者に交付しなければならない。
― 不動産鑑定評価基準 総論第9章第1節
報告書は単に評価額を記載するだけのものではなく、評価の前提・過程・結論の全てを第三者が検証可能な形で記録する文書です。本記事では、報告書の記載事項と作成上の留意事項、鑑定士が負う責任について解説します。
鑑定評価報告書の必要的記載事項
記載事項の全体像
鑑定評価報告書に記載すべき事項は、基準により詳細に定められています。主な記載事項は以下の通りです。
| 区分 | 記載事項 |
|---|---|
| 基本的事項 | 対象不動産の表示、鑑定評価額、価格時点、鑑定評価の条件 |
| 評価の過程 | 価格形成要因の分析、手法の適用過程、試算価格の調整 |
| 結論と根拠 | 鑑定評価額の決定理由、判断の根拠 |
| 付帯事項 | 鑑定評価を行った不動産鑑定士の氏名、鑑定業者の名称 |
基本的事項の記載
報告書の冒頭部分には、鑑定評価の前提条件を明確に記載します。
| 記載項目 | 内容 | 記載の目的 |
|---|---|---|
| 対象不動産の表示 | 所在、地番、面積等 | 評価対象の特定 |
| 鑑定評価額 | 金額を確定値で表示 | 結論の明示 |
| 価格時点 | 評価の基準日 | 時点の特定 |
| 鑑定評価の条件 | 対象確定条件、想定上の条件等 | 評価の前提の明確化 |
| 価格の種類 | 正常価格、限定価格等 | 求めた価格の種類の明示 |
| 依頼目的 | 売買の参考、担保評価等 | 評価の背景の説明 |
評価過程の記載
報告書の本体部分には、鑑定評価の各ステップで行った判断とその根拠を記載します。
- 対象不動産の確認結果 — 物的確認と権利の確認の結果
- 価格形成要因の分析結果 — 一般的要因、地域要因、個別的要因の分析
- 最有効使用の判定結果 — 判定理由を含む
- 手法の適用過程 — 各手法の適用の詳細と試算価格
- 試算価格の調整過程 — 各試算価格の説得力の判断理由
鑑定評価額の決定理由
鑑定評価額の決定理由は、報告書の最も重要な部分です。なぜその金額を鑑定評価額として決定したのか、各試算価格との関係を含めて論理的に説明する必要があります。
報告書作成上の留意事項
利害関係等の開示
鑑定士は、対象不動産との利害関係や対象不動産に関与した経緯を報告書に記載する必要があります。
不動産鑑定士は、対象不動産に関し、不動産鑑定士の縁故若しくは利害関係又は対象不動産に関する利害関係の有無及びその内容を鑑定評価報告書に記載しなければならない。
― 不動産鑑定評価基準 総論第9章第2節
利害関係等の開示は、鑑定評価の独立性と信頼性を担保するための重要な要件です。
条件設定の明示
鑑定評価の条件を設定した場合は、その内容と合理性を報告書に明確に記載しなければなりません。特に、想定上の条件を設定した場合は、以下の事項を記載する必要があります。
- 条件を設定した理由
- 条件が実現可能であること
- 条件が鑑定評価額にどのような影響を与えているか
実地調査の記載
実地調査の実施日、調査範囲、調査の方法等を記載します。特に、実地調査ができなかった事項がある場合は、その旨とその理由を明記します。
確認が困難であった事項の記載
対象不動産の確認に際して、物理的に確認が困難であった事項(例えば建物内部への立入り不可、地下の状態の確認不可等)がある場合は、その旨を記載し、鑑定評価額への影響について言及する必要があります。
鑑定評価報告書の形式
全部鑑定と一部省略
鑑定評価報告書には、全ての記載事項を網羅した報告書と、一部の記載を省略した報告書の2種類があります。
| 種類 | 記載の程度 | 利用場面 |
|---|---|---|
| 全部鑑定 | 全ての記載事項を網羅 | 通常の鑑定評価 |
| 一部省略 | 法令に基づく場合に一部省略可能 | 公共事業用地の取得等 |
ただし、一部省略が認められる場合でも、鑑定評価額の信頼性を損なうような省略は許されません。
署名押印の義務
鑑定評価報告書には、鑑定評価を行った不動産鑑定士が署名押印しなければなりません。これにより、鑑定評価額について鑑定士個人が責任を負うことが明確になります。
鑑定士の責任
法的責任
不動産鑑定士は、鑑定評価に関して以下の法的責任を負います。
| 責任の種類 | 内容 | 根拠法令 |
|---|---|---|
| 損害賠償責任 | 不適切な鑑定により依頼者等に損害を与えた場合 | 民法(不法行為・債務不履行) |
| 行政上の責任 | 基準に違反した場合の懲戒処分 | 不動産の鑑定評価に関する法律 |
| 刑事上の責任 | 故意に虚偽の鑑定評価を行った場合 | 不動産の鑑定評価に関する法律 |
懲戒処分の種類
不動産の鑑定評価に関する法律に基づく懲戒処分には、以下の種類があります。
- 戒告 — 注意を与える処分
- 業務停止 — 一定期間の鑑定業務の停止
- 登録の消除 — 鑑定士登録の抹消
倫理的責任
法的責任に加えて、鑑定士には高い職業倫理が求められます。
- 独立性の保持 — 依頼者やその他の利害関係者からの不当な影響を排除すること
- 秘密保持義務 — 鑑定評価の過程で知り得た情報を漏洩しないこと
- 能力の維持 — 常に最新の知識と技能を維持すること
- 誠実義務 — 公正かつ誠実に鑑定評価を行うこと
報告書の品質管理
審査制度
鑑定業者は、鑑定評価報告書の品質を確保するために審査制度を設けることが求められています。審査とは、鑑定評価を行った鑑定士以外の者が報告書の内容を確認・検証する仕組みです。
品質管理の具体的方法
| 方法 | 内容 |
|---|---|
| チェックリストの活用 | 記載事項の網羅性を確認 |
| 計算の検算 | 試算価格の算定過程を再計算 |
| 論理的整合性の検証 | 各判断が前提と矛盾していないかを検証 |
| 他の鑑定士による審査 | 第三者の視点で報告書を検討 |
報告書と依頼者への説明
説明の義務
鑑定士は、報告書を依頼者に交付する際に、評価の内容について説明する義務があります。報告書は専門的な内容を含むため、依頼者が十分に理解できるよう、平易な言葉で説明することが求められます。
依頼者への説明責任については、依頼者への説明責任で詳しく解説しています。
報告書の利用目的と制限
鑑定評価報告書は、依頼目的の範囲内で利用されることを前提に作成されています。報告書の利用目的外の使用や、条件を無視した援用は、鑑定評価の趣旨に反するものです。
報告書には、利用目的の制限や第三者への開示に関する制限を記載することが一般的です。
試験での出題ポイント
短答式試験
- 鑑定評価報告書の必要的記載事項の列挙
- 報告書への署名押印の義務
- 利害関係等の開示義務
- 懲戒処分の種類(戒告・業務停止・登録消除)
- 鑑定士が負う法的責任の種類
論文式試験
- 鑑定評価報告書の意義と必要的記載事項の論述
- 鑑定評価の条件の記載方法と留意事項
- 鑑定士の責任(法的・倫理的)についての包括的な論述
- 報告書の品質管理の方法と意義
暗記のポイント
- 報告書には鑑定士の署名押印が必要
- 利害関係等の開示が義務付けられている
- 懲戒処分は「戒告」「業務停止」「登録消除」 の3種類
- 鑑定士の責任は損害賠償・行政上・刑事上の3種類
- 報告書は依頼目的の範囲内での利用が前提
まとめ
鑑定評価報告書は、鑑定評価の結論とその過程を記録した公式文書であり、鑑定士の専門的判断と責任を体現する最終成果物です。基本的事項・評価過程・結論の全てを網羅的かつ論理的に記載し、第三者が検証可能な形で作成する必要があります。
試験では、報告書の必要的記載事項を正確に列挙できること、鑑定士が負う法的・倫理的責任を理解していることが求められます。
報告書の記載事項の詳細は鑑定評価報告書の記載事項を、依頼者への説明義務については依頼者への説明責任を参照してください。