民法・債権法の頻出論点|賃貸借・売買・不法行為
債権法の出題傾向
不動産鑑定士試験の論文式・民法において、債権法は物権法に次いで出題頻度が高い分野です。特に賃貸借契約、売買契約の契約不適合責任、不法行為(土地工作物責任)は繰り返し出題されており、不動産取引と密接に関連するテーマです。
2020年に施行された債権法改正により、従来の瑕疵担保責任が契約不適合責任に改められるなど、大幅な変更がありました。改正後の条文に基づいた正確な知識が求められます。民法・物権法の頻出論点と併せて、民法全体の対策を進めましょう。
賃貸借契約
賃貸借の基本構造
賃貸借契約は、不動産鑑定評価における賃料評価とも直結する重要な契約類型です。
賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
― 民法 第601条
賃貸人の義務
| 義務 | 内容 | 条文 |
|---|---|---|
| 使用収益させる義務 | 賃借人に目的物を使用収益させる | 601条 |
| 修繕義務 | 賃貸物の使用収益に必要な修繕をする義務 | 606条1項 |
| 費用償還義務 | 賃借人が支出した必要費・有益費の償還 | 608条 |
賃借人の義務
| 義務 | 内容 | 条文 |
|---|---|---|
| 賃料支払義務 | 約定の賃料を支払う | 601条 |
| 用法遵守義務 | 契約又は目的物の性質によって定まった用法に従って使用収益する | 616条・594条1項 |
| 善管注意義務 | 善良な管理者の注意をもって保管する | 400条 |
| 原状回復義務 | 賃貸借終了時に原状回復する(通常損耗を除く) | 621条 |
賃借権の対抗力
賃借権の対抗力は、頻出の論点です。
| 対抗要件 | 適用場面 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 賃借権の登記 | 全ての不動産賃貸借 | 民法605条 |
| 建物の引渡し | 建物賃貸借 | 借地借家法31条 |
| 借地上の建物の登記 | 借地権 | 借地借家法10条 |
対抗力のある賃借権は、目的不動産が譲渡された場合でも新所有者に対して主張でき、賃貸人の地位は当然に新所有者に移転します(605条の2第1項)。
転貸借
賃借人が賃貸人の承諾を得ずに第三者に転貸した場合の法律関係は、以下のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 承諾のない転貸 | 賃貸人は賃貸借契約を解除できる(612条2項) |
| 背信的行為と認めるに足りない特段の事情 | 解除権を制限する判例法理(信頼関係破壊の法理) |
| 適法な転貸の場合 | 転借人は賃貸人に対して直接義務を負う(613条1項) |
| 賃貸人の転借人への直接請求 | 転借人に対して直接賃料を請求できる(613条1項) |
信頼関係破壊の法理は非常に重要な判例法理です。無断転貸や用法違反があっても、それが信頼関係を破壊するに至らない場合には、解除権の行使が制限されます。
敷金
2020年改正により、敷金に関する規定が明文化されました。
いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。
― 民法 第622条の2第1項
敷金返還請求権の発生時期は以下のとおりです。
- 賃貸借が終了し、かつ賃貸物の返還を受けたとき
- 賃借人が適法に賃借権を譲渡したとき
原状回復義務の範囲
2020年改正で明文化された重要な規定として、原状回復義務の範囲があります。
賃借人は、賃貸物を受け取った後に生じた損傷について原状回復義務を負いますが、通常の使用及び収益によって生じた損耗並びに経年変化は原状回復義務の対象から除外されます(621条)。
売買契約と契約不適合責任
契約不適合責任の概要
2020年改正により、従来の瑕疵担保責任は契約不適合責任に改められました。
| 項目 | 旧法(瑕疵担保責任) | 新法(契約不適合責任) |
|---|---|---|
| 適用範囲 | 隠れた瑕疵(特定物のみ) | 種類、品質、数量に関する契約不適合(特定物・不特定物を問わない) |
| 買主の権利 | 損害賠償・解除 | 追完請求・代金減額請求・損害賠償・解除 |
| 期間制限 | 事実を知った時から1年以内に損害賠償・解除 | 不適合を知った時から1年以内に通知 |
| 帰責事由 | 無過失責任(法定責任説) | 債務不履行の一般原則に従う |
買主の4つの救済手段
| 救済手段 | 内容 | 条文 |
|---|---|---|
| 追完請求権 | 修補・代替物の引渡し・不足分の引渡しを請求 | 562条 |
| 代金減額請求権 | 相当の期間を定めて追完を催告し、追完がない場合に減額請求 | 563条 |
| 損害賠償請求権 | 債務不履行に基づく損害賠償(帰責事由必要) | 564条・415条 |
| 解除権 | 債務不履行に基づく解除 | 564条・541条・542条 |
不動産売買における契約不適合の具体例
不動産取引において問題となる契約不適合の例は以下のとおりです。
- 土壌汚染:有害物質が検出された場合
- 地中埋設物:地中にコンクリートガラ等が存在した場合
