現実の社会経済情勢とは|基準の読み解き
現実の社会経済情勢とは
現実の社会経済情勢とは、鑑定評価基準において正常価格の定義に用いられる文言であり、鑑定評価の価格時点における実際の経済状況・市場環境を意味します。不動産鑑定士試験では、正常価格の定義の一部として暗記が求められる重要なキーワードです。
正常価格とは、市場性を有する不動産について、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格をいう。
― 不動産鑑定評価基準 総論第5章第3節
わかりやすく言うと
「今この瞬間の世の中の状況を前提にして価格を考える」ということです。バブル期の好景気を前提にするのでも、リーマンショック後の不況を前提にするのでもなく、価格時点における実際の経済状況をそのまま受け入れて価格を判定します。
たとえば、2026年2月の時点で鑑定評価を行うなら、2026年2月時点の金利水準、景気動向、不動産市場の需給バランスといった現実の条件を前提として価格を判定するということです。
身近な具体例
例1:中古車の査定
中古車を売却するとき、ディーラーは「現在の中古車市場の相場」に基づいて査定額を出します。3年前は人気で高値がついた車種でも、今の市場で需要が落ちていれば査定額は下がります。逆に、半導体不足で新車の納期が長くなれば、中古車全般の相場が上がります。これはその時点の市場の現実を反映しているのであり、不動産の鑑定評価における「現実の社会経済情勢」と同じ考え方です。
例2:就職活動と初任給
大学生が就職するとき、初任給の水準はそのときの景気や人手不足の状況によって変動します。人手不足の時代には初任給が上がり、不況期には抑えられます。「10年前の初任給の相場」や「理想的な経済状態での初任給」ではなく、今現在の労働市場の現実を前提に給与水準が決まるのと同じように、不動産の価格も「現実の社会経済情勢」を前提に判定されます。
例3:不動産バブルと鑑定評価
1980年代後半のバブル期に鑑定評価を行う場合、たとえ鑑定士が「この価格水準はバブルだ」と感じていても、その時点の市場が現実である以上、バブル的な市場環境も含めて「現実の社会経済情勢」として受け入れて価格を判定します。ただし、あくまで「合理的な市場」で形成される価格を求めるのであり、投機的な過熱を正常価格に反映するということではありません。
なぜ「現実の」が重要なのか
仮定の排除
「現実の」という文言は、仮想的な経済状況や理想的な市場環境を前提にしないことを意味します。鑑定評価は「あるべき姿」ではなく「今ある姿」を前提に行われます。
| 考え方 | 意味 | 鑑定評価での扱い |
|---|---|---|
| 現実の社会経済情勢 | 価格時点の実際の経済状況 | 正常価格の前提とする |
| 仮想の経済状況 | バブルがなかったら、不況がなかったら | 前提としない |
| 将来予測の経済状況 | 5年後にはこうなるだろう | 正常価格の前提としない(※DCF法の予測とは別) |
価格時点との関連
「現実の社会経済情勢」は、価格時点と密接に関連します。価格時点が異なれば社会経済情勢も異なり、同じ不動産であっても価格が変わります。
- 価格時点が2020年(コロナ禍初期): テレワーク拡大でオフィス需要に不透明感
- 価格時点が2023年: オフィス回帰の動き、金利上昇の兆し
- 価格時点が2026年: その時点の実際の経済環境が前提
正常価格の定義との関係
正常価格の構成要素
正常価格の定義は、以下の要素で構成されています。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 市場性を有する不動産 | 一般の市場で取引の対象となる不動産 |
| 現実の社会経済情勢の下で | 価格時点の実際の経済環境を前提に |
| 合理的と考えられる条件を満たす市場 | 十分な情報、十分な期間、売り急ぎ等がない市場 |
| 市場価値を表示する適正な価格 | 客観的な交換価値 |
「現実の社会経済情勢」は、正常価格を理解するうえで「どの時点の経済環境を前提とするか」を明示する役割を果たしています。
合理的な市場との関係
「現実の社会経済情勢の下で」と「合理的な市場」は、正常価格の定義においてセットで理解する必要があります。現実の経済環境を前提としつつも、その中で「合理的な条件を満たす市場」で形成される価格を求めるのが正常価格です。
関連する用語との違い
| 用語 | 意味 | 違いのポイント |
|---|---|---|
| 現実の社会経済情勢 | 価格時点の実際の経済環境 | 正常価格の前提条件 |
| 一般的要因 | 不動産の価格に影響する経済・社会・行政の要因 | 価格形成要因の分類の一つ |
| 価格時点 | 鑑定評価額の判定基準日 | 「いつの時点か」を特定する |
| 合理的な市場 | 正常価格が形成される市場の条件 | 市場の「質」を示す |
試験での出題ポイント
短答式試験
- 正常価格の定義の穴埋め: 「現実の社会経済情勢の下で」の部分が空欄にされる
- 「現実の」の意味: 仮想的・理想的な経済状況ではなく、価格時点の実際の状況を指す
- 価格時点との関連: 価格時点が変われば「現実の社会経済情勢」も変わる
論文式試験
- 正常価格の定義を正確に暗記して記述する問題で必須のキーワード
- 正常価格の各構成要素の意義を論述する問題:「現実の社会経済情勢」が何を意味し、なぜ重要かを説明する
まとめ
「現実の社会経済情勢」とは、鑑定評価基準における正常価格の定義の一部であり、価格時点における実際の経済環境・市場環境を前提とすることを意味します。仮想的な状況や理想的な市場ではなく、あくまで「今の現実」を受け入れて価格を判定するという基準の姿勢を示す重要な文言です。正常価格の定義を構成する他の要素、とりわけ合理的な市場の概念とあわせて正確に理解しておきましょう。