- 法令制限:用途地域等の規制により予定した建築ができない場合
- 面積不足:実測面積が契約上の面積より少ない場合
- 雨漏り・シロアリ被害:建物の品質に関する不適合
期間制限
契約不適合を知った時から1年以内に、売主に対して不適合の事実を通知しなければなりません(566条)。旧法が「損害賠償・解除の請求」を求めていたのに対し、改正法は「通知」で足りる点が重要な変更点です。
不法行為
土地の工作物等の占有者・所有者の責任(717条)
不動産に関する不法行為で最も重要なのが、土地工作物責任です。
土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
― 民法 第717条第1項
| 責任主体 | 責任の性質 | 免責の可否 |
|---|---|---|
| 占有者(第一次的責任) | 中間責任(過失の推定) | 免責可能(注意を尽くしたことを証明) |
| 所有者(第二次的責任) | 無過失責任 | 免責不可 |
「土地の工作物」の範囲
「土地の工作物」には、以下のものが含まれます。
- 建物(最も典型的)
- 塀・擁壁
- 電柱・看板
- 道路(国家賠償法2条との関係に注意)
- 地下埋設物
「瑕疵」の意味
717条の「瑕疵」とは、工作物が通常有すべき安全性を欠いていることをいいます。
- 設置の瑕疵:工作物の設計・建築時の欠陥
- 保存の瑕疵:維持管理の不備による欠陥
請負契約
請負契約の基本
不動産の建築に関連する請負契約も出題されます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 定義 | 請負人がある仕事を完成することを約し、注文者がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約する契約(632条) |
| 報酬の支払時期 | 仕事の目的物の引渡しと同時(633条) |
| 契約不適合責任 | 売買の規定が準用される(559条・636条) |
注文者の解除権
注文者は、請負人が仕事を完成しない間はいつでも損害を賠償して契約を解除できます(641条)。
建物の所有権の帰属
建物建築の請負において、完成した建物の所有権が注文者・請負人のいずれに帰属するかは、判例上以下のように整理されています。
| 場面 | 建物の所有権 |
|---|---|
| 注文者が材料を提供 | 注文者に帰属 |
| 請負人が材料を提供 | 完成まで請負人に帰属し、引渡しにより注文者に移転 |
| 特約がある場合 | 特約に従う |
債権総論の重要論点
債権者代位権(423条)
債権者代位権は、債務者が自己の権利を行使しない場合に、債権者が債務者に代わってその権利を行使できる制度です。
不動産取引では、登記請求権の代位行使が典型例です。
詐害行為取消権(424条)
詐害行為取消権は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求できる制度です。
不動産取引では、不動産の廉価売却や債務超過状態での贈与が典型的な詐害行為に該当します。
多数当事者の債権関係
| 類型 | 対外的効力 | 求償関係 |
|---|---|---|
| 連帯債務 | 各債務者が全額の履行義務 | 負担部分に応じた求償 |
| 保証債務 | 保証人は主債務者と同一の給付義務 | 保証人は主債務者に求償 |
| 連帯保証 | 催告の抗弁権・検索の抗弁権なし | 保証人は主債務者に求償 |
試験での出題ポイント
論文式試験の出題パターン
- 賃貸借の事例:無断転貸、賃料不払い、敷金返還、原状回復義務
- 売買の事例:契約不適合(土壌汚染、面積不足等)の救済手段
- 不法行為の事例:建物の瑕疵による事故、占有者と所有者の責任
- 請負の事例:建物の完成・引渡し、契約不適合責任
2020年改正で押さえるべきポイント
2020年改正は出題可能性が非常に高いテーマです。
- 契約不適合責任:瑕疵担保責任からの変更点(追完請求権の新設、通知で足りる等)
- 敷金の明文化:敷金の定義、返還時期
- 原状回復義務:通常損耗・経年変化の除外の明文化
- 賃貸人の地位の移転:対抗力のある賃借権がある場合の当然移転
- 定型約款:新設された規定
暗記のポイント
- 賃借権の対抗要件:登記(605条)、建物引渡し(借地借家法31条)、借地上建物の登記(同10条)
- 無断転貸の効果:解除可能(612条2項)、ただし信頼関係破壊の法理で制限
- 契約不適合責任の4つの救済手段:追完請求・代金減額・損害賠償・解除
- 期間制限:不適合を知った時から1年以内に通知
- 工作物責任:占有者は中間責任(免責可能)、所有者は無過失責任(免責不可)
- 原状回復義務の範囲:通常損耗・経年変化は除外
- 敷金返還の時期:賃貸借終了 + 賃貸物の返還を受けた時
まとめ
民法・債権法は、不動産取引に密接に関連する賃貸借、売買(契約不適合責任)、不法行為(土地工作物責任)を中心に出題されます。2020年の債権法改正により、契約不適合責任の導入、敷金規定の明文化、原状回復義務の明確化など、重要な変更が行われました。
改正点は特に出題されやすいため、旧法との相違点を正確に理解しておくことが重要です。民法・物権法の頻出論点と併せて体系的に学習し、民法の全体的な対策で答案構成力を磨きましょう